第四十五話 完全無欠の生徒会長と地獄のツイスターゲーム・上


「ツイスターゲームの時間だ、オラー」


 ――学園祭の後片付けも終わり、その翌日。


 暦の上では休日。


 この日、美紅が国島家にやって来た。


 事前の知らせは皆無――完全に強襲である。


「美紅、来るなら来るって言っておいてくれよ……」

「近々家に行くと言った。美紅は有言実行しただけ」

「アポを取ってくれってことだよ」


 いきなりやって来た美紅に、呆れる緑と驚く鞘。


「おす、鞘」

「こ、こんにちは、美紅ちゃん」

「というわけで、今日はツイスターゲームで遊ぼう」

「へ?」


 勝手に話を進めていく美紅に、鞘は混乱している。


「美紅、先日の文化祭でツイスターゲームをゲットしたんだ」

「そういうこと」


 説明する緑と、手に持ったツイスターの箱を掲げ、家に上がる美紅。


「だから、今日はお兄ちゃんと鞘と一緒に遊ぼうと思って、来た」

「そ、そうだったんだ」


 やっと理解が追い付いたのか、鞘は腑に落ちたように頷く。


「じゃあ、始めよう。お兄ちゃん、広げるの手伝って」

「……もう絶対にやる流れだな、これ」


 というわけで。

 有無を言わさぬ美紅の勢いにより、緑達はツイスターゲームをやることとなった。


「そういえば、ツイスターゲームって初めてだな。どういうルールだっけ?」

「えっとねぇ」


 リビングの床の上――マットを広げながら、緑は美紅に問う。


 美紅は、同封されている説明書を読みながら、ルールを説明する。


 使用するのは、四色の丸が描かれたマットとルーレット。


 一人は審判役になり、ルーレットを回す。


 そして、プレイヤーに、指定された色の丸印の上に手や足を置くよう指示する。


 プレイヤーはどんな体勢になっても構わないが、倒れたら負け。


「……っていう感じ」

「なるほど……まぁ、大体想像通りのルールだな。鞘さんも、大丈夫?」

「うん」

「で」


 そこで、だった。


「美紅、更にこのゲームが盛り上がる追加ルールを考えました」


 不意に、美紅がそう呟いた。


「追加ルール?」

「鞘、罰ゲームカード持ってるよね」

「え?」


 美紅が、鞘に言う。


「あれ、使おう」




 ―※―※―※―※―※―※―




 罰ゲームカードも使おう――という美紅の提案により、鞘は自室から罰ゲームカードを持ってきた。


「はい、美紅ちゃん」

「うん、ちゃんと二つあるね」


 鞘が持ってきたのは、今や懐かしい普通の罰ゲームカードと、ハードプレイバージョンの二つの山札。


 更に、そこで。


 美紅が、自身のパーカーのポケットから、もう一つカードの箱を取り出した。


「美紅、この日のためにもう一個、罰ゲームカードを買っておきました」

「そ、それは……」

「その名も、罰ゲームカード、R18バージョン」


 罰ゲームカード、R18バージョン……。


「……いやいや、ここに18歳越えてる人間一人も居ないんだが」

「だからこそ盛り上がる」


 緑の至極真っ当な突っ込みを無視し、美紅は説明を続ける。


「ルールは簡単。三人中二人で対決。一人は審判。ツイスターゲームをして、負けた人間が罰ゲームカードを引く。但し、三つの山札の中からどれを引くかは、直前にルーレットを回して、決める」


 そこで、美紅はポケットから更に丸い紙を取り出す。


 円形の用紙は、ツイスターのルーレットに綺麗に重なるように出来ている。


 その円形の用紙には、ルーレットによりどの罰ゲームカードを引くのか内訳が書かれており、分配は、全体の半分が『通常』。


 もう半分の方の分配を四等分した場合、四の三が『ハード』。


 そして四分の一が『R18』というバランスになっている。


 確率は、『通常』50%、『ハード』37.5%、『R18』12.5%、ということだ。


「美紅の手作り」

「用意がいいな、お前……」

「というわけで、早速一回戦レッツゴー」


 かくして、国島家を舞台に罰ゲームを賭けた地獄のツイスターゲームが開始した。


 まずは、第一回戦。


 プレイヤーは、美紅と緑。


 鞘がルーレットを回す審判役である。


「まずは……緑さん、右手が赤」

「よいっしょっと……」

「次は、美紅ちゃん、右手が青」

「よっと」


 鞘の指示に従い、緑と美紅はマットの上で手足を移動させていく。


「お、おい、美紅……ちょっと引っ付きすぎじゃ無いか?」

「しょうがない。ルーレットに従うとこうなるんだから」


 美紅は緑の上に覆い被さるような姿勢を取ってきた。


 更に、その状態で若干体重を掛けてくる。


「おい! 体重を預けるのはルール違反じゃないのか!?」

「そうだっけ?」


 そこで、美紅は緑の体に密着した状態で、緑の耳元に唇を寄せ。


「ふぅ」


 耳元に、息を吹き当ててきた。


「ちょっ!?」


 こそばゆい感覚に、緑はたまらず体勢を崩す。


「いえーい、美紅の勝ち」

「今のはズルだろ!」

「耳に息を当ててはいけないというルールは無い」


 何はともあれ、勝敗は決した。


 一回戦は、勝者・美紅、敗者・緑。


「くそ……いまいち納得がいかない」

「はい、お兄ちゃん、罰ゲームルーレット回して」


 美紅が、ツイスターのルーレットに紙を被せ、罰ゲームルーレットにする。


 緑は、ルーレットの針に手を掛け、回す。


「頼むぞ、普通の奴で……」


 やがて、針は速度を失い――停止。


 指し示した先は……。


『ハード』の文字。


「お兄ちゃんの罰ゲームは、ハードプレイバージョンに決定しました」

「ハードプレイか……」


 緑の脳裏に、鞘や美紅との先日の光景が蘇る。


 これはこれで、中々きついぞ……。


「はい、お兄ちゃん一枚引いて」


 緑は、息を呑み込みながら、ハードプレイバージョンの山札よりカードを引く。


 そこに書かれていた、罰ゲームは……。


『敗者は勝者と乳首当てゲーム』


「これ十分18禁だろ!」

「いえーい、乳首当てゲーム」

「なんでお前はそんなに嬉しそうなんだよ……」


 動揺する緑の一方、美紅は緑の正面に立つと、自身の胸を突き出してくる。


「ほらほら、お兄ちゃん。美紅の乳首どーこだ」

「いや、美紅、流石にこれは……」

「大丈夫。遊びだよ、遊び」

「うーん……」


 緑は両腕を持ち上げ、美紅の胸に手を伸ばす。


 その光景を、鞘は口元を手で覆いドキドキしながら見守っている。


(……しかし、乳首当てゲーム)


 どこの誰が作ったのかは知らないが、とんでもないゲームを作り出してくれたものだ。


「こ、ここ……」


 緑の両手の人差し指が、美紅のパーカーに覆われた胸の先――触れるか触れないかの位置で停止する。


「お兄ちゃん」

「……な、なんだ?」

「……正解」


 言って、美紅は体を前に押し出す。


 結果、緑の指先が、ぷにゅっと美紅の胸に沈み込んだ。


「わぁ!」

「じゃあ、次は美紅の番」


 ふふふー、と笑い声を漏らしながら、美紅が緑の胸板を指先でつついてくる。


「ここかなー、ここかなー」

「……早く決めろって」


 妙なテンションで盛り上がる美紅と、かなり恥ずかしい気分の緑。


 一方、そんな二人の姿を、鞘は「うー……」と唸りながら、気が気でない感じで見ている。


 緑的には、そっちも気になってしょうがない。


「むー……ここだー」


 瞬間、美紅が緑の胸板から手を外し、脇をコチョコチョしてきた。


「わ、ははは! 美紅、止めろ!」


 床に倒れ、重なって転がる美紅と緑。


 やがて、ぜぇぜぇと息を荒げながら起き上がる緑と、転がったまま天井を見上げている美紅。


「楽しいね、お兄ちゃん」

「……かなり疲れるけどな」

「ふ、二人とも一回戦は終了だ」


 そこで、鞘が言う。


 まるで、待ちきれないと言うように。


「じゃあ、次は私とおに……緑さんで二回戦……だよね」

「え、あ……うん」


 地獄のツイスターゲームは続く――。




―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―※―




 ※次回更新は8月21日(日)を予定しています。


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