第45話 舞台は終幕へと


目的地は王城。

ただ駆け抜けるのみ、目もくれず、1秒でも早く到達する為に。


「おぉぉら退け退け退けッ!!!」

「轢き飛ばしてやりますわぁーッ!!!」

「いやぁ・・・」


誰よりも早く向かわなければならないはず、にも関わらずルジェもゼッガも一切見送るという事をする気配が無く、目に映る感染者を次々と撃退していき、インジュに後始末を任せていた。


「速度上げるっぞ! 付いて来れるだろうなッ!!?」

「それはこちらの台詞ですわッ!!」

「ぃぃぃいぃいいッ!!?!!?」


間違い無く最高速度で駆け抜けている。世界一の速度を2人は叩き出しているに違い無いが、明らかにその速度ならばとっくに王城へ辿り着いているに違いなのにも関わらず、2人は、感染者が居る方角へとその身を流し掃討していった。


「あっ!?」

「ぉぉぉおおっっっ!!!」


急ブレーキにインジュの体はルジェにぶつかる様に密着した。


「セトナッ!!」

「ルジェ!!? 来てくれたの!?」


大通りの一つにセトナが人々を誘導しながら子供達を逃して居る光景があった。


「大丈夫だった!? 子供達は」

「みんな無事、けど・・・」

「そんな顔すんじゃありませんわ、みんなが不安がるでしょう。それに心配ありませんわ、これからわたくし達が元凶をぶっ飛ばしてくるのですから」


濁りの一切無い表情。それはルジェだけでは無く後ろに乗って居るインジュも同じだった。

ルジェは遠くからの視線を感じ、そちらに目を向けた。そこには物陰に隠れている子供達、そしてぬいぐるみを抱えている子もまたルジェの姿を見て安堵し、グッと怖さを押し殺す姿を見せた。

それをルジェは目に焼き付ける様に強く刻み込んだ。


何処もかしこも地獄絵図と化した王都の中、その表情がどれだけの想いを抱けるのか。それを今セトナもまた味わっていた。


もはや問題なんて無い、理由は明白。であれば自分がやることは決まったと意気込んだ。


「インジュ君! ルジェをお願いね!」

「・・はい! 任せて下さい!!」


あえてルジェへと言葉を掛けず、インジュへとルジェをお願いする。

バイクが高加速でその場を立ち去っていった。


セトナにとって無意識に発した言葉。それは同時に無意識に発さなかった言葉という意味でもあった。

言葉は必要無い事が必要であると、今この瞬間に適した言葉を選んだに過ぎなかった。


それはルジェの勝利を信じて居るからこそのモノ。勝利の先を見据えてなくては出来ない事。

セトナにとってルジェという存在は、ルジェが思って居る以上に膨れ上がって居るのだった・・・。


「えッ!!? ちょっと貴方達!!! 何処に!!」

「ごめんセトナ姉ちゃん! 俺達を待ってる奴がいるんだ!!」

「私達は気にしないで、先に行って!! ありがとう!!!」


まるでルジェ達を追い掛けるかの様に、手を力強く握り合った子供が2人、走り去って行ってしまった・・・。





再臨計画の騒動は終わりが見えない程に続いている。

しかしインジュ達の動きはそれを凌駕する程に早く、正確だった。北区だけではあるが、殆どの感染者を掃討してひと段落が付く時が訪れた。


「この反応ッ!」

「あぁ・・お出迎え。って事らしいな」


それは王城へと向かう場所。

北区と王城を結ぶ橋へ向けての大通り。そこには白い感染者、そして真逆の色の感染兵が大群となって待ち構えていた。


「一点突破・・・するにしても、この物量」

「超えて来いって事だろがよ。アストの馬鹿が言い出しそうな事だ」

「無駄口はそこまでですわ・・・来るわよッ!!!」


敵の視線が一斉にインジュ達へと向けられる。無数の敵達が攻撃準備に入り、インジュ達が気を引き締めたその瞬間。


背後から大勢の人間が駆け抜けて来た・・・全員が同じ言葉を放ち。


「「「「「ライゼーションッ!!!!!」」」」」


光の輝きを宿しながら次々と対峙する軍勢に向けて突撃を掛けて行った。


「臆するな!! 必ず死守するのだ! 警護団の名を持って絶対に守り抜くのだ!!!!」

「「「「おぉおおおおおー!!!!!」」」」


それはウィザライトを手にした警護団の面々だった。

インジュ達よりも前へ自らの身体を前進させ感染者と感染兵と対等以上に戦いを繰り広げ出した。


「インジュさん、ルジェさん・・・それに・・ぇぇッ!!!? ゼッガ将軍!!?」

「すげぇ、ゼッガ将軍も味方なら百人力じゃん」

「カルスさん・・それにデドさんどうして?」


カルス達警護団の援軍。その光景にただど肝を抜かれるだけのインジュにカルスとデドはお互い見合い笑みを浮かべ力強く頷いた。


「決まってますよ! 私達は、警護団なんですから!」

「そうゆう事です。これが自分達の本分です!!」


そして2人もまた、他の警護団と同じ様にインジュ製のウィザライトを輝かせ起動させ、インジュ達を背に立ちはだかった。


「さぁ、お急ぎを!」

「ここは私達で必ずお守りしますから!」


「・・・わかりました。あとは・・・」


インジュは誰にも負けない程の輝きをウィザライトに宿した。

それはこの場に居合わせている者達、同じウィザライト使いとは桁の違いを見せる様に輝きを放った。


「お任せしますッ!!!」


そして敵が次々と動きを止め出す。地面から無数の光鎖、それは警護団の者達が動きを止め周囲を確認する程に膨大で、完全に敵の動きを抑制している光景だった。


「これは・・・負けられないなッ!」

「流石インジュさんって事!」


インジュ達は駆け抜ける。

動きの止まった敵を縫う様に、前へ前へと駆け抜ける。

振り返らずとも状況はわかっている。警護団が押している、ウィザライトという力があるから、インジュが動きを止めたから、そういった理由では決して無い。


今この瞬間の熱気は、もはや誰も止める事の出来ないモノなのだから。


「ッ!!?」

「てめッ!!!」


感染者の群れを抜けた瞬間だった。

直進するインジュ達に向け、強烈な一撃が放たれ回避の為に動きを止めれた。


インジュ達を止めた者、目の前に立ち塞がる者。

それは名も無き側近騎士。ゲヌファーが帝国より連れて来た虚ろの瞳の人間だった。


「くそ、王城は目の前だってのに」

「さっさと片付けるわよ! 3人ならすぐにやれるはず・・・」


バイクから降りようとした瞬間、ルジェはゾッとした気配を感じ取った。

それは戦意の気配では無い。ただ自分の感じ取れる察知範囲にいるはずの無い存在が現れたからであった。


「何で貴方達が・・・」


後ろを振り向くと、息を荒くしている2人の子供が手を繋いで立っていた。


「ごめん、ルジェ姉ちゃん・・・そいつ、そいつは”俺達”が相手する、しないと駄目なんだ」

「何言ってるの! 危ないから早くセトナの所に」


怒鳴ってでも帰そうとルジェは大声を張り上げる。

しかし、インジュに肩を叩かれ、前を見る様に促されルジェはゆっくりと前へ目線を戻した。


「ンッ・・グゥゥッ!! オマエ・・ラッ!!?」


側近騎士が苦しみを訴えていた。

どれだけ攻撃を受けようと、どれだけの痛みを与えようと、動じる事を知らなかった騎士が、初めて言葉を発した。


「ルジェお姉様。お願いします、これは私達の問題なんです」

「絶対にみんなには迷惑掛けないから、だから早く行ってくれよ」


2人の子供が前へと歩みよる。身の丈は圧倒的に小さく、誰が見ても子供の容姿の2人。

その姿はまるで歴戦を戦い抜いて来た者に感じられる程のモノだった。


「行きましょう、ルジェさん」

「でも」

「見っともねぇー姿晒すな、ガキ達は大丈夫だ」

「・・・・・・」


ルジェは目を強く瞑り、ハンドルに手を掛けた。


2人の想いがルジェを刺激させた為に迷いが生まれてしまった。

きっと2人はあの虚ろの騎士に勝つだろう。しかし、2人と騎士はきっと・・・。


「いつか・・・ちゃんと話しなさいね! 二人共!!!」

「おうよッ!」

「はいッ!!」


たったそれだけ、それだけの言葉を掛けれた事に感謝を抱き、ルジェは、バイクを再び発進させた。


「あれってさ・・・どう見てもバイクだよね」

「すっげーカッケェー!! 次の世界あったら作ろうぜ」


ルジェを見送り、まるで慣れているかの様な陽気な会話をしながら、2人は再び息を整え、側近騎士へ向き直す。


「とりあえず、いつも通りこの馬鹿の目を覚ます所からだな」

「そうね・・・さっさと、終わらせましょうッ!!!」


子供2人の戦いは始まった。

しかしそれは、2人にとって経過点でしか無かった。


いつかちゃんと話す。

そんな約束をしてしまった事に笑みを浮かべる子供の姿をした2人は・・・世界の危機よりも、たった1人の”親友”を助けたのだった・・・。


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