妹に会うために魔王を倒すと決心した俺だがチートもない上に最弱ステータス。集めた仲間も残念なやつらばっかりで、こんなパーティーで魔王は倒せるのだろうか。
丸鳩
プロローグ
俺は今、産まれて初めて女神という存在を目にした。いや、もう死んでいるから産まれて初めてという表現はおかしいだろうか?
ただ1つ、お前らに伝えて起きたいことがある。
女神なんて見てくれだけのクソ野郎だ。
「今日のテストはどうだったの? 兄ちゃん」
今日は、高校でのテストがあった。高校2年生なのにもかかわらず、ろくに勉強もしてなかった俺は、いい結果を出せずに終わってしまった。
「本当に上手くいかなかったわ。次からはしっかり勉強するわ」
俺の最愛の妹である小林麻耶と2人で家までゆっくりと歩いて帰っていた。
「ところで麻耶。高校入っての生活はどうだ? 何か困ったところがあったらいつでも兄ちゃんに相談しろよ?」
「きもい」
きもい。たった3文字の力だけでこんなにも人にショックを与えられるものなのか。俺は心の傷を癒しつつ、2人で下校していた。
俺と麻耶は家では2人暮らし、父さんは麻耶が産まれてしばらくして離婚していなくなり、母さんはその4年後病気で亡くなってしまった。
それ以降は祖父母に支援してもらい、なんとかここまで成長することができた。ここまで苦労して生きてきたけど、妹と楽しく生活できている。今の生活で不満に思っていることはない。
この生活がいつまでも続けばいいのに
そんな俺の望みは一瞬のうちにして打ち砕かれる。
前を歩く妹の前の曲がり角にあるミラーを見ていた。そして、ものすごい勢いでトラックがこちらに来ていることが分かる。このままじゃ麻耶が──
「危ない!!」
いつの間にか俺は麻耶を突き飛ばしていた。
ゴンッ! と鈍い音が耳に響き渡る。同時に激しい痛みが俺を襲った。
「兄ちゃん!」
やべぇ……ガチで痛え……俺このまま死ぬのかな?
「兄ちゃんしっかりして!」
今救急車を呼んだとしても俺は助からないだろう。ああ……出血がひでぇ……
「兄ちゃん! 兄ちゃん! 兄ちゃん!」
俺の視界には泣き顔で俺を呼ぶ麻耶しか見えなかった。頼むからそんな悲しい顔をしないでくれよ。
やべぇ……意識が飛びそうだ……それなら最後に……
俺は左手を麻耶の頭に置いて、やさしく撫でた。
「強く生きろよ……麻耶……」
静かに泣く麻耶を見ていたが、視界がぼやけてきやがった。そしてそのまま意識が消えて──
目を覚ますとそこは知らない空間だった。神秘的なオーラを放っており、大きな椅子に座らせていた。ふと前を見ると、同じく椅子に座っている美人が俺の事を見つめている。
「お目覚めになりましたね。小林遥斗さん」
突然の自体に頭が追いつかない。俺の体は何故動く? 俺は死んだはずじゃ……
「残念ながら、あなたの人生はここで終了となってしまいました」
どうやら俺は間違いなく死んだらしい。ならこの体は一体何なんだろうか。
「あなたが亡くなった瞬間にあなたの体をこの場所にテレポートさせました。この場所には神聖な力が働いているため、傷はすぐに癒えてしまいます」
目の前に座っている美人……女神らしき人物は俺の考えを全て理解したかのように話を進める。エスパーかな?
「あ、別に私は人の心をよめる能力なんてもっていませんよ?」
「やっぱりエスパーですよね? これ以上心よむのやめてもらいますか?」
「私は顔を見たら何を考えているのか大体分かるんです。だから考えがよめちゃうのは自然現象なので……」
ホントかなあ? 少し試してみようか。そうして俺は頭の中で女神を辱めてみた。
「今は何を考えているか分かりませんね。何を考えているのですか?」
どうやら頭の中はよめていないらしい。そしたらなんか俺すごい罪悪感あるんですけど。
「すいませんなんか、とりあえず謝らせてください」
「別に何も悪いことはしていませんよ。目の前に可愛い女の子がいたらそういった行動をとっても仕方ないですから」
…………俺めっちゃ恥ずかし!! はやくこの事を忘れたい!
「てか自分で可愛いって自覚あるんですね」
「まあ、伊達に女神やってるわけじゃないですから。あなたの妹よりも何倍も美人でしょう?」
「……あ?」
「え?」
「お前今麻耶を侮辱したな! お前なんかよりも麻耶の方が数倍も上だわ! 謝れ! 今すぐ麻耶に謝れ!」
「な、なんで人間なんかに謝らないといけないんですか!? 嫌ですよ! 逆に謝ってください! 私を人間よりも下に置いたことを謝ってください!」
このクソアマが! 見た目は美人でも性格はクソ野郎じゃねえか!
「今クソ野郎って思った! それも謝って!」
「嫌だね! 謝って欲しいなら麻耶よりも可愛くないって事を認めろ!」
今目の前にいるのは女神なんかじゃない。見てくれだけのクソ野郎だ。
「ふーん? いいんだ私にそんな態度とっちゃって? あーあー折角いい話を持ちかけようと思ったのになぁ」
そんなことを言うクソ野郎。ただいい話という言葉が気になったので尋ねてみる。
「なにそのいい話って」
「気になる?」
「……気になります」
「そっかぁーそうかそうか。ならまずやるべきことがありますよね? はい、素直にごめんなさいですよね?」
「やっぱ大丈夫です」
「とりあえず話だけでも聞いてみない?」
なんだこいつ。チョロいな。
少しクソ野郎が俺の事を睨んだ気がするがクソ野郎は俺に話をもちかけた。
「異世界って興味無い?」
「ないです」
「え!? 嘘、嘘ですよね? 異世界に興味無い高校生なんていないよね?」
「いや結構いると思いますが……」
まあ大体予想はついていた。死んでこんな神々しい場所に来ていい話っていったら異世界しかない。
「ねえ本当に異世界に興味無いんですか?」
「いや無いといったら嘘になるんだけど……」
「どうしてそんな嘘を着いたんですか?」
正直異世界にはすごい興味がある。魔法も使ってみたいし、胸踊る冒険もしたい。ただ──
「麻耶のことが気がかりで……」
あいつは恐らく俺が死んで悲しんでいる。ただでさえ両親を失い、俺もいなくなった。あいつを支えてやれる家族はもういない。
「あいつが1人で悲しく生きている中で、俺だけ楽しんで異世界に行くっていうのは厳しいかなって」
「意外にも優しい心を持ってるんですね」
意外にもってなんだ意外にもって。
「しかし残念ですねー。あなたは選ばれし勇者だというのに……この機会をスルーするなんてものすごく勿体ないことしてますよ?」
「選ばれし勇者ねえ……」
この手のワードには俺は引っかからない。
「そうやって俺の気分をよくさせて、異世界に行かせようとしてるんですよね?」
「ギクッ」
「図星かよ。そんな言葉で俺を釣れるとでも思ったんですかぁ? いやぁ女神さん、バカにも程がありますよ」
「なんだとコノヤロウ!」
女神は激怒した。顔を赤く染めて体を震えさせている。言葉遣いも変わったようにこの煽りは効いたようだ。
「ふーん? いいんだこの私に! 女神に! そんな口聞いて本当にいいんだ! あーあ勿体ない! 折角異世界で魔王を倒してくれたら何か1つ願いを叶えようと思ったのになー!」
その言葉を聞いて俺は少し悩んだ。俺はもう麻耶に会うことができない。ただ今の言葉が本当だとしたら……
「それは……俺を生き返らせることもできるのか?」
「あたりまえじゃないですか。女神に出来ない事なんてあると思うの?」
その事さえ分かればもう充分だ。俺はこの先どうするか決めた。
「分かったよ。俺は異世界に行く。異世界に行って魔王ぶっ倒して、麻耶とまた平穏な日々を送るんだ!」
麻耶とまた平穏な日々を送る。この意志だけは絶対に揺るがない。決意を胸ににそう言った。
「すいません女神様。どうやら俺はあなたの事を誤解していたようです」
「なら分かりました。今から異世界に行く為の準備を行いますね」
「え、いやちょっと待ってくれ」
何キョトンとした顔で見てるんだ? 異世界に行くにつれて重要な事を忘れているのだが……
「いやいや女神さん。俺の体1つで魔王倒せとか無理あるでしょ。もちろんそれなりのチートは用意してくれるんですよね?」
女神は沈黙を続けている。
「え、もしかしてチート無いとかいいませんよね?」
「いやないですけど……」
「は!?」
おいおい冗談じゃないぞ! この俺の体ひとつで何ができるってんだよ!
「お前は馬鹿か!? 俺みたいなただの一般人が魔王なんて倒せるわけがねえだろ!」
「いや選ばれし勇者であるあなたならできるかなと……」
「できるわけねえだろうが! だあクソ! やっぱお前はクソ野郎だ! 訂正は取り消しだ! たく無能なクソババアがy……」
「いい加減に黙れえー!!」
「グハッ!」
クソ野郎は俺の顎を目掛けてフルパワーのパンチを食らわせた。2mほど吹っ飛ばすいいパンチだ……
「いってぇな! てめえ何してくれてるんだこの野郎!」
「うるさいうるさいうるさい! チート? そんなものないわよ! そもそもあんたなんかにあげるわけないでしょ! バッカじゃないの?」
「チート無しで魔王を倒せってか!? 頭おかしいだろ! 本当に馬鹿なのはお前だろ!」
口論を続けていると神々しい光が周りを包み始めた。おそらく異世界に行く為の儀式だろう。
「おいてめえふざけんな! 本当にチート無しで行かせるつもりか? 俺は選ばれし勇者なんだろ!? こんな扱いがあってたまるか!」
「うるさい! ばーか! ばーか! ばーか!」
駄目だこいつ、話が通じねえ!
「さよなら遥斗さん。あなたのような人物が地獄に落ちるのを楽しみにしてますよ」
体がフワッと浮き上がり、景色が変わっていく。俺は麻耶と平穏な日々を暮らす以外にも強い意志をもった。
「あのクソ野郎を絶対にぎゃふんと言わせてやる!」
こうして小林遥斗の異世界生活がはじまる──
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今日から投稿始めました! 完結まで書ききります!
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