第3話 出会い

『私は大丈夫です・・・だって、あなたが一緒ですから』


 夢・・・。

 広い草原の上に二人が座り込んでいる。俺はそれをただ眺めている。

 メリスと男は手を重ね合い互いに思い出話に耽っている。


 初めて出会ったのが彼女の出身であるエルフの村、それを覆う森に男が迷子になっていた事。

 男が森に来た目的が、その森の守護神に出会う事。初めて出会った時のメリスは好戦的で男をよく思って無かった。だが、村長からの指示で渋々協力する事になった事。


 それからの二人はこの世界を救う為にと冒険を始めた。


 多くの事を学びながら、多くの出来事があり、多くの仲間も出来た。

 その度に二人の距離が縮んでいったのは必然だった。


(なんで・・・こんなものを、俺に見せる)


 最初の頃は何か映画を見せられている気分で見ていた。

 それからメリスというエルフに惹かれて行った。


 けれど、今の俺にはもう・・・そうは見えなくなっていた。


『そうですか、ならこれから楽しみです・・・あなたが言っていた事全部、たくさんしてみたいです』


 過去の話を終えたら次は未来の話だった。

 この戦いが終わった後、これがしたいあれがしたい。

 男が経験した事、経験してみたい事。それを全てメリスと共にやりたい、二人で出来ることをもっとやっていきたい。


 エルフの村で殆どの人生を過ごしていたメリスにとってはどの提案も素直に受け取っていた。全てが楽しそうだと、やってみたいと頷いていた。


 男が一緒なら、きっと何をしても楽しいに決まっている。

 それは男も一緒だった。メリスと一緒なら何でも楽しく思えるに決まっていると。


 お互いがお互いが居たからここまで戦って来れた。


「っ!?」


 夢の中での白昼夢が過ぎった。

 それは今までのブツ切りのような物じゃなかった。

 まるで男の戦闘総集編のような物が一瞬で過ぎった。いずれもこの世界で戦ったのだろう物だった。

 当然、それにはメリスの姿もあり、仲間達の姿もあった。


 みな、男とメリスと共に巨大な敵と戦っていた。時には同じ人間同士とも戦っていた。

 まるでその男が主人公のように映るそれに何か込み上げるモノがあった。


 映る物は男仲間とその主人公が仲良くしている物。

 時には笑い合い、時には助け合い、時には喧嘩をしている。

 人を殺してしまった事に悩んだ主人公に喝を入れたり、迷う主人公の悩みを聞き一緒に悩んでくれていたりと。


 俺はその姿を光景を見て・・・見て。


「なん・・・で」


 涙が流れた。

 重なってしまった。


 馬鹿みたいに一緒に騒ぐ仲間達。

 しょうも無い事で仲間と喧嘩したり。

 

 ただ、一緒に飯を食っていたり。


 そして、笑い合ったり・・・。


「ぁ・・ぁぁあ・・・!!」


 男の隣には、笑い合っている仲間がいる。


 俺は、首を横に向けた。

 何も無い、誰も居ない虚空をただ見つめた。

 本当なら・・・本当ならここには居たはず。居て欲しいと思える人間はいるのに。

 主人公の男以上に、思える奴はいるのに。


 なんで、こんな事に・・・。


 なんで・・・!!


「なんでこんな物見せるんだ!!!!」


 俺は叫んだ。

 男に詰め寄り、襟を掴んだ。

 触れられた。けれど男はこちらに目線を送る事はなかった。


「何の説明も無くて! 何の意味があるんだよ!! 教えろよ! お前なんだろこれを見せてるの!! これのおかげで滅茶苦茶だ!!ふざけんなよ・・・」


 ただ怒り狂っていた。

 自分が子供のようにただ叫んでいるだけなのはわかってる。


「元に戻せよ! なぁ! 何をすれば戻れるんだ!? どうすればいいんだ!!?どうすれば・・どうすれば!!」


 駄々を捏ねるように追い縋った。

 言葉が返ってくることは無いまま、ただ俺は涙を流しながら叫んでいた。


「何すれば・・いいん・・だよ!! 凛上や澄原・・・透達、みんなの所に・・何すれば・・・戻してくれんだよ・・!」


 届くことの無い。

 誰も留めてくれるはず無い。


「頼むよ! 頼むって・・・!!」


 ゆっくり崩れ落ち、俺は両手を地面に付け泣き続ける。

 もう何をしていいのかもわからない。


 多くの人々や仲間達を導いてきた男に俺はただ頼み続けた。

 一人だ、今お前の目の前に居る俺を導いてくれよ。

 何で俺は仲間だと思っていた人達から白い目で見られないといけない、指を差されないといけなかったんだ。


 教えてくれ。

 お願いだから、教えてくれ。


『きっと、これがあなたの言う"必然"だったのですね』


 隣いるメリスが口を開いた。


 必然。

 自分がハーフエルフとして生まれた事を不幸に思い長い日を生きてきた。

 エルフからも迫害を受け、人間からも忌み嫌われる日々。誰も信用出来ない、一人で生きていく事が自分の幸せ。他人という存在を受け入れてしまうと必ず不幸を呼んでしまう。

 心を閉ざし干渉する事を拒む事で、自分と相手を守ってきた。


 けれど、それは違った。


『みんなや、あなたとこうやって笑い合う為に生まれた、ハーフエルフだったからこうして出会えたんだって』


 メリスが満面の笑みを浮かべていた。

 吸い込まれるようにその表情に見入った。


 必然。

 自分がこうしていられるのは必然が巻き起こした事だと。理解できない期間は長かった、けれどそれがわかり解放された。

 

 ようやく一歩を踏み出せた、と。


 そう、彼女は笑みを浮かべ続けた。


『これからも、よろしくね―――』



 最後に男の名前を呼んだ。

 けれど、それは聞こえなかった。


 メリスの感謝の言葉と同時に、夢が覚めていったからだった・・・。






「・・・ぁ」


 痛い。


 ありとあらゆるモノが痛い。


「おっ、起きた」


 声が聞こえた。誰かが居る。

 それを確認しようと目をゆっくりと開ける。


 目が合った。

 幼い顔立ちの綺麗な銀髪が揺れ淡く青い瞳が俺を覗き込んでいた。


 人間・・・じゃないのか。

 何故か瞬間的にそう思った。

 エルフのように耳が尖ってない普通の人間と似た形をしている。


 まさか、ハーフエルフなのか・・・。


「コインズ様ー!!、起きましたよ!」


 バタバタと俺が起きた事を知らせにハーフエルフの少年はその場から去って行った。


 起き上がろうとするも身体がそれを拒むように痛みを与えてくる。

 ただ木で出来た天井を眺めるだけしかできなかった。


 俺・・・生きてる。

 生きているのか。


 色んな気持ちが駆け巡る。

 どうして生きているんだろうか。俺は確か異世界に転移させられて剣で刺されて・・・そこからの記憶が全くない。

 強いて言うなら夢を見せられていた。


 あの男とメリスの慣れ初めから今後までの。


 そしてこの世界での戦い方。

 今思うとまるでチュートリアルだな。けれどそんな物はもっと早くに見せて欲しい物だ。


 いや、見たところで何も変わらない。

 もし見たモノがチュートリアルなら、俺は負けイベントを起こしてしまったという事か。笑えない冗談だ。


「おはようさん、聞こえるかい??」


 今度はヨボヨボの老婆が俺を覗き込む。


「目は合うようでよかった。今回復魔法を掛けるから、喋られるくらいにはなると思うから少し待ってなさいね」


 そう言って老婆は短いステッキを取り出した。

 ステッキを俺に向けて目を閉じた。するとステッキが優しく光り出した。光は徐々にステッキから俺の身体に向けてゆっくりと落ちていく。


 回復魔法。

 俺がオークに吹っ飛ばされて急ごしらえに行った物と似ている感覚が全身に伝わる。

 だが当然その回復していく感覚は天と地ほど違った。瞬きをしようとしただけで痛みが走るようだった物が消えた。

 今は目を閉じ、回復していく感覚に身を預けた。


「どうだい? 少しは喋られるかい?」

「・・・は・・い」


 さっきまで声すら出せない物が一言ずつなら出せる程に回復していた。


 それに満足したのか、老婆は笑い回復魔法を一端止め、何か用意をしていた物を取りに一度離れた。


「お前さん、街の川に落ちてきたようだよ。この子・・リットが見つけてくれた。覚えてるかしら?」


 溺れ死んでいた? 街の川・・・?

 リット、とはあの子の名前か。その子が俺を助けてくれたって事なのか。


 でもどうして川なんかに、あの施設には川どころか水なんて無かったと思うが。


「突然ドボンって音がしたから何かと思ったが。お前ワープ魔法下手糞なのか? まぁその身体みればそれ所じゃなかったとは思うけど。感謝しろよな、この家まで運んでくるの大変だったんだからな」


 転移魔法・・・?

 あそこから転移したって事なのか。そんな物当然知らない。


 いや、もしかしたらやったのかも知れない無意識の内に。

 なんて都合の良い魔法だ。


「ありが・・とう」

「ふんっ、まぁそれより」


 リットという少年が椅子に座り足を組んだ。

 少し荒っぽい性格なのかと、言動から勝手にそう推測した。


「お前、転使なのか? 2週間前に異世界から召喚されたっていう」


 転使。

 確か、そんな言葉を俺達に向けられていたなと思い出す。


 待て、2週間前だと。

 あれから・・・この世界に来てからそんなに経ってたのか。


「もしそうなら、お前達のあの力はなんなんだ。お前達はどんな世界から来た奴等なんだよ! なんであんな力が使えるんだ!」

「こらリット! 怪我人だよ!」

「でもコインズ様! 早くしないとみんなが! 転使共にまた殺されるんだよ!!?」


 転使に・・・殺される!?

 あまりにも物騒な言葉が耳に入り込んだ。  

 それを聞いて俺は身体を起き上がらせようと力を入れた。


「くぅっ・・・!!」

「こらぁ! 無理はしないの!」

「大丈・・夫です。はぁはぁ・・その話、聞かせてくれ。何があったんだ」

「駄目よ、リット。あんたは出ていなさい、この人が今必要なのは休養よ。わかるでしょ?」


 コインズという老婆がリットを叱り付けた。

 リットは表情をたくさん変化させていた。多くの葛藤があったのだろう。

 そして、言われる通りにリットは部屋を後にした。


 みんながまた殺される。

 その言葉だけで多くを俺は察した。


「お前さんに何があったのか知りませんが、何をするにしてもまずは休養が必要。わかるわね?」


 コインズの言葉は正しい。

 ふと、俺は何か引っ掛かったが今は正直それどころじゃない。

 リットの言葉が正しければ、今あいつ等は。


 人殺しをしているのか・・・!?


「ほら、これ飲んで・・・そう、ゆっくりね。全部忘れろなんて言わない、けれど今すべき事を見失うんじゃないよ」


 再び違和感を覚えた。

 コインズの言う言葉に何かを感じ続けるが一向にわからない。

 

 恐らく今はそれよりも、今起きている事が気がかりで気が付けないのだろう。

 この違和感はここまでにしよう。


「ありがとう・・・おかげで、喋れる」

「そうかい」


 薬の効き目が良い。

 全回復は流石に無いにしろ、思うように喋れる程度には回復しただけ感謝しかない。


「で、どうせ聞きたいんじゃないのかい? 今の話。あたしで良ければ答えるよ、リットじゃあ下手したらお前さんに襲い掛かりかねないからね」


 確かにそうだ。

 もしあの少年に話したら腰に付けていたナイフで襲いかかられる可能性は大いにある。

 少なくとも、そういったケースを俺は体験したばかりだ。


 だがコインズという老婆は何故かそうは思えなかった。だから俺は口を動かした。

 

「みんなが転使に殺されたって・・・どうゆう意味か聞いていいですか?」

「残念だが、その言葉通りさ。あの子、リットはレジスタンスの一員なのさ。もうやめろって何度も止めてるんだがね」


 レジスタンス。

 それはつまり何かに抵抗する組織みたいな物だったよな?

 よくゲームとかである奴だったはずだ、不当な王制に反抗する為に結成される物。


 ヤバい。

 どうしても最悪な状況を想像してしまった。


「お前さんがここに運ばれてから5日後くらいだったかね、最初の襲撃が始まったのさ。異世界からの裁きだとか何とか言って"教会騎士"に歯向かうレジスタンスの拠点を虐殺したようだよ、転使の使う力に全く抵抗出来なくてね。それから数日置きに拠点がドンドン陥落させられている」


 教会騎士。

 それがリットの敵、レジスタンスが戦っている相手。

 そして・・・俺達をこの世界に呼び込んだ連中。


「待ってくれ、なんでそんな事になってるんだよ。転使・・・俺達が呼ばれたのは世界を救う為とか言っていたんだぞ。なのになんでそんな人殺しなんてやらせるんだ、その教会騎士という連中は」

「さぁね、あたしにだってわからないよ教会騎士の目的なんて。教えてほしいくらいさ。けどね、現に今多くの人間がお前さんのお仲間に殺され続けているっていうのは事実さ」


 頭がおかしくなる。

 本当に、何でこんな事になってるんだ。


 世界を救う為に力を貸してくれ。その為に逆らう物を皆殺しにする。

 力は十二分にある。溢れ出るモンスターを駆逐できる圧倒的な力。


 右腕の刻印。


 それがみんなに力を与えていた。

 そして今は教会騎士とかいう連中の武器、兵器にされてるのか。

 

 みんな、利用されてるんだ。


「行かないと」

「何処へ行くんだいそんな身体で」

「止めないと、みんな騙されてるんだきっと」

「止められるっていうのかいお前さんに。同じようにやられるだけなんじゃないのかい?」


 同じように・・・。

 まるでコインズは見ていたかのように口にした。


「図星かい。思った通りだねぇ、お前さんが何でそうなったかは詳しくは想像出来ないけれど。次顔出したら間違い無く死ぬよ。今度こそね」


 正論。ずっと俺は正しい事ばかり言われている。

 俺がワープ魔法を使った事は恐らくあの場に居た者達は知っているだろう。

 だとしたら、俺を探し回っている?


 可能性は低くない。

 教会騎士にそう吹き込まれているならばあり得る話だ。

 刻越藍は、レジスタンスの一員かも知れない、と。


 だとしたら、コインズの言う通り。みんなと顔を合わせたら、今度こそ・・・。


「リット! そこで聞いているんだろ? 頭が冷えたのなら入ってきなさい」


 コインズが扉に向けて大声を発した。コインズの思惑通りそこに居たのだろう、扉の向かい側で物音がした。


 それから誤魔化すかのように少し間を置きゆっくりと入ってきた。


「・・・げ、元気になって何より・・だ」

「あぁ、改めて助かった。ありがとう」


 気まずそうにリットはチラチラと俺とコインズに視線を送る。

 恐らく全て聞いていたのだろう。俺もリットの言う転使達にボコボコにされた事も。


「あたしは外に出るからね。くれぐれもこの人に無理はさせないようにね、わかったかい!!」

「はーーい・・・」

「返事は!!」

「はい!!」


 うむ、と満足してコインズは部屋を後にしようと足を進めた。


 そして扉を開け外に出る時一瞬だけ止まった。

 何かを考え、それをやめ部屋を出て行った。


 バタンとコインズが部屋を出て行き静寂が訪れた。

 俺は薬のおかげで回復し続ける身体を労わる。


「・・・って、おい」


 先ほどまでチラチラとこちらを見ていたリットが声を出す。

 立ち上がった俺を引き止めようと自分も一緒に立ち上がっていた。

 コインズに言われたから俺の事を心配してくれているようだった。


「コインズ様も言ってたが・・・その」


 顔を背けるリット。

 その仕草で何を言いたいのか、何となくではあるがよくわかる。

 きっとみんなには勝てない。五体満足でここまでされたのだから、こんな状態で俺に何か出来るとは思えない。当然と言えば当然だ。


「リット君とコインズはどうゆう関係なんだ?」

「君は、いらねぇーよ。お前より多分年上だし。コインズ様は・・・俺の育ての親だ」


 そうか。何か魔法の師弟関係かと思った。

 言動こそ荒っぽいが長年付き添っていたような雰囲気を感じていたのはそれか。


「よかったら、リット。お前の話を聞かせてくれないか? コインズと出会ったきっかけとかさ」

「なんで見ず知らずのお前なんかと」

「あぁーそっかすまない。俺は刻越藍だ」


 そう言えばリットやコインズの名前は会話からわかったけれど、自分の名前を言うのを忘れていた。

 リットはそんな俺の顔を見て顔を歪ませていた。完全になんだコイツって顔だ。

 けれど、俺の今の容態を思ってか溜息を吐き観念したかのように語り始めた。


「俺のエルフの母上は、物凄く忙しい人なんだ」


 リットはゆっくりと語り始める。

 自分は物心が付く前からコインズに育てられていたと言う。


 そして人間の父親は事故で亡くなったらしく。母親はその後を継ぐように世界を飛び回っていると言う。つまりはリットはハーフエルフのようだ。

 この情報も全てコインズから聞いている物で本当かどうかはわからないと言った。


「一度だけ、それも本当に小さい時に一度だけ会ったことがある。ローブを着込んでフードも被って顔がよく見えなかった。それでも俺は、その人が母上だと何故かわかった」


 出会ったのはこの家。

 仕事の都合上立ち寄ったのか。それとも我が子を心配して顔を出したのかは、本人にしかわからない。


「たった一言だったな・・・。なんて言ったと思う?」


 リットの表情は複雑に絡み合っているように見えた。

 悲しんでいるのか怒っているのか。


「ごめんなさい・・・だってよ。笑えるよな」


 ずっと俺の方を向いて軽く話していたリットが顔を背けた。

 それが全てだった。


 リットが母親に抱いている物がどうゆう物なのか。

 その仕草だけでわかってしまったのだった。


「すまん、聞き過ぎた」

「別に・・・。もう70年、こうしてきたんだし気にしてねぇーよ。そう、70年こうしてきたんだ」


 俺に掛けた言葉ではない。ただ自分に言い聞かせるようにリットは呟いた。


 70年か。

 つまりリットはそれほどに歳を重ねているという事になるわけか。

 まだ中学生か小学生高等部くらいの見た目なのにも関わらず、リットは70年生きている。

 これがエルフの長寿の力という奴か。

 リットはハーフエルフ、それでも普通の人間以上の寿命を持っている。


「大変だったんだな・・・リット」

「はっ―――何っ」


 つい、俺はリットの頭撫でていた。

 立ち上がっただけで精一杯なはずの身体が不思議と動いた。

 目の前のリットに、その言葉を伝えたいが為に。


 考えてみれば、俺はどうしてリット事を聞いたのだろうか。

 本当に赤の他人。それこそ世界だって全く違うのにも関わらず。人とハーフエルフ。

 当たり前に接点なんて無いのに。


「なんで・・・こんな喋ったんだろ俺」

「俺が聞いたからだな、すまん」

「いや・・・別にいい」


 もしかしたら手を払われるかと思った。

 けれどリットは目を瞑り、体を寄せて、その身を委ねた。


 リットも不思議と同じ気持ちだったのかも知れない。

 お互いただどうしてこんな事になったのかわからないでいた。


 けど、これはそれでいいのかもと思えた。

 俺が何でこの世界に来たのか、何でみんなから牙を剥かれないといけないのか。なんで俺にだけ同じ力が貰えなかったのか。


 なんで・・・。


「そうか・・・こうする為、だったのか」


 夢で見たメリスの言葉を思い出した。


 必然。

 俺はもしかして、目の前にいる自分よりも数倍生きているハーフエルフにこうしてやる為にここへ来たのかもしれない。

 あそこで死ぬ思いをして、ワープした先にリットが居た。


 そうだな、辻褄が合う。合う事にしよう。

 当然強引だというのはわかってる、けれど今は、それで十分じゃないのか?


 だってこんなにも満たされてるいるのだから。



ッッッッッッ―――!!!



「なんだ!?」


 地面が揺れだす。

 地震? いや違う、これは。


「まさか、奴等この街まで!?」

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