第7話 ダンジョン攻略①

 4人でダンジョンに向かう最中、ひとつだけ疑問に思ったことがあったので聞いてみた。


「セレナってさ、ダンジョン内で何の魔法が使えるの?」

「一応支援魔法や回復魔法は使えるわよ? まあどれか1回きりなんだけど」


 つまり攻撃には期待できないということだ。


「お前は荷物持ちな」

「……わかった」

「ハルト、あそこのダンジョンだ」


 あれがダンジョンか、神殿みたいな見た目をしてるんだな。ジークの情報によると地下5階まであるらしく大きさは小さいらしい。


「そういえばジークさん。このダンジョンって既に探索されていないんですか?」

「探索はされているが最深部までは探索されていないらしい。どうやら敵が相当強くてな」

「まじかよ。ワンチャン俺死ぬんじゃね?」

「安心してハルト。もしもの時は私がフルパワーで回復させてあげるから」


 回復魔法の質ならローラよりも何倍もセレナ方が上だろう。まあ1回きりなんだけど。


「じゃあ行くとするか。ジーク、先頭を頼む」


 好奇心と恐怖心が混じりつつも、俺たちはランタンの光を頼りにダンジョンの攻略に向かった。




「俺たちの活躍の場がないんだけど!」


 ジーク1人で十分だった。最深部である5階の敵ですらも簡単に倒していく。


「やっぱりジークさん強いですね。どうやったらそんなに強くなれるんですか?」

「これもメタスラ狩りのおかげだ。皆も上手く狩ることが出来ればここまで強くなれるかもな」

「へぇ、じゃあ俺もジークみたいになれんのか?」

「夢見すぎ。せいぜい1人でクエストに行けるくらいでしょ」

「期待値低いな」


 まあそう思うのも仕方ないだろう。ある程度戦闘にも慣れてきて分かったのだが、人によってステータスの伸び方は異なる。そして俺は異様にステータスの伸びが低い。世界を救う勇者になれって言われてるのにこの不遇っぷり。やっぱりこの世界はクソだ。


「にしても宝が見つからないな。本当に俺達が初めて漁るんだよな?」

「ああ、間違いないと思うんだが……ん?」


 何故かジークが壁を凝視し始める。そしてジークは壁に手を当て力をいれた。

 ガコッっという音と共に壁が開き始める。いかにもダンジョンっぽいシステムでテンションが上がった。


「雰囲気変わったな。ハルト気をつけろ。おそらく敵は手強いぞ」

「死なないようについていきます」


 死は1度経験している。もう二度とあんな苦痛を味わうものか。だから俺はジークにおんぶにだっこする。勇者がそんなにダサくていいのかって? いいよ。生きるためならなんだってしてやる。


「ハルト、そんなにくっつかれると興奮するのだが。これOKという事でいいんだな?」


 今までの経験の中で1番命の危険を感じ俺はジークから離れた。




「これといった宝は無かったな」


 どこを漁ってもでてくるのは敵のみ。宝の気配はまったくなかった。


「帰るか。ジーク先頭頼む」


 そう頼んだ瞬間、誰かにケツをモミモミされた。


「……ジーク、ふざけんな」

「? 一体なんのことだ?」

「とぼけんな! お前俺のケツを……」


 急に体がガチんと固まる。それと同時に持っていたランタンの火が消えた。


「え? 何急にどうしたの? 何も見えないんだけど」

「ま、まずいですよハルトさん。このままじゃダンジョンの外に出られないなります」


 目の前に暗闇が広がり、2人の混乱する声が聞こえる。聴覚もしっかりと働く。なのに、体が動かない!? 助けを呼ぼうにも声を出せなかった。


「これは……まずい! 皆伏せろ!」


 ジークの声が聞こえた。しかし体は動かない。そう思った瞬間体が動き始めた。しかし体は自分の想像通りには動かない。そして俺は暗闇の中ある場所まで歩く。そして動きが止まった。


「ハルト! 返事をしてくれ! まずい……乗っ取られた!」


 乗っ取られた? 一体どういうことだ?


「ハルトは近くにいるか!? 今お前の体はゴーストによって乗っ取られている。本体見つけるまでの間しばらく耐えてくれ!」


 耐えるも何も別に苦痛の事はない。ただ体が勝手に動くというだけだ。


「怖いです……」


 足元からローラの声が聞こえた。そういえばゴーストは何でここまで歩かせたのか……!? また体が勝手に! 今度はゆっくりとかがみ込んだ。


「あ、これやばいやつだ」


 わずかに声が出る。この瞬間ゴーストの狙いが分かった。そして同時に俺は死を覚悟した。

 予想通り。俺の右手は勝手に動き始まる。その動きは何かを揉もうとしているようで……そして状況を整理する。今俺の足元には……


 モニュッ


 柔らかい感触が手をおおった。ケツだなこれ。間違いない。


「てめえ誰だ」

「ローラ、落ち着け、俺は操作されただけなんだ」


 ジークが本体を倒したのか、もう体は不自由なく動く。その瞬間ランタンの火が再び灯る。そして俺の目の前には……


「死ね」


 人とは思えない顔をしたローラが立っていたのだ。


「ジーク助けてえええ!!!」

「死ねぇっ!!」


 キィィィン!! 間一髪ジークの大剣が間に挟まる。あぶねえ、まじ死んだと思った。


「え、ローラ? どうしたの!?」

「なんだこのパワー……どこからそんな力が」

「気をつけろ2人とも! この状態になったローラはやべえ!」


 目の前でローラとジークの激戦が繰り広げられる。あのジークと互角に渡り合える力……いやなんならローラの方が押してる。まずい!


「ねえハルトあれ何!? ローラどうしちゃったの! ねえどうしちゃったの!」


 セレナは明らかに動揺していた。まあ初めてみたから仕方ないが、てか2回目でも怖すぎる。本当にローラは何者なんだ?


「あ、あ、あ、ああああ!!!」

「ちょセレナ! 落ち着け! お前までイカれたら対処しようにもできないだろ!」

「あ、あ、ああああ!!!『ファイア』!!!」

「え? ちょっと待てセレナ!」


 とてつもない騒音と爆風が俺達を襲う。しばらく経ち砂埃が落ち着き、ようやく前が見えるようになった。


「ローラは気絶したか……」


 ここでローラに殺される心配は無くなった。しかし……


「おいセレナ」


 近くにいたセレナの首を掴み身の前の光景を見せつける。そこに見えたのは……


「どうしてくれるんだよぉぉぉ!!!」


 爆発によって落下した瓦礫が道を塞いでいた。


「どうやって帰れってんだよぉぉぉ!!!」


 もう異世界ファンタジーなどしたくない。

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