第四十六話 完全無欠の生徒会長と地獄のツイスターゲーム・下


 というわけで、二回戦開始。


 プレイヤーは緑と鞘。


 審判は美紅である。


「お兄ちゃん、右手を青」

「うお……これは、かなり、厳しいな」

「鞘、左足が黄色」

「こ、これで、いいかな?」

「次、お兄ちゃん、左手を赤」

「え!? ……く、おおお……」


 ルーレットの結果、緑はかなり無理な体勢を取らされることになった。


 ほぼブリッジ体勢だ。


「次は、鞘、右手をグリーン」

「え、ええと……」


 そこで、鞘が緑の上に覆い被さるような形になる。


 ブリッジ状態なので上を見上げている緑の顔に、鞘のお腹が乗る。


「わぷ……」

「あ、お、お腹……」


 流石の鞘も、お腹に顔を埋められるのは恥ずかしいようだ。

 わたわたと慌て、結果――。


「きゃっ!」

「わっ!」


 体勢を崩し、倒れてしまった。


「はい、鞘の負けー」

「うう……」


 勝者・緑、敗者・鞘。


 鞘は、早速ルーレットを回す。


 果たして、どの罰ゲームカードの山札が指定されるのか……。


 ドキドキしがら、結果を待つ鞘。


 結果、針が指し示したのは……『普通』の罰ゲームカードだった。


「ふ、普通、か……」


 鞘は、ちょっと残念そうである。


「いや、鞘さん、普通の罰ゲームカードでもかなり恥ずかしい経験しただろ? 気を付けて」

「う、うん」


 鞘は、通常の罰ゲームカードのデッキから一枚引く。


『敗者は勝者に、子犬になったつもりで甘える』


「子犬になったつもりで……わ、わんわん」


 カードに書かれた指示通り、鞘はそう鳴き声を発し、緑に体を寄せる。


「わんわーん、お兄ちゃん」


 緑の顔に頬をこすりつけ、首筋をペロペロと舐める。


「こ、こんな感じかな? ……なんだか、物足りないね」

「………いや」


 どこか残念そうに、そう呟く鞘だが、結構とんでもないことしてるぞ、と緑は思う。


「鞘さん、普通子犬になって甘えるって言ったら、膝の上で丸くなるとか、飛び付くとか、それくらいじゃないか?」

「え?」

「鞘、お兄ちゃんに頬ずりして、ペロペロ舐めてた。エロい」

「え?」


 そう言われ、自分が何をしたのか今更理解したのだろう。


 鞘は、ボンッと顔を赤らめる。


「あ、う、うそ、嘘、凄く恥ずかしいです……」


 と、慌てて誤魔化す。


(……鞘……もう、普通では満足できなくなってるんじゃ……)


 大分感覚が麻痺してしまっている。


「じゃあ、次ー。三回戦は、鞘vs美紅だけど、特別ルールを発動します」

「え?」


 三回戦開始。


 その直前、美紅がいきなり新ルールを提案した。


「鞘と美紅で戦って、負けた方はお兄ちゃんとジャンケンします。そのジャンケンで勝った方がハードプレイバージョン、負けた方がR18バージョンの罰ゲームカードを引きます」

「……は?」

「例えば、仮に美紅が勝った場合。鞘とお兄ちゃんでジャンケンして、どちらかがハードプレイ、どちらかがR18の罰ゲームをするということです」

「ちょっと待て、新ルール! 何で俺が何もしてないのに罰ゲームを受けること確定なんだ!」

「なんでって、お兄ちゃんに恥ずかしい思いをさせたいから開催したツイスター大会だよ?」

「それがお前の目的か! ともかく、そんな理不尽は認めないぞ!」

「わかった、じゃあ、ルール変更」


 しょうが無いなー、という風に、美紅は溜息を吐く。


 とんだ暴君である。


「美紅と鞘で戦って、美紅が勝ったらお兄ちゃんがR18バージョンを引く。鞘が勝ったら、美紅がR18バージョンを引く。これなら、お兄ちゃんに恥ずかしい思いをさせたい美紅と、理不尽な罰ゲームを受けたくないお兄ちゃんの願望が叶う。Win-Win」

「どこかWin-Winだ……」

「ま、任せて緑さん。緑さんは、私が守る!」


 どこまで理解しているのかわからないが、鞘はかなり意気込んでいる。


「さぁ、第三回戦開始」


 というわけで、鞘と美紅をプレイヤー、緑を審判として、第三回戦が開始した。


「美紅、右手をグリーン」

「ほい」

「鞘さん、右足を黄色」

「っと」


 二人の戦いは、かなりの良い勝負。


 きつい体勢を維持しながらも、互いに一歩も譲らない。


 気付けば、かなりの長期戦となっていた。


「鞘、強い……お兄ちゃんに罰ゲームを受けさせたくないの?」

「ちょ、ちょっとは思うけど、今の私の役目は、緑さんを守ることだから……」

(……鞘、なんて健気な……)


 互いに汗を落とし、息を荒げ、それでも無理な体勢を継続する二人。


「あ!」


 その時。


 遂に、二人の体が限界を迎えた。


 ほぼ同時、美紅と鞘が重なって崩れる。


 折り重なり、二人の体が床に倒れた。


「こ、これは……どっちの勝ちになるんだ?」

「引き分けだね」


 ふぅー、と深く息を吐きながら、美紅が起き上がる。


「引き分けか……この場合、どうなるんだ?」

「美紅と鞘、二人とも敗者。美紅が罰ゲームカードを引くから、鞘も同じ罰ゲームをやる。で、いい?」

「う、うん、わかった」


 鞘は頷く。


 ごく自然に敗者側に巻き込まれていることに、気付いているのかいないのか……。


 美紅は約束通り、R18バージョンのデッキからカードを引く。


 そして、その内容を提示する。


『自分の経験人数と、性感帯を勝者に報告』


 ………。


 ……流石は、R18バージョン。


 内容が直線的過ぎる。


「はーい、じゃあ美紅から。経験人数は0人。処女です」

「……何で妹のこんな報告を聞かなくちゃいけないんだ」

「性感帯は、おっぱいです。特に……」


 そこで、美紅は緑に抱きついてくる。


「お兄ちゃんに触られてると気持ちが良いです」


 真顔だが、頬が上気している。


 体温が高い。


 先程まで、鞘と激闘を演じていたから……だろうか。


 体が火照っている。


「はい、次は鞘」

「わ、私は……」


 鞘は、おどおどと目線を泳がせ、顔を紅潮させながら……しかし、緑に視線を向けつつ、囁く。


「経験人数は……いません。処女です」

「鞘さん、無理に言わなくても……」

「せ、性感帯、感じやすいのは……」


 鞘も、緑に体を寄せる。


「み、耳……お兄ちゃんに舐められた時に、頭の中が真っ白になって、お腹が熱くなって、その……」


 緑の肩に顔を埋める。


「すごく……気持ち良かったです」


 体が熱い二人の妹に挟まれ、緑の体温も自然と高まる。


「お兄ちゃん……」


 そこで、隣から、美紅の声が。


「……ベッドに行こう?」

「行かないッッ!」


 緑は、鞘と美紅を突き放し、大声で叫んだ。


 家が揺れた気がした。




 ―※―※―※―※―※―※―




 ――何はともあれ。


 その後、これ以上エスカレートしない内に、ゲームは終了。


 美紅は帰宅させることにした。


「また来るからなー」


 と、いつもの台詞を言い残し、美紅は去って行った。


(……しかし、罰ゲームカード)


 緑は、となりで恥ずかしそうに俯いている鞘を見る。


 どんどんその効力というか、魔力を発揮していっている気がする……。


 どこか心配というか、不安になる緑だった。




―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―




 ※次回更新は8月24日(水)を予定しています。


 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。


 本作を読み「おもしろい」「続きが読みたい」と少しでも思っていただけましたら、★評価やレビュー、フォローや感想等にて作品への応援を頂けますと、今後の励みとなります!


 どうぞ、よろしくお願いいたします(_ _)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る