第15話 運命の人、あなたは・・・
ようやくお互いの気持ちが通じ合った三橋と真由は、仕事帰りに二人で夕食を供にし、幸せな一時を過ごす。
「今日はお疲れ様でした」
真由が笑顔で言い、グラスを差し出すと、三橋も笑顔でグラスを重ねる。
「何か今日一日起こったことが夢のようだわ」
「そうだね。僕もまだ信じられないよ」
「私も・・・だって、女性恐怖症のあなたが、私に向かって『愛してる』なんて言ってくれると思いもしなかったもの・・・」
「僕も同じさ。昨日『見損なった』と、言われた相手から『愛しています』なんて・・・夢かと思ったよ」
三橋の言葉に真由は照れながら答える。
「ごめんなさい・・・私、何か勘違いしていたみたいで・・・許してください」
「気にしていないから、安心してください」
三橋は微笑んで答えた。
「自分こそ、君があんなに苦しんでいることに、全く気が付かずに申し訳ない・・・」
「大丈夫。今、こうして分かり合えたんだから。気にしていないわ」
真由も微笑んで答えた。
「桐島さん、これからはお互い隠し事をせずに正直に話していこう。良いでしょ?」
三橋の言葉に真由は笑顔でうなずいた。すると三橋がうつむき加減で話し出す。
「あの・・・ひとつ聞いてもいいかな?」
「何?」
「・・・何故、僕が利恵ちゃんと付き合っていると思ったの?」
「・・・ごめんなさい・・・利恵がそう言ってたから。そのまま信じていたわ」
「・・・そうだったんだ。利恵ちゃんには悪いことをしちゃったな・・・誤解させるような真似をしたかな」
反省する三橋に真由はいたずらな顔で質問する。
「じゃあ、私からも質問。本当は妹のこと好きだったんじゃない?」
「えっ・・・何て答えたらよいか・・・でも、本当にいい子だよね。僕はああいう子好きだな・・・」
「ちょっと、それってどういう意味?」
「いや、別に深い意味はないけど・・・」
「ああ、本当は利恵と付き合ってもいいかなって思ってたんじゃないですか?」
「あれ・・・もしかしてやきもち?」
三橋が恐る恐る聞き返す姿を見て、ふくれ面をしていた真由は思わず微笑む。しかし、三橋を軽く睨みながら答える。
「はい!やきもちです。これでいい?」
二人は見つめ合うとお互い吹き出す。すると真由は笑顔になって話し出す。
「でも、大分改善したようね。今の会話だと『女性恐怖症』が治ったみたい」
「本当?君のお陰で治ったかな。ありがとう、感謝している」
三橋も笑顔で答えた。その言葉に真由ははにかみながら続ける。
「でも、治ったからといって、他の女性に愛嬌振りまいちゃダメですよ」
「それはどうかな?せっかく治してもらったんだから、有効に使わないと」
三橋の言葉に真由はまたふくれて、三橋のほっぺたをつねる。三橋は大げさに痛がると、笑いながら真由の手を握り、話し出す。
「正直言って、まだ完全に全ての女性を信じられるようになってはいないんだ・・・でも、君だけは完全に信じている。心の底から・・・これからもそれは変わらないよ」
三橋の言葉に真由も微笑みながら答える。
「私だけは信じて欲しい。あなたを絶対裏切ったり、隠し事をしたりしないから・・・お願い」
「ありがとう、桐島さん」
三橋は心の底から真由に感謝した。
三橋は真由を自宅まで送る。
「ありがとう、送ってくれて」
「ううん。それじゃ」
「三橋さん・・・あがっていく?」
三橋は少しうつむくがすぐに顔を上げ、微笑みながら答える。
「いや、今日はやめておくよ。利恵ちゃんの気持ちも整理できていないだろうから・・・今度きちんと彼女には謝るから」
「そう・・・わかったわ。気をつけてね」
「うん。それじゃ」
三橋は手を振り、帰って行った。真由は見送ると部屋の前に立ち、深呼吸をする。そして扉を開け中に入った。
「お帰り、お姉ちゃん」
明るい表情で迎えた利恵を真由は驚いた表情で見つめる。すると利恵は不思議そうな顔をして言う。
「どうしたの?お姉ちゃん」
「いいえ、ただいま」
真由は笑顔を作り答えた。利恵は笑顔を見せ部屋に帰ろうとすると、真由は呼び止める。
「利恵、ちょっと話があるの。聞いて」
「何?」
「利恵・・・ごめんなさい。私、あなたに嘘をついてきたわ。私・・・三橋さんを愛している。それはこれからも変わらないし・・・私と三橋さん、付き合うことになったの・・・」
うつむき申し訳なさそうに話す真由を利恵は驚きの表情で見ていたが、やがて笑顔になり真由を優しく抱き寄せる。
「お姉ちゃん・・・幸せになってね」
「利恵・・・」
「私のことは心配しないで。もう、三橋さんのことは吹っ切れたから」
「ごめんね」
「もう、謝らないの!これからは三橋さんを大切にしてあげて」
「・・・わかった」
二人は固く抱き合い、お互いの気持ちを理解した。
三島は君江のことが殴られた後から気になっていた。君江は『自分も同じ事をしている』と言っていた。振り返れば側にいて、いつも元気付けてくれたのは君江であった。
「どうしたの?」
突然声を掛けられて振り返ると君江が立っていた。
「いや・・・別に・・・」
「そう。それじゃね」
君江が立ち去ろうとすると、三島は迷った挙句声を掛ける。
「山下!」
「何?」
「あの・・・今日、空いてるか?」
「えっ?何々、お誘い?」
君江は笑いながら近づいてくる。三島は慌てて
「いや、誘う人もいないから、どうかなって思っただけだよ」
と、君江から目をそらし話す。君江は微笑んで
「わかった。じゃあ、いつものところで待ってる」
と、言って去って行った。
「珍しいわね。どうしたの?」
待ち合わせ場所には珍しく三島が先に来ていた。驚いた君江は座りながら話した。
「別に・・・」
「そう。仕事順調?」
「まあな・・・」
いつもより口数の少ない三島を君江は見つめた。三島は今までと違う目線で君江を見ていた。何故だかそう意識すると、君江に何を話してよいかわからなくなった。君江の飲み物が運ばれると君江は一口口に付け、話し出す。
「もう、心の整理はついた?」
「えっ?何が?」
「何って・・・真由のこと」
そう言うと君江はまた飲み物に口をつける。そして、微笑みながら続ける。
「私、もう、あなたの心配はしないことにしたの。だから、今日が最後。明日からは何か問題が起きてもあなた自身で解決してね」
「山下・・・」
「そう!もう一つあなたに言うことがあるの」
三島は君江を見ると、君江は真剣な顔で見つめ返す。
「私、あなたが好きだったの」
三島は驚いた表情で君江を見る。君江は微笑んで続ける。
「ずっと、あなたが好きだった。でも、いつまでも未練がましくしていないで、この気持ちも整理して新しい恋を探すことにしたわ。だから、あなたも真由への気持ちを整理して新しい恋へ向かってね」
三島は黙って聞いていた。君江はその様子を見て、涙を必死に堪えながら話す。
「それじゃ、今日は帰るね。誘ってくれてありがとう。でも、これからは誘わないで・・・」
そう言うと君江は出て行った。残された三島は何も言えずに君江を見送った。
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