第39話 ストレート
竜拝堂を守ろうと尽力していた者達は呆気に取られていた。
しかしその光景に驚きながらも皆考えている事は1つだった。
もしかしたあれが巷で噂になっていたという人物達。
感染者を人へと戻す事が出来る者達、突如として現れ多くの者達を助けているという者。
「ダークエルフと高嶺の金色」
バイクに跨ったままの姿のインジュとルジェの2人を見て確信へと変わっていた。
彼等2人は異質な力を持って、王都のあらゆる出来事に介入し人々を導いている。
そんな尾鰭の付いた噂は、竜拝教にも伝わっていたのだった。
「インジュ、ここはわたくしに任せて。貴方は竜拝堂へ行って」
「え、ルジェさんなら大丈夫だと思いますけど、どうして」
「きっとあのワクレギは誘導よ。きっと竜拝堂にもう誰かしらが入り込んでるわ」
「ッ!? わかりました」
バイクを降りるインジュ。
ルジェは跨ったまま、ワクレギを見据えていた。
「本当に大丈夫だと思いますけど。その・・・」
「わかっているわよ、ありがとう心配してくれて。貴方も気をつけなさい」
「・・・はいッ!」
それだけを伝えインジュはすぐに目付きを変え、ウィザライトを輝かせ竜拝堂へと飛んで行った。
「相変わらず見窄らしい物しか作れないようね、ドクターワクレギ。見なさいな”わたくし”のバイク、文句の付けようが無い程に洗練されていると思わない」
挑発まがいに言い放つルジェ。密かにバイクの評価を多大に受けて照れ臭いと思っている者が1人いる事を無視しながらも余裕の笑みを続けるルジェ。
「そそそ、その声まさか・・・あぁーそうですかそうでしたか、貴女はまだ未練がましく生きていたのですねぇー? 何ですか、我々に復讐でもしようというのですか貴女は」
「復讐? あぁーそんな事も考えなかった訳では無いけど。わたくしは」
ポンポンとバイクを叩くルジェの顔はとてつもなく澄んでいた。
「もっともっと楽しい事を見つけた。正直、あんた達なんて眼中に無い程にね」
「貴様ぁああああああああああッ!!!!」
ワクレギの叫びに呼応する様に再び感染兵が各所から飛んで現れた。
「やはり!やはり僕以外にいるのだな!!? あのダークエルフを庇い!貴女を庇い!! 僕以上・・・・僕の発明を揺るがすぅぅううう!!!」
「貴方はなんか言うに及ばない理由を教えてあげるわ」
バイクを正面に向かわせるルジェ。
そしてウィザライトのダイヤルを回し、ハンドルを握る。
同時にバイクの各所がその開閉し、別の姿へと変貌した。
「殺せぇッ!!! 脱落者の息の根を止めろぉおお!!!」
ワクレギの号令と共に感染兵がルジェ目掛けて次々と光線を撃ち込む。
しかしルジェは避ける事をせず全ての攻撃を受け切った。
バイクを中心に光の防壁が形成され、感染兵全ての攻撃をかき消したのだった。
「貴方が作った物には品性の欠片も無い」
ルジェはバイクに搭載されているカートリッジを入れ替える。
「そして、これには、人の品性を尊重した。魅力が詰まってるのよ」
バイクのハンドルを捻った瞬間、防壁が消え、同時に大量の光弾が感染兵目掛けて放たれた。
高速で不規則に動く光弾は感染兵へと直撃していく。
一撃だけでは無い、貫通しその身が消えるまで何度も何度も感染兵を撃ち貫く。
強固にも思えた黒い外装は軽々しくバイクから放たれた光弾によって破壊されていく。
そして、その光景が終わりを告げようとしていた。
「最高・・傑作が・・・僕・・・僕が1番の」
目の前で起きている事態に言葉を失うだけのワクレギ。
感染兵が今、完全に消滅していったのだった。
回復再生はしない。
それもそのはずだった、インジュやルジェが使うウィザライトには対感染者用の魔力が込められている。
感染者を動力としている感染兵は、普通の人間が相手にする場合には圧倒的な力を見せるが、先生の作ったウィザライトを動力源としたバイクの攻撃でさえ感染兵の回復再生は無駄に等しかった。
しかし、少しだけ浮かない顔のルジェ。
ウィザライトに込められた魔力は、感染者を人に戻す物が基になっている。
目の前で倒した感染兵がその効力を起こす事は無かった。
前もって言われていた事ではあるが、それでもやるせない思いを浮かべてしまうのは仕方がなかったのだ。
「観念なさい、ワクレギ。さぁ、竜拝堂へ何をしに来たのか喋って貰うわよ」
「かかか・・・僕が・・僕がががが1番の・・・1番なのだからららぼぼぼぼ、僕が」
完全に理性が壊れてしまった。
間違い無くルジェ自身が言った言葉なんて1ミリも届いていないのはわかっている。
ワクレギがこんな状態になっているのは容易に想像の出来る事。
以前も敗北を着したワクレギにとって敗因は単純なミスであり、感染兵に落ち度は無いと言う考えだった。
しかし、今回に至ってはそうでは無い。
感染兵の攻撃力は間違いない物のはずが、ルジェのバイク1つで全てを阻まれ、次第にはただの光弾のみで感染兵を全て破壊されてしまった。
見せられたのは圧倒的な差。
最高傑作と信じて止まなかった存在が簡単に亡き者とされた心情は、恐らくルジェ自身にも計り知れない物だった。
「はぁ・・・仕方ない」
もはや戦意喪失のワクレギを拘束するくらいしか出来ないと判断したルジェはバイクを降りた。
頭をかきながら次はインジュの後を追いかけるかどうか考えを巡らせながらルジェは歩こうと一歩前へ踏み込んだ瞬間だった。
「ッ? これ・・・わたくしの、ステッキ」
眼球を抉っていてもおかしく無い速度の物を難なくキャッチしまじまじとそれを見る。
唐突にルジェ目掛けて飛んで来たのは、以前に使っていた物。
ルジェがルージェルトとして扱っていたステッキだったんだ。
「随分と・・派手にやってくれたみたいですね」
ステッキを投げた者。その存在が現れ、ルジェの顔は険しさを見せた。
それもそのはずだった。
見間違うはずの無い姿、毎日の様に聞いていたその声、幼い時から常に側に居た存在。
「初めまして、高嶺の金色ルジェさん。私は、王位継承3位のルージェルト・N・アルバスです」
「・・・センナッ」
・
・
・
王都アルバスの象徴が王城であれば、王都の西区の象徴は竜拝堂と誰もが言うであろう。
そんな西区の突如と起きた騒動はワクレギ達王城の人間達によるもの。竜拝堂の外はルジェが沈静化を計り、感染兵を全滅させる事には成功していたが。
ワクレギ達の目的はルジェが睨んだ通り竜拝堂であった。
「少しばかり賑やか過ぎやしないかい? アスト坊や。随分なお友達引っさげてお出ましとは何事かい?」
「お久しぶりです、ディイ大司教様。久しの再会がこの様な形になり申し訳ないです。お察しだとは思いますが、我々には時間がありませんので」
竜拝堂の中心地である大広間。
そこには腕組みをし佇んで居た竜拝教のトップである大司教のディイという女性が居た。来訪者であるアスト、そして小型の感染兵の背後から顔を出したのは、帝国から来たゲヌファーだった。
「お初にお目にかかります。私は帝国の将軍を勤めておりますゲヌファーと申します。この度は」
「くだらない挨拶はいいよ。さっさと本題に入りな」
完全に包囲された状況でもディイは強気の姿勢を変えるどころか、懐からタバコを取り出し咥え、指を鳴らし火を付け一服を始めて居た。
そんなディイの態度にゲヌファーは一瞬眉間を動かしたが、大きく息を吸い気持ちを落ち着かせた。
「では大司教ディイ殿、早速ですが。この竜拝堂に祀られている・・・”ドラゴンズハート”頂けませんか」
「はっ、何を言うかと思えばそんな迷信」
「調べはついて居ます。彼が言った通り、我々には時間が無いのですよ。出来れば荒事は出来る限り」
そうゲヌファーは言うも背後で待機している感染兵が一歩前踏み入れた。
もはや聞く耳なんて持つつもりは最初から無い。時間が無いという理由だけでゲヌファーには選択肢を与えるというものは無かった。
「おや・・・」
感染兵が更に一歩前へ踏み出そうとした瞬間。アストは後方に身を引いた。
「ざけんじゃねぇぇえーぞッ!!!」
高らかな叫び声と共に広間に衝撃が走る。そして同時に感染兵が吹き飛び、辺り一面に残骸を散らばった。
「なるほどね、ゼッガ。君が選んだのはそうゆう道だね、例え1人でも守り通すという」
「それは、違うなアスト。ただの原点回帰だ、気に食わねーもんにあれこれ理由付けて納得するのをやめただけだ」
アスト達来訪者とディイの間に入って現れたのは、完全武装状態のゼッガだった。
「おい馬鹿息子、まだ避難して来た子達も居るんだよ。加減くらい出来ないのかい」
「うっせぇーババア!! 助けてやってるんだ文句言うんじゃねぇーっつの!!」
感染兵の回復再生がとてつもなく遅い事にゲヌファーは驚きを隠せないで居た。
それほどの破壊力で粉々にされたと言う事なのだとゲヌファーでも、認めたく無いが理解はしてしまっていた。
「ききき、貴様。何をしているのかわかっているのか!?」
「あ!? 自分の家に虫が入って来たから掃除するのは当然だろうが」
「何だと・・・この私を・・むむ虫扱い・・・だとッ!!!」
怒りのあまり地面を強く踏むゲヌファー。
それは合図となり、何処から現れたのかゼッガ目掛けて側近の騎士が剣を抜き襲い掛かった。
「くそッ、往生際が悪過ぎだろうテメェーら帝国はよう!!」
ゼッガの鉤爪と側近の剣がぶつかり強風を巻き起こし、接近戦が繰り広げられる。
魔力を使っている様子が見られない動きにゼッガは目を見開きながらも対応していく。
「何なんだコイツ!」
地面へと叩き付けてもすぐさま立ち上がりまるでダメージが無い様な素ぶりで再びゼッガへと襲い掛かる。
表情は一切動かさず、どれだけダメージを与えようと怯むどころか
勢いを増すかの如く高速の剣撃をゼッガへと浴びせていた。
だが、ゼッガへと届く攻撃は1つも無い。
「・・・ッ!?」
逆手に持った剣をゼッガの顔面へと斬り付けた。
しかし剣が動きを止め、一切動かなかった表情に動きを見せた。
自らが振るった剣は、ゼッガの口、歯によって受け止められて居た。
全く動かす事の出来ない剣は、ゼッガの一噛みによって粉々に砕かれた。
「くたばれや外野がぁああーッ!!!」
鉤爪は拳を作り、体勢を崩した相手目掛けて全力で拳を振い切り、ゲヌファーの側近は抗う事も出来ず高速で壁へと激突していった。
勝負は簡単に付いた。
しかし、ゲヌファーは怯える様子を見せず、寧ろ不敵な笑みを浮かべていた。
その理由はゼッガにもすぐにわかった。
「へへへへっ、無駄な抵抗はやめろよゼッガ将軍殿ー。私の側近も立ち上がる、そして・・・」
初手で吹き飛ばしていた感染兵が身体を取り戻していた。
そして壁へと激突させた側近も、土煙から何食わぬ顔で姿を見せていた。
「くそ野郎が・・・」
「ゼッガ・・我が友よ。本当にすまないが、時間が無いのだよ」
側近と感染兵、それだけであればゼッガは確信を持って勝利を呼び込む事が出来る。
だが、この場にいるたった1人の存在が、ゼッガの動きを鈍らせる。
その人物は太刀を鞘から抜き、戦う意思を見せ付けて来ていた。
「さっきも言っただろうが、俺はもうこれを選んだ。その先がアスト! テメェーの障害になる事もわかっててもな!」
ゼッガは再び身構える。
側近は武器を失いながらも、逆手に剣を持ち戦う意思を持っている。
それはアストも同じだった。太刀を構える姿がゼッガの知るアストの姿、本気の姿であるとわかっていた。
2人を相手に何処まで耐えられるか思考を巡らせる。
もし、この2人の相手が出来たとしても、奥に馬鹿面をぶら下げているゲヌファーが何をしでかすのか、ある意味で1番恐怖を感じていた。
感染兵を使い無駄に暴れられでもしたら・・・。
「ッ!? まさか」
感染兵をつい二度見してしまっていたゼッガ。
再生しているはずの、感染兵が・・・動きを止めていた。見た事のある、光鎖で。
全員の動きが止まった。
それはこの舞台に飛び入りで上り詰めた者の存在を感知したからである。
日が差すガラスが割れる。
1人の小さき存在が飛び出し、ゼッガの隣へと着地した。
「凄い音を辿って来てみれば、凄く凄い事になってますね。力貸しますよ、ゼッガさん」
語彙力が死んでる小さき援軍に、ゼッガは笑みを浮かべずにはいられなかった・・・。
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