第2話 世界最強の魔法使い(自称)
ニールさんから奢ってもらった定食を食べきり、正午が過ぎた。
「にしてもステータスが低いのは落ち込むなぁ……こんな俺でも受注できるクエストはあるのか?」
俺は何かクエストを受注しようと、カウンターに向かった。
「あのぉ姉さん。こんな俺でも受けれる簡単なクエストってありますかね?」
「うーん。戦闘をさけるのであれば素材回収クエストですが、もしかしたら危険なモンスターと出くわす可能性があるのであまりオススメはしませんね……」
困ったなぁ……こんな低いステータスだから戦闘はなるべく避けたいが、戦わなければレベルは上がらない。つまり一生貧弱な体となるのだ。
「俺でも倒せそうなモンスター狩りのクエストはありませんかね?」
「となるとやはりスライムですかね。基本的に攻撃をしない限りは中立的なモンスターですので、比較的安全だと思います」
スライム。やはり序盤に出てくるモンスターといえばそうなるよな。
「でも油断しないでくださいね? ハルトさんのステータスだとワンチャン殺される可能性もありますので、危険を感じたらすぐに逃げてくださいよ?」
「分かってますよ。自分自身が弱いことは重々承知してますから」
流石にスライムに殺されて異世界生活終了なんて洒落にならない。それに俺の最終目標は魔王を倒すことだ。どれだけ時間がかかろうと死ぬことだけは絶対に避けなければならない。
「見た感じハルトさんは武器を持っていませんね? こちらの剣をあなたに支給します。自分の武器が決まったら返却をお願いします」
そうして受付嬢から剣を受け取った。長さは肘から指先までとそこまで長くはない。初心者が扱うには1番の武器だ。
「ありがとうございます。それでは行ってきます!」
俺はギルドを飛び出て、スライムの出現場所へと向かった。
何にもない草原を歩いていると、目の前に青くて透けているぶよぶよした生物を見つけた。
「これがスライムか」
高さは俺の膝くらいと大きくはない。初めて異世界でモンスターを見た俺は少し興奮していた。
「じゃあ早速狩っていくとするか!」
ギルドから支給された剣を握りスライムに近づく。そして勢いよく剣を振り、スライムを真っ二つに切った。
「なんだ、思ったより簡単じゃん!」
いとも簡単に消えていくスライム。スライムを切るのが妙に心地よく、新たなスライムを探しに草原を走った。
スライムを五体ほど討伐し、日も暮れてきたのでそろそろ帰ろうとギルドに向かっている途中、7匹ほどのスライムと遭遇した。
「最後にこいつらを倒して帰るとするか!」
そして勢いよくスライムに切りかかる。あっという間にスライム7体を倒しきった。
「こんなに簡単ならそんなに心配する必要もなかったのになぁ……」
剣を鞘に収め帰ろうとしたとき、後ろからボゴリと音が聞こえた。振り返るとそこには……
「なんだこのでっかいスライムは!!」
それは想像を超えるほどの大きさだった。軽く俺の身長3倍ほどの大きさがある。少し恐怖を感じた。
流石にこの大きさのスライムには勝てないと思い、その場から離れようとしたが……
「おい! ちょっと離せよ! 俺を取り込むな!」
俺の体が徐々にスライムに取り込まれていった。やばい! このままじゃ死んでしまう!
しかし抵抗することもできず、全身取り込まれてしまう。
「やばい!!」
まずい! このままじゃ息が……できる。しかもスライムの中は妙に暖かく、今まで感じたことのない感覚が体を包み込んだ。
あれ? 思ったより心地いいな……不快感とかは全くないし………
「そこ危ない!」
腕を掴まれスライムから引き出される。目の前に現れたのは白い髪をした美少女だった。身長は俺と同じくらいで、髪は腰あたりまで伸びており、赤い綺麗な瞳をしている。マントを着ており、杖をもっているその姿はどう見ても魔法使いだった。
「危なかったわね……怪我はしてない?」
どうやら俺がスライムに飲まれていた所を助けてくれたらしい。が……あのスライムの中の感覚、もう一度味わいたいな……
「すいません。もっかい行ってきます」
「え?」
そう言って俺は巨大スライムにダイブした。やっぱりスライムの中は心地よい。
「ちょっとあんた何してんの!? 早くこっちに来て!」
また腕を掴まれ外に出される。
「あんた馬鹿じゃないの? なんで敵に拘束されにいくわけ!? あんたステータス低いんだから危機感もってよ!」
「だって心地いいから……」
「スライムは相手を回復効果を持つ成分と溶かす成分を持っているのよ? スライムの中でゆっくりとしているとじわじわと体が溶かされていくのよ! ……分かったらちょっと下がって!」
今思えば俺はどんな馬鹿な行動をとっていたのだろうか。今までの人生の中で1番アホだと思った。
「てかお前なんで俺のステータス低い事知ってるんだ?」
「そんなの後でいいから! まずはこいつをやっつけるから!」
すると美少女は杖をかざす。杖の先には大きな火球。これから何が起きるのだろうと興奮した。
「『ファイア』!!」
目の前で起きたのは想像を超えるほどの大きな爆発。そして爆発と共にスライムは砕け散った。砂埃が去った後、残っていたのは30m程の窪みだった。
「すげぇ……」
思わず声が漏れる。素人から見てもその爆発の威力は凄まじく、並の魔法使いじゃないことはすぐに分かった。
「助けてくれてありがとう。えっと……」
「礼なんていらないわよ。あなたって目立ちたいからって存在しない国を作り出した人でしょ?」
「げっ! 見てたのかよ!」
ああもう恥ずかしいなあ! 別に嘘はついてないんだけどなぁ……
「ところであなた。ええと……」
「あっ、小林遥斗です」
「ハルトね? 私はセレナ。セレナ・ファン・イフリートよ」
セレナという魔法使いは俺の手を掴んで、上目遣いでこちらを見てくる。整った顔立ちをしており、思わずドキッとしてしまう。
「お願い! 私とパーティーを組んでくれない?」
「え!? でも俺能力が……」
「何だっていいの! ね? お願い!」
思ってもいない展開だった。あのような魔法を使える魔法使いが味方になるのはものすごく心強い。
「分かった。こちらからも頼む!」
「ホント!? よろしくねハルト!」
満面の笑顔でそういった。その笑顔は胸にくる。やっぱりこの世界は最高だ!
「なあ、ところで1つ聞きたいんだが」
「なに?」
「さっき使ってた魔法なんだけど……」
そこが気になって仕方がなかった。あのような火力を出せる魔法使いとは何者なんだろうか。
「あの魔法は下級魔法の『ファイア』初心者でも覚えることができる簡単な魔法よ」
「え、あんな魔法が初心者に使えるのか?」
チッチッチッと指を振るセレナ。どうやらただの一般人にはあんな魔法を打つことはできないらしい。
「これが私のステータスカード。ほら魔法攻撃力が異常に高いでしょ? 私ほどの魔法使いになると下級魔法でもあれだけの火力を出せるの」
す、すげぇ! てことは、もっと上位の魔法を使えばさらなる威力の魔法が使えるってことか? あまりにも強すぎる。
「そんな人がパーティー組んでくれるなんて心強いよ。今後ともよろしく頼む!」
「まあ私は世界一の魔法使いだからね! こんくらい朝飯前よ!」
本当に世界一の魔法使いなのかは知らないが、1つ疑問ができた。これほどにまで高い能力を持っているのに何故俺とパーティーを組もうとしたのか。その理由が気になって仕方がなかった。
「なあ1つ質問があるんd……」
後ろからドプンと音がした。しかも何回も。
「まずい! また巨大スライムだ! しかも三体も! セレナ、さっきの魔法もっかい頼む!」
しかしセレナはピタリと止まったまま動かない。
「セレナ?」
気まづそうな顔をしながらこっちを見る。
「ねえハルト。すこーしだけ話を聞いてくれない?」
こんな緊急事態に一体なんの話だろうか。
「いいけど、まずは逃げないと!」
俺とセレナは全力で逃げながら話を続けた。
「ほら私さ、簡単な魔法でもあれだけの火力を出せるじゃん?」
「ああ」
「その理由を高い魔法攻撃力って言ったよね?」
「ああ」
「実はもう1つ理由があるんだけど……」
「詳しく聞こうじゃないか」
セレナは目線をそらして語り始める。
「いや実は私さ? 魔法の質に関しては最高レベルに高いんだけど、魔力制御が大の苦手でね?」
「だから?」
「1回の魔法に全ての魔力を注ぎ込んでしまうの……」
なるほどな……俺以外の優秀なやつとパーティーを組めばいいと思ったのに、そんな理由だったのか。
「連続で魔法は……」
「使えないわ! さっさと遠くに逃げるわよ!」
「クソッタレー!!」
ステータスが馬鹿みたいに低い俺が言うのもなんだが使えねえじゃねえか!
「ねえパーティー解散とか言わないよね?」
「どうしてそう思った?」
「お願いそれだけは勘弁して! もう私いろんな人からクビにされてるの! だいたいあんただって弱いんだからパーティー組んでくれる人なんかいないでしょ!?」
確かにそうだな……今の俺の実力じゃ誰もパーティー組んでくれなさそうだし。
「分かった。まずは早くここから逃げないと! 急ぐぞセレナ!」
「うん!」
最悪大変な目にあったらこいつを囮にして逃げようかな……そんな事を思いながらも急いでギルドへ向かった。
「なんか満身創痍って感じですね」
受付嬢は俺たちの様子を見て話した。
「まさかスライム相手にこうなるとは思いませんでしたよ。これを機に冒険者辞めるって判断は……」
「絶対にないです」
「そうですか。にしてもなんでそこまでボロボロなんですかね?」
「何故かスライムが合体したんですよ。そしてめっちゃでっかいスライムになって飲み込まれて……」
「あんた自分から飲まれにいったじゃない」
「黙れセレナ」
少し受付嬢の目が厳しくなったような気がしたが気のせいだろう。
「スライムが合体ですか……おかしいですね。基本スライムは単体で行動するはずなのに」
スライムが単体で行動する?
「いや、今日7体くらい一緒にいましたよ?」
受付嬢は厳しい表情をしながら黙り込んだ。もしかしたらすごい緊急事態なのかもしれない。
「情報ありがとうございますハルトさん。とりあえず暫くはスライムのクエストを禁止にしたいと思います」
ということはレベルを上げるには別のモンスターを狩らないといけないのか。序盤からきつい展開だな。
「とりあえず報酬を渡しておきますね? お2人合わせて1000Gです」
すると受付嬢は1枚の紙を渡してきた。その紙には6桁ほどのコードが書かれている。
「ステータスカードにそのコードを入力してください。そうしたら報酬がカードに振り込まれます」
まさかのスマート社会。免許証的なものだと思っていたステータスカードは超薄いスマートフォンのようなものだった。もう現実世界が勝るとこなくないか?
「とりあえずハルト。今日はここで解散しましょう」
そう言ってセレナはギルドの外に出ていった。
「俺も寝る場所を確保しないとな」
俺は受付嬢に宿屋の場所を尋ねてみた。
「近くに宿屋とかありますか?」
「ありますが、最低でも2000G入りますよ」
もうちょっと俺に優しくできないのかなこの世界は。
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