第11話:荒くれもの

あれから一日が経ち、ナズナは何でも屋本店である屋敷の二階、その一室で朝を迎えていた。


「どうしてこうなったんだっけ……」


なぜ赤の他人の家に二人が転がり込んでいるのかというと、理由があった。

あの後、依頼を達成したナズナ達は異形種の死体に飛びつこうとするエムを抑えながら店へ戻り、社長室にいるお頭に異形種についての報告書を提出したのだった。

そして、ふとナズナはとても重要なことを思い出し、ココに告げた。


「宿に泊まれない?どうしてです?」

「その、私たちお金が無くて、ここに来るまでに全部使い果たしちゃったんです」

「ああ……なるほど」


納得したようにココは頷くが、同時に呆れたようなため息を零した。


(少しドジなところはあるな、と思っていたけれど、まさかここまでとは……)

「この店で泊まることはできないか?」

「色々、使う部屋が多いから……、どうだろ」

「うーん、いいじゃねぇか、俺はここで住んでもらっても構わねぇよ?部屋だってもう一部屋空いているしよ」


お頭が口を開いて言った言葉に、ココは烈火のごとく反応する。


「私が構うわ‼」

「もう何人も入れてるんだ。一人や二人増えてもどうってことないんじゃないか?」

「それが問題なのよ。私だって住んでるのに、これじゃプライベートも何もあったもんじゃないよ」

「ごめんなさい、私たち、迷惑ばかりかけて……」

「う………」


シュンとなって俯くナズナに、ココは良心が痛んだ。相変わらず無表情でいるエムは置いておくとして、しばらく何かに葛藤した後、ココは腹を決めたように言う。


「ああもう、分かったわよ‼ 泊まってもいいわよ‼ けどその代わり、ここのルールは絶対に守ってもらうから、そこんところよろしく‼ あともう敬語は面倒だから止めるね! あなた達もタメ口でいいわよ!」


堰を切ったようにココはつらつらと言い始め、ナズナは気圧されるが、とにかく泊ってもいいということは分かったので、全力で礼を言った。


「ありがとうございます‼」

「ありがとう」

「ふんっ」

「よし!新しい住人の誕生だな‼ 歓迎を祝して今日は飲むぞぉ‼」

「え、新しい人来るんスか?」


すると、社長室の扉からひょっこりと、そばかす顔を覗かせる少年がそこにいた。


「おう、ケル、報告書か?」

「はいっス。今回の依頼、スゲー大変でしたよ。僕もうホントくたくたで」

「ばっかお前、それが仕事っていうもんだ。俺だってこんな地味な書類仕事なんて……」


巨大な体を、ギシギシと軋む椅子に預け、お頭は退屈そうに書類の山を眺める。そんな情けないセリフをココは聞き逃さず、鋭い眼光で大男を射抜いた。


「地味な仕事が、何?」

「怖い! 怖いよ! そんな目で見られたら、お父さん泣いちゃう‼」

「やかましいわこのクソ親父! なに可愛い子ぶってんのよ気色悪い‼」

「それで、この二人が新人っスか?」


彼にとっては、もう何度も見ている日常の風景なのか、慣れているように親子喧嘩の間を通る。バサリと、書類の山と化している社長机へさらに依頼の報告書を投入しながら、横にいるナズナとエムへ目をやった。


「ええ、そうよ。ちょっと問題児だけど」

「ココ姉ぇが言うほどの逸材か~、そりゃいいや!」


緑のスカーフとそばかすが特徴的なその少年は、銀髪碧眼で気品のある佇まいであった。キラキラとした目をこちらに向けたかと思えば、姿勢を正し、啓礼のポーズで挨拶をしだした。


「僕、ケル=レイヴィットって言います。この屋敷でお世話になってて、分からないことがあれば、何でも聞いて下さい。よろしくっス!」

「私はナズナです。よろしくお願いします。こっちは………」

「エムでいい」

「んん~?こっちの人は元気が無いみたいっスね」

「別に、普通だ」

「もっとアゲていかなきゃ、人生損っスよ!」

「余計なお世話だ」

「こっちの女の子は元気そうっスけど、なんでそんなデカい帽子を被ってるんっスか?」

「あー、その……」

「ゴホン、……その子はね、ケル、あなたと同じ異形者よ」

「え⁉」

「………」


ケルが驚愕の声を上げ、思わずナズナの方を見るが、ナズナは何の反応も見せずに、俯くだけで、視線を合わそうともしなかった。


(やっぱり、この人もそうなんだ)

「あんたも異形者なのか」

「……はい、そうっス。この尻尾が証拠っス」


おもむろに後ろから取り出したのは、黒曜石のような光沢を持つ、平たい尻尾であった。ケルはその自前の尻尾を恥ずかしそうにくねらせ、しばらく見せた後、すぐさまそれを腰に隠した。


「………………」


するとエムがその好奇心を爆発させ、フラ~っと彼に近づこうとしたが、ナズナが上着を掴み、無理やりに抑え込んだ。そしてナズナもその告白に応えるように、深く被っていた帽子を取り、桃色の瞳を露わにする。すると、ケルは両目を見開いて驚き、その宝石のような輝きの目に見入ってしまった。


「わぁ!綺麗な瞳っスねぇ~。自分とは大違いだ……、そっちの人も同じっスか?」

「ああ、そうだ」

「え?そうだったの⁉ なんで言わなかったの」


直接面接をしたはずのココが、今更驚きの声を上げる。


「聞かれなかったからだ」

「そ、そう言えばそうだったっけ………? まぁいいや、ケル、丁度いいからここの案内をしてあげて。あなた、これで今日の仕事終わりでしょ?」

「わっかりました!ではお二人さん、こっちについてくるっス」


ケルは、元気の良い笑顔で扉を開け、ナズナ達を案内し始めた。天真爛漫という言葉が似合うほど、その後ろ姿には活気が溢れていて、見る者すべてにエネルギーを与えるような、そんな雰囲気に包まれている。しかし年下に見えてもここでは先輩、ナズナはそう自分に言い聞かせ、彼への敬意を忘れぬように、しっかりと心に念じた。


(よし、これから会う先輩方にも、きちんと挨拶を……!)


エムはというと、ケルの尻尾にすっかり興味を惹きつけられ、ただその一点のみが気になっていた。そんなエムに釘を刺すように、ナズナは小声で言う。


「…………昨日のココさんの時もそうだけど、無許可で人の体を触ったり調べたりするのは本当に良くないよ。特に女の人はね」

「許可を取ればいいのか?」

「それは……そうだけど、あなたは少し好奇心を抑える努力をした方がいいって話」

「調査は俺の使命だ」

「それは分かった。けどその上でね………」

「ここが今空いている部屋っス!ってあれ、どうしたんっスか」

「いや!何でもないです、あははは……………」

「……………………」

「………? そうっスか。じゃ、他にもいろんなところがあるので、そこ周りましょうか」


そう言ってケルはまた、この巨大な屋敷を案内しだした。


「ここは風呂場っスね。使いたい時は自分で沸かすのがルールっス。そして、ここは……………」


ひとしきり屋内を周った後、もう日も落ちて、客も誰もいなくなったというところでお開きになった。


「ホントにいいんスか?その、男女が同じ部屋で二人きりって………。あ、でもお二人が付き合ってるなら大丈夫か」

「問題ない。俺に性別は無いし、そもそも生」

「ゴホンゴホン、別に付き合ってはいませんが大丈夫です。もう何回か旅で一緒に寝ていますので」


余計なことを言いそうになるエムを遮り、誤解されないように返答するナズナ。


「な、何度も一緒に寝た⁉………………そうなんスね。で、ではごゆっくり~」


誤解を解くどころか、また新たな誤解しか生んでないような反応を見せるケルは、そそくさとその場を後にした。

案内されたその空き部屋は、最初に泊まった宿屋より少し広く、キチンと二人分のベッドがあり、十分快適に寝られる場所であった。


「はぁ~………、疲れた」

「ここなら、ゆっくりできるだろう」


ベッドの上に外套と帽子を脱ぎ捨て、ナズナは身軽な格好になる。開放的な気分を味わいながら、ナズナは今日の騒動を思い出し、さらに疲れが体を駆け巡るのを感じる。流石にもう耐えきれないのか、ベッドに半身を投げ出し、見知らぬ天井を仰ぎ見ていた。

エムはというと、まだナズナの目を調べ足りないという風に、ジッと彼女を見つめている


「な、何?」

「もう一度、その目を見たい。いいか?」

「………まぁいいけど、そんなに長々と見ないでね?結構、恥ずかしいんだから」

「失礼するっス。近くの店で歓迎会をやるってお頭が………」


神の悪戯か悪魔の罠か、丁度良い、いや悪いタイミングで入ってきたケルは、エムがナズナの顔に限界まで近づき、彼の視点ではまるでキスをしているかのように見える場面に遭遇してしまった。


「ちょっと、いくら何でも近すぎ。もっと離れてよ」

「もっと、正確に、この輝きのスペクトラムを解析しなければ」

(何という大胆さ‼ )

「あ、ケルさんすみません。エム君、もう終わりにして」

「ああ分かった」

(この人たち、ホントにそういう関係じゃないのかな………?)


とんでもない光景を目の当たりにしたケルは、ドキドキしながら驚きで声が出なくなるが、思い出したように伝えるべきことを早口で伝える。


「お、お頭が歓迎会をやりたいそうっスよ‼ 道案内するので来てくださいっス‼」

「歓迎会? 必要か?」

「分かりました」

「俺は行かん」

「行かなかったら失礼でしょ………、それに、いろんな人と会えるかもよ」

「行こう」

「切り替え早っ!」

「じゃぁ、行きましょうか二人とも!」


そして、ケルの案内で屋敷を出て、街へと繰り出す三人。数十分ほどかかった後、二人は「ビルネの酒場」とある看板が立てかけられた飲み屋らしき店に連れてこられた。


「凄い人気ですね。こんなに広いし」


そこでは、多くの人々が入り混じり、テーブルを囲んで酒を酌み交わしていた。酒や脂の臭いが鼻につくが、あまり不快ではなく、むしろ少し高揚とした気分にさせてくれるような、なんとも不思議な空間だった。


「この店は、ここら辺で一番人気っスからね~」

「初めて来た場所とは偉い違いだな」

「初めて来た場所っスか?」

「ああ、この国に来て、一番初めに入った店の料理が不出来でな」

「あのステーキは硬かったなぁ」

「それは不運だったっスね………、あ、おーいお頭‼」

「おお!ケル、遅いぞぉ!」

「もう飲んでる、早いっスね」

「5杯目よ………、パパ飲み過ぎ」

「いいじゃないか、久しぶりの新人だ。ドンドン持ってこい! 俺の奢りだ」

「なら遠慮なく」

「コラ、遠慮しなさい」


隙あらば失礼な態度をとるエムに、ナズナは呆れ顔で叱りながら椅子に座った。しかしエムは彼女の言葉をスルーし、期待を込めながらテーブルの横に添えられた注文表を開いた。「ドルトルのションパネル」「ヘルゲン草と発光苔合え」「クーポスの足揚げ」等々、そこには見たこともない料理名がズラリと並び、さぁ注文しろと言わんばかりに派手な装飾が施されていた。しかし、聞き覚えのある固有名詞に目が留まる。

(『シニエニのエルブレ焼き』……、エルブレ……、確かナズナが肉に使っていたあの赤色混合物か。シニエニというのも気になるものだな)

とりあえずエムは忙しそうに走りこんでいる店員を捕まえ、少し気になった『シニエニのエルブレ焼き』を注文した。


「よし、全員集まったな!これより、新人二人の歓迎会を」

「ちょっとまてぇぇい‼‼‼‼」

テーブルに、一人の男が怒鳴り込んできた。

「あ、ガント。すっかり忘れてた」

「はい、完全に忘れてたっスね」

「お前、いっつも影薄いなぁ」

「あんたらが忘れるのが悪いんだろうが!」

(またなんか変な人が増えた………!)

「誰だ」

「おいおい、誰だとはまたご挨拶だな。お前が例の新人か……、見た目が普通過ぎるな。俺は先輩だぞ、もっと敬ったらどうだ? ああ?」


鋭いギザ歯に三白眼、肩には、何の獣かは分からないが、厳ついタトゥーが彫られている、いかにもチンピラといった風貌をした金髪の男が突然飛び出してきた。そうかと思えば、エムに喧嘩を吹っかけているので、ナズナはひたすら困惑するばかりである。喧嘩上等というその態度に、エムは怯みもせず、むしろ対抗するように面と向かって言い返す。


「敬うも何も、お前のことを何も知らないのだから、無理だ」

「チィッ、俺ぁ理屈っぽい奴は嫌いなんだよ。ココ先輩、なんでこんな奴雇ったんだよ?」

「性格にはちょっと難があるかもだけど、それでも実力はあると思うわよ。パパの腕合戦に耐えたんですもの、あなたと同じで」

「そうっスよ。しかも、ココ姉ぇが気絶までしたらしいんスから」

「な⁉ あんたなんでそれ知ってるのよ‼ ……………グアね? あのおっさんが教えたのね⁉ どうなの⁉」

「痛い痛い‼ ココ姉ぇやめてえ‼」


ケルの細い体をがくがくと揺さぶり、問い詰めるココ。しかしチンピラ風の男はそれを気にせず、エムを品定めするかのような視線を無遠慮に放っていた。


「こんな奴がお頭と……?信じらんねぇ、そっちの女も勝ったってのか」

「いえ、私はやってないです………」

「ん? なんでそんなデカい帽子なんか被ってんだ? お洒落か?」

「そいつはちょっと訳ありでな、ま、あんまり触れるな」

「え? ………‼」


お頭がその三白眼にアイコンタクトをすれば、チンピラ風の男は、即座に何かを察したかのように押し黙り、空いていたケルの隣に静かに座った。


「………俺の名前はガント、これからよろしく頼む、が」

ガントと名乗るその男は、目の前に座る無表情な青年の目を睨み、指を指して宣言するように言う。

「俺はまだ、お前らを認めたわけじゃない。ここで働ける相応の奴かどうか、この俺が直々に見抜いてやる‼」


と、声高らかに周りの目も気にせず叫ぶガントを前に、エムは何の反応も見せず、ただ運ばれてきたシニエニの構造分析に没頭していた。


(シニエニといのは真緑の魚類のことだったのか! なるほど、興味深い……)

「おい、なんか反応しろやコラ!」

「新人さん方、この人の言うことはあまり真剣に聞かない方が良いっスよ。暴力的かつ自己中心的なお人っスから」

「んだとケルゥ‼」

「事実を言ったまでっス~」

「あの、見抜くって具体的に何するんですか?」

「ああ? あー……そうだな、明日、俺と同じ依頼で勝負しろ!逃げたら許さねぇからな?」


そのあとは「どんどん飲めぇ‼」と馬鹿みたいに酒や料理が運ばれ、ナズナは、普段は飲まないような酒をつい勢いで飲みすぎてしまった。そしてその影響か、今朝は酷い頭痛で目を覚まし、今に至る。

今まで感じたことが無いような不快感が腹に伝わり、まともに動けない。どうやってここに辿り着いたのかも分からないほど、飲んだ後の記憶が吹っ飛んでいる。

しかし、ガントという男が言った『勝負』という言葉だけは、寝ぼけと酔いでクラクラした頭に微かだが残っていた。


「はぁ………」


どうしてこんな面倒くさいことになる前に、自分はエムへ忠告できなかったのか、そんな自分の判断ミスをナズナは悔やみつつ、隣のベッドで寝ているはずのエムを起こそうとするが、そこには誰もいなかった。


(もう行ったのかな)


ふと、酒で酔い潰れる前に見た、あの楽しそうな風景を思い出す。

異形者だとか人だとか、そんなことはお構いなく、平気で遊んで、騒いでいる、夢にまで見たあの光景。


「私も………、あんな風に」


何かを呟きかけ、しかしハッと我に返った。そんなものが、自分なんかに手に入るはずがない、手に入ったって、いつか自分の危険性がバレて、絶対に壊れてしまうだろうと、諦めるように首を横に振る。幻想は幻想のまま、夢は夢のままで終わった方が、傷つかなくて済む。ナズナはそうやっていつも過ごしてきた。何も変わらない、これが彼女の『処世術』なのだ。

ナズナは気を取り直してベッドから起き上がり、とりあえず上着を着て、下の階に向かう。客はまだ人っ子一人おらず、シンと静まり返った受付場には寂し気な空気が満たされている。

しかし、そんな静寂の中で、何やら朝早くから騒がしくしている者たちがいた。


「てんめぇ……、今なんつった!」

「勝負など興味は無いと言ったんだ。お前(のデータ)には興味はあるが」

「俺にそんな趣味は無ぇ! というか、勝負に興味が無いだぁ? ふざけんな! 今日の依頼でどれだけ依頼主に貢献できたかで正々堂々勝負しろや‼‼」

「あんだけ飲んだのに、朝っぱらからよくそんな大声出せるっスね…………、正直羨ましいっスよそのタフさは」

ガントの張り上げた大声が二日酔いの頭によく響くのか、頭を痛そうに抱えるケル。精一杯の抗議のつもりで吐いた皮肉は、あのメンバーの中で二番目に多くの酒を飲んでいた筈が、何故か一番ピンピンしているガントに軽く一蹴されてしまう。

「はっ、そんな当たり前なことを褒められても嬉しくないぜ。お前こそ軟弱すぎるんだよケル。ちっとは鍛えろや。俺みたいに!」

「アルコールの代謝能力は鍛えてどうにかなるものじゃない。飲みすぎは体を壊すぞ」

「るせぇ、んな小難しいこと俺に言うな」

「エムさんも凄いっスね。僕はもう頭痛くて堪らないっスよ…………」

「ロボットだからな」


ギャアギャアと、出会って間もないというのに楽しそうに会話をしている三人の中へ、ナズナはなかなか入っていけなかった。


(うう……、どうしよ)

「何してるの?ナズナ」

「え⁉」


驚いて振り向くと、そこには、少し寝不足気味のようにも見えるココがいた。


「あ、ココさん。おはようございます」

「もう敬語じゃなくてもいいって言ってるでしょ。呼び捨てでいいって、ほら行くよ」

「え、あ」


階段でつっかえていたナズナの背を強く押し、無理矢理階段を下らせるココ。その途中、彼女はナズナの耳元で囁いた。


「大丈夫よ、安心して」

「え……?」

「朝からうるさいよ、ガント!」

「あ、ココ先輩。おはようございます!」

「なぜコイツは、この女にだけやたらと腰が低いんだ?」

「ああ、それはっスね………」

「おい! 馬鹿野郎、お前何を口滑らそうとしてんだ! 余計なこと言うんじゃねぇ! ………というか、それはどうでもいいんだよ。問題なのは」

エムに対して指を刺し、ガントは闘志を剝き出しにしたその三白眼で睨みつける。

「こいつが、勝負にまるでやる気を出していないことだ!」

「まだ勝負とか言ってるの? 先輩風吹かしたいのは分かるけどさ……」

「ココ先輩は口出し無用です! これは男と男の勝負ですから」

「あの、私は?」

「俺は女とは闘わん! だが、活躍っぷりはキチンと見ているからな」

「なんスかその硬派気取りは……、エムさん、相手にしなくてもいいっスからね。ナズナさんも」

「いや、是非あんたと仕事がしたい。その威勢の良さから見るに、実力はあるのだろう。それが見たい」


平気な態度で小馬鹿にしたような発言をしてくるエムに、ガントはこめかみに青筋を立て、売られた喧嘩を衝動買いしてしまう。


「ほーほーほー、上等だコラ。やってやんよコラ。何でも屋の先輩として目にもの見せてやんよぉ‼」

「すみませんがもう受付は出来ますか⁉ 緊急の用ですぐに………」


と、そこへ、肩で息をしながら一人の老人が何でも屋へと入り込んできた。丁度良く舞い込んできた依頼の話、二人が食いつかない訳もなく。


「それは俺が引き受けた!」

「引き受けよう」


老人が全てを言い切る前に、二人同時にそう宣言した。

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