第38話 高嶺
王都アルバスは大きく分けて東西南北の区間で区切られる。
北区は先の大戦により廃墟同然にも扱われている。
東区は北区とは真逆な裕福に囲まれた区域。
そして西区は自然に囲まれた豊かな区域である。
争い事を嫌い、他の区域とはある種の別空間を作り上げて居た。
その真たる物の正体は、誰もが扱う魔力の素である龍脈の信仰主義にあった。
龍脈が人間達を支え、今後とも人間と共に歩むべき存在と説く。その教えを広めているのが”竜拝教”と呼ばれる組織であった。
東区などに住むお偉い貴族達には胡散臭いペテン師集団、狂信者の集りと揶揄される事が多くある。
だが、その実態はあまりにも単純な物であった。
弱きを助け、苦しむ者に手を差し伸べるといった、界隈では人としての最後の砦などと呼ばれる事もある程に善行を行う者達だった。
弱き者を捕まえその信仰を洗脳まがいに押し付けているのでは無いか? そう口にする者も居ない訳では無い。
だが、竜拝教の目的にとって教えなんてものは取って付けた様な些細なモノ。
真の目的。
それはあまりにも簡単で、時間が経つにつれ難しくなっていくモノであった・・・。
「急げ! 民間人を避難所へと誘導するのだ!」
「くそッ、なんなんだあの黒い奴ら!」
「とにかく人々を最優先にするのだ! 司教様達は!?」
緑穏やかの西区が赤い争いの炎に染め上げられていた。
人々は逃げ惑い、悲鳴と戦いの音だけが響き渡っている。
「西区警護団と連携を取る為に前線へと向かわれ今も奮闘中との事。本部の竜拝堂には大司教様が今も全体指揮を取られています。他の区からの救援要請も出しているとのこと」
「もう敵は目の前にまで来ているのだぞ! 警護団本部からどれだけ掛かると思ってるんだ! 悠長に救援な」
竜拝教の1人が言葉を止めた瞬間。禍々しい色の魔力光線が辺りを薙ぎ払った。
そして、次々と黒い外装を纏った集団が次々と姿を現しその中心にいるのは、黒い外装の正体である感染兵を作った張本人、ワクレギだった。
「さてさて、掃除もそろそろ飽きて来たところですが」
「な、何者だ貴様ッ!!」
臆する事無く、杖や剣と武器を取り出し立ちはだかる竜拝教の者達。
彼等は竜拝教は自らだけで自警団を作り戦う術を持って居た。時には警護団と共に時には自警団のみで人々を助けるといった、多くに縛られない組織であった。
しかし、今はそんな自警団も警護団と力を合わせてもなお、抑え込む事が出来ない事態になっているのは言うまでも無かった。
「おやおや勇敢ですね、まぁいいでしょう。感染兵の敵では無いという事をお見せしましょう」
感染兵が動き出し自警団の面々が身を構え、そして一気に動き出す。
「奴等の狙いはわからん! だが此処から先へは行かせるな!!」
「「「了解ッ!!!」」」
感染兵の光線が飛び交う中、竜拝教の自警団は各々連携を取り感染兵へと立ち向かう。
光線を盾で受け流し前進を試みるも盾は一撃で破壊されその衝撃で地面へと吹き飛ばされつつもすぐさま体勢を立て直し感染兵の軍勢へと立ち向かう。
「かかかっ、無駄な足掻きを」
「それが・・・我々の仕事なのでね!」
接近する者達を次々と薙ぎ払う感染兵。
しかし彼等前衛で吹き飛ばされる者達は誰一人として諦める事無く足を進め感染兵へと向かい続けた。
ワクレギはすぐさま後方に視線を向ける。
そこには前線で戦う者達のダメージを回復させる支援者達が魔力全開でサポートしていた。
「小癪な真似を」
「今だッ!! 魔力を惜しむなッ!!!」
感染兵が後方に意識を割いた瞬間、次々と感染兵は大きな攻撃を受け始めて居た。
姿を隠して居た者達。感染兵の両サイドには多くの竜拝教の者達が隠れこの時を待って居たのだった。
焼き払う爆炎、雷鳴を轟かせる雷、大地を震わせる岩壁。あらゆる攻撃が感染兵を襲った。
「取り付けぇえ、いっけぇえー!!!」
前線が一気に押し上げられた。
剣を両手に持ち替え魔力を刃へと注ぎ込む。光に満ちた剣を振るい感染兵の腕や足、関節部を集中的に両断していく。
「こちらも撃てますッ!! 下がって下さい!」
「よし、後退急げぇえー!!」
回復役の者達が大手を振るい魔力を圧縮し、身動きが取れなくなっている感染兵の軍勢を見据えた。
「教えに背く偉大なる力で、この戦火に終わりをッ!!!!」
一斉に放たれる巨大な光弾。一寸の狂いも無く同時に感染兵へとぶつけられた。
強烈な輝きと衝撃波が強風となり周囲を襲う。
全員がその場に踏み止まり、渾身の一撃を見守る。
「や・・ったのか?」
土煙で見えない視界の中、多くの者達が固唾を飲んで居た。
倒してた。その結果だけが欲しい空気が漂う。
それ以外の結果は、あまりにも考えたくも無いから・・・。
「まだだッ!!!」
一人の声が響いた瞬間だった。
大量の光線が土煙の中から一斉に放たれ始めた。
「防御陣形!! 急げ・・ぐあぁああ!!」
攻勢は逆転していた。
いや、最初から上回っている事は無かったのだ。感染兵の圧倒的な力の前に、竜拝教達の連携攻撃などは無意味に等しかったのだった。
「素晴らしい光景をありがとう。噂に聞く竜拝教の集団連携、実に見事でした」
「くッ・・・化け物が」
土煙が消え視界が開けた瞬間、戦って居た者達は次々と手に持っていた武器を落としていった。
自分達が全力を持って攻撃していた敵はその身を回復させ始め、その背後からはさらなる数の感染兵がその身を現し始めた。
「何だよこれ・・・こいつら、なんなんだよ」
もはや逃げる気力を失う程の喪失感が空気を汚染していた。
竜拝堂へと向かわせない為にも戦わなくてはならない。
その気兼ねは誰もが今も持っているはずだった。
それでも武器を拾い上げる事が出来ないでいた。
体と心が隔離されてしまう感覚を味わいながら空見上げる。そんな絶望に時間を浪費していくしかなかった・・・。
「では、お別れの・・・ん?」
放心状態の者達にトドメを刺すワクレギはその動きを止めた。
空を見上げる者達の異変に気が付いた。
絶望した状態。もはや何かを抱く事を全身が拒んでいるはずの者達が揃って空を見上げていた。
そして、ワクレギもまた、釣られる様に首を上げ空を見上げた。
「何だ・・・あれは・・!?」
光り輝く一本の線が空を駆け巡っていた。
「橋・・・違う、あれは・・・鎖ッ!!?」
ワクレギがトドメを刺そうとした者の口から言葉が出た。
その言葉、鎖というワードに血相を変えざる終えなかったワクレギ。
もはや考えるまでも無かった。
”奴等”が来た。
「撃ち落とせぇえええええええええ!!!!!」
巨大な光る鎖目掛けて感染兵は一斉射を始める。
狙いは何でも良い。
巨大な鎖でも、そして鎖の上を走る得体の知れない”何か”でも。
上空を駆け抜けるのはこの星では見たことの無い乗り物、それに跨り2人は上空を駆け抜けている。
巨大な光鎖を作り上げ、道に見立て、その上を爆走していた。
「どうだ!? 私の作ったブレイブ・イグニション・ナイト・エスペランサ!!!! 略しBIKEの乗り心地は!!!!」
「悪く無いですわ!! 貴方のくだらない発明の中で1番エレガントな器具ですこと!!」
「空気抵抗がぁあああああああ!!! なんでぇええこんなぁあああああ!!」
先生の発明品の”バイク”を操縦するルジェは人生で1番にテンションを上げていた。そんなルジェの背後に捕まっているのは振り落とされないように必死になりながらウィザライトで道を作ってるインジュだった。
「あら?」
下からの攻撃にようやく気付きルジェは更にギアを上げアクセルを蒸し、バイクを加速させた。
「まさかッ!!!? 嘘ですよね!!!?待ってぇえええええええええ!!!」
一気に速度を上げたバイクの反動でインジュの体は左右に振り回される。
下からの攻撃を避ける為の加速というのはわかるが、インジュは本当にそれだけなのか、ただバイクを楽しんでいるだけなのではと口には出さなかった。
「降りますわよ!」
「あい・・アブソリー・・うぇッ!」
「しっかりな・・・さいッ!!!」
攻撃を避けながらルジェは道を外れ、光鎖の道から外れた。
それはつまり、上空から足場の無い空間へと飛び出した事を意味した。
「うあぁあああああああああああアブリードぉぉおおおお!!!!」
もはや言葉にする間も無くインジュは悲鳴の中新たな光鎖の道を地上目掛けて大量に作り上げた。
上空に作った巨大な一本の鎖では無く、無数に散らばった光鎖の道を作り上げたのだった。
「良いわね! 上出来以上よ!」
「ならスピード少し落としてあぁあああああああ!!!!」
「何だあれは!!!? 早く撃ち落とせ! 早くッ!!!!」
ルジェとインジュの乗るバイクは地上へと猛スピードで近付いていた。
ワクレギも到着させまいと感染兵全ての攻撃を集中させた。
「ライゼーション!!」
感染兵からの猛攻を全て避けつつウィザライトを起動するルジェ。
自らを撃ち落そうと放たれ続ける光線の渦に飛び込む。
「そんな物、もうわたくしには効かなくてよ!」
インジュの作った道を縦横無尽に駆け抜けながら飛んで来る光線を斬り伏せながら着々と地上へと接近していた。
「ななななな、何なんだあれは!!? 馬車!? 荷車なのか!? あんな器具・・・あんな器具僕は知らないぞぉぉおおお!!!」
激昂するワクレギ。
遠くからの遠距離光線では歯が立たないとわかるや否や、次々と感染兵が飛び上がる。
「馬鹿な行動ね、自分から不利な足場に来るなん・・てッ!!!」
アクセルを更に踏み最高速を叩き出す勢いで駆け抜け、1番最初に接敵した感染兵を一撃で両断した。
「な・・にッ」
その光景を見ていたのはワクレギだけでは無かった。
空を見上げ、意味不明の光景を目の当たりにしている者全員に衝撃を与えていた。
「わたくしを止められるものなら、止めてみなさい!!!」
ルジェのテンションは今も上がり続けていた。
道から道へバイクを無駄に飛ばさせ襲い来る感染兵を次々と薙ぎ払っていく様は爽快にも見える光景だった。
しかし、舞い上がっているのはルジェだけでは無かった。
「ライゼーションッ!!」
全ての感染兵が光鎖の道に足を踏み入れたその時を待っていたかの様にインジュもウィザライトを起動させた。
そして光鎖の道が感染兵全てに絡みつく様に動き出し、完全に拘束していた。
「フルスロットルで行くわよッ!!!」
「はいッ!!!」
身動きが取れない感染兵を道標に新たなに光鎖の道が作り出された。
不規則な形の道、しかし今の2人にはそんな道が似合っていると感じていた。一直線で無い、きっと無駄の多い道。
だからこそ全力で駆け抜ける。
アクセルを踏み切り、障害ともなる物を全て、ルジェは一撃で両断していった。
「か・・かか・・・かかかかか・・・がぁあ」
もはや、開いた口が塞がらないワクレギ。
そして、バイクは地面へと無事に着地し、インジュとルジェという救援は間に合ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます