陽だまりの家
葉
陽だまりの家
カーテンを開けば暖かな木漏れ日が差し、
窓を開けば緑の匂いが漂う。
彼女が住むのはそんな森の中の小さな家だった。
以前は彼女にも家族がいたのだが、1人、また1人と消えていった。
と言っても、別に死んだわけではない。
皆様々な理由で森を出ていき帰ってこなかったというだけ。
最後に残ったのは彼女だけだった。
それでも彼女は孤独を感じることもなく、楽しく暮らしている。
彼女曰く、“1人の方が性に合う”らしい。
そんな彼女の元をあの男が訪ねたのは、日差しも強くなってきた初夏のことであった。
コンコンコン
扉をノックする音が1つ
しばらくして、警戒しているように少し開かれた扉と誰?と問うかのように覗く顔。
その様子に男は安堵を浮かべ、名を名乗り、狩りに来た途中で迷ったのだと説明した。
彼女は帰り道を教えようとしたが、なにぶん夕暮れ時。夜になれば森は闇に包まれ、慣れているものでも歩くのは難しい。
そんなことから彼女は渋々男を小さな家に招き入れ、食事と寝床を提供した。
食事の間、男はたくさんの話をした。
裕福な家庭に生まれたが、今は訳あって旅をしていること。
旅の途中で美しい花を見たこと。
ある街で出会った占い師のこと。
男の話は食事が終わっても尽きず、彼女が眠るまで続いた。
翌朝、彼女は数年ぶりに2人分の朝食を用意し、男を起こしに行った。
しかし、男が寝ていたはずの布団に人影はない。
彼女が焦ったのもつかの間、扉が開く音がして、男が帰ってきた。
彼女がどこに行っていたのかと問えば、男は顔を洗いに行っていただけだと笑顔を浮かべた。
そうして朝食を済ませ、帰り道を教えて貰うと、これで心残りはないと言って、男は去って行った。
ここは陽だまりの家。
訪ねてくる者に命あるものはいない。
そこに誰が住んでいるかは、誰もが知っていて誰もが知らない。
そうして彼女は、また1人の日々を繰り返す。
__次の誰かが尋ねてくるまで。
陽だまりの家 葉 @You_better
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