第4話 人は見た目で判断するな
あの後俺らは急いでギルドへ帰り、凄腕のプリーストに治療をしてもらった。今はボロボロの服を変えるためにセレナの家に向かっている。
「ハルト。一体何があったんだ?」
「ニールさん。俺もよく分かっていなくて」
何故あんなにボロボロだったのか、何故俺らに出会ったときあんなにも怯えていたのか。理由はまだ分かっていない。
「出来ればその事について聞いて欲しいんだが、それが原因で取り乱すこともある。ある程度は触れない方がいいだろう」
「そうですね。暫くは触れないようにします」
理由が気になってはいたが、ニールさんの助言ですぐには聞かない事にした。
「……まさかな」
「ニールさん? 何かあったんですか?」
「いやなんでもない。おそらく俺の勘違いだ」
ニールさんは考え事をしているのか黙り込んだ。そのニールさんの表情が少し悲しんでいるように見えたのは気のせいだろうか。
「あ、ハルト! ちゃんと着替えさせてきたわよ」
「お、ありがとなセレナ」
「あ、あの……ここまでしてくれて本当にありがとうございます!」
そう言い深々とお辞儀をする少女。
「えっと、名前を教えてもらってもいいかな?」
「ローラです。ハルトさんですよね? セレナさんから教えてもらいました。本当に助けてくれてありがとうございます!」
またしても頭を下げるローラ。
「そんなに気にしなくていいよ」
「えっと、助けてもらってお礼に何かお詫びをしたいのですが……」
「お詫びなんてそんな」
「私の気が済まないんです! 何かお礼をさせてください!」
困ったな……別にそこまでして欲しくはないのだが。
「なら私達のパーティーに入ってくれないかしら? 私達だけじゃ戦力不足だし、それがいいでしょ? ハルト」
「まあ、入ってくれるなら嬉しいんだけどさ……」
最弱能力である俺とまともに魔法を打てない魔法使い。こんなパーティーに入れるのは気が引けて仕方がなかった。
「それで恩が返せるのなら是非とも入らせてください!」
まあ本人が望んでそうだしいいか。
「じゃあ改めてよろしくなローラ」
「はい! よろしくお願いします!」
「ねえローラ? あなたはまだ冒険者登録をしていなかったわよね? まずは登録してきたらどう?」
ということでローラは冒険者登録をするために受付へと向かった。
「まさかこんな形でパーティーメンバーが増えるなんてな」
「ラッキーだったわね。でもあんなにボロボロで見た目も貧弱そうだし、大きな戦力としては見れないと思うけど」
「それお前が言う?」
そんな会話をセレナとしているとギルド内が大きく揺れ始めた。一体なんなんだろうと人混みに混ざりに行くと、中心にはローラと受付嬢がいた。
「体力や攻撃力などの物理系のステータスは低いですが、もともとの魔力保持量やサポート系の魔力が異常に高いですよセレナさん! しかも最初から支援魔法や回復魔法が使えるなんて……凄すぎます! あなたはこのギルドの希望です!」
「え!? いやそんなことないですって……」
どうやらとんでもない程のチートキャラだったらしい。
「なあセレナ。本当にあいつは俺たちのパーティーに入れてもよかったのか?」
「ま、まあ……魔力保持量の高さやサポート系の魔法なら私もめっちゃ高いし、なんなら私は攻撃魔力も物理系ステータスも高いし……」
「これだけ聞くと強いんだけどなぁ」
セレナがこっちを見て睨んでいるが、反論もできず何も言わなかった。
「あ、ハルトさんセレナさん! 登録終わりました!」
「そ、そうわね。まあこれで晴れてあなたも冒険者の仲間入りね。先輩である私に着いてきなさい!」
「はい! 勉強させてもらいます!」
先輩らしく振舞ってはいるが、こいつはローラに一体何を教えられるというのだろうか。
「登録も終わったことだし何かクエストにもいかないか? あと少しでもう1つレベルが上がりそうなんだ」
「分かりました。ついていきます!」
「私はパスするわ。もう魔法が使えないから行きたくないのよ」
「お前は固い肉体でも使って盾にでもなってくれ」
「レディーに向けて何いってんのよ!」
「痛い! 痛い! ちょ死ぬ死ぬ! お前バカ力なんだから少しは手加減しろや!」
こいつは魔法使いをやめて剣士にでもなった方が役に立つんじゃないか? そう思うくらい力が強かった。
「大丈夫ですか? 少し回復魔法をかけておきますね」
ローラは俺の体に触れると触れた部分が優しい光に包まれた。それと同時に痛みも引いていく。
「すごいな。やっぱ才能あるよローラ」
「ありがとうございます」
やっぱ俺たちのパーティーだと宝の持ち腐れだよな……
「じゃあセレナは行きたくないらしいし、俺たち2人で行くか」
「分かりました。では行ってきますねセレナさん」
「え? いってらっしゃい……」
少し寂しそうに手を振るセレナ。だったら着いてくればいいのに。そう思いながらクエストに向かった。
向かった場所は今朝と同じく森の中。まだいるであろうゴブリン狙いだ。
「基本的に戦闘は俺が引き受ける。ローラはサポートに専念してくれ」
「分かりました。では支援魔法をお掛けしますね」
そう言って少し詠唱を唱え支援魔法を掛ける。かなり体が軽くなった気がした。
「おおすげえ! これなら誰が相手でも倒せそうだ! それじゃ行ってくる!」
俺は剣を取り出しゴブリンの群れに飛びかかった。
「ローラァァ!! 助けてくれぇェェ!!」
そうだった。俺能力弱弱だったじゃん。支援魔法があったとはいえ、元のステータスがゴミだったら意味がなかったやん。
「ええ!? ちょまずいですよ!? ゴブリンの群れがこっちに向かって……」
「逃げるぞぉ!!」
支援魔法のおかげで逃げる時に息切れはしなかった。しかし足の遅さはどうしようもなかった。
「やばいこのままだと追いつかれる! ローラ! お前は先に逃げてくれ!」
「えぇ! でも……キャッ!」
ローラは木の根にひっかかり大きく転んでしまった。このままじゃ2人まとめてボコされてしまう!
「もう終わりだァァァァ!!」
ゴブリンが俺達に攻撃をしかけようとした、その時だった。
「え?」
1匹のゴブリンが大きく吹っ飛んだ。それに怖気付いたのか動きを止めるゴブリン達。
「何が起きてるんだ?」
ゴブリンを吹っ飛ばしたのは間違いなくローラだった。でも物理系のステータスは低いはずじゃ……
「よくもまあ舐めた真似してくれたなぁゴブリン共。まとめて殺してやらぁ!」
今までのローラとは違う口調だった。雰囲気も全く違う。そのオーラに俺も怖気付く。
するとローラは拳でゴブリン達に攻撃を仕掛けた。一体何が起きてるんだ?
「死ねぇ!」
大きく暴れるローラのポケットから1枚の紙が落ちた。それを拾い上げ見てみるとステータスカードだった。
「何だこのステータス!? どうなってんだあ!?」
書かれていたステータスはセレナの物理系ステータスを大きく上回る程の数値だった。あいつ物理系ステータスは低いんじゃなかったのか?
「ちょローラ! 一旦落ち着いてくれ! ゴブリンも逃げの姿勢に入ってるから!」
そう叫んでも聞こえていないのか、次々とゴブリンを殺めていく。するとローラは1匹のゴブリンを掴み取り、頭と胴体を持つ。それを横に大きく広げて──
俺はこの世界に来て、大きなトラウマを抱えてしまった。
「オエエエ!!!」
あまりのグロさに吐き気が止まらなかった。目の前に現れたのは少し返り血を浴びたローラだった。
「だ、大丈夫ですかハルトさん! 少し回復魔法を掛けますね」
「い、いや大丈夫。それよりもお前今さっきのは……」
「? 一体なんのことですか?」
こいつさっきまでの記憶がないのか? 今までゴブリンを惨殺していた人間とは思えない表情だった。
「もう帰ろう。今日はもうモンスターを狩る気が起きない」
「分かりました。私も疲れましたし、セレナさんの所まで向かいましょう」
俺はこいつをパーティーメンバーに引き入れたとこをすごく後悔した。
「おかえり2人共……ってあれ? ローラ、その血は何?」
「え? 本当ですね。何ででしょうか」
さっきの光景を思い出し震えが止まらない。
「ハルト大丈夫? なんかすごく怯えているようだけど」
「大丈夫大丈夫、本当に大丈夫……」
全く大丈夫じゃないんだけどね……
何故あんなにボロボロだったのか。何故あんなに才能に溢れたステータスをしていたのか。何故あんな暴走を起こしステータスが急変していたのだろうか。こいつについてはまだ知ることが多いようだ。
「ならいいけど、ハルトはレベルがあがったの?」
「何とか1匹だけ倒して上げれた。あとスキルポイントも得れたし、これでなんかのスキルでも習得しようかな?」
「わかったわ。ハルトはスキルの習得方法知らないだろうから、私が教えてあげるね。ローラも覚えておくといいわよ」
セレナは俺のステータスカードを使って説明を始める。
「ここにスキル一覧ってあるでしょ? ここから好きな魔法を習得していくの。習得したい魔法があったらその名前を指でなぞるのよ。必要なスキルポイントがあればそのスキルは習得できるわ」
なるほど。完全にゲームと同じだ。思ったよりも新規に優しい世界だな。
「でも俺魔法の事とか何にも分からないし、何を習得したらいいか分からないんだけど」
「それならあなたへのオススメ機能がいいわよ。この機能を使えばハズレ魔法を習得する事はないわ。どういう原理かは分からないけど、この機能に書かれてある魔法は必ず役に立つらしいわ」
「へぇ。結構分かりやすいんですね」
ならそのオススメ機能を使ってスキルを探してみるか。そう言ってスキルを探っていくのだが……
「何このスキル」
「ああ『 早口スキル』ね。その名の通り早口になるだけよ」
「使い道あるん?」
「早口言葉を言う時に皆からすげえって言われるくらいね」
「誰が覚えるんそんなスキル」
「私習得してるけど」
こいつは魔法使いのくせに頭が悪いらしい。
「でも魔力消費はしないから私にはピッタリね」
「それが戦闘の何の役に立つん?」
こんなもんが俺の役に立つだって? 俺は芸人にでもなれと言われているのだろうか。少し呆れたがオススメ機能を使って探っていく。
「はぁ? これなんだよ!」
さらに探るとスキルポイントが10000ポイントも必要なスキルを見つけた。
「なぁセレナ。1人の冒険者が一生で得れるスキルポイントってどのくらいなんだ?」
「さぁ、王都で活躍しているエース級の冒険者で4桁行くかどうかってくらいね。平凡な人なら500いくかどうかくらいじゃないかしら」
習得不可能だろこんなん。俺のだけこの機能バグってね?
「あ、このスキルとかいいんじゃない? こよ『 状態異常魔法スキル』ってやつ」
「ええっとこれは……」
毒、麻痺、睡眠、弱体化、運上昇などの効果を触れた物に対して与える効果がある。どの効果が発動するかは完全にランダムである。
「このスキルを使って相手に直接状態異常にさせればハルトでも有利に戦えるんじゃないかしら」
確かにそうなんだが……
「これ運上昇いらないだろ。むしろデバフじゃん」
「それに関しては私にも分からないわ」
でもまあ5分の4で優秀な攻撃手段が得れる訳だし、強そうだからこのスキルを習得する事にした。
「これで少しはまともに戦えるかな」
ただまだまだ俺のステータスは弱い。このスキルを相手に発動するだけでも一苦労だ。さらにこのパーティーだと大きな欠点がある。
「前衛を張れるやつがいないんだよ」
セレナは物理系ステータスは高いが一応、一応魔法使いだ。ローラもあの暴走状態じゃなければ一応、一応プリーストだし、俺は前衛を張れるほどの力を持っていない。
「誰か前衛を張ってくれる人がこないかな……」
「前衛を募集しているのか?」
1人の男性が俺たちに声をかける。その男は全身を鎧で覆っており、背中には大きく立派な剣を背負っている。
「よければ俺をパーティーに入れてくれ」
これが俺たちのパーティーの最後のメンバー、ジークとの出会いだった。
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