第46話 対等するメモリーウェーブ


「ほう、1人で来られるとは思いませんでしたよ。ゼッガ将軍」


王城へ突入から1番に目的地に到着したのはゼッガだった。

そんなゼッガを待ち受けていたのは、巨大な器具。そしてゲヌファーとワクレギだった。


「何を言うかと思えば。こっちは貸したもんを取りに来ただけだ、さっさと返せば痛い目みなくて済むぞ」

「それは・・・これを見てから言って欲しいねッ!!!」


両手を大きく広げたゲヌファーの頭上に巨大な魔方陣が生成された。

次第に魔方陣はゲヌファーへと向けてゆっくりと降下していき、地面へと降り立った時、それは現れた。


「これこそが神として異業! 神として選ばれた者の力だ!!」


魔方陣から姿を見せたのは、この世に存在しないはずと言われていた、竜だった。

淡い緑の竜は、姿を見せるや否や衝撃を与える程の咆哮を放ち、周囲を軋ませた。


「さぁ竜よ! 我が手足となり、愚かな世界の反逆者を粉微塵にするのだ!!!」


ゲヌファーの指示と同時に巨大な口が炎で溢れ返り火球が生まれる。

そして口が開かれたと同時に火球がゼッガ目掛けて撃ち込まれた。


「ふあははははっはははっははは!!!! 許しをこうた所でもう遅いのだよ!! 我は竜を・・力を手にしたのだ!! もはや世界など、恐るるに足りん!!! 我こそがこの世界の」


「喋るなッ! 雑魚がッ!!!!」

「ッ!!?」


火球で吹き飛んだ地面。煙の中からその姿を現わす。

一切傷を受けていない姿。この場に現れた時と何一つ変わらないゼッガが。


「教えておいてやる! てめぇは・・・」


ゼッガが立っていた場所から姿が消えた瞬間。

誰もがその姿を、竜でさえ捉える事が出来ないまま、時は動き出す。


「役不足なんだよぉおおーッ!!!!!」


ゼッガの咆哮にも似た叫びの一撃は、竜の巨体を壁へ激突させたのだった。

たったの一撃。当然ゼッガは特別な魔力を使ったりは一切していない。

これが己の力。半竜の力だからでは無い、人として、多くの壁や扉を超えてきたゼッガ自らが手にして来た力だと、それを今証明して見せた。

ゲヌファーを役不足と罵倒した意味を込める様に。


「な・・何故・・・貴様ッッッッッ!!!」

「さっさとハケろ雑魚。ここはてめぇみたいなのが立っていい舞台じゃねぇーんだよ」


ゆっくりと歩み寄るゼッガに対し、全身が震え切り何一つとして言い返す事も立ち向かう事も出来ず、ただただ後退りするしか出来ないゲヌファー。

ゼッガにとっては最初からわかっていた事だった。ゲヌファーという人間が何をしようと敵ですら無い事を。もはや戦いにすらならない事を最初から悟っていたのだった・・・。


その存在が、”本物”であった事を知るまでは・・・。


「随分、派手にやってくれたな・・・半竜よ」

「・・・ッ!?」


巨大器具へと向かうゼッガの足が止まった。

そして声がした方向へと踵を返す。


「目覚めの一発にしては、十分だったぞ」


ゼッガに立ちはだかる存在。先ほど吹き飛ばしたはずの竜が大きくその翼を翻した姿だった・・・。







ゼッガが新たに姿を見せた竜と対峙している中、ルジェもまた目的地へと到着していた。

それが巫女の間とも呼ばれる場所への扉が一つ、その扉の姿は王位継承の資格を持つ時から何度も目にした物。

扉の先は見た事も無ければ向かおうともしなかった。妨げられているかの様なその扉は今もルジェに大きな意味を噛み締めさせていた。

どれだけ考えたであろうか。どれだけ思い続けただろうか。

今でさえその気持ちはルジェの中から消える事無く渦巻いていた。


けれど、もうそれは過去の事だと決心は固まっている。

もう以前の者は、ここには居ない。


「わたくしは、ルジェ・・・そう決めたのだから」


今のルジェには足を踏み入れる力は必要が無かった。

ルジェと名乗る自分の身体は、自然と動き出す。背中が押されるかの様に、その身はもはや昔の自分では無く、そして自分だけの物でも無かった。


扉は・・・開かれた。




「・・・ここは、ディイ様と同じ?」


扉を開いた瞬間の異様さにルジェは周囲を見渡した。扉を抜けた瞬間の不思議な感覚、それは竜拝堂で一度味わったモノと同じモノ。

そして、そこは森に囲まれた山奥の様な光景。

争い事とは無縁な場所と主張するかの様な自然豊かな風景をルジェは険しい顔で歩いて居た。何故ならばルジェにとってそこはあまりにも歪な空気を感じて居たからである。

表面上はディイと同じ場所、そんな感想を抱いたのだがすぐに違うと気が付いた。


そして、その理由の答え合わせするかの如く、姿を見せた。


「やっぱり来たのですね」

「・・・ここは何?」

「何って、貴方が求めた通りの場所ですよ」


ルジェの目の前に現れた女。それはルージェルトだった。

回りくどい言葉にルジェは溜息を吐く。

自分が求めた場所、本当にその言葉通りであれば、あまりよろしく無い事が頭によぎってしまって居た。


「無知な貴女にしっかりと教えてあげますよ。ここは、巫女が生まれた場所、巫女が育った場所、そして巫女が巫女で無くなった場所」

「やっぱり・・・」


ルージェルトの言葉でルジェの嫌な予感は的中してしまった。

巫女が巫女で無くなった場所。それだけで全てを察してしまった。


「巫女様は・・・もう居られないのね」

「ふっ・・哀れね。何も知らないのは・・・。来なさい」


ルージェルトはルジェに背を向け歩き出した。

敵意はまだ感じられない。まるでルージェルトのその振る舞いは、今までの自分を真似ているかの様だと、ルジェは感じた。

だからこそ、今はルージェルトの言葉に従う様にした。知る為に、知らなければいけない為に、今自分がここに足を踏み入れた事の意味を見失わない様に。


冷静さを保ちながらルージェルトの後を歩いていると、ふとした場所に出た。

そこは、森に覆われている事は変わり無いはずが、明らかに誰かが住んで居たであろう場所だった。


「あれが・・・巫女が住んで居た家、母親と2人仲良く暮らして居たらしいわ。母親が死ぬその時まで」

「母親・・? 巫女様の母親なんて初めて聞くわ」

「当然よ。巫女の事は限られた人間しか知り得ない。巫女は王都アルバス、いやこの世界に必要不可欠な、消耗品だったのだから」


ルージェルトの言葉に一瞬怒りがこみ上げそうになってしまったルジェ。

消耗品。その言葉の意味はルジェにも理解していた。

先日ディイから聞いた話を思い出す。

巫女という存在は、簡単に言うのであれば龍脈から流れる魔力を抑える為の存在であると。

今の人々が何不自由無く魔力を使えているのは、巫女の力があってこそである事、しかしそれを知る者は多くは無かった。


「龍脈に直接語り掛けられる存在。王城の者達がそれを頑なに口外しない理由は単純、巫女の御身と内乱防止」

「表面上は、でしょ?」

「あら、腐っても理解あるのね。その通りよ、全ては表面上の綺麗事。真の意味は決して褒められた物では無い悪辣な愚行の数々、そこに人権なんて物が入り込む余地は無かったのよ」


ルジェはただただ嫌な気持ちに押し潰されそうになっていた。

きっと目の前のルージェルト自身もその行いを話で聞いただけであることも理解しているが、どうしてもやるせない気持ちがルジェ自身を蝕み、落ち着かせる理性が削がれようとしていた。


だが、そんなルジェの感情を弄ぶかの様にルージェルトはある真実を口にした。


「まあそんな事ばかりしていたのだから、”逃げられちゃった”のでしょうけれどね」

「ッ!? ・・・逃げられたですって!?」


頭の整理が一瞬で追い付かなくなってしまったルジェ。本当にその言葉通りに受け取っていいものかと。

あらゆる言葉に対する想像はしてきたつもりだった。そして、巫女は死んだ、という最悪の事実を受け止める心の準備もしていた。

故に、ルージェルトの言葉を真に受ける事が出来ないと複雑な感情がルジェの身体を震わせた。


そんなルジェの姿を滑稽に思いながら、ルージェルトその答えを伝えたのだった。


「あぁ・・今になって思えば、それも見てみたかったわ。貴女が巫女と知らずに、”感染者”だなんて思って殺す様を」


邪悪な笑みを浮かべるルージェルトの言葉にルジェは息が出来ないまでに高揚した。

感染者だと思って殺す。

ルジェ自身が巫女を巫女だと分からずに殺す事があったルージェルトは口にした。ルジェはそんな事思い当たるはずも無ければ、そんな馬鹿げた事を自分がするわけ無いと考えた。


しかし、ルージェルトの言葉に偽りが無い事は確実だった。

そして、思い当たる節なんてある訳が無いと否定したい自分が顔を出している中、更に追い討ちを掛ける様にルージェルトは続けた。


「気付くはずも無いわ。だって巫女は貴女の言った表面上の為に巫女なんて言う”性別”呼びも変えられ、魔力でその”肌”と”髪色”も真逆に変えられて」

「・・・嘘よ」

「”処分”も当然よね。だって・・・”魔力が使えなくなった”のだから」


もはや、これ以上のヒントは今のルジェには必要が無かった。


巫女は、生きている。それも自らの下した殺意の手からも逃れ、王城の”地下”へとその身を移し。


たった一人の”少年”として、生き長らえていたのだった・・・。









「本当に君は凄い子だ・・・」


そこは王城の最上階に位置する間。王位継承1位がその存在を歓迎した。


「・・・インジュ君」


自らの過去、それが今明かされている事も知らずに、少年はただその場に足を運んでいた。


過去を知らなければならない。それ以上の感情が少年をここまで突き動かしていたのだった。


自分を知るのはとても大事な事である事は理解している。

だが少年にその猶予が与えられたであろうか。仮にあったとしても、きっとそれは今の少年にとって些細な事の可能性の方が高い。


何故ならば、少年は、ただただ真っ直ぐに前を見据え続けているから。

過ちも誤りもする事を承知で、今と先にその想いを乗せ続ける事がより良いモノだと信じているから・・・。



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