第4話 イルカと少年(4)

(じいちゃん……ということは。相模さがみさんの孫がよし君?)


 真見は黙って2人の会話を見守る。


「ああん?怖いわけねえだろ」

「ほらほら。言ったそばから!その顔に声。初対面の人は怖いってー」


 柔らかな声と尖った声が入り混じる。正反対な2人を交互に眺めながら困った表情を浮かべた。その様子にいち早く勘づいたよしが頭をかきながら真見に弁解する。


「ごめんね。じいちゃん強面こわもてだけど一応医者だから。安心していいよ」

「りょう、お前やけに親しいみたいだけど……知り合いか?」


 真見は相模に睨まれ思わずリュックサックを抱きしめた。

 少年の呼び名に首を傾げる。船員からはよしと呼ばれていたのに祖父からはりょうと呼ばれている。


「知り合い……と言えば知り合い。さっき海で会ったから」

「海?ということは……お前が助けたのか?」


 相模の顔が余計に険しくなる。真見は怖くなって思わずリュックサックに顔を埋めた。


「うん。クロの試運転中にね。初めてだよ!クロが救助者に反応したんだ」

「この馬鹿が人助けとはな……」

「馬鹿って……酷い」


 2人の軽快なやり取りを聞いて真見の緊張が少しずつ解けていく。重たかった足が彼らの元に向かって踏み出すことができた。

 島を降りてすぐ、観光案内所のような建物の側にカラフルな車が数台停まっているのが見えた。真見達が立ち止まると自動で車のドアが開く。


「無人タクシーだ……」


 真見は思わず呟いていた。運転席はがらきだ。幽霊が運転しているような、奇妙な光景が目の前に広がっている。


「無人タクシーの運用はこの島が初めてだそうだ。都内ではまだ珍しいだろう」


 驚く真見に相模がにやりと笑う。真見は静かに頷きながら後部座席に乗り込む。自然な流れで真見の隣に少年が座り、助手席に相模が座った。

 真見は近くに少年がいて落ち着かなかった。命の恩人が隣にいるのだ。どんな顔で座っていたらいいのか分からない。

 誤魔化すように運転席に視線を移す。フロントガラスには今日の日付やニュースが映し出されていた。ディスプレイの役割も果たしているらしい。


(ニュースでこういう技術があるところは見たことがあるけど……車は初めて)


 ハンドルには武骨な装置が取り付けられており、ハンドルを操作する役割を果たしていた。


『島タクシーのご利用、ありがとうございます。相模有志さがみゆうし様。目的地はご自宅でよろしいでしょうか』


 運転席から女性の機械音が聞こえてくると同時にフロントガラスのディスプレイに名前が表示される。有志が返事をするとタクシーがひとりでに動き出した。どうやらバックミラー近くに取り付けられた小型カメラで個人を識別することができるらしい。

 最新技術のオンパレードに真見は目を丸くしっぱなしだった。


「昔のさびれた島とは大違い。今やこの島は会社さんのもんだ。一体どうなっちまうんだろうな……」


 有志が大きなため息を吐く。


(やっぱり。スーパーアイランド計画は現地の人にはあまり歓迎されていないんだ……)


 最新の技術が惜しみなく使われているのは命島がある企業に買われ発展を遂げた島だからだ。

 「スーパーシティ」とはAIやビッグデータなどを元にあらゆる最先端技術を実装した都市を指す言葉だ。命島は島全体に最先端技術を実装させた島で、「スーパーアイランド」と呼ばれていた。


「そうだ。お嬢ちゃん、名前を聞いてなかったな。どこから来たんだ?」


 真見は急に自分に問いかけられて慌てて答える。


「あ……はいっ!私は神野真見かんのまみと言います。父の仕事の都合で東京から来ました」


 父親の浮気調査については黙って置いた。



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