第2話 エルム


私とロゼは、これからの方針について話し合うことにした。


(...と、その前に.....)


「まず、ロゼについてもう少し詳しくなりたいのだけど。」

「そうですよね。では、私、そして私たち人形についてまだ話していないことをお話しします。」


ロゼがそう言うと、丁寧に順を追って話し始めた。


「自己紹介の最後にも言いましたが、『ミリアー』という私たち人形たちが暮らす世界があります。これは、現実世界とは別で、特定の場所を経由して行き来することができるパラレルワールド平行世界のようなものです。」

「ミリアーには、13の地域によって分けられています。最初の地域が0の地域で、中心に存在しています。また、現実世界に出るにはここの門を通る必要があります。逆もまた同じです。」


現実世界というのは、いま私たちがいる世界だろう。ミリアーという世界があるという話はもちろん一度も聞いたことがなかった。


「1から12の地域は、北から0のエリアを囲うようになっています。エリア、と言っていますが、それぞれが独立した国のようなものです。ちなみに、私は6の地域ジェミニの出身です。」

「さっき言ってた型名っていうのは?」

「型名はこちらで言う国籍です。」


なるほど。話を聞く限りだと、ミリアーも現実世界と似た構造になっているようだ。


「.....なるほど、大体のことはわかったわ。それで、少し聞きたいことがあるのだけど...」


私がそういうと、ロゼは何でも聞いてくださいと言っているような顔になった。


「ミリアーにつながる場所はいくつあるの?」

「特に数は決まっていません。というより、条件を満たせばどこにでもゲートを作ることができます。」


ロゼが言うには、

・ある程度のスペースがあること

・その土地に関係する資料がたくさんあること

・その建物や場所ができてからある程度の年月が経っていること

を満たせば、だれでもゲートが作れるらしい。


「それなら...ロゼにお願いがあります。」


急に話を切り出したからか、ロゼは少しきょとんとした表情になった。


「あなたも、私が通ってる学校に行ってみない?」

「?」


予想通り、ロゼはさらにきょとんとした表情になった。


「その通りの意味よ。さすがにあなたの見た目で高校生っていうのは変だから、春暁高校の附属中学校に通ってもらいたいのだけど、どう?」

「本当に急ですね。私は構いませんが...なぜですか?」

「ロゼの話を聞いていて、学校にゲートになるようなところがあるのを思い出したの。」


ロゼの言った条件なら、1か所合いそうな場所がある。ちょっと歴史的な建物で、広くて資料がある場所といえば、あそこがちょうど当てはまると思う。


「もし本当にゲートがあるなら、私自身興味はあります。通わせてもらえるのなら、ぜひ通ってみたいです。」

「なら決まりね。今日は土曜日だし、学校も空いてるわ。一般開放もしているから、一回行ってみない?」

「そうですね。これから学校に通うのなら、少し施設について詳しくなっていたほうがいいですしね。」


ロゼの許可をとれたところで、私たちは春暁高校に向かうことにした。


********


「ここが春暁高校の図書館よ。」


さっきから私が言っていたのは、春暁高校の図書館のことだった。春暁高校は去年創立107年を迎え、ここの土地についての資料がたくさん置いてあるのが図書館だ。うちの高校は図書館にすごく力を入れていて、全国規模で見ても3本の指に入るほどの大きさとなっている。


「なるほど...あの真ん中に見える中心の柱のようなところから、人形たちと同じような雰囲気を感じますね。」

「やっぱりそうなんだ。こういう時よくあるのは手をかざしたらなんか反応するとかだけど...」


そう言うとロゼは、真ん中の柱に向かって手をかざした。すると、柱が光りだした!一般開放もしているとはいえ、好き好んで図書館で休日を過ごすような人はいない。今日ばかりは誰もいなくてよかったと思った。



目を開けると、そこはおとぎ話に出てくれるような世界があった。そして、周りを見渡してみると、とてもかわいらしい子がいた。


「お二人ともこんにちは!ミリア―、7の地域キャンサーへようこそ!!」


そういった少女は、どこかロゼと似たような雰囲気を醸し出していた。


********


「改めまして、わたくしの名前はエルム・シェリトル。《キャンサー》の人形の一つです。」


エルムと名乗った少女は、私たちを彼女の家に入れた。最初はどうしても不審者にしか見えなかったが、どうやらロゼの知り合いらしい。


「それにしても驚きましたよ、ロゼリア。まさか現実世界に行ってから一週間もしないでミリアーに戻ってくるなんて。」

「戻ってきたわけではありません。フューシャがゲートらしきものに心当たりがあるらしく、そこに訪れたら本当にミリアーだったというだけです。」

「.....あの...二人はどういう関係なの?」


少しロゼが冷たい声になっている気がしたので、恐る恐る話を変える意味も込めて話しかけた。


「私とエルムは同じ年に作られたのです。それに、ジェミニとキャンサーの中で一番優秀だったもの同士なので、人でいう幼馴染のような関係です。」


第6のジェミニと第7のキャンサーは隣同士で、基本一緒にいることが多かったらしい。


「ミリアーにも学校がありまして、クラスは全て成績順で決まります。主な判断基準として、使える色による技のバリエーション、ミリアー、現実世界についての知識量、感情がどれだけ発達しているかなどがあります。わたくしとロゼリアは学校の中でもトップを争いあっていた者同士なのです!」


「自分たちすごいでしょ!!」と言わんばかりの声で、ミリアー内の学校について教えてくれた。


「ちなみに補足すると、私は使える色のバリエーションが多かったため、エルムは感情が人形の平均よりも豊かだったため最高位のクラスで学ぶことができました。」

「地域ごとに決まっている色を完璧に使いこなすのが基本なのに、ロゼリアはそもそもとして使える色が無限といっていいほどありました。...わたくしはカラー:グリーンしか扱えないというのに.....」


初めて会った時にロゼ見せてくれた技たちは、どうやら一色しか使えないのが普通らしい。ロゼのジェミニは赤が普通だけど、あのときは『カラー:ブルー』とっていて青まで使えていた。


(ちょっとおかしなところがある子だなとは思ってたけど、超優等生だったんだ...)


「えっと、エルムは一緒に暮らす人は見つけたの?」

「それがまだなんですよねぇ。個人的にいいなと思う人はいるのですが、ちょっと不安になってしまって.....」


驚いた。口調とか声の感じとかから気が強い子だと思っていたが、そういうところはちょっと気弱なんだなと思った。


「エルムはこう見えて優柔不断なところがあります。変なところで不安になってしまうのです。でも基本は誰にでも優しく接しているので、フューシャも安心していいですよ。」

「ええ、わたくしももう少し考えたらヒトを決めようと思っております。それまでは牡丹さんのにもヒトについて教えてもらいたいし、見つけた後も、ぜひとも仲良くしてくれたらうれしいです!」


ロゼが来た時は本当にびっくりしたけど、やっぱりいい子なんだと思ったところだった。エルムも、ロゼとは全然違うタイプだけど、いい子だった。


「うん、こちらこそこれからも仲良くしてくれると嬉しいな、エルム。」


そういうと、彼女は美しい薄い緑色の髪を揺らしながらうなずいた。


********


1月10日


時期的にちょうど冬休みに入ったため、休み明けからロゼは学校に通うようになった。ロゼは帰国子女という扱いで転入試験を受け、平均よりはるかに高い点数で合格した。本人曰く、「物語文は感情を問われるので苦手ですが、数学などの普通の勉強は全く問題ありません。」とのこと。ミリアーの学校では超優等生だっただけあって、その頭の良さは恐ろしいほどだった。

ロゼと一緒に暮らすとなると、当然学費や生活費などたくさんお金がかかる。もともと一人の私は生活保護を受けて賄っていたが、エルムから「ロゼリアについてはわたくしも心配ですので、ミリアー内での所持金を送ろうと思います。」といって、

かなりの金額を渡してくれた。このお金で、私たちは新しい家に引っ越すことになった。もともと家族で暮らしていた家を手放すのは惜しいけど、それよりも今は大切な目的がある。



「ねえ、今日の松崎さん、初めて見る中学生の女の子と一緒に歩いてるわよ。」

「本当!あの女の子すごいかわいいのに、松崎さんなんかと一緒にいさせられてかかわいそう~」


初めての登校日。道案内もかねてロゼと一緒に行くと、道行く同級生に嫌味をたくさん言われた。私はもう今更出し何とも思わないけど、


「あの、フューシャ。あの方たちはあなたのいいところを何もわかっていません。忘れられないように教え込んどいたほうが良いのでは?」

「大丈夫、初日から目を付けられるのも面倒だからほっといて。あと学校でフューシャは確実に怪しまれるからやめて。」

「では...牡丹さん。」


こんな感じでロゼがどんどんイライラしているような感じになるのを止める必要があるため、少し大変だ。


高校と中学校は校舎が分かれているが、初めてなのでロゼの方に付き添ってから自分の教室に向かううことにした。


「はじめまして、ロゼリア・メリーシュさん。我が春暁高校附属中学校へ転校してくださりありがとうございます。私は1年4組の担任の大橋です。」


ロゼの点数がものすごく高かったことは教師陣には行き届いていて、ものすごく優秀な子が入ってくると知り大橋先生はものすごく猫なで声で話していた。

中学校でも私へのいじめがひどいということは有名で、先生は話しながらも嫌そうな顔が隠しきれていなかった。(先生の嫌そうな顔を見るたびロゼはもっと嫌そうな視線を先生に向けているのは一度置いておこう。)



大橋先生に促されて、私は教室の中へ入った。フュ...牡丹さんのことを気に入っている人はほとんど、いや一人もいないことは学校に来るまででよくわかった。牡丹さんのためにも、私が目立ちすぎるわけにはいかない。とくに不自然なところがないように細心の注意を払って、私はこの教室での第一声を放った。


「皆さん、初めまして。ロゼリア・メリーシュです!」


その声は、ロゼの中で一番明るい声と表情だったという。

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