第4話 再戦
立て続けに起きる衝撃音と同時に起きる地揺れ。
リットはすぐさま部屋を後にした。
俺もその後を追うようにして出て行く。
俺の身体は・・・不思議と治っているように感じた。いや従来よりも身体が動けるようにも感じた。
不思議に思った。この世界に来てからこんな気持ちになってばかりだと自覚した。
だが今はそれどころじゃない。
「あっちはまさか、アジトが・・・?」
「レジスタンスのか」
今も衝撃音が響いている。
コインズの家を出た俺が目にしたのは大騒動だった。
太陽は嫌な曇りで隠れ、街から逃げだそうと人々が必死に逃げ惑っている姿だった。
「リット。連れてってくれ」
「お、お前を!? ふざけんなそんな身体で行かせ・・・っていつの間にローブ着てたんだ」
包帯グルグル巻きの半裸だと流石にと思い、家を出る途中に掛けてあったローブを借りた。思ったよりもピッタリだった。
自分でも驚くくらいに着心地が良い。
「とは、言っても俺は行くけど。よかったら一緒に行きませんかってお誘いだ」
「なんだそれ。 知らねぇーからな、自分の身は自分で守れよ」
「当然」
俺はリットに笑みを向けたと同時にその場から飛んだ。街の屋根に乗って走り、再び飛んで乗り継ぐように次の家の屋根を走る。さながらジャパニーズ忍者、こんな動き普通は出来ない。けれど何故か今の俺なら出来ると確信していた。
「本当に大丈夫みたいだな」
「ああ、スピード上げるぞ」
付いてくるリットも俺と同じように走り続けた。
身体強化魔法の一種であろう、恐らく俺もリットと同じような魔法を無意識に使っているのだろう。
あの夢の中で見た白昼夢を再現するように。
リットに細かい場所を指示されながら走る。
時には逃げ纏う人の波に逆行する道を通りながら。当然のように人々を避けながら失速すること無く走り続けた。
そして、街並み雰囲気が一気に逆転した場所に来ていた。
曇りの天気で辺りが暗く思えたのに対して更に重さが加わった。本当にここはさっきまで走っていた街と同じ街なのか。
ダウンタウン。
そんな言葉が頭に過ぎると同時に教会騎士という存在が頭に浮かんだ。
荒れに荒れ果てた廃墟のような空間。
こんな物が作られたのは、その教会騎士という組織なのか。
「っ!? まだ続いているのか」
「続いてもらわなきゃ困るっての・・・行くぞ」
ここへ近付く度に爆発する音は大きくなっていた。
近い。もうそこまで来たのだと実感する。
迷いは今の所無い。
けれど、何をするのかも全く決まって無い。それでもリットの後を追い掛ける。
周囲の風景がただ暗く不気味な物から焦げ臭い臭いと同時に見える火事の明かり目に入りながらも走りながら考える。もしまたみんなと遭遇してしまったらどうしようかと、どうすればいいのかと。
「リ、リット・・・!?」
「おじさん!!」
答えが出ない考えを巡らせていると壁にもたれ掛かっている男の人がリットの名前を呼んだ。
リットはすぐさま駆け寄って懐から薬を取り出し渡そうとするも、男はそれを首を振って拒んだ。
「お前逃げろ・・・レジスタンスは、もう・・・終わりだ」
「何言ってんだよ! こんな終わり方、あるわけないだろう! まだ何も出来てないじゃないか!」
「奴等の力は・・・強大・・過ぎる。我々では・・・敵わない。だから」
男がリットに今はとにかく逃げろと告げながら衰弱していく。もう自分は長くない、そう悟っているのだと誰が見てもわかった。
だから、俺は右手を男に向けた。
「・・・何を」
「確かにレジスタンスは終わりかもしれない。けど、だからってあんたが死ぬ必要はない。そうだろ? リット」
「・・・うん、そうだよ!」
迷っていたリットはすぐに渡そうとした薬を、俺が回復魔法を当てている男の口元から少しずつ飲ませた。
男は、ゆっくりと息を吸い始めて一命を取り留めたように顔色が良くなっていく。
それを見てリットは安堵したような笑みを浮かべていたが。
「なんだ、まだこんな所に生き残りが居たのか」
背後から俺達に向けて話し掛けてきた。
甲冑を着込んだ5人の騎士が現れた。
俺は助けた男に手を貸して何とか動けることを確認して行かせた。
「おいおい、今の奴。反逆者だってわかってるのが小僧共」
「知らねーよ。死にそうだったから助けた、お前も死にそうになったら助けてやるから安心しろよな」
「何だと!?」
安い挑発に乗った。
これが教会騎士という連中なのか? そうリットに聞こうとしたが、連中を睨み続けるリットの様子を見て確信した。
奴等が、そうだと。
俺達をこの世界に転移させてきた連中。
「我々に言った今の言葉、侮辱罪として・・・今ここで制裁してくれる!!!」
話す余地も価値も無い。
騎士の発した言葉と同時に剣を鞘から抜き、他の騎士達も一斉に動き出す。
「藍!」
「わかってる、自分の身は自分で守る。余裕があったらお前の事も守ってやる」
懐から小型の剣を取り出すリットは俺の言葉に笑みを浮かべていた。
俺もすぐに魔法を発動しようと大きく息を吸った。
「魅せるは強靭―――」
詠唱。
ただ単純な魔法だ。
身体強化、それを瞬発的に増幅させる簡単な魔法。
デメリットはたった一撃にしか効果が無い事。だからこそ、この一撃に全身全霊の想いをカケル。
「ただ一撃に・・・ここ身を捧げよ!!」
「何の小細工か知らんが! 死ね―――」
ゴギィッ!!!
鈍い音と共に先頭を走る騎士を吹き飛ばした。
残ったのは右拳を残す俺だけだった。
その場に居た者、リットも含めみな動きを止めていた。
動いているのはただ俺の攻撃で上半身の甲冑を粉々に吹き飛ばし白目を剥いた男が宙に浮いている姿だけだった。
ドサッと男が地面に叩き付けられた。
そして目の前に突き刺さた、もう動くことの無い男の剣を抜き取った。
普通に売っている剣と同等の物。
俺の世界じゃあ絶品かもしれないが、この世界じゃあ普通の物だ。
「よくわかった。力の威力・・・そして、お前の実力も」
「減らず口を!! 一気に畳み掛けるぞ!!」
時間がようやく動いたかの如く騎士が再び襲い掛かる。
魔法を自らに掛け出したのか一気に間合いを詰められた。
ガキンッッ!!!
剣と剣がぶつかる音が響く。
敵の攻撃を払い続ける、残りの4人が一斉に俺目掛けて集中攻撃をしてくる。
それでも対応出来ないことはなかった。
右、次は上、また右。
動きがゆっくりに見えるとかでは無い、ただ動きがわかればそれに対応するように身体が動く。剣を持った腕が自動的に防いでいく、身体が攻撃を避けてくれる。
「ぐぁぁあー!!!」
そろそろ反撃。動こうと思った瞬間、一人の騎士が倒れ込んだ。
「殺してくださいって背中向けやがって・・・お望み通り殺してやったぞ」
血塗られた小剣を払い血を地面に飛ばすリットが一人殺した。
リットも何かしらの魔法を使ったのか、倒れた騎士の甲冑を一撃で貫通させて背中から心臓を一突き。
思った以上にやれる。いや、年齢で言ったら俺以上。しかもエルフの血が混じっているとなると魔力も相当な物、こんな雑魚達に手こずるわけは無いか。
「2対2。藍、さっさと殺すぞ」
「待てリット、聞きたい事がある。知ってるかどうかわからんが」
俺は生き残った二人、お互いの背中を預け合い俺とリットに剣を向ける二人へ呼び掛けた。単純な質問を。
「お前達は転使を使って何をするつもりなんだ、これが世界の救済に繋がるのか」
「それは・・・」
俺の質問に考えている。
が、それはきっと意味の無い事なのだろうとすぐに悟った。
騎士の体から魔力を感じられたからだ。
「俺達が知るわけないだろうが!! 死ねー!!」
火球が俺目掛けて放たれる。
やはりそうか。ある意味で本当の事を話してくれたようで安心した。
「へっへへへ、直撃だ。これで―――」
となると。
やはりあの司教の連中だ。
嫌な記憶が過ぎる。
「なっ・・・なんだ、お前―――」
思い出すだけで苛立ちを抑えられなくなる。
こんな下っ端の奴等が知ってることなんて精々転使を崇めろとかそんな所だろう。
ならやはり、意味がなかった。
グヂャァッッ!!!!
肉団子串。
剣を投げて二人一気に貫いた。面白いくらいに綺麗に決まった。声を上げることもなく二人の騎士は息絶えた。
「教会騎士の連中、何が目的なんだ」
「決まってる。自分達の権力を使って逆らう人間を殺しているだけだ」
リットは死体になってもなお、睨み続けていた。その様子だけでこの連中がどんなことをして来たのか容易想像が付く。
きっとそれはリットだけじゃない、さっき助けた男だって、ここに住んでいた人達だって。同じ想いだと嫌でもわからされる。
これが教会騎士。
白昼夢や夢で見たことの無い連中だ。
ここで一つ珍しくわかった事が出来た。
俺がいつも見せられていた物は、この世界の過去に起きた事である可能性が高い。
何年前かは、わからない。少なくともこんなにも規模が大きそうな教会騎士という存在が無い時代の物である。
「おい、どうした。行くぞ藍」
「・・・あぁ」
白昼夢。
俺が見せられている物の謎を解くのが、もしかしたら俺がやるべき事なのか。
その事実がわかれば、もしかしたら転移させられた本当の理由がわかるんじゃないのか。
ただ、ランダムに呼び出されたからなんて事は絶対に無い。
俺が見ていた夢は、この世界の事であるのだけは、間違いないのだから。
「藍! 避けろ!!」
「っ!!」
リットの声で気を取り直す。
上空を見上げると無数の瓦礫が俺に目掛けて飛んできた。
ただ飛んできただけじゃないとてつもない勢いに乗って飛んできた。
まさか、ここへ来るまでの間に起こっていた衝撃音。
その正体が。
「あれ~外したんじゃね??」
「笑うわ~、適当にやっからだろ」
「うっせなぁー。面倒なんだよこれ」
飛んで避けた先。俺とリット同じように家の屋根に座り込んでいる三人の女子達が目に入った。
俺が、知っている人物だった。
「あれが、転使・・!」
リットはその姿を見て目を見開いていた。きっと何かを感じ取ったのだろう。
俺も最初は全く気付けなかったが。昏睡状態から目覚めてこの世界の魔力とかがわかって初めて気が付いた。
転使という存在の異質さ。
魔力とは違う別の何かが目の前の彼女達から感じられた。
これも全て、あの刻印とか言う物の力のせいなのは考えるまでもない。
「ん? あいつ・・・刻越じゃね!?」
一人が、俺を見て気が付いた。
驚愕するように他の二人もこちらを見て息を止めた。
「よう・・・。元気そうで何よりだ」
「はっ、随分なご挨拶じゃん。何? あたし等に復讐にでも来たの?」
最初に見つけた女子、目黒里香。
うちのクラスの好戦的女子のリーダー。好戦的なんて言うが簡単に言うとギャルだ。
「そうゆうお前達は、一体何やってんだよ!! こんな、こんな人殺しみたいな事をして」
「人殺し? お前何言ってんだ?」
何言って・・・?
目黒の言葉に、他の二人も吹いて笑った。
違和感。
完全に何かを間違えているのかと、俺は錯覚する。
「人な、わけねぇーだろ。この世界の連中なんて、あたし等が帰る為に必要な―――」
全身が震え上がった。
今目黒が言おうとしている事に。
俺が今自分で想像しうる最悪を口にしようとしている。
「イ・ケ・ニ・エ。なんだろ?」
「お前等ぁああああああああああああー!!!」
目黒の言葉に激昂して飛び出したのは、リットだった。
止める隙も無く一人目黒に向けて小剣を片手にリットが突撃していった。
「リットよせ!!!」
「はぁーん? ガキだからって容赦しねぇーぞ!!」
俺の静止なんて耳に入ってない。
目黒は右腕を握った瞬間周囲の瓦礫が宙に浮き始める。
これは、さっき俺達を襲った攻撃と同じ物だ。
物を自由自在に操る力、サイコキニシスだとでも言うのか。
「潰れちゃいな!!」
手を動かし浮かした大きな瓦礫をリットへ向けて飛ばした。リットはそれを寸前で避け、飛ばされた瓦礫を踏み台に更に加速して接近する。
頭に血が昇ってもまだ自棄になってるわけじゃない。
だが、それじゃあ駄目なんだ。
「あはっ! やるじゃん」
「お前達は殺す!!」
再び目黒は右手を払う。
次々とリットとほぼ同じ高さの瓦礫を大量に用意し、リット目掛けて放つ。
瓦礫が風を切る音が辺りに広がる。
これだけの力を使っても目黒の表情には疲れの一つも無い。普通なら多少の変化があってもいいはず。
思い出したくないが、これが刻印の力なんだ。
魔力とは根本的に異なる力で使える物。
俺もこれにやられたんだ。
「おら、おらどうした!!? 遅くなったんじゃないんでちゅかー???」
「黙・・・れぇえー!!!」
くそっ。俺もリットの後を追うように動くが瓦礫の波が多すぎて思うように前に進めない。
あっちは無尽蔵な力の放出が可能で、尚且つ瓦礫なんてここではゴミのように存在する。
攻撃が尽きる事はない。
それでもリットは俺よりも早く進もうと必死になっていた。
小剣で瓦礫を破壊し、多少のダメージを負いながらも少しでも前へと進もうと必死に足掻く。
そしてようやく辿り着けていた。目黒相手に届く距離まで。
「もらったぁああ!!!」
「飛んで火に居る冬の虫だ!!!」
リットの小剣が目黒へと斬りかかる瞬間。数センチの距離を残しリットの動きが止まり、空中でただ固まっていた。
「な・・・なん」
「よーく見たら可愛い系じゃん、でも残念だねー」
目黒の背後から物体が姿を見せた。
瓦礫を組立られた巨大な棘。
「じゃあーねー」
「くっ・・・!」
無慈悲に手が払われ、棘がリット目掛けて放たれた。
防ぎ切る手は、見動きの取れないリットには無い。
「拮抗しろ 危機を示す破壊を!!! ぐぅ!!!」
「あん?」
リットはやらせない。棘とリットの間に光りの防壁を展開させ、棘と激突させる。
目黒の棘と俺の防壁が共にバラバラになっていく中、目黒達は頭上から落ちてくる破片を避けるのに必死になっていた。
普通の人間ならこれで終わるはず。目黒達は気だるそうにしている態度とは裏腹に俊敏な動きで瓦礫の雨を難なく避け続けている。これも刻印の力という訳か。
それでも、今のうちだ。
脚力を上げ一気に飛ぶ。固まっているリットに触れすぐにその場を離脱しようとする。
だが、ネチャッと音がしリットが全く動かない。
これがリットの動きを止めた正体。
「くそっ!!」
目に見えない何かがそこにある。リットの動きを封じている何かが。
とにかくその場から引き剥がそうと魔力で強引にリットを引っ張るがビクともしない。
これもまた刻印の力か。
目黒の取り巻きどちらかの力か。
「めんどくせーことしやがってよぉー!! まとめて潰してやるっての!!!」
リットを救出に気が付いたか。
集めた瓦礫を再び集結させて巨大な球体を形成していた。
それを投げるような動作と共に俺達目掛けて投げ込んでくる。
当たり前のようにリットは一切動かない。このままじゃあ目黒の言う通り二人まとめてやられる。
「何やってんだ、お前だけでも逃げろよ!!」
「俺がそんな事するわけないだろう。だが、少し我慢しろよ!」
もうこの際考えている余裕は無い。巨大の瓦礫の球体はそこまで迫ってるんだ。
魔力を一点に集中。
場所は、俺自身。
「爆ぜる時 思惑を超え、ここに結束しろ!!!」
目黒の攻撃が俺達にぶつかる瞬間、大爆発が起きた。
振動は大地を震わせ、目黒が作り上げていた瓦礫の山は風圧で飛び散り、空間を打ち震わす轟音。
俺の魔法だ。
ほぼ自決用に思える魔法だ。俺の範囲全てを爆破する為だけの物。
「なんだアイツ、自殺したんじゃねーの?」
「さぁーね、煙くて何も見えないんですけどー」
なんて奴だ。
何か俺と似たような防壁を作ったのか? 目黒だけじゃなく他の二人もその場から一歩も動かずに今の爆破魔法を過ごしたっていうのかよ。
「ぶはっ!! げほっげほっ!!」
こっちは無傷じゃないってのに。俺はリットを抱えたまま民家に激突していた。
地面にまた強く叩き付けられたが、おかげで目的は果たした。
「お前、大丈夫かよ!!?あんな魔法、見たことないぞ!!」
「大天才様に教わったんだよ。いてててっ、欠陥だらけの魔法ばかりだがな」
教わってたのは夢で見た男だがな。
実際これを使ったのは片手で数える程度の物。今みたいに敵を倒す為では無く味方を助ける為に使っていた。これを思い出せてよかった。
「リット。落ち着いたな?とりあえずは」
「っ・・・ごめん」
「気持ちはわかる。けどここで死ぬ訳にはいかない、そうだろう?」
コクリと素直に頷いてくれたリットにまた俺は頭を撫でた。
今はこれくらいにしておこう。変に説教臭くしてもこの状況を何とか出来るとは思えない。
幸いにも追撃が来ないことを見るに、俺達が何処に居るのかわかってない可能性がある。
ここで一度落ち着き俺は、ゆっくりと息を吸い考えるのであった。
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