第1話 能力最弱の主人公

 なんやかんやあって異世界に来た。アニメや漫画、ラノベ等でよく見る光景が周りに広がっている。


「ここが異世界か、魔法とか使えたりすんのかな?」


 俺の使命は魔王を倒すこと。魔王を倒すことができれば何でも1つ願いを叶えるとあのクソ野郎(女神)が言っていた。


「麻耶とまた暮らす為にも頑張らないとな」


 この世界に麻耶はいない。麻耶の姿を見れるのは何年後になるのだろうか。どれだけ時間がかかってもいい。絶対にまた麻耶と幸せな日々を送るんだ!


「そしてあのクソ野郎にぎゃふんと言わせてやる!」


 次あいつに出会ったら俺のパンチを食らわせてやる。覚えてろよ、土下座するまで許さないからな。


「まずはギルドに行かないとだな!」


 とは言っても俺はこの場所を知らない。そもそもギルドがあるかどうかも分からない。そこで近くを歩いていたお婆さんにギルドについて聞いてみた。


「すいませんお婆さん。この近くにギルドってありますか?」

「◎△$♪×¥●&%#?!」


 何を言ってるか全くわからなかった。異世界だと使う言葉も違うのか……もう詰みじゃね?

 するとお婆さんさんは袋の中からこんにゃくを取り出して俺に渡してきた。食べろということか?

 俺はそのこんにゃくを食べる。するとはっきりと言葉が聞こえた。


「これで聞こえるかね?」

「はい。ありがとうございます!」


 なんか見たことあるようなアイテムだったが……まあ触れないでおこう。


「ところでお婆さん。ギルドの場所を聞きたいのですが」

「え? やだナンパかい? 若い男は嫌いじゃないよ」


 なに言ってんだこいつ。


「でもごめんなさいねぇ、私には旦那がいるもんで……」

「いやあのお婆さん。ナンパじゃなくてギルドの場所について聞いてるんですが……」

「へ? なにヒント?」

「ヒントじゃなくてギルドです! ギ! ル! ド!」

「あ! あんたニールかい? こんな大きくなって……」

「人違いですお婆さん!」


 なんだこの変人は。こいつに声をかけたのは間違いだったな。俺は体をクネクネさせているお婆さんを無視して進もうとしたが……


「やぁだこんな婆さんをナンパしてくれるなんてねぇ……今から私の家に来なさいな。いいことしてあげるわよ♡」

「結構ですお婆さん! さよなら!」


 俺の腕を掴むお婆さんの手を払って俺は全速力で逃げた。





 なんやかんやあったが、なんとかギルドの場所に到達した。


「ここがギルドかぁ。かなり大きいな」


 この扉の先には一体何が待ち構えているのだろう。微かな期待と不安が俺の心を包んだ。


「行くか……」


 俺は両手でギルドの扉を押した!


「おい酒だ! 酒を持ってこい!」


 ギルドの中では多くの人が食事をとっている。とても賑やかで楽しそうだった。


「ん? お前見たことの無い顔だな……さては新入りか?」

「え!? あ、はい、そうです……」

「ふーん?……」


 強面のおっさんは俺に顔を近づけてジロジロと見てくる。怖すぎる! やはり新入りには厳しい世界なのだろうか……


「まあ兄ちゃん、まずはそこに座りな! 酒1杯奢るからよぉ」


 ただの良い奴だった。やっぱり人は見かけによらないんだなって思った。


「いや俺はまだ未成年なんでお酒飲めないんですよ」

「なんだ勿体ないなぁ……まあ大人になったら一緒に飲もうや! ここに来たってことは冒険者志望なんだろ? あそこのカウンターで手続きしてこい」

「分かりました。ありがとうございます!」


 何やら楽しそうな世界だなぁ。皆いい人そうだし、この場所ならすぐに和めそうだ。



 言われた通りにカウンターに向かう、めっちゃ美人のお姉さんが相手してくれた。


「冒険者志望の方ですよね? 準備を行いますのでしばらく待ってください」

 

 そうするとお姉さんは1枚の紙とペンをもってきた。


「今からあなたのステータスカードを作ります。こちらの紙に名前と出身地、年齢を書いてください」


 言われた通りに進めていく。さっき食べたこんにゃくの効果は文字にも適用されるのだろうか?


「コバヤシハルトさんですね? えっと出身地はニホン……ニホン? すみません、そのような国を知らないのですが、どこの国ですか?」


 どうやら文字は伝わるらしい。しかし、日本という場所は通じなかったようだ。


「あぁえと……めっちゃ遠くにある小さな国です。おそらく知らなくても当然で……」

「いや、私は全ての国を知っています。場所も国名も完璧にです。しかし、ニホンという場所だけは知りません。一体どこの出身なんですか?」


 困ったな……どこか適当に国名をでっちあげればいいんだがこの世界の国名なんてひとつも知らない。どうしようもないので適当にはぐらかすことにした。


「いやその……ただ目立ちたいだけだったんです……本当はこの国出身で……」

「そ、そうですか……」


 やめろ、哀れむような目でこっちを見るな。


「あいつ目立ちたいからって無い国の名前出してやがった! くはっ! うける!!」


 やめろ、俺を頭のおかしい人のように扱わないでくれ。


「とりあえずこの国ということはギージド出身てことでよろしいですね? 今から能力測定を始めますので奥の部屋に移動をお願いします」


 情報ゲット、この国の名前はギージドか。やはり俺が住んでいた世界とは全く関係はなさそうだ。

 そして奥の部屋に進む。部屋にいたのは……


「あらまぁ。さっき会った坊やじゃないかい。何故逃げたのかね?」


 さっき出会ったおかしな婆さんがそこに居た。てかギルド知ってるじゃねえか!


「まあとりまえずそこに座りな、今から能力見てあげるから」

「は、はい……」


 椅子に座って能力の鑑定を待つ、しかし婆さんは鑑定の為か俺の体を触りまくっている。


「ほうほう、なるほどねぇ……お主年齢は?」

「16です」

「16にしては体が細いのぉ……まあそういう人も嫌いじゃないけどねぇ」


 そう言って婆さんは俺の太ももに手を回す。やっぱり気持ちわりぃな! はやく終わってくれ!


「うほっ! 17歳の太もも! うほっ! うほうほ!」

「お婆さん! これ本当に必要なんですかね!? さっきから気持ち悪いんですけど!」

「気持ち悪いとは心外じゃのぉ。ワシはお主の能力を見ているだけじゃ」


 いや絶対俺の体で楽しんでたろ。


「では能力を見るとするか」

「おいこのクソババア! やっぱ俺の体で遊んでただけじゃねえか!」


 もう早くしてくれよ! なんで異世界にきて早々にばばあに体触られてるんだ俺は!


「じゃあお主、力を抜いて目をとじなさい」

「こうですか?」


 言われた指示通りに動く。そして鑑定を待つがいつまでたっても鑑定は始まらない。


「あのいつ始まるんですk……」

「これでよしと」


 は? え、なんで?


「なんで俺の体が縛られてるんだぁ!?」


 俺はいつの間にか1ミリも動けないように椅子に拘束されていた。縛られているはずなのに体に窮屈さは感じない。これが魔法なのだろうか?


「てかそもそもなんで拘束する必要があるんですか?」

「こうでもしないと皆逃げてしまうからねえ」


 一体今から何が起こるというんだ? 怖くて怖くて仕方がなかった。


「じゃあじっとしていなさいね」


 すると婆さんは目を閉じ、口を気持ち悪いほど尖らせてこちらに迫ってきた。


「ば、ばあさん? 一体何をしようとしてるんですかね?」


 返事はない。ただ気持ち悪いキス顔でこちらに迫ってくるだけ。


「ばあさん! 話せば分かる! だからそれはやめよう! やめてくれええええ!!」


 ブッチュ

 小林遥斗の人生ファーストキスの相手が決まった瞬間であった。





「オ゛エ゛エ゛エ゛!!」


 予想もつかなかった。まさかこんな形でファーストキスを奪われてしまうなんて……


「お疲れ様ですハルトさん」

「はぁ……そうですか……」

「……本当にお疲れ様です」


 やめろ。その地味な優しさが心にくる。


「てかなんで能力鑑定するだけでキスする必要があるんですか?」

「キスに関しては趣味ですよ。能力鑑定は部屋に入った時点で既に終わっています」


 次あのババアにあったら1発頭を叩いておこう。


「さてとハルトさん。鑑定の結果なんですが……」


 受付嬢の顔が少し暗くなった。


「先にあなたのステータスカードをお渡ししますね。 こちらのカードにあなたのステータスや個人情報、ポイント等が入っているので大切に扱うようにお願いします」


 ステータスカードを受け取る。カードには基本プロフィールと書かれており自分の能力が数値として書かれている。俺の数値はどれほどのものなろだろうか。


「あのハルトさん。1つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「はい。全然構いませんが」

「本当に冒険職で大丈夫でしょうか?」

「というと?」


 なんか嫌な予感がした。てかそうなる運命だったのかもしれない。チートも持ってないし、部活動にも入らず筋トレもろくに行っていない俺だもん。この先俺が何を言われるか察した。


「ハルトさんのステータスが異常に低いんですが……」

「いいよもう……」

「そうですか。では冒険者として人生を歩むということですね?」

「はい……心配してくれてありがとうございます」


 少し今日の事を振り返ってみようか。

 まず俺はトラックに轢かれて死んだ。そしてろくでもねえ女神に出会って喧嘩して異世界にとばされた。その先で知らないばばあがいて超えちゃいけないラインに触れそうになって、ニホンの事を信じてもらえずギルド内で馬鹿にされる。そしてばばあにファーストキッスを奪われて、そんな苦労して出た結果が雑魚。


 もう帰りたいなぁ……


「よう兄ちゃん。鑑定結果はどうだったか?」


 先程優しくしてくれた強面のおっさんが話しかけてきた。


「は、ははっ、もう俺駄目かもしんない」


 まだ異世界にきて半日も経っていない。なのに何故こんなに精神が追い詰められているのだろうか。


「なんか嫌なことがあったんだな……とりあえずもう昼だ。俺が奢るから飯でも食いな」

「おっさん!」

「おっさんじゃなくてニールだ。よろしくな」

「ハルトです! こちらこそよろしくお願いします!」


 異世界にきて嫌なことがアホみたいに起きた。でもなんとか続けられるかもしれない。麻耶……おれ頑張るよ! 必ずお前の元に帰ってくるからな!


「うっし姉ちゃん! 定食1つ頼む! この兄ちゃんにやっといてくれ」


 ニールさんが俺に定食を奢ってくれた……ニール? そういえばあの婆さんと出会ってたとき聞いたような……

「あのニールさん。このギルドで能力鑑定している人って知っていますか?」

「ああ俺の母さんの事か?」


 まじかよ!? 

 

「お待たせしました! どうぞごゆっくり!」

 

 もう少し聞きたい事があったがお腹が空いていたので届いた定食にがっつく。何コレめちゃ美味い!


「ニールさんありがとうございます! お金が稼げるようになったら今度は俺に奢らせてください!」

「ははは! 分かったよハルト! 力をつけてしっかりと稼いでくれよ?」


 こうして前途多難な遥斗の異世界生活が幕を開けた。




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