第13話 足りない配役、揃い始める舞台

王城での戦いは続いている。

制御を失っている魔力の放出に立ち向かうのは2人。王位継承1位を持つアストと、北区でインジュと共に戦ったゼッガ。

2人の力は圧倒的な物だった。どれだけの技を繰り出そうと全て打ち伏せられ、ありとあらゆる手段を使おうと顔色一つ変える事も出来ないままだった。

しかしそれは2人も同じ状況だった。目の前に漂う視認できる魔力を払う適度、自分達に向けられる物の迎撃と、対処は出来ても問題解決の対応は出来ないでいた。


そんな状況下の中で活路は見出される。1人の男、問題の中心人物であるインジュをここにいる者の中で一番知っている人物が現れた事で打開策は生まれた・・・。


はずだった。


「だからさぁあ!! 何回説明すればいいのかなぁあー!!あぁあああん!!? 君は馬鹿だねぇ本当にさ!!! コミュ力雑魚とかのレベルじゃないよね!!? 脳味噌があっても使い方わからない系男子かな??えぇ!!? 生命の誕生からやり直したまえよ!!」


「うるせぇえええええええ!!! 耳元で騒ぐな先公!!! 頭が壊れるだろうがぁああああ!!! アァアアアアアアア!!!!!!」


そう、はずだったのだ。かれこれウィザライトの開発者である先生の登場で状況はすぐに一転すると思われていたが、同じやり取りばかりが繰り返され一向に進展を見せないままであった。


「もしもーし、ゼッガ?? 誰かと通信してるみたいだけの少しいいかい?」


放たれ続ける光鎖を振り切り続けるゼッガ、それは先生との通信に割り込んできたアストも同じであるが流石に静観してられなくなった為に間に入った。


「彼の保護者さん? が彼に接触すれば問題は解決出来そう。自分で直接向かえないからゼッガや私に力を貸して欲しい、という事でいいのかい?」

「お前なんでわかんだよ!?」

「寧ろなんでお前がわかないんだよ!!!?」

「いやまぁうーん、独り言聞いてれば誰でも察す・・・いや何と無くだようん」


時間は刻々と迫っている。これ以上の問答は必要ない。

ゼッガとアスト、2人は改めて構える。


「作戦目標、インジュ少年に私を接触させる! その為の活路を切り開きたまえ」

「ったく、最初からそう言えよな」

「ははは、これ以上王城は壊されたら凄い困っちゃうからねー、力貸させてもらうよ」


各々がタイミングを計る。その隙、光鎖の雨が止み相手もまた何かを感じ取ったのか様子見の時間が生まれる。

硬直状態、アストはその表情に笑みを浮かべながら状況を楽しんでいる様子を見せ、ゼッガは殺意の篭った念を送るように視界に全てを写す。

皆が全力でインジュを救おうとしている。その事にインジュはあらゆる感情を胸に秘めた。しかし今はそれを吐き出す訳にはいかない。目の前を見据え、己が出来る事の全てを1秒の狂い無く行えるように心掛ける。

それがこんな状況になってしまったインジュの最初の償いだった・・・。


「今だ!!」

「行くぞ!!!」

「承知した!」


静寂の殻は破られた。

最初に動き出したのはアストだった。太刀を振り回しインジュのいる真下に巨大な魔方陣を展開する。

巨大な魔方陣は、次々と光りを吸い出していた。輝く光りが次々と地表へと吸い寄せられ膨大に膨れ上がったその存在を徐々に縮小させ始めた。


ー アブソリード・ フルバインドー


対応は早く、すぐにアストが展開した魔方陣を上書きするかのように光鎖が無数に敷き詰められようとしていた。外側から覆うように光鎖が姿を現わす度に吸われる量は激減していく、次第に溢れ出している光りが相対的に勝る結果になりつつあるが。


「沈下・変甲!!」


アストの魔方陣を上書き、その行動はゼッガによって止められる。大斧を地面へと突き刺し地震を引き起こしアストが展開した魔方陣の地盤が一気に持ち上がる。

覆っていた光鎖は地盤の上昇に伴い引き千切られる結果へと変わり、それは同時に光りを吸い込み始めるのであった。


「んっ! これは・・え、うわっ!!」

「よし、上手くいった。ゼッガ!」


側から見た場合のアストの魔方陣の目的は、光り縮小。だが本来の目的は違った。

宙に浮かぶインジュを自分達の立てる地上へと叩き落とす事に意味があった。宙に浮かぶ力を失ったのか、抗う事が出来なくなったのか、インジュは落下していきゼッガの押し上げた地盤へ激突した。


「生きてるかーーい!!」

「だだ、大丈夫ですー!!! 僕なんかには構わ・・・。ぐっ!?」


インジュの無事が確認出来たのもつかの間、インジュの周囲にはまるで鎖の森林を作り出すかのように次々と地盤から鎖が生え出していた。

激突した痛みに構う間も無くインジュは立ち上がろうと体を起こす。だが両足に力を込めて動こうとした瞬間、自らの全身が光鎖で拘束されてしまった。


「なんでここまで・・! ぐぅぅう!!」


もしかしたら最初で最後のチャンスだったのかもしれない。アストとゼッガの連携、阿吽の呼吸で一転した状況。それをインジュ自身は手にする事が出来なかったのか。


「まだ終わりじゃないよ!」

「始まってもいいねーんだよ!!」


前方にゼッガ、そしてインジュの後方にアストが駆け寄ってくる。目指す場所はたった1つ、中心で泣きべそを書きそうになっている者の場所。


「鎖の木々、これはまたとんでもない場所に迷いこんでしまったようだねぇ。僕達を奥へ入れさせないように必死じゃないか」

「それだけ焦ってんだろうな! 俺達の勝ちは近付いてる証拠だ、おらぁああー!!!」


次々と生え伸びる光鎖を刈り取りながら進む2人。地面から伸び始める苗を踏み付け、束になって襲い掛かる枝を打ち払い、育ち切った大樹をも一刀両断して前にどんどんと進んで行く。


ー アブソリード・・・アブソ・・トップセレクト・・ ー


インジュの前に現れる立体画面の数は膨大だった、しかしその実行数の限界を完全に超えていた。それどころか、どの行動が今も進み続ける2人を止める事が出来るのか処理が追い付かないまで陥っていた。


「貰ったよ!!」


もはや打つ手は与えられなかった。インジュのもとに一番したのはアストだった。


振りかぶった太刀がインジュへ向けて斬り下ろされる。

同時にインジュを覆っていた光鎖はいとも簡単に吹き飛び、破られた。


「これで後は・・・」

「下です!」


インジュの呼び掛けに視線を向ける。アストの足首に絡もうと潜んでいた苗が1つ、アストはすかさず足を上げて踏み潰そうとするが。


「えぇえええー!!!?」


地面を力強く踏んだアストの地面が突然姿を消した。


「落とし穴ってそんな古典的なぁあああああああ!!! ゼッガー後は頑張ってぇええー!!!」


地盤の中へと消えて行くアスト、落とし穴の表面に蓋がされ何事もなかったかのように消えていった。


「油断し過ぎだあの野郎!!」


しかしゼッガもすぐそこまで来ていた。自分を縛り上げていた光鎖はもう無い、ならばやる事は一つしか無いとインジュは一歩踏み込む。

だが、足が思うように前へ進める事が出来ないでいた。引っ張られている、押し込まれている、あらゆる事がインジュの脳裏に浮かぶ。


「それ・・・でも!」


今は向かわないといけない。一心に思う事はたったそれだけだ。


「ゼッガさん!!!先生!!!」

「インジュっ!!!」

「少年!!!」


これまで一切動かす事の出来なかった左手をインジュは動かす。ここで動かせないのならば左手を切り落とす、むしろ切り落ちてでもこの左手は動かさなくてはならない、歯を食いしばる場面はもはやここしか無い。全身全霊を掛けなくてはいけなかった。


「言う事を・・聞けぇえええええええええ!!!!」


今もなお反抗を続ける左手、しかしインジュの叫びと共に徐々に上げられる左手はついにインジュが思う描くように伸ばされた。


「これで・・・!」


目の前にはインジュと同じように左手を大きく伸ばすゼッガ、その手の上には小さい立体映像の先生が乗っている。

インジュにその目論見はわからない、けれど左手のウィザライトに先生を迎え入れればきっと、この戦いは終わりを告げる・・・。








ー アブソリード・スパイラル ー




その画面は無慈悲に表示された。



「ぐぅぅ・・! がはぁっ・・!!!!」


ゼッガの武器である大斧は粉砕された。

その身をえぐられ、血を吐くゼッガ。希望から絶望へと移り変わる表情のインジュ。


「ゼッガ・・・さん」


最後の抵抗。それは一度もインジュが使った事のない攻撃の一つ。使うまでも無い強い力であり技、それが本当の最後のチャンスを潰す事になった。


もはや言葉にすら言い表せない衝動がインジュを襲おうとしていた。


「まだだっつぅうのぉお!!!!!!」


踏み止まるゼッガ。粉々になったはずの大斧の破片達が魔力を帯び、光鎖の光りよりも眩い輝きを放ち出す。


「今から、始めてやるよぉおおお!!!」


ゼッガは叫ぶ、そして自らをえぐる螺旋の光鎖を握り掴む。ゼッガの手に粉々になったはずの大斧の破片が光り輝き取り付けられて行く。


「俺を・・・舐めんなぁああああああ!!!」


螺旋光鎖が一撃で粉砕された。

大斧の破片がゼッガの見た目を変えていた。両手には人の物とは思えない程の大きさの”鉤爪”が姿を見せていた。

以前アストは口にした、”似合わない大斧”と。その言葉の正体はこのゼッガの姿だったのだ。


攻撃が直撃しインジュと距離を離されてしまったゼッガ。えぐられたダメージに膝をつく事なく己を鼓舞するかのように膝を殴り言い聞かせた途端に飛び出す。これ以上の時間を失わせない為に。


「うおぉおぉおおおおおおおおおー!!!!」


インジュの見せなかった大技、ゼッガの本気の姿。

これが最終局面。ゼッガを迎え撃とうと光鎖は最後の力を振り絞り出す。

回転する光鎖、杭へと変化させた光鎖、無数に枝分かれさせる光鎖、切り離され自立して動く光鎖、そして螺旋状に渦巻く光鎖。

あらゆる攻撃を駆使してゼッガを阻止しようと全力を振り絞っている。


「ぐぅぅう! 吹き飛べぇええええええ!!!」


鉤爪を盛大に振るい全ての攻撃をかき消し前へ進む。次々に襲い掛かる物全てを破壊し続け進むゼッガ、その姿はまさに一騎当千以上の物に映る。しかしそのゼッガの息は上がる一方だった。

生身の人間が螺旋の光鎖を直撃して生きているだけでも奇跡に等しい。にも関わらずゼッガは戦い進む。


どれほど強く、勇敢で屈強なゼッガでも繰り返される猛攻を致命傷のある身体で失敗無く戦う事は難しかった。


「ぐぅ! しまっ・・・!!」


巨大な光鎖を受け止めた時だった。ゼッガの身体から血が吹き出し激痛を浴びさられた。

目の前の光鎖を粉砕するも、その場でついに膝をついてしまった。

その隙を当然見過ごす訳は無く、休む暇を与える事ない光鎖がゼッガへ向けて撃ち込まれる。


「ゼッガさん!!!!!」


トドメの攻撃。今のゼッガに対処を許す事の無い攻撃。

その攻撃がゼッガへと届く事は無かった。


魔力が形成した無数の”刃”。

ゼッガに襲いかかろうとする光鎖を魔力の刃が斬り落としていた。

誰かの援護。その誰かをゼッガは知っていた、しかし感謝はしなかった。

笑みだけを浮かべゼッガもまた最後の力を振り絞る。


「行くぞガキィィィイィ!!!!」


道は出来ていた。援護してくれる刃撃がゼッガを襲う光鎖を迎撃している。もはやゼッガはただ走るだけ、その足を動かし続け向かうだけ。

そして、この戦いの終局が訪れるのだった・・・。


「ほらよ、はぁはぁ・・・世話がやける」


ゼッガは差し出され続けていたインジュの左手を取り、幕は引かれた。










「ふあぁー!! やっと出れたー!!」

「ひっ!? どどど、どっから出てきてんのよあんた!!」


それは丁度戦いが終わった時の事。ゼッガ押し出した地表に半ば埋め込まれたアストは地道に掘り進めてようやく外に出てこれた。そんなアストを迎えたのは、最後の最後にゼッガを援護した者は、ルージェルトだった。


「なーんだ、来ていたのなら手伝ってくれてもよかったのに。君がちょちょいってやってくれた方が早く済みそうだったろうに」

「はぁ!? ちゃんと・・・ふんっ、なんでわたくしがそんな無意味な事を」

「えー?だってあのままだと・・・あーはいはい思い出しましたよー。君はまだ根に持ってるかい?」


アストの言葉。最後に掛けた言葉に顔色を一変させた。


「根になんか持ってないわよ・・・。わたくしはずっと思い続けているだけだから」

「そんなに、嫌いかい? ”この王都”が」

「王都じゃないわ・・・わたくしが嫌いなのは・・壊したのは、”この世界”ただ一つよ」


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