パーフェクト・カラー・デコレーション

エリカ

第1話 ロゼ


ねえ、見て?

たくさんの色が見えるでしょう?

ここは、あなたたち人間の世界。この「世界」には、数えきれないほどの色があるの。大きく分けて、自然、社会、そしてインターネット。それぞれの世界に色が見えるでしょう?そんな世界を創ったあなたたちに聞くね。

―一番怖い色って、なあんだ?



12月18日 



『もう、今年もクリスマス!たくさんの子供たちが、サンタさんをいい子で待っているようです!今年も来てくれるのでしょうか?』


 ・・・・・くだらない。

 クリスマスだから何だというのだろう。別に、普段と変わらない毎日なのに。私には、1ミリも理解できなかった。

 私は一人暮らしだった。「花のJK」なんて言われているけど、私にはゴミと等しかった。両親が交通事故で死んでから、すべてが変わってしまった。忘れもしない、小学校6年生の冬。それまでは仲の良い友達もいたし、両親も優しく楽しい毎日を送れていた。しかし―

 今では、暴力、暴言は当たり前のこと、存在しないものとして扱われた。理由はもちろん、両親がいないからだ。

しかも、警察が、私の両親が事故を起こしたということにした。飲酒運転が原因で、事故を起こしたと警察は言っていたが、それはあり得ない。なぜなら、両親は二人とも酒が飲めないからだ。


 私は生まれつき、嘘か本当かを見抜く力を持っていた。小学3年生のころに気が付いて、相手を注視すると、本当の場合話青く、嘘の場合は赤く目が光って見える。この力で、酒の話をしていた両親を見ると、見事に青く光っていた。この力がなくとも、両親の知人に話を聞くなど、やりようはいくらでもあったはずだ。なのに、何もせず捜査を終わらせた。私はこの警察の対応に、絶望し、軽蔑した。


 つまり、両親がいないうえに、その両親は前科者という理由でいじめられている。


もう5年間いじめ続いている。この5年間は、とてつもなく時間の流れが遅い気がした。そして、私は信じられないほど泣いて、悲しんで、苦しんだ。


―もう、苦しくて辛くなるのは嫌だ。

そう思った私は、徐々に感情を殺してきた。「生きる」ことの楽しさをもう一度味わうことなく、何も考えることの無い機械のような生活を、ただひたすらに望み続けた。今日も何事もなく終わろうと、テレビを消し、布団に入った。


・・・


ピピピピッ ピピピピッ


けたたましく、アラームの音が鳴り響いた。いつものように身支度をしようとしたところで、信じがたいものが目に入った。


「…うーん、もう朝ですか。起きたくないですけど、今日はちゃんとおきますか。…ふぁ~」

「・・・誰!?」


驚いた。見た感じ、中学一年生くらいで、薄いピンクの髪を持つ美しい女の子だ。それもそうだが...


(驚くのは当然としても、ここまで大きな感情を出せたというのはびっくりだわ。)

「え、ああ。昨日は勝手に入ったので、自己紹介はしていなかったですね。」

(本当に勝手に入っていたのね。)


この子のマイペースさに驚かされながら、不思議と追い出す気にはならなかった。


「私はロゼリア・メリーシュと申します。あなたは?」

「ま、松崎牡丹です。」

「牡丹...ならフューシャね。これからはあなたのことをフューシャと呼びますね。あ、私はロゼでいいですよ。」


突然現れて”ロゼ”と名乗った少女は、まだ眠そうにあくびをしていた。おそらく、ここが私の家だということはもう忘れていることだろう。


「そ、それで...ロゼ?どうしてこんなところにいるの?」


恐る恐る聞いて見ると、さも当たり前のように、目が青く輝かせながら言った。


「私、今日からあなたと一緒に暮らすことにします!よろしくお願いしますね、フューシャ?」


それを聞いた私は、しばらくのあいだ放心状態が続いたという。



********



一通り落ち着いたあと、私はロゼに詳しい説明をうながした。


「私は、まず人間ではありません。創成主に作られた人形です。」


.....まずここからよくわからないが、一度話を進めよう。


「人形は、一人ひとり記念日というものがあります。それと、誕生月が同じ人間のところに行って生活します。」


ロゼの話をまとめると、こうだった。


人形であるロゼは、自分の記念月と誕生月が同じ人間を探していたそうだ。そこで、私が候補に上がったらしいのだけど...


「それって、私じゃなくてもいいんじゃないの?」

「それが、そういうわけでもないのです。」

「人形は、誕生月が同じだけでは、ただ生活することができるだけです。しかし、誕生日まで同じ人間だと、わたしたちも成長することができます。」


人形は、自分が成長するために、記念日と誕生日が同じ人を捜し求めるのだという。そこで、6月9日で完璧に同じの私を見つけたそうだ。


「私は〈ジェミニ〉で条件に合う人間を探していたのですが...あなたを見つけた瞬間ピンときました!なぜなら【リブラ】を持っているからです!!」


【リブラ】とは、私が持っているあの目のことらしい。どうやら、人形たちの世界でも希少なものらしく、ロゼは好奇心からか少し目をキラキラさせていた。


「その目の中でも、"カマリ"というさらに希少なものです。ここまでの条件がそろっていて、私が飛びつかないわけがないでしょう!!」


記念日と誕生日が同じで、さらに希少な目を持っている。という理由で私と一緒に暮らしたい、ということが言いたいようだが、


「でも、急にそんなこと言われても困るだけよ。」

「はい、もちろん承知の上です。なので...」


ロゼがそう言いかけたところで、私はまた信じがたいものを見た。

きれいな声で、ロゼが呪文のようなものを唱えると.....


「カラー:アクア ’ヒトが飲めるほどの水’」


なんということだろう。水入りのコップが目の前に出現した。ロゼの方をちらっと見ると、得意げな顔をしていた。しかし、急にそんなものを見せられてすぐ順応できるほど頭がいいわけではない。


(あと、その前に...)

「...なんか安直な呪文じゃない?」

「そんなことないです。これが正しいのです。」


まるで自分が絶対に間違ったことを言わないかのように表情をくずさずに言った。


(一気に表情が変わった...さっきまで楽しそうにしていたのに.....)

「...もうお気づきかもしれませんが、私は感情の表現が苦手なのです。どこで喜んだらいいのか、どこで悲しんだらいいのか、知識はあるのですが、それをうまく表に出すことができないのです。」


自分のことを人形というくらいだから、予想はしていた。ロゼは、人間と同じように感情を持たない。だからこそ、人の布団の中に勝手に潜り込むこともやってのけるのかと、少し納得が...


(いや、それとこれとは話が別だよ!)


「...先ほどもお見せしましたが、私には、【色に関するものを一時的に出す】ことができます。この力を使えば、いろいろとお役に立てることがあると思います。そうですね、例えば...記憶とか。」


その言葉が本当なら、私は賭けてみたかった。


「もし、フューシャが困っていることがあるのであれば、私がお手伝いします。そして、私は、人間の感情をあなたの近くにいながらで学び、成長したい。なので、ここに住まわせてもらいたいのです。.....そこまで悪い話ではないと思いますが...」


(もし本当に記憶に干渉することができるなら、私の両親の事件にかかわっていた人の細かい本心を知ることができるそうすれば...)


ずっと知りたかった真相に近づけるかもしれない。


よく考えたら、まだロゼに気づいてから1時間もたっていなかった。ほとんど初対面のような子だけど、不思議と悪い子には思えなかった。

私は、少し考えて、ロゼの方に改めて向き直った。


「...ねえ、もしほかに私と同じ条件を持つ人間がいたら、あなたはそっちでもいいやって言う?」


感情で動かない人形の女の子に言うようなセリフではないけれど、そこまで見越していたのか、ロゼはゆっくりとはっきり言った。


「...自分でもよくわかりませんが、あなたを初めて見た時、とても美しく光って見えたのです。おそらく、あなたの感情の強さだと思います。感情をしっかりと使うことができない私にとっては、あなたの境遇がもったいないと思いました。この人の感情がしっかり表現できるようになったら、私にとっても勉強になるとなぜか確信できました。だから、」


私に頑張って伝えようと、少し早口になりながらもたくさん言ってくれた。そして、ちゃんと私に聞こえるように、間を開けていった。


「あなたと同じ条件の人間がいても、私はフューシャを選びます。.....こういう時、感情があれば”同情”という選択肢になるのでしょうね。」


ロゼはこう言っているが、散々感情で苦しめられて、感情を殺してきた私からすると、ロゼのように合理的な考えをしているほうがかえって安心できた。


今までの話を聞いたうえで、はっきりと自分の考えを伝えた。


「ロゼリア、お願い。私、どうしても知りたい事件があるの。手伝ってくれるのならここに住んでもらった構わない。...どう?」


そうやって聞くと、ロゼはうれしそうな顔をして言った。


「...はい!よろしくお願いします。では、改めて...」


 「ロゼリア・メリーシュ。ミリアー内エリア・型名を〈ジェミニ〉。双子座でありながら正義の星天秤座にも認められてたフューシャに、力及ぶ限り尽くしましょう。」


そうして、私は何もかもよくわからないけど、優しい心を持っていそうなロゼと暮らすことに決めたのだった。





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