第12話 集い始める、終わりの条件
「なんだあれ?」
「王城が何か凄い事になってないか?」
「え? 何が??」
平穏な青空の中、人々はみな王城にその目を向けていた。
王城が光りを発している。正確には王城の一角が城下町からでも見える程に光りを発していたのだった。
それを目にした人々、何かあったのかと疑問に思う人、すぐ目線を外して自らの日常に戻る人、その光りを綺麗だと口にする人、光りの大きさに恐怖を覚える人、そして・・・。
「止まれ!止まれ止まれ止まれ止まれ!!」
引き千切られたようにして独房を出たインジュ、いやウィザライトから出る光りはその姿を大きく飛躍させ続け、その姿を変貌を遂げようとしていた。
淡い色の魔力はその濃さを増し、触れる物全てに干渉を始める。床は倒壊し、壁は吹き飛び、天井もまた崩れゆく瓦礫へと破壊される。
「逃げろ!! 撤退だ!」
「この化け物め!!」
「怯むな! 増援が来るまで撃ち続けるんだ!!」
王城の警備兵が次々と光弾を撃ち込む。命中した部分の光りは対消滅する兆しを見せていた。だがそれはあまりにも無謀な行いだった。
どれだけの兵が魔力を込めて光弾を撃ち込んでも、広がり続ける魔力の光りが止まる事は一切無かった。
「くそ! 何で、止まれよ!! 止まってくれよ!!」
インジュは叫び続ける事しか出来ない。光りの中心で浮遊しているインジュ。バタバタと全身を激しく動かしても前へ突き出されている左手はビクともしない。どれだけの事をしようと装着されているウィザライトはその光りをただ放出し続けている。
今もなお、目的が見えないままインジュの思惑を一切無視しゆっくりと歩みを続ける。
どうにか出来ないのか、何か無いのかと、試行錯誤をするインジュの目に映ってしまった。
自らが生み出している物と戦っている兵達の姿が・・・。
ー エネミー・オールロック ー
それは唐突にインジュの目の前に現れた立体画面。
「待って・・まさかっ!?」
インジュの思考を読み取るかのように、それは実行された。
ー アブソリード・フルバインド ー
兵達が応戦する光りがその姿を見せる。
「ぐあっ!!!」
「魔力拘束だと!!?」
インジュが扱う力、それが発動した。光鎖は一瞬で迎撃していた兵達を拘束する。上半身を絡め取った光鎖は、そのまま地面へと突き刺さり逃げる事すらも出来ない状態にしていた。
以前インジュが感染物と同じようにした魔力拘束。
兵達は魔力を自らに込め鎖を引き千切るか、破壊を試みるも誰一人としてその捕縛を破る者は居なかった。
そして、次に行われる事。
ー トップセレクト ー
「まさか・・・!」
再び立体画面が表示される。その選択画面にインジュの顔面は蒼白した。
ー パイル ー
まるでインジュが積んだ経験を体現しているかのような行いが今、人の身に起きようとしていた。
「それだけはダメだ・・ダメだダメだダメだダメだダメだ」
インジュの要求は届く事はなかった。
ー アブソリード・フルパイル ー
光りの粒子が再びその形を見せる。先端は杭へ、無数の数の光鎖がその姿を現わす。
兵の誰もが理解した、今から行われる事を。誰もが目を見開いた、その圧倒的な数を。そして誰もが恐怖し、それを受け入れるしかなかった・・・。
「ダメだぁああああああああああ!!!!!」
インジュの叫びは届かない。もはや制御を失っている物へ届ける術は無かった。
それでも、インジュの願いは・・・届いた。
「この願い、聞き届けたまえ」
放たれた光鎖が全て、斬り落とされた。ガラス細工が割れるかのように無数の光鎖はその役割を終えぬままむざむざと粉砕されていた。
「・・・え?」
絶望に打ち拉がれた顔のインジュが目にしたのは、一本の太刀を片手に兵達の前へと立ちはだかる一人の男の姿だった。
「まさか・・・先・・」
その男の正体を口ずさもうとしていた。が、インジュの思惑は外れた。
「王位継承1位!」
「アスト・K・アルバス様!!」
兵達は陥って居た恐怖から一転した表情を見せた。
そんな兵達の拘束をアストは一閃だけで全て破壊した。
「さぁ君達は、王城に取り残された者達の救援を急いでくれたまえ」
「ですがアスト様!」
「大丈夫さ、私は1人じゃない」
そう言って首を横に向けた。その先の人物を見て兵達は直ぐさまその場を退散していった。
気ダルそうにアストの横まで歩く者、その姿をインジュは知っていた。
「ったくよぉ、気持ちよく昼寝してたと思ったら城が滅茶苦茶じゃねーの」
「ゼッガさん・・・!」
「あん? 何だ何だ、ガキー!! まさか反抗期か何かじゃねーだろうな!?」
光りの中心、宙に浮かぶインジュに対して余裕綽々のまるでいつもの様子で見上げる素ぶりのゼッガ。
人を殺さなくて済んだ、そしてあのゼッガの登場によりインジュは小さく息を吐いた。
ー アブソリード・パイル ー
当然、安堵するにはあまりにも早すぎる。
ゼッガとアストの2人が現れた事により、ウィザライトから出る光りはその輝きを増した。
巨大な光鎖が2本、目にも止まらぬ速さで2人を襲う。
「知り合いなのかい?ゼッガ」
「別に大した付き合いじゃねーよ、たまたま感染者討伐に力貸しただけだっつうの」
光鎖の攻撃は2人を射止める事は出来ずただ地面へと突き刺さるだけの結果に終わった。
「へー、友達なのか。ふふふゼッガにしては珍しいね」
「あん!? あのガキぶっ叩く前にお前を八つ裂きにしてやろうか!」
ー ブランチ ー
突き刺さった光鎖の巨体から枝分かれした無数の光鎖を放ち始める。
迎撃を始める2人。太刀と大斧が光鎖を打ち払う。一箇所に留まらず迫り来る光鎖よりも素速く駆け抜け、無限にも等しい光鎖の雨を防ぐ。
「よかったら私にも紹介してくれたまえよ。彼、凄く興味があるよ。斬り飛ばした魔力から凄い物をたくさん感じるんだ。君もそうだったんだろ?」
「何が凄いだ。何でもかんでも凄い凄いって言う癖、相変わらず気にくわねぇ」
「それは、侵害だ。この世は凄い物で満ちている、どれだけの物がこの星にあると思う? 一粒の砂も、こう言った瓦礫も各々に凄いたくさんの物語が・・・」
ー アブソリード・フルバインド ー
「あっ」
足元に落ちていた瓦礫を手に取っていたアスト。まるでその隙を逃さんとした魔力拘束が発動した。
先ほどの兵達と同じようにアストは光鎖でグルグル巻きにされて、完全に身動きが取れないようになっていた。
「ゼッガー!? これ中々外せないよー凄い凄い! お願い外してー? その”似合わない斧”でさ~」
「知るか! 勝手に死んどけ!」
ー アブソリード・フルパイル ー
畳み掛けるように発動していく。軽々しい口調のアストではあるが、本当に抜け出せない様子を見せていた。
それでもアストの顔に焦りは一切無い。拘束されている自分、目の前に姿を見せる光鎖の杭、それら全てを自らの神経全てで今を感じているかのようだった。
「あー確かにこれは食らえないね」
本来であれば直ぐに放たれる光鎖の杭は形成に形成を重ねていた。通常の攻撃ではアストを仕留めきれない。それを理解しているかのように時間を掛け確実に仕留めようとその形を整えていた。
そしてその準備も十分に為された瞬間だった。
「理に従い、世界の為に・・・!」
それは、インジュと戦った際にルージェルトが口にした物と同じだった。拘束していた光鎖は粉々に砕かれ、空かさず太刀を両手で握り締め迫り来る杭に視点を合わせる。
「そー・・・っれ!!」
一刀両断とはまさにこの事だった。斬り上げられた一刀、アストの目の前に覆っていた光りさえも晴らした。
光鎖の杭は真っ二つに割れ、アストの両脇にその死骸を残しながら静かに消滅していった。
「いやー怖かったぁ。ー間一髪だったよーあはははー」
「その思ってもいねぇー口調やめろっつうの」
再びゼッガはアストの横に立ち共に見上げる。
2人が見ている者、それは光りの中心であるインジュだった。
「おーいガキー! お前これどうすんだよー!」
口に手を当て大声で聞くゼッガ。掛けられた言葉に親しみを感じながらもインジュは改めて力を振り絞る。だが、結果を変えるほどのモノは今のインジュには無かった。
「ごめんなさい・・・。どうしたって止まらないんです」
「ちっ! となると」
顎に手を当て考えを巡らせるゼッガ。そんなゼッガにも光鎖の攻撃は次々と襲って来る。
「邪魔くせぇーんだよ!!」
大斧を高らかに掲げ向かって来る光鎖に振り下ろす。ゼッガの一振りで周囲の魔力が霧が晴れるかのように消し飛ぶ。
それでも消滅した光鎖と光りは直ぐさま姿を現しゼッガ達の攻撃の無意味さを知らしめていた。
「考えてくれたまえゼッガ。関係の少ない私の頭じゃあ褒められた案は出せないよ」
考案を求めながらも迫り来る光鎖を斬り伏せていく。太刀を下から上へ振るい、その遠心力にで飛び立つアスト。魔力方陣を展開し足場を形成し光りの中へ飛び込む。
高速で直進するアストへの迎撃、無数の光鎖の杭がアストへ向けて撃ち込まれるも、目を見開くアストはまるでその全ての軌道が見えているかのように全てを避け切る。
そして、アストは視認した。今も宙でジタバタともがくインジュの姿を。インジュもまた自分に近付く人影を感じ取った。
「この人が、王位継承1位・・・」
「まさか・・・君は・・・」
2人の目線が合った。お互い目を離す事が出来ずにその一瞬にも関わらずあまりにも長い時を全神経で感じ取っていた。
インジュは初めて見た王位継承1位の姿に目を奪われた。アストという人物がこの王都アルバスで最も王に近いと呼ばれる存在であると。
アストもまた同じようにインジュの姿に目を奪われていた。初めて見るはずのインジュの姿に思考が追い付いていないかのようなその様子をアストは晒してしまった。
「止まって下さい!!!」
「え?」
ー アブソリード・フルロール ー
2人の間を引き裂くかのように、高速で回転する光鎖が姿を現わす。
すかさずアストは太刀を前方へと向けるも、反応が遅れてしまった。注意を怠って居なければ盾の役割として現れた回転する光鎖を叩き斬っていたに違いない。
「んっ・・これはちょっとキツいかな」
衝突を防ぐ為に太刀を防御に使ったアストは、一度離脱を選んだ。あのまま邪魔をする光鎖を両断するのは容易だったに違い無いが、それが狙いでもあった。
一切捉える事の出来ないアスト。それは対峙している時の話であり、光りの真っ只中でその身を止める事が出来たのであれば結果は見えない。そんな術中にハマる必要性を感じられないアストが一度離脱する選択を取ったのは妥当だった。
「んー・・・本当にこれは困ったなー。あの”左手”を斬り落とせないものかと思ったけど」
ゼッガとは反対側の地上へ無事に着地した。そしてアストは小さく呟く。その言葉はインジュにも聞こえていた。当然、インジュに聞かせる為にアストは口走った訳では無い。
「左手・・・僕の」
インジュはゆっくりと左手に装着されたウィザライトを見る。
原因はわからない、けれどこの光りを放っているのは間違いなくこのウィザライト。暴走なのか何なのか、今のインジュがわかるわけも無いし、この場にいる者達もわかるわけは無い。
今もその輝きは収まる事を知らず増すばかり。
これ以上このままでいる訳にはいかない、そんな事はインジュが一番わかっている。もし仮に”それ”をやったらどうなるのか。アストの言った通りの事をしたらどうなってしまうのか・・・。
インジュの脳裏には、走馬灯が駆け巡った。
初めてウィザライトを起動した時の事、初めて魔力を扱った時の事、ウィザライトのお陰でもらった感謝の言葉、ウィザライトの力で出来た共に戦えた時間。
その出会いは今まで生きていた中ではあまりにも短く、刹那にも思える時間。重ねてきた経験の量で言えば僅かにも等しい物。
(でもそれは、叶えられた。僕の夢)
一滴のだけの涙、それを零す事で決意は固まった。
夢は、いつか覚める物なのだと・・・。
「待てぇえええーインジュゥゥゥゥー!!!」
「ッ!?」
全身の力を左手に向けようとした瞬間。大声で叫ぶ声にインジュの動きは止まった。
声を発した者、自分の名前を呼んだのはゼッガ。
そして・・・。
「覚ましてはならないその夢を、次の夢に繋ぐ為に・・・そうだろ? 少年」
ゼッガの肩の上に小さな人影が一つ見えた時、インジュの一滴しか流す事が出来なかった目からはその多くを零し続けたのだった・・・。
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