第11話 味方の出現?
帰国して出社した真由を長田は早速呼び出す。会議室に入ると、長田は不適な微笑を浮かべながら話し出す。
「さて、どういくことか説明してもらおうか?」
真由は長田に目を合わさずに話し出す。
「何も言うことはありません」
「と、言うことはどういうことかな?」
「嘘をついたのは事実です。どんな罰も受けるつもりです」
長田はその言葉を聞くとゆっくり真由に近づき、一枚の封筒を渡す。
「一週間後、ここで待っている。さあ、中を見なさい」
真由は封筒の中身を出す。すると、そこにはホテルの名前と住所が書かれていた。
「断るかね?」
長田が真由の肩に手を乗せると、真由は長田を無表情で見つめ答える。
「いいえ」
「そうか、それでは待っているよ。必ず来なさい」
そう言うと長田は会議室を後にした。真由はその封筒を握りつぶした。
真由が自分の席に戻ると一人の男性が待っていた。
「清水さん?」
「久しぶりだな、桐島君」
「どうしたんですか?お久しぶりです。いつ戻られたんですか?」
「いや、今日、幹部会議があったので、久しぶりに君の顔を見ていこうかと思って。どうだ、ちょっと時間あるかね」
「勿論です」
二人は外の喫茶店へと向かった。
「最近、全然お顔を見せていただけないので、心配していました」
「すまんすまん。ちょっと忙しかったので、なるべくこちらの会議にもそれを理由にサボっていたのだよ」
豪快に笑いながら話す清水を見て、真由は以前と変わっていないことを嬉しく思った。清水は真由が入社した時の部長であった。何もわからず焦っていた真由にいろいろとアドバイスをしてくれた清水を真由は今でも頼りにしている。しかし、役員となった清水は会社の派閥に嫌気がさし、自ら望んで米国の子会社社長へと退いた。仕事の出来には現社長も一目置いており、社内でも親派は多い。
「ところで、桐島君、この前、アメリカの私の会社に来ていなかったかね?」
「ええ・・・ちょっと仕事で・・・」
ちょっとうつむきながら話す真由を見て、清水は優しく微笑みながら言う。
「桐島君、嘘はいかんよ。何か別の用事で来ていたんだろ。話してみたまえ」
真由は清水の前では嘘はつけないと微笑みながら答える。
「実は・・・私の仕事のミスで、清水さんの会社に出向になった人がいるんです。その人に会いに行きました」
「君のミス?何故、それが出向と繋がるのかね?」
「清水さん・・・詳しくは話せないのですが・・・彼はとても仕事の出来る人間です。私のせいで非常に辛い立場にあります。どうか、助けてあげてください」
真由の真剣な表情に清水も真剣になり聞き返す。
「その人の名前は?」
「三橋徹さんです」
「三橋・・・」
清水は咄嗟にあの企画案を作成した三橋だと思い出す。
「清水さん、どうかお願いします。彼のために私ができるのはこれくらいなんです・・・」
真由の真剣な表情から清水は真由の三橋に対する気持ちを察した。清水は微笑みながら答える。
「とりあえず君の気持ちはわかった。私に出来ることはなんとかする。それは約束するよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、そろそろ行こうか?」
「はい」
二人は席を立つと、真由は思い出したかのように清水に話し出す。
「清水さん・・・今回、私が三橋さんのことをお願いしたことは、三橋さんには内緒にして下さい」
清水は不思議そうな顔で振り返ると、真由は微笑みながら続ける。
「勝手言ってすいません。でも、自分のお陰だと思われるのは嫌なんです」
清水は真由を辛そうに見つめると答える。
「わかった。ただ、私も社長である以上、その三橋君の仕事振りをみてから判断する。まあ、君がお願いするくらいだから、やり手なんだろうけどな」
清水は豪快に笑いながら歩き出す。真由は清水の後姿を見て心強く感じた。
アメリカに戻った清水は、時間を見つけて三橋の仕事振りを見る。すると毎日のように雑用ばかりをしては非難される三橋の姿を目の当たりにする。清水はあまりにも不自然なその様子に疑問を感じ、三橋の上司である小峰を呼び出す。社長に呼ばれた小峰は非常に緊張した面持ちで社長室へ入ってきた。
「社長、何か御用でしょうか?」
清水は書類に目を向けたまま話し出す。
「君に聞きたいことがある。正直に答えて欲しい」
「何をでしょうか?」
清水は書類から目を上げ、小峰を力強い眼差しで見つめながら話し出す。
「三橋君の仕事振りを見ていたが、何故あのような雑用ばかりさせるのだ?」
小峰は少し困った顔で答える。
「いや・・・それは、まだこちらに来たばかりなので、まずは教育の意味を込めて・・・」
「雑用ばかりをやらすことが教育かね?それに君の三橋君に対する言動はとても教育のようには見えない。君のマネジメント能力はその程度だというのかね?」
小峰は何も言えず小さくなるばかりであった。清水は立ち上がり小峰の前に立つと、優しい口調で話し出す。
「いいかね?君を責めるつもりは無い。ただ、何故あのようなことをしているのか、真実が知りたいのだ。話してくれたまえ」
「社長・・・本当のことを言えば、私の評価は下がらずに済みますか?」
「話してみてくれ」
清水が小峰の目を見据えると、小峰はついに本当のことを話し出す。
「実は、三橋君に対する嫌がらせ行為を本社から指示されて実行しています」
「嫌がらせ・・・本社の誰かね?」
「それは・・・バイヤー室の長田部長です」
「長田君?何故、彼がそんなことをするのかね?」
「その理由は私も知りません。私は以前、長田さんにお世話になったものですから断れずに・・・」
清水は小峰に背を向け歩きながら考え込む。小峰は不安な顔で清水の後姿を見つめていた。清水は小峰に背を向けたまま話し出す。
「小峰君、今後、長田君から指示が出たら私に知らせてくれたまえ。あと、その指示事項を必ず残してくれたまえ。それが出来たところで君の評価を下す」
「はい」
「でも、もし、今までと同様のことをしているのを私が見かけたら、君の処分はすぐにでも決定することを忘れないように」
「わかりました」
「帰ってよい」
小峰は深深と頭を下げると社長室を出て行った。小峰が出て行った後、清水は電話をかける。
「本社人事部長へつないでくれ」
長田との約束である一週間が経ち、真由は約束どおりホテルへと向かった。すると、偶然ホテルの前を通りかけた三島が真由の姿を見つける。
「桐島さん?」
三島は真由の後を追いかけホテルに入っていく。すると真由は長田のところへと歩いて行った。三島は驚き更に近づくと、無表情の真由を長田は不適な笑みを浮かべて真由の肩を抱き、ホテルのキーを片手に歩き出すのが見えた。三島は我を忘れ二人に近づき、長田を突き飛ばし、真由の手を引いて外に連れ出す。真由は三島に引っ張られ、三島の車に乗せられる。
「何故、邪魔するの?」
真由の質問に三島は黙ったまま車を走らせる。
「降ろしてください」
真由が正面を見て話すと、長田も強い口調で話し出す。
「何故こんなこと出来るんだ?もっと自分を大切にして下さい!」
真由は一瞬三島を見るが、目線を前方に戻し、全てを諦めたような表情で話し出す。
「私なんか・・・どうなったっていいのよ。私なんか・・・」
三島は投げやりな様子の真由を見ると、車を近くの空き地に停める。三島は助手席の座席を倒し、仰向けになった真由に三島は自分の唇を近づける。真由は放心状態のまま瞼に涙を溜め、まっすぐ三島を見つめた。三島は真由の表情を見て、真由から離れ、
「何故そんな顔をしているんですか?何故どうでもいいなら涙を溜めているんですか?」
と、強い口調で真由に言うと起き上がる。真由はそのままの姿勢で三島を見つめ
「どうして止めるんですか?」
と、静かに語る。三島は運転席から遠くを見つめながら真由に話し出す。
「あなたを本当に愛しているから。だから、今の心がないあなたの唇を奪うことなど出来ません。自分の好きな人にそんな投げやりな態度で見つめられることが、どんなに辛いかわかりますか?」
三島はそう言うと頭を抱え込む。真由も三島の言葉で我に返り、ゆっくり起き上がる。そして三島の肩に手を乗せ語りだす。
「三島さん・・・ごめんなさい」
三島は真由を見つめると、真由は涙を流しながらも微笑んでいた。そんな真由を見て、自分をここまで犠牲にしてまで好きな相手に尽くそうとする真由に対し、三島は今まで以上に好きになっていた。
三島は真由を車で自宅まで送る。自宅前で車を降りる真由に三島は話し出す。
「桐島さん・・・もう、隠し事は止めてくれませんか?」
「隠し事?」
「あなたが好きな人は三橋でしょう?」
真由は黙ってうつむいた。
「桐島さん、このままじゃ僕は不完全燃焼で終わります。ですから、正々堂々、三橋と戦わせてください」
三島の真剣な表情を見て、真由は微笑みながら答える。
「そうですね・・・あなたの予想通りの人を私は愛しています。ですから、三島さんには申し訳ないですけど・・・」
「負けません!」
三島は真由の言葉を遮る。真由は少し驚いて三島を見つめると、三島は笑顔で話し出す。
「まだ、諦めませんよ!桐島さん。これからは自分にも少しで良いから時間を下さい。お願いします」
真由は笑顔でうなずくと部屋に入って行った。三島は何かすっきりした気分で真由を見送った。
「ただいま・・・」
部屋に入った真由は利恵がすぐ目の前に立っていたことに驚く。
「どうしたの、利恵・・・」
「お姉ちゃん、今の話、どういうこと?」
「話って?」
「とぼけないでよ!お姉ちゃんが好きな人が三橋さんだってこと」
真由は三島との会話を利恵に聞かれたことに気が付いた。
「お姉ちゃん・・・本当なの?」
真由はしばらくうつむいていたが本当のことを話し出す。
「ごめん。本当よ」
「それじゃ、今まで応援するとか言ってたのも、全て嘘なのね?」
「嘘じゃないわ。本当よ」
「もう嘘言わないでよ!どうして自分の好きな人が他人と付き合うのを応援できるのよ?」
「利恵・・・私は三橋さんを好きでも、私には何も出来ないの・・・でも、あなたは違うわ。だから私が出来ない分、あなたを応援すると決めたの。本当よ」
「そんなの信じられない!」
利恵は目に涙を浮かべながら部屋に入って行った。真由もその場に座り込み、自分の悲しい状況に静かに涙を流した。
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