第6話 待つことの辛さ
三島の告白を聞いた利恵は三橋に連絡を入れた。二人は真由の自宅の最寄駅で待ち合わせをした。改札から三橋が出てくると、三橋の定期券が見えた利恵は不思議そうに見つめる。
「ごめんね、待ちましたか?」
「いいえ、すいません、突然呼び出したりして・・・あの・・・三橋さん、定期にこの駅の名前書いてあります?」
「ええ、ああ、話して無かったですけど、僕の家は桐島さんとすごく近いんですよ」
「そうなんですか?どの辺ですか?」
「区役所の裏のマンションです。知ってます?」
「ええ、知ってます。そうなんですね」
「じゃ、行きましょう」
ふたりは近くの喫茶店に入る。
「あの・・・昨日、私、姉がある男性から告白されているのを聞いちゃったんです」
利恵の話に三橋は驚く。
「その人、三島さんという人です。ご存知ですか?」
「ああ、三島は僕の友人です・・・そうでしたか」
「・・・あんまり驚かないですね?もしかして、三橋さんはもう知っていました?」
「ええ、それでお姉さんは付き合うことにしたんですか?」
「いいえ、自分にはその資格がないと言って・・・」
「資格がない?」
「姉は・・・不倫しているんですか?」
悲しそうな顔をしている利恵を三橋は驚いて見つめる。
「そうなんですね・・・本当なんですね・・・」
「ごめん・・・僕は知っていたんだけど、止められなかった」
利恵は三橋を見つめ首を振りながら答える。
「いいえ。三橋さんを責めに来たんじゃないんです。ただ、姉は誰をかばっているのか知りたくて・・・」
「かばっているって・・・どういうこと?」
三橋は驚いて聞き返す。
「三島さんが言ってました。『あなたが誰かをかばって不倫している』・・・と」
三橋は少し考え込む。
「利恵さん、そのかばう相手に君も心当たりないかな?」
「いいえ、分かりません・・・私、どうしたらよいですか?」
心配そうにしている利恵に対し、三橋は優しく微笑んで
「心配しないで、僕が何とかするから、大丈夫」
と、答える。その姿を利恵は見つめると、胸の高鳴りを感じた。
「何、こんなところに呼び出して」
君江は三島に尋ねる。
「お前、本当に知らないのか?」
「何を?」
「桐島さんの好きな人をだ、親友なら知っているだろ?」
君江はうつむき黙る。三島は君江の肩を両手で掴み
「お前、知ってるんだろ!教えてくれよ!」
と、訴える。すると君江はうつむいたまま
「何故、あなたがそんなに気にするの?」
と、尋ねる。三島は冷静になり答える。
「俺、本当に桐島さんが好きなんだ・・・だから彼女にも告白した。でも彼女は自分には資格がないと言って受け入れない。だから、彼女が本当に好きな奴を知りたいんだ。頼む」
君江は三島の真由に対する気持ちを予想はしていたが、いざ本人から言われたことに衝撃を受けた。
「・・・ごめん。本当に知らないんだ・・・」
三島は君江が何か隠していることをうすうす感じ話し始める。
「わかった。お前は桐島さんと俺のことを応援してくれてるとばかり思っていた。見損なったよ」
三島は君江を置いて走り去った。残された君江はその場でしゃがみこむ。
「・・・どうして、私がそこまでしなきゃいけないの?少しは私の気持ちも考えたことある?私のことも心配してよ・・・」
涙を流しながら君江はつぶやいた。
三橋が自宅近くに来ると、一人の女性が立っていた。
「君江さん?」
「お帰りなさい・・・」
「どうしたんですか?」
三橋が近づくと、君江は涙を流しながら三橋の胸に飛び込む。
「君江さん・・・」
君江は泣きじゃくっていた。咄嗟のことで三橋もどうしたら良いか分からずそのまま立ちすくんでいた。すると、先ほど会っていた利恵が三橋のマンションに来ていた。二人の様子を目撃した利恵はその場を逃げたした。
「どうして私、変なところばかり目撃するの?」
しばらく走った後、利恵は呟いた。
「さあ、飲んでください」
三橋は君江を自宅に連れて行き、コーヒーを差し出す。君江も大分落ち着きを取り戻し
「ありがとう・・・」
と、言ってコーヒーを飲む。君江は黙ったままの三橋を見て
「あの・・・何も聞かないんですか?」
と、尋ねる。
「いや・・・何を聞けばいいのか、分からなくて・・・」
そんな三橋の様子を見て、君江は微笑む。
「相変わらず女性相手は苦手ですか?私も三橋さんが女性を苦手なのを知っているのに、どうして来ちゃったんだろう?」
三橋は黙って聞いていた。
「私、実は三島さんが好きなんです」
「そうですか・・・」
君江は三橋のあまり驚かないことに拍子抜けした。
「あまり驚いていないみたいですね?」
「ああ、何んとなく二人のやり取りを見た時に、そんな気がしたので・・・」
「そうですか・・・三橋さんにはわかって、あのバカには分からないんですね・・・」
「三島は気がついていないんですか?」
「ええ、全く・・・それに、彼の頭には真由のことしかないんです」
三橋は『真由』の言葉に敏感に反応した。
「全く嫌になるわ・・・真由のことばかり私に相談するんだから・・・」
「君江さん」
「はい?」
「正直に自分の気持ちを伝えたほうがいいんじゃないかな?」
「そう思いますか?」
「はい」
君江はしばらくうつむいた後、笑顔で三橋を見つめて答える。
「相談に乗ってくれてありがとう。話せてすっきりしました。でも、三島さんには黙っています。彼が真由への気持ちがなくなるまで・・・」
「君江さん、すいません。私は桐島さんに不倫をやめて三島と付き合うように言ってしまいました。あなたの気持ちを感づいていながら・・・」
申し訳なさそうに話す三橋に、君江は微笑みながら答える。
「気にしないで下さい。三橋さんは何も悪くないです。ただ、真由が三島さんに何の感情も無いのは事実です」
三橋は黙ったまま君江を見る。
「それじゃ、私、帰ります。本当にお邪魔しました」
君江が玄関の扉を開けると、振り返り
「真由の不倫をやめさせられるのは、三橋さん、あなただけですよ。それじゃ」
と、言って帰っていった。三橋にはその言葉の意味がまだわからずにいた。
利恵は三橋と君江が抱き合っていたのを見てショックを受けていた。
「何でこんなに胸が締め付けられるんだろう・・・・」
利恵が思い悩んでいる姿を真由が見つけ、声を掛ける。
「どうしたの?何をそんなに悩んでいるの?」
「ああ、お姉ちゃん・・・」
「かわいい妹よ、偉大なるお姉さんに話してみなさい」
真由がふざけて言うと、利恵も笑顔で話し出す。
「私、三橋さんに会いに行ったの」
「えっ?」
真由の表情が驚きの表情に変わる。
「何で三橋さんに?」
「ああ、お姉ちゃんを送ってくれたお礼を言いに」
「そうだったの・・・それで、あなたは何を悩んでいるの?」
「うん、今日、三橋さんの家の近くに行ったら、三橋さんと君江さんが抱き合っているのを見ちゃったの?」
「ええ?」
真由は更に驚いた表情で聞き返す。
「その姿を見てすごく複雑な気分なの・・・それに三橋さんのことを考えると胸がドキドキして、三橋さんと会えない時は締め付けられるように胸が苦しいの・・・何でだろう・・・」
考え込んで話す利恵を真由は微笑んで見つめ
「利恵、それは恋してるからじゃない?」
と、答える。
「恋?」
「そう、あなたも三橋さんのことが好きなんじゃない?」
「私が三橋さんを・・・私、どうしたらいいのかな?」
利恵は真由を見つめて聞く。そんな利恵を見て真由は思い込む。自分も正直に気持ちを伝えられたらと思うと複雑な心境であった。
「お姉ちゃん・・・」
「えっ、ごめん・・・そうね、三橋さんは本当にいい人だから、告白したら?」
「そんなこと・・・でも、君江さんに悪いから・・・」
「君江の気持ちはあまり意識しなくていいんじゃないかな。だからあまり悩まないようにね」
「そうなの・・・それじゃ、お姉ちゃん、何故『あたなも』なの?」
「えっ?ああ、そういう風に言った?聞き違いじゃない・・・とにかく君江には私が聞いてみるから・・・」
真由は利恵の頭を撫でながら慌てて言った。
翌日、真由は君江のもとを訪ねる。
「久しぶりね」
君江が真由に言った。二人は昼休みに君江の会社近くの公園で会っていた。
「何か随分会ってない感じがするわ」
真由も笑顔で答える。
「何?私に話って?」
「あなた、三橋さんに会いに行ったの?」
「三橋さんに会いに?」
「そう、利恵が三橋さんの家の近くで二人を見たって」
「そうなんだ・・・それで、何故私が三橋さんに会いに行ったか、あなたが気になったの?」
真由は真剣な顔で問い始める。
「君江・・・あなた三橋さんが好きなの?」
君江も真剣な顔で答える。
「真由、あなたは三島さんのことどう思っているの?」
「茶化さないで!私、真剣に聞いてるの」
「茶化してなんかいないわ、私も真剣に聞いてるの」
君江の真剣な目を見て、真由は目をそらしながら答える。
「私、三島さんには気持ちはないわ・・・ごめん」
うつむいて話す真由を見て、君江は微笑みながら
「謝る必要はないわ、でも、はっきりしてくれてありがとう」
真由は不思議そうに君江を見つめる。
「私が三島さんのこと好きになっても真由はいいのよね?」
「君江・・・それじゃ、あなた三島さんのこと・・・」
「そうよ、でも、あなたには悪いことしちゃったから・・・あなたが三島さんと付き合うなら、私は身を引くつもりだったの。でも、あなたの本音が聞けてよかった」
笑顔で話す君江を真由は少し辛そうに見つる。
「君江・・・ごめん、あなたの気持ちに気が付かなくて。でも、これからは私のせいで自分の気持ちに嘘はつかないでね、お願い」
「わかったわ。三島さん、まだあなたに夢中みたいだけど、彼が振り向いてくれるまで、私、頑張るわ。でも、私のために三島さんに急に冷たくしたりしないで、お願い」
「そんな・・・私どうすればいいの?」
「あなたも周りを気にせずに、自分の気持ちに正直になればいいんじゃない?」
真由は黙って君江を見つめる。君江も真由を真剣に見つめ返す。
「私が言っている意味、真由、わかるわよね?」
真由は微笑みながらうつむく。
「わかっているわ・・・でも、私、どうしたらいいのか、わからなくなっちゃった・・・」
「真由・・・」
君江は寂しそうに言う真由を辛そうに見つめた。
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