第3話 セルリアン(前編)
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私が今までにないほどの笑顔で話せたのには理由がある。それは...
「いい、ロゼ。人間が笑っていたほうがいいのは希望が見えたとき。そして、悲しんだほうがいいのは希望が無くなったときよ。とりあえずここだけ自然に感情表現ができるようになったら問題ないかな。」
フューシャはいつもいじめられているそうなので、その影響か感情が自分でコントロールしやすいとのこと。しかし、それは自然と出るものではなく自発的に出しているだけだったため、あまり望ましくないとのことだ。
「なるほど、希望が見えたとき...つまり、希望が見えなくなるまでは、少し微笑んでいる感じがいいということですね。」
そういって、私が口角を上げて微笑んで見せると、フューシャも笑ってくれた。
「ええ、そんな感じね。やっぱりまだ心配なところはあるけど、基本的なことは大丈夫でしょ。」
と、フューシャにもお墨付きをもらえた。
「では、みなさん。ぜひロゼリアさんと仲良くしてくださいね。ではこれで、今日のホームルームを終わります。それでは、ロゼリアさんの席はあちらです。」
「はい、先生。」
そう大橋先生に指定された席に座り、ホームルームが終わってみんなが私のほうに興味津々といった様子で近付いてくると、隣の席から驚いたような声が上がった。
「え、え、ロゼリア姉様~~~!?!?!?」
――声の方向を見ると、私の知り合い、もとい人形仲間のセルリアンがいることに気づいた。
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「あ~、あんたまだ学校にいたんだ。冬休みの間でてっきり消えたと思ってたのに、ざあ~んねん!」
「ほんとそーだよねぇ~。てか今日知らない子と一緒に来てたし。いちいち生意気なんだよ。」
「あの子だれ?ちゃんと言ってくれたら何もしないけど、言わないなら、あの子がどうなっても知らないよ?」
(...相変わらずね。)
冬休みが終わったところでいじめがなくなることなんてないし、学校でのいいことなんて一つもあるわけなかった。だけど――
(今は私のことよりも、ロゼがちゃんと学校になじめているかのほうが心配だな。)
自分でも驚いている。今まではだれかを心配することなんてなかった。だけど、ロゼに対してはなぜか心配になる。これが母性本能ってやつのなのかと少しだけ考えると、こんな自分にもまっとうな感情が残っていたのかとうれしくなる。
(...と、ロゼも頑張ってるし、私もできる限りのことはしなくちゃ。)
ロゼは人形という人間ではできないような視点から、私は自分でもう一度事件の詳細を調べなおすことにした。
私は事件を調べなおすのに、まずは当時の記録が自分の記憶と違っているところがないかを確認した。もう5年前の話だし、自分が覚えていることが正しいのかをまずはっきりさせる必要があると考えたのだ。
(授業なんて聞いてても意味ないだけだし、とりあえず聞いてる感じを出して事件のことを調べよう。)
私はパソコンで、警察が公開している事故の一覧から両親の事故を探した。
そして、大雑把にまとめるとこういうことが分かった
・12月10日、午前11時38分に起こった
・私の両親の車が向こうの車にぶつけて事故が起こった(加害者は両親)
・死者は私の両親、向こうの車の運転手
・事故の原因は飲酒運転(私の両親から酒気を確認した)
(うん、特に違うところはない。けど、相手の運転手だけ亡くなったんだ。それ以外書いてないし、もしかしたらまだその時乗ってた人が生きているかもしれない。)
このくらい小さな事故なら、明記されるのは死者やけが人だろうけど、生き残った人までわざわざ書かないだろうと思った。
(ロゼたちに頼ったらこの人について探してくれるかもしれない。)
改めて調べなおすとわかることがあって、ちゃんと事件の真相に近づけていると実感できてうれしかった。
私は、他にも手掛かりがあるのかもしれないと思い、場所や日付を頼りにネットで記事を探してみた。すると、事故当時の動画があった。
(今見たい気持ちはあるけど、ロゼと見たほうがいいのかな...)
悩んだ結果、私は後でロゼと見ることにした。
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「えっと...セルリアン?」
「お、覚えていてくださったのですね...!」
私のことを、「ロゼリア姉様」と呼ぶのは、私の知る限り
「もちろん覚えているわ。だけどその前に――」
「はい、場所を移してお話ししましょう、姉様。」
私たちは、とりあえず図書館に行き、ミリアーに行くことにした。
「『カラー:レインボー ’ミリアーへの道’』.....着きましたよ。
ここは、第0のエリア、フォルスタ。私たちを創ったと言われる者がいる地域といわれている。しかし、私たちは創造主に会ったことがない。創造主がいるということは私たちが存在していることで証明できるが、本当にこのフォルスタにいる、そもそもとしてミリアーにいるということは証明できなかった。
そして、フォルスタのロビー、各エリアごとにつながっているドアをくぐると、自分の行きたい世界へ行くことができる。前回エルムに連れていかれた時は、偶然私とフューシャがいることに気が付いて、そのまま
フォルスタには特殊な効果が付与できる施設がある。その名前を”ティリエイション・ルーム”。この部屋では、人形同士の色を混ぜることによって、様々な効果を生み出すことができる。
私たちがここに来たのは、
「『カラー・ロゼ ’ドール・ロゼリア’』」
「『カラー・セルリアン ’ドール・セルリアン’』」
「「『カラー・メヌエット ’タイム・エンチャント’』」」
「「ストップ」」
混ぜることによってできた効果で、時間を止めるためだった。
「はぁ~、よかった。姉様とやっているのに失敗して万が一のことがあると思うと...心臓が止まりそうでしたわ。」
「そんなことはないわ。まあ、うまくいったから気にすることもないでしょう。」
私とセルリアン、つまりピンクと水色を混ぜることによって、薄紫を作り出したのだ。『カラー・パープル』は、本来
「じゃあ、まずあたしから質問してもいいですか?」
「もちろん、私もいろいろ聞きたいことがあるけど、セルリアンの質問が終わってからでいいでしょう。」
こうして、私たちは今の現状について報告しあった。
「なるほど...姉様もこの学校で生活して、一緒に暮らしているヒトの助けになろうとしているのですね。」
「私も、というと、あなたも同じような状態なの?」
「まあ、簡単に言うとそうですね。どうやらあの人、姉が監禁されているらしくて。場所を突き止めるのを手伝ったほしいって。」
どうやら、セルリアンの方も苦労しているようだった。(監禁は普通に警察案件だと思うけど、今突っ込まないほうがいいと判断して、とりあえず何も言わないことにした。)
「それで、姉様の聞きたいことって何ですか?」
―そこで、私は初めて”誰かのために”依頼をすることにした。
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