第14話 証拠はこれだ!

「じゃあ、製造元との調整と各部署との橋渡しは三橋君と・・・桐島君、二人でお願いする」

長田に代わる新しいバイヤー室長が指示を出す。三橋は真由の顔を見るが、真由は無表情のまま上司に返事をする。二人は早速,新ブランドの製造元へと外出するが、外出中真由は一言も三橋と仕事以外の話をしなかった。三橋も無理には話し掛けないようにしていた。お昼休みになると三橋は思い切って真由を昼食に誘う。

「桐島さん、お昼でも一緒にいかがですか?」

「・・・ごめんなさい。ちょっとこれに目を通してから行くので、先に昼食取ってください」

真由は書類を眺めたまま答える。三橋も諦めた様子で

「・・・わかりました。それじゃ、お先に・・・」

と言って、昼食へと向かった。三橋が見えなくなると,真由はフッとため息をつき、書類を机に置く。自分でもどうしたらよいかわからず、なんとなく三橋を避けてしまっている。こんな状態が良いとは思っていないが、真由が今、出来ることはこれしかなかった。

「私があなたの側にいることは許されないの・・・ごめんなさい・・・」


二人が会社に戻ると利恵が待っていた。三橋と真由は何となくお互いを見ると真由が

「私、先に戻ってます。利恵、またね」

と,言って、先に社内へと戻って行った。利恵は三橋に近づき

「急にごめんなさい。少し話せますか?」

と,尋ねる。二人は近くの喫茶店に入ると利恵は本木に話し出す。

「三橋さん・・・そろそろ三橋さんの気持ちを聞かせて欲しい。このまま中途半端でいたくないから・・・ごめんなさい、急かしているみたいで・・・」

三橋は利恵から目をそらし、考え込む。そして意を決して答え始める。

「利恵ちゃん・・・君にはとても感謝している。アメリカにいた時、君の明るさにどれだけ勇気付けられたか・・・だから、君には嘘を言わず本当のことを話す。辛いことを言うかもしれないが聞いて欲しい。僕は君には似合わないし、君を妹としか見られない・・・いや、僕には好きな人がいる。その人は・・・」

「もう止めて!」

利恵は三橋の言葉を遮る。

「それ以上止めて・・・わかったから・・・それ以上言わないで」

「ごめん。でも聞いて欲しい。僕の好きな人は」

利恵は立ち上がり出て行こうとする。三橋は後姿に向かって

「ぼくの好きな人は、桐島さんだ・・・君のお姉さんなんだ・・・」

利恵は一瞬立ち止まるが、走り去る。三橋は辛そうにその後姿を見つめた。走りながら利恵は涙を流す。何となく予想はしていたが、現実に三橋から姉を好きだと言われると、胸が張り裂けそうな想いであった。


「ただいま」

真由が家に帰ると、家の中は真っ暗であった。

「利恵?いないの?」

真由は利恵の部屋をノックすると、中からすすり泣く声が聞こえた。真由は不思議そうに部屋に入ると、ベッドの上で膝を抱えて泣いている利恵がいた。

「利恵!どうしたの?何かあったの?」

真由は利恵の側に座り利恵の手を握る。すると利恵は泣き笑い顔で真由を見つめ

「お姉ちゃん・・・私、三橋さんに振られちゃった・・・やっぱり私じゃダメだって・・・」

「えっ?なんで急に・・・」

「うん・・・三橋さん、好きな人がいるんだって・・・」

「好きな人?」

「そう・・・その人は・・・お姉ちゃんよ」

真由は驚きのあまり自分の胸を抑えた。しかし、すぐに我に返り

「そ、そんなことないわよ・・・何かの間違えよ。私が確認してあげる・・・だから、もう泣くの止めなさい」

真由は妹を抱きしめると複雑な思いでいた。自分を三橋が好きだと言った・・・そのことを素直に喜べない自分がいた。


翌日、出社した真由はすぐに三橋のもとに行く。

「三橋さん、ちょっとお話があります」

「何ですか?」

「会議室に来てください」

二人は会議室にはいると、真由は三橋を厳しい表情で見つめ話し出す。

「どういうこと?」

「何がです?」

「妹に何言ったんですか?」

三橋は二、三歩歩くと真由を見つめ

「彼女には申し訳ないが、自分の気持ちを正直に言っただけです」

と答えた。真由は三橋の前に回りこみ、更に厳しい口調で問い詰める。

「自分の気持ち?利恵と付き合うと言っておいて急に突き放すなんて。私を好きだから別れるって?それがあなたの正直な気持ち?私をダシに使って変なこと言わないで下さい」

「ダシ?そんな、僕は正直に・・・」

「嘘よ。そんなにころころ好きな人が変わる訳ないわ!あなたがそんなに冷たい人だとは思いませんでした。見損なったわ・・・」

真由はそう言うと部屋を出て行こうとする。ドアノブに手をかけると、もう一度振り返り、

「この前、私が言ったあなたへの気持ちも嘘です。あなたも忘れてください」

と、言って、部屋を出て行った。残された三橋は天井を見つめてため息をついた。


会議室から真由が慌てて出て来る様子を長田が目撃する。しばらくして三橋が出てくるのを見て、長田に何か策が浮かぶ。長田は急いで真由のもとへと行く。

「桐島君、ちょっと良いかね?」

長田に呼ばれ、立ち上がった真由を三橋は見つめる。真由も一瞬、三橋を見るがすぐに目をそらし、長田と共に長田の部屋へと入っていく。

「お呼びですか?」

「先ほど君が慌てて会議室から出てくるのを見かけてね。三橋君と何かあったのかね?」

「別に何もありません。仕事の話をしていただけです」

「それじゃ、君は三橋のことは仕事の関係だけだと言うのだね?」

真由はしばらく考え込んでから答える。

「ええ・・・」

長田はその答えを聞きニヤリと笑い、真由の目の前に立つ。

「そうか、じゃあ、あんな風に会議室に呼び出されるのは迷惑だと言うことだな?」

「長田さん・・・それ、どういう意味ですか?」

真由は長田を疑う目つきで聞き返す。

「君が迷惑しているなら助けてあげようと思ってな」

長田の不適な笑みを見て、真由は長田が何をしようとしているのか察しがついた。

「長田さん、お願いです。もう何もしないで下さい。私は困ってなんかいないですから・・・」

「ほお、そんなに三橋のことを怯えているのかね。かわいそうに。早速、明日の役員会で処分を申請するよ」

「そんなこと、私が認めなければ・・・」

「いいかね、君がストーカー行為を認めれば、三橋の処分を軽減することを約束する。しかし、認めなければ、今後どのような憶測が社内に流れるか、責任は持たんぞ」

「長田さん!」

真由は長田に詰め寄るが、長田は何も言わずに席につき一言、

「もう帰ってよい」

と言い、書類へ目を向ける。真由は納得がいかない表情で立ち尽くすが、諦めて部屋を出て行く。真由は居ても立っても居られず、ある場所へと向かった。


三橋は真由から言われた言葉を思い返しながら外を歩いていた。近くの公園のベンチに座り頭を抱えていた。すると目の前に女性が立った。

「三橋さん・・・」

ゆっくり顔を上げると利恵が立っていた。三橋は無表情のまま目線を落とし答える。

「利恵ちゃん・・・どうしたの?」

「三橋さんこそ、何かあったんですか?」

「・・・君のお姉さんに振られたよ・・・見事までに・・・」

三橋は寂しげに微笑みながら話した。利恵は驚きながら聞き返す。

「お姉ちゃんが?まさか・・・お姉ちゃん、なんて言ったの?」

「君と付き合うと言っておきながら、何故、君を急に振ったんだって・・・しょうがないよ、僕の態度が君にもお姉さんにも誤解させたのかもしれない・・・僕の責任だよ・・・」

「そんなことないわ・・・三橋さん」

「利恵ちゃん、君にも本当に迷惑を掛けたね。ごめん。それじゃ、仕事があるから戻るね」

歩き出した三橋の後姿を利恵は見て心を痛めていた。自分がついた嘘のせいで姉も三橋も傷つけてしまったことを後悔していた。


「どうしたのかね?桐島君が来るなんて珍しいね」

突然の真由の訪問に清水は驚く。

「すいません。お忙しいところ・・・」

「いや、いいんだ。君が来る位だから、何か重要な要件なんだろ?」

真由は一呼吸おくと、思い切って全てを話し出す。

「清水さん・・・私、長田から不倫を要求されています。その理由は今お話できませんが、私と三橋さんの仲を疑った長田は、三橋さんへの嫌がらせを企てています。私は三橋さんへ迷惑が及ばないよう三橋さんを避けていたんですが、それを利用して多分、私がセクハラを三橋さんから受けていると役員会で報告するようです」

「セクハラ?君がそう思っていないのに?」

「そうです。でも長田は私の弱みを見つけて必ず私にセクハラの事実を認めるよう脅迫してきます。私が断れば済むかもしれませんが、一度でもそのような話が出てしまえば、三橋さんの会社での立場は危うくなります。ですから清水さん、長田の暴走を止めてください。お願いします」

清水はしばらく考えると真由に笑顔を見せながら答える。

「話はわかった。君に協力してもらいたいことがある」

「何でもします」

「では、明日の役員会に君と三橋君も同席してくれたまえ」

「清水さん・・・それって・・・」

「僕を信じて、言う通りにしてくれたまえ。いいね?必ず出席するよう伝えて欲しい」

真由はしばらく考えた後

「わかりました。よろしくお願いいたします」

と、答えた。


真由は清水の部屋を後にすると、三橋のところへ向かう。長田が居ないのを見計らって、三橋を会議室へと連れて行く。

「あの・・・三橋さん、清水さんからの伝言を伝えます」

「何ですか?」

「明日の役員会に私とあなたが出席するようにとのことです」

「役員会に?何故ですか?」

「それは私にもわかりません。ただ、必ず出席して欲しいとのことです。確かにお伝えしましたから」

真由はそう言うと、ギクシャクした様子で三橋から目をそらす。三橋も何か言いたげであったが黙っていた。真由は痺れをきらして部屋を出て行く。三橋も何も言わなかった。


真由は疲れたのと同時に、三橋にとってしまった冷たい態度を後悔していた。

「ただいま・・・」

夜遅く帰宅した真由が元気なく家に入ると、利恵が起きて待っていた。

「あら、利恵、まだ起きてたの?」

「お姉ちゃん、座って」

「利恵・・・ごめん。話なら明日に・・・」

「いいから座って!」

利恵の真剣な眼差しに圧倒され、真由は椅子に座る。すると突然、利恵は頭を下げ、話し出す。

「お姉ちゃん、ごめんなさい・・・私、お姉ちゃんに嘘ついてた・・・」

「嘘?何のこと?」

真由が不思議そうに聞き返すと、利恵は頭を上げて答える。

「私、三橋さんと付き合ってなかったの。三橋さんは私に付き合うなんて一言も言ってないわ。むしろ、アメリカにいる時もずっとお姉ちゃんのことを心配していたし、お姉ちゃんへお礼がしたいと伝言を頼まれたのに、私伝えなかった。お姉ちゃんがお風呂に入っていた時、三橋さんが来たの覚えている?あの時も私に会いに来たんじゃなくて、お姉ちゃんに会いに来たの。お姉ちゃんのことうらやましくて・・・だからつい、あんな嘘を言っちゃったの・・・」

「そんな・・・そんなこと・・・今更・・・」

真由は利恵の言葉に驚きを隠せなかった。

「お姉ちゃん、本当にごめんなさい。私はもう三橋さんのこと吹っ切るから・・・だから、お姉ちゃん、三橋さんの気持ちを受け止めてあげて」

真由は利恵の言葉で我に返り、努めて冷静を保ち答える。

「利恵・・・お姉ちゃんは三橋さんのこと何とも思っていないわ。だから、利恵が諦める必要なんて無いのよ・・・」

「嘘!お姉ちゃん、嘘言わないで!お姉ちゃんが自分の気持ちを偽ってまで、三橋さんを譲られたって嬉しくない!お願いだから、そんなことやめて・・・」

利恵の必死の顔を見て、真由も心が痛んだ。利恵は利恵なりに三橋を愛し、三橋のことを思って自分の気持ちを抑えてまで頼んでいる。真由は利恵を微笑みながら見つめて答える。

「わかったわ・・・よく考えてみる」

そう言うと真由は利恵の頭を優しく撫でた。


翌日の役員会が開催される。長田は社長の挨拶の後、定例議題の前に発言する。

「申し訳ありませんが、通常会議の前に緊急でご報告しなければならばい事項があります。お時間をいただきたい」

長田は議長に発言すると、議長は社長を見た。社長は静かにうなずく。

「ありがとうございます。大変申しにくい話ですが、私の管轄している部署でストーカー行為が発生しています。その人物はある女性へ勤務中に会議室へ呼び出し、自分の気持ちを受け入れるよう脅迫まがいのことをしているようです。その人物は・・・清水さんの前で申しにくいのですが、三橋君です」

清水は瞼を閉じたまま微動だにしなかった。すると突然、会議室の扉が開いた。入ってきたのは三橋であった。会場からどよめきがあがる。

「三橋君・・・勝手に入ってきては困る。すぐに出て行きたまえ」

長田が驚きながら言う。すると今まで黙っていた清水が発言する。

「長田君、三橋君が誰に対してストーカー行為をしているのかね?」

「それは・・・桐島真由さんです」

長田が名前を挙げると、今度は真由が会議室に入ってくる。長田は口を開けて驚くが、我に返り三橋を見て発言する。

「偶然にも二人そろったので、直接話を聞きたいと思います。三橋君、桐島君へのストーカー行為を素直に認めれば、君の懲戒解雇は免れ、自己都合退職として扱ってもらえる。素直に認めるかね?」

長田の言葉に三橋は何のことかわからないといった顔で長田を見つめる。すると清水が立ち上がり、三橋と真由の近くに歩み寄る。

「三橋君、桐島君、君達にいくつか質問がある。この件で重要な質問だ、正直に答えてくれたまえ」

「・・・わかりました」

三橋と真由は清水を見ると真剣な顔で答えた。

「よろしい、それではまず三橋君、君は桐島君のことをどう想っているのかね?正直に答えて欲しい」

三橋は真由を見つめる。真由はどうしたら良いかわからずうつむいたままであった。すると三橋は清水を見てはっきりと答える。

「愛しています」

会場は三橋の回答にどよめきが起こる。長田は不適な笑顔を見せ話し出す。

「やはり私が報告した通りです。彼の気持ちがはっきりわかりました。三橋君、桐島君への想いからストーカー行為をしたと認めたまえ!」

「長田君、私が聞いているんです。もう少し黙っていてもらえますか?」

清水が強い口調で言うと、長田は静かに座る。清水は今度、真由の前に立ち、優しく微笑みながら尋ねる。

「桐島君、正直に答えてくれたまえ、君に対して三橋君によるストーカー行為があったのかね?」

長田はここで真由が三橋のストーカー行為があると証言することを確信していた。真由は長田を一瞬見る。すると清水は優しく真由の肩を叩き

「桐島君、何も恐れることはない。本当のことを話してくれたまえ」

と、尋ねる。真由は清水を見つめ静かに答える。

「三橋さんからストーカー行為など受けていません・・・」

真由の回答に驚いた長田は慌てて発言する。

「桐島君が嘘をつくのは当たり前です。三橋本人の前では怖くて本当のことが言えないのです」

長田の発言を無視するかのように、清水は再度、質問をする。

「それでは、もう一つ。桐島君、君は三橋君をどう想っているかね?」

真由は清水を驚いて見つめる。清水は微笑んでうなずく。真由は三橋を見つめる。三橋は黙ったまま、非常に苦しんだ表情でうつむいていた。真由は三橋を見つめたまま答える。

「私・・・三橋さんを愛しています」

真由の言葉に三橋は驚いて真由を見つめる。真由は微笑んで三橋を見つめ返す。二人の様子を見て清水は微笑みながらうなずき、役員一同の方へ振り返り話し出す。

「今、お聞きになった通り、二人はお互いを愛し合っています。その二人の間でストーカー行為などありえません。むしろ、上司の特権を利用して桐島君へのセクハラ行為を実施していたのは、長田君、君だ!」

「な、なんの証拠があってそんなこと言うんですか?」

長田は驚きながら発言すると、清水はある人物を呼ぶ。すると会議室に小峰が入ってくる。

「小峰君、報告してくれたまえ」

「はい。私は米国子会社に在籍していた時、三橋君が出向で私の部署にやってきました。その際、長田からあることを指示されました。私自身、長田に以前お世話になったこともあり協力しました。、それが、長田の個人的な、しかも不純な理由からだと知らずに・・・不覚ながらも長田の指示で三橋君への嫌がらせを実施していました。長田は桐島さんの三橋さんへの気持ちを知り、桐島さんと三橋君を引き離し、尚、三橋君を米国で陥れるのが目的でした」

小峰の報告に長田は憤り、言い返す。

「何の、何の証拠があってそんなこと言うんだ!」

「証拠ならあります。今、お聞かせします」

小峰は音声データを会議室に流す。その会話は以前、小峰が清水の指示で録音した長田の指示内容であった。その音声の内容を聞いた役員一同は長田を厳しい目で見つめる。長田は焦り、真由を睨みつけて発言する。

「私が無理強いしたわけではない!桐島は私との付き合いを自ら望んで行っていたんだ!」

長田の発言に真由は驚き、長田を睨みつける。清水は真由に近づき、

「桐島君、辛いかもしれないが、今まで何があったか話してくれたまえ」

と、優しく語り掛ける。真由は役員一同に向かって話し出す。

「私は以前、三橋さんとの仕事でミスをしました。長田はそのミスを私ではなく、三橋さんにも責任を及ばすと私を脅し、私との交際を強要してきました。三橋さんをかばい、一度は交際を認めたのは事実です。しかし、長田はそれだけでは物足りず、三橋さんを私から遠ざけることが目的で、彼を米国に出向させました。そして出向先で三橋さんの処遇を自分が決定できると言って、今度は・・・肉体関係を求めてきました。私はこれ以上の要求は呑めないと断ったところ、この役員会で三橋さんをストーカー扱いして、社会的な抹殺をもくろんでいました。私のせいで何も関係のない三橋さんをこんなに苦しめてしまいました・・・私はともかく、三橋さんは何も関係ないんです。どうか皆さん、ご理解願います」

真由の涙をこぼしながら話す姿に、役員一同心を打たれる。長田はその状況に焦りを感じ叫び出す。

「この女がいっていることは全て嘘です。信じないで下さい」

長田の往生際の悪さに、清水はため息をつく。そしてある人物を呼ぶ。人事部長が入ってきて、ある会議室での会話を録音したものだと説明し、音声を流す。その会話は長田が真由に肉体関係を要求した内容であった。その内容を辛そうに聞いていた真由は、その場に泣き崩れる。三橋は掛けより真由を抱け寄せ

「こんなに辛い思いをしていたんだね・・・ごめん、気が付かなくて・・・」

と、涙を流しながら言った。真由も泣きながら

「ごめんなさい・・・三橋さん」

と、言って三橋の胸で泣き崩れた。三橋は強く真由を抱き寄せた。その様子を清水他役員一同も優しく見守る。清水は役員一同に向け発言する。

「私はこの場で長田役員の懲戒解雇を進言します」

議長は社長を見つめると、社長は立ち上がり

「了承します。長田君、今すぐにこの場から立ち去りたまえ」

と、強い口調で長田に申し付けた。長田は放心状態で立ち上がった。長田に向かい清水は静かであるが強い口調で

「今度、二人に何かしたら警察へ通報する。よく覚えておけ」

と、言った。長田は黙ってうなずき、部屋を出て行った。


役員会が終わり、三橋と真由は清水にお礼を言う。

「本当にお世話になりました。清水さんがいなかったら、私達どうなっていたか・・・」

真由が頭を下げ、笑顔で話す。清水は笑顔でうなずき答える。

「いいんだ。二人ともこれからも良い仕事をしてくれれば、それでよい。三橋君、桐島君をよろしく頼むぞ」

「わかりました。これからこそ、よろしくお願いいたします」

清水は笑顔で頷くと、後ろ向きで二人に手を振りながら部屋へ戻っていった。三橋と真由は周りを見渡した後、互い見つめ合うときつく抱き合い、どちらからともなく唇を重ねていった。

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