第5話 反撃

 目黒里香。

 正直他の誰かなら少し話し合えるかと思ってたが、あいつは凛上と犬猿の仲の如く仲が悪い。そんな凛上と仲良くしている俺達を変に目の敵にしている節は学校に居た頃から思っていた。


 話しが通じる相手では無い、か・・・。


 いや、それでも情報は引き出せるはずだ。

 今みんなが何をしているのか、何がみんなをこんな事をさせているのか。

 目黒は生贄だと言った。それはつまり、この世界から帰る手段があるということになる。

 そしてその方法に、人々を、教会騎士に仇為すレジスタンス襲わせている。


 人を殺せば、元の世界に帰れる。

 教会騎士の連中がそう吹き込んだに違いないだろう。一度異世界から転使を呼ぶのには多大な魔力が必要になるからとか、それに必要な物が人の魂とか訳のわからんことを言えば、みんな嫌でも人殺しをするに決まっている。

 それを拒めば、どうなるか。自分達の目の前で元クラスメイトの刻越藍を見ているんだ、どうなるかなんて誰もが想像できる。


 だとしたら・・・だとしたら。


「なぁ」


 リットがまた俺を呼んだ。

 また俺を現実に戻してくれた、答えの出ない悩みの渦から引き戻してくれたのだった。


「あれ、お前の仲間なのか」

「まぁ・・一応、そうゆう事になるのかな」

「でも、お前に容赦なかったように見えたけど」


 返す言葉も出ない。

 単純明白、奴は俺の事が嫌いなんだ。きっと俺が切り捨てられなくてもその関係は変わらない事だけは自信を持って言える。

 どれだけ取り繕っても、あいつ等に俺の言葉は届かないのかもしれない。


「いや・・・それでも、諦めちゃダメ・・・だよな」


 握り拳を作り自分に言い聞かせる。

 諦めて何が変わるって言うんだ。目を閉じ耳を塞いだ所で何も変わらない。

 この命は、もう無いと思え。そうでないと先へは進めない。


「リット。頼みがある、どうにか奴等の気を引けないか。何とか話が出来るかやってみたいんだ」

「無理言うなよな、あの滅茶苦茶な攻撃にどう対処すればいいか俺が聞きたいくらいなんだぞ。あいつ等ここへ来る途中も攻撃し続けてるはずなのに全く衰えてないし、まだ余裕を残してやがるし、どうかしてるぞ」


 リットの言い分はもっともだ。

 刻印の力。この世界の魔法とは全く違う物で使われている、それはこの異世界に来てから痛い目にあったからこそよくわかる。

 ノーリスクであれだけの力をバンバンと。使われるこっちの身にもなってほしい所だが。


「それでも・・・頼む」


 ただリットに頼むしかなかった。協力をしてくれないと無理だと。情けない事だ、俺には今目の前の幼い見た目の異世界の住人であり種族も違う存在に縋るしかない。


「・・・わかった」

「ありがとう」


 ただ感謝を口にすることしか今の俺には出来ない。だけど、言わないわけにはいかなかった。

 そんな俺を見ていたリット少しだけ顔を赤くしてポリポリとほっぺをかいていたが、すぐに表情を変えた。


「とりあえずお前、あいつ等の力が何なのか知ってるのか」

「いや、正直わかってない。ただ言える事は、この異世界に飛んできて、転使扱いされたのは俺以外のクラスメイト・・・仲間達だ。転使としての印ってことで右腕に刻印が刻まれていたくらい」

「刻印、それがあの力の源なのか。俺以外って言ったけど、お前には」

「あぁ、俺には見ての通り無いんだ。この世界に来るまでみんなただの高校生、ただの人間だったんだ。当然魔法とかあんな力なんか使えるわけも無いし、命を掛けた戦いなんてしてなかったんだ」


 そう、俺達はただの高校生だった。

 それが一変して刻印なんて刻まれたらこんな馬鹿げた殺戮をさせられている。

 こんな話普通ならふざけていると言われかねないが、リットは静かに俺の言うことを聞いてくれていた。


「刻印が無い俺だけど・・・俺には、その・・・」

「なんだ? 急に歯切れが悪くなったな」


 夢を見る。起きている時でも白昼夢を見てこの世界の事が頭に流れ込んでくる。

 異世界転移や刻印のスーパーパワー、それだけでも規格外なのにも関わらず、俺の白昼夢の話なんて更に輪をかけて滅茶苦茶だ。

 でも、言わないと。言えば何かわかるかも知れない―――


「いや、いいや。どうせ自分でもわかんねーんだろ? 自分がこの世界の魔法を何で使えるのか」

「リット・・・」

「身体強化魔法といい、さっきの爆破魔法といい、一応は似たようなの俺も知ってる物けど、お前も転使だから使えたと思ったけど、あの転使達と何か違うってのはわかったよ藍は」


 なんて物解りが良い奴なんだ。恩に着る想いでいっぱいだ。

 とにかくここを突破したら出来る限りの事はリットに全部説明しよう。この白昼夢の事が何かわかるかもしれない。


「んで、"今"の話をするけど。あの瓦礫をぶん投げてくる力と、俺が動けなくなった力。刻印の力ってのは間違いないだろうが、刻印ってのは固有の力、決められた力のみなのか?」


 固有の力。つまりそれは刻印の力は一つだけかどうかという疑問か。

 ここで俺は改めて刻印の力がわかった時の状況を振り返った。自然にそうだと思ったが、確か戦闘用がどうたらこうたらって凛上が言っていた事を思い出した。

 それが事実ならリットの憶測は当たっている。


「うん、多分当たってる。応用の可能性は捨てれないけど、基本的には一人一つだと思って大丈夫だと思う」

「だとしたら」

「あの罠は・・・残りの二人の力か」


 目黒が瓦礫を飛ばす力を使ってきていた時残りの二人は一切手を出していなかったように見えた、単に面倒だからと捉える事も出来る。

 だがあの罠が刻印の力であるのは間違いない。


 その刻印の力は。


「動きを封じる力」

「その姿を消す力」


 これが今俺達が予想出来る手札だった。

 リットを一切離さなかったあの力は、この世界のスライムの捕縛に似ていたようにも感じる。敵の動きに合わせて自在に形を変え動きを封じる物、動けば動くほど見動きが取れなくなっていく仕組みを夢で見た覚えがある。


 そしてもう一つの力は、姿を消す力。恐らく対象を指定しその姿や気配の一切を遮断する力。

 俺もリットも全く気付く事が出来なかったほどの物だ。まるでハイゴーストというこの世界のモンスターのような力を使う。

 スライムにハイゴースト、レベル差はあるがいずれもこの世界じゃあ相当上位のモンスターであるのは間違いないが。


「モンスター・・・?」

「どうかしたのか藍」

「いや・・・ごめん、余計な考え事だった。 とりあえず、これを」


 俺はリットに一つの魔法を掛ける。

 ゲームで言うバフのような効果を付与する魔法だ。


「気休めかもしれないけど、ダンジョンとかの障害物探知の魔法だ。これであの見えないヤツを回避出来ればいいが」

「随分と古臭い魔法だな、まぁありがたく受けとくよ」


 あとは、どう話すかだ。

 こうゆうときの上等手段として相手の情報をまず引き出してからってのがあるが、簡単に口を割ってくれるか・・・。


 いや、意外に行けるかもしれないか。

 相手はあの目黒だ。実際最初に生贄とか言い出していた訳だし。

 上手くやれば話し合いが出来ないまでも殺し合う必要は一先ず無くなるかもしれない。


「考えは纏まったか? 俺はいつでも行ける」

「わかった、行こう。出来る限りの事はする」


 うっすらではあるがまだ気配は感じる、あいつ等が俺達を探しているのかはわからないがまだここに居るのはわかる。


 俺とリットはお互いに相槌を打ち、同時に民家を抜け出す事に決めた。

 2方向から同時に出れば流石の目黒も瓦礫を形成する時間と狙いを定めることを考えると多少の時間は稼げる。

 その間に急接近すればいい。


 罠の対処も済んだ。後は俺次第だ。


「それじゃあ・・・行くぞ!」


 掛声と共に俺達は再び飛び出した。

 身体強化魔法の速度は俺達の世界では考えられない速度を出せる、俺と同じ世界出身の人間じゃあ簡単には捉えられな―――。



「ははっ!!」


 俺は自分の目を疑った。それは恐らくリットも同じだろう。

 予測? なら先に俺達が居た民家に向けて撃ち込めばいいだけの話。遊ばれていた? それはあり得るのか?


 この瞬間、俺は、自分が持っている情報以上の物がある事を確信した。


「"視えた"通りだわ!」


 飛び出した先、俺達が移動する方角には瓦礫が・・・もう飛ばされていた。


「ぐあぁぁああああぁあああ!!!!」


 直撃だった。

 驚愕していた俺は目黒が放った瓦礫の塊をもろに受けてしまった。

 全身に突き刺さるような激痛が走る。

 咄嗟に出した防御魔法で緩和出来る量なんてたかが知れていた。最初に目黒が放った瓦礫の勢いとは桁違いの破壊力に襲われる。


「がぁ・・ぅぐ・・・!!」


 散らばる瓦礫の中央で膝を付く。

 せっかく回復した身体がまたボロボロへと変わってしまったが、何とか生き延びた・・・のか。


 コインズから借りて行ったローブ。恐らくこれに何かしらの魔法が掛けられていたのだろう、ローブはボロボロになってしまったがおかげで命を落とす事はなかった。

 だが、また俺の身体は悲鳴を上げている。


「くっ・・・リット!!! 無事か!!? リット!!!」

「お呼びですか~~・・・なんてな」

「・・・目黒!!」


 宙に浮いたボロボロのリットが目の前に現れた。。

 周囲の瓦礫と同じように、目黒にとってゴミ同然だと言わんばかりに放り込まれた。


 身体を引きずりながら俺はリットに近付く。

 何とか息はしている、死んではいない。だが誰がどうみても、もう戦えるような状態じゃない。必死に防御魔法で抵抗した跡、右手が真っ赤に血で染まっている姿は直視できなかった。


「ふふふふっ・・・あははははははは!!!!!」

「無様っ!」

「お似合いじゃーん、雑魚同士ふふふ」


 笑ってる。


 何だこれ。これが転使の力?

 目黒の言う通り、この異世界の人達は転使の生贄になのか。

 それが真実だとでも言うのか。


 考えれば考えるほど・・・頭がおかしくなる。


「・・・なぁ」

「ははははっ・・・なんだよ? 命乞いなら飽きてるんだが?」


 ゆらゆらと俺は立ち上がった。

 そして乾いた目付きで目黒を睨み付けた。


「お前の刻印・・・弱いな」

「・・・はぁ?」


 一歩踏み出す。

 地を噛み締めながら、一歩前へ。


「だって、俺の事殺せてないぞ。本倉・・・透なら絶対に殺せてたはずだ」


 痛みは走り続けている。

 それでも、やり通さなくてはならない。意識を集中して。


 本来やる事を、達成する為に。


「やっぱ・・・"ランクが低い"って事か」


「てめぇええええー!!!!」


 目黒は激情した。

 回りなんてお構いなしに周囲全ての瓦礫、瓦礫だけじゃないあらゆる物体全てを宙に浮かせ始めた。


「ちょっ! 里香!!」

「うるせぇえー!!! こいつ殺す!! 絶対に殺す、甚振って殺すぅ!!!!」


 思った・・・通りにいってくれてありがとう。

 すぐさま俺はローブを脱ぎ、リットへ向けて投げた。そのままローブをリットの全身に包ませ風の魔法で疑似的ではあるが目黒の真似事のようにリットを避難させた。


 上半身は傷口が開いたんだろう、巻いてある包帯のほとんどが赤く染まっている。

 だが、今このチャンスを逃すわけにはいかない。


「お前も早くあれ使え!! 全部見えなくすんだよ!!」

「わ、わわかったわよ!!」


 目の前の瓦礫の山達が次々と姿を消していく。

 やっぱり俺とリットの予想は正しかった。


 罠と透明化は別の物、目黒の浮かせた瓦礫を消す戦法もあり得ると思った。

 だからこそ、対処をしておいた。


「逃げてみろよ!!! 刻越ぇえー!!!!!」


 目黒が大きく手を振り被った。

 一切見えないが、大量の何かがこちらに飛んでくるのがわからないがよくわかる。

 俺はすぐに加速して目黒達から距離を保ちつつ動き回った。


 次々と降り注ぐ見えない瓦礫。何がどう飛んでくるかわからない。

 俺が逃げている道が次々と跡形も無く見えない瓦礫が破壊し尽くしている。

 猛り狂ってるからか、今日一番と言わんばかりの力を振るう目黒。今はローブも無い、当たれば即終了だ。


「くっ!!?」

「だから視えるって言ってんだよ雑魚がぁああー!!!」


 こいつ弄んで楽しんでる。

 俺が移動する先々全てに小さい瓦礫を放って楽しんでる。


「ぐぁっ!!」


 透明化した瓦礫が足にぶつかり躓き、そのまま地面に叩きつけられて倒れてしまった。

 無様な姿を見て目黒は大層ご満悦の様子で笑い続けていた。

 フェイントを入れても無意味、思考を読まれているかもと考えたがその素振りが一切ない。


 俺が向かう場所を、目黒は完全に視えている。


「おらおら!! どうした!! 逃げねぇーと死ぬぞー!!!」


 駄目だ。このままじゃあ本当に終わる。倒れたままでいるわけにはいかない。立ち上がって再び走り出し残っている瓦礫で姿を隠してもピンポイントで爆撃の如くその場所を吹き飛ばされる。


 確信を持っていい、目黒は・・・転使は視えてるんだ。


「くそっ!!」


 視界が霞んでくる。体に限界が訪れ出した。

 身体強化の魔法が切れ出している。魔力が切れていく感覚を俺に告げ出す。


 ここまでか。

 あと少し、ここをどうにか切り開くことが出来れば、この一歩があまりにも遠く感じる。


 ここを・・・ここを切り返す物さえあれば。




カチャンッ・・・。


 俺は音がした物に触れた。

 それは目黒達と対峙する前に使う機会がまだあるかもと拝借した物、魔法で落ちないように腰に付けていた1本。


 そして俺は、一瞬動きを止めた。



「もうこれで終わりだ。死ね刻越ぇええー!!!!」

 

 目黒の得物を捕えた叫びが響いた。

 それと同時にまた俺が移動した先にトドメの瓦礫が降ってくる。避けることは出来ないほどに正確な位置に、防ぐ事が出来ないほど巨大に。


 俺を完全に仕留めるつもりで、きっと俺が死ぬのが視たのだろう。

 だが俺にはそんな物は当然視えない。


 けど。


 俺は・・・。




『あなたなら、きっと出来ます』



 俺はまた"魅せられた"。




「穿て撃刃!」


 ようやく俺は腰に付けていた剣に触れる。そして今剣引き抜く。

 見せられた、白昼夢のように。出来ると言ったメリスの言葉を信じるように。


「特質不要の純然たる一撃を、今!!!」


 俺に向けて言った言葉じゃないのは重々承知だ、それでも俺は両手に握りしめた剣全体が大きく輝かす。


 ふざけんな。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。


 人の頭の中で勝手に魅せる白昼夢。

 俺が欲しい情報は何一つくれない癖に、苦くて痛くて辛くて、そんな想いをしないと手を貸してくれなくて。


 ただ・・・ただ彼女の。

 メリスの顔を魅せびらかすだけ魅せびらかしてムカつくんだよ。

 あの男が、お前の最愛の人は素敵過ぎる人間だってもうわかったよ。


 だからこれ以上、彼女を出すな。

 意志が揺らぐ。クラスメイトのみんなの所に帰るって気持ちが揺らぐんだ。

 考えないようにしていた事を考えてしまうだろ。 




 メリスの事を・・・。

 



「消し飛べぇええええー!!!!!!」



 まるで自分に言い聞かせるように俺は叫んだ。

 俺が魅た白昼夢は今まで魅せられていたモノとは一線を超える物だと瞬時に理解した。

 握り締める剣は原型を無視し魔力で巨大に膨れ上がり目黒が放った瓦礫に匹敵する程までに大きく、そして輝き見せている。


 ただ力いっぱいに振るった。

 目に見えない瓦礫、だが感じ取れていた。リットに掛けた障害物探知魔法で大体の場所は把握していた。

 だから思いっきり振り下ろす。


「き・・切りやがったのか・・・!?」


 真っ二つ、一刀両断。そんな言葉が相応しい程にぶった斬った。

 斬られた瓦礫は透明化の能力を失ったのか姿を現し、そのまま地面へと落されていった。


「だから・・・言っただろ。お前の刻印・・・弱いなって」

「ふ、ふざけんな! ふざけんな刻越!!! てめぇ、刻印も無ければ"未来視"だって・・・!!」


 未来視。

 今目黒は未来視って言ったのか? ハッとなってすぐに口を抑えた素振りを見せた。


 なるほど、そうゆう事か。


「くそ!!! くそ!!! 死ねぇええー!!!」


 馬鹿の一つ覚えのように適当に俺に向けて攻撃を始める。

 一つ一つはあまりに小さく、俺へのトドメに使った瓦礫とは比べられない程に、剣を軽く一振りすれば斬れるようなひ弱な物だった。


「視えない!? なんで!! おい!ふざけんな!! 視せろよ!! こいつが、刻越が死ぬ姿をよ!! さっき視せたみたいによ!!!」


 完全に形勢が逆転した。

 刻印の力は確かに無尽蔵で、おまけに未来視なんていう取って付けたような効果まで付与されている正真正銘のふざけた力だ。普通は負けることなんてほぼ無く、実際にここまで来るのに無敗、いや戦いなんて物すら起きていなかったはずだ。

 それでも目黒は負けた。


 刻印も無ければ、未来視なんて物も持ち合わせていない俺に。


「・・・俺はお前等と違って未来なんか見えない。強いて言うなら魅せられてるのは"過去"っぽいけどな」

「なんだと!!?」


 これでようやく納得出来た。あぁ、本当に納得が出来た。

 俺は強気に足を動かした。一気に弱腰になる目黒へとゆっくりと歩み続けた。


「こっちくんな!! 刻越!!!」


 刻印の力を使わず手に持った石を投げ付け始めた。

 そう、これが実態なんだ。どれだけ凄い力を持っていようと関係の無い関係性。


 勝者と敗者。


 今俺と目黒の間にはその関係性が生まれてる。

 あの時、転移してすぐの俺は負けたんだ。

 そう、本倉に、クラスの全員に。

 ただそれだけ、それだけの事だったんだ・・・。 


 再び剣を光らせる。さっきと同じように巨大にはしないにしろ、今の目黒達を脅すには十分だった。


「そんなっ!!」


 目黒の取り巻きが罠を張った瞬間、剣を振るい消した。

 効果があるようで安心した。そう、これで安心してこいつ等を問い詰めることが出来る。


「り、里香・・・!」

「何ビビってやがる! こいつはあたし等の事どうせ殺せねぇよ、なぁ刻越!」


 剣を握る手に力が入る。

 なんだろう、俺の中で色々な感情が湧き上がってくるのがよくわかる。

 ついさっき俺に投げてきた小さな瓦礫を手に掴み眺める。


「っ!!!?」


 俺は掴んだ瓦礫を目黒目掛けて投げ付けた。顔面すれすれで砕け散るのだった。目黒の力には及ばない。

 けれど、見た目は普通の女子高生。当たれば軽傷では済まない程の速度、魔法で加速を付けて投げ付けた。

 ある意味で今の行為が全てを物語っている。もう目黒に抵抗の意思はない。


「・・・・・・」


 目の前には元クラスメイトの人間が俺を見て怯えている。

 さっきまで俺達を、この世界の住人をただの玩具のように扱われ続けていた奴等。

 経緯は確かに不運だと俺も思う。


 勝手に転移させられて、勝手に力を与えられ、勝手に・・・。


「でも・・・人を殺して良い理由は、無いと思う」


 ボソっと口にした言葉に目黒達は目を見開いた。

 ゆっくりと近付く俺に腰を抜かし地に尻持ちを付いた。


「な、何でも話す・・・頼む。頼むから殺さないでくれ」


 そうか。

 それなら良い。それが俺の目的だったんだ。それが聞けたら十分だ。


 だから。


 だから俺は手に持つ剣を握り締め振り被った。


「待てよ!! 待て刻越!!!」



ガキンッ!!!!







「・・・・・・っ」

「ぁ・・・ぅぁ・・・・!!」




 目の前には目を閉じ震える目黒。その股の間に俺が振り下ろした剣が突き刺さっていた。


 そして俺の足に、誰か・・・誰かが掴んだ。


「そこまでで・・・いいんじゃないのか。藍」

「リッ・・・ト」


 ローブに包まれたボロボロのリットが、俺を止めるように俺を掴んでいたのだった。

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