第3話:星の獣たち

ガルドの森を抜け、その先の高原を数キロほど進んでみれば、またもや森に行きついてしまった。そこは先の森よりも樹木の背丈は比較的低く、生え渡る範囲もそれほど広くはない。しかし、動植物の生態系は他の森に負けず劣らず、膨大な数の種をその深緑に内包している。一度入ればその洗礼を受け、ガルドの森と同じく、ただでは抜け出せないだろうとされていた。

そして今まさに、その洗礼を受けている者達が二人。

否、一人と一機がいた。


「ああああああああああッ‼ どうすんのこれええええええええええ‼」


可憐な少女には似合わない、高く大きな叫び声を響かせながら必死になって逃げ回っていた。


「落ち着け、叫んでも仕方がない。まずは打開策を考えよう」


こちらは対照的に、低く落ち着いた声をしながら、息一つ上げずに(口が無いのだから当たり前だが)少女と苦も無く並走している。


「それはそうだけど‼ そうなんだけど‼‼ あなたが言わないでよ‼ こうなる原因作ったんだから‼」


なぜこうなっているのかと言えば、ナズナの言う通り、彼が起こした行動から全ては始まった。

この星の全てを調査する、と豪語した彼の知的探求心は凄まじいものであり、それこそ全てを調べ尽くす勢いでこの森へと侵入していった。しかし、入った場所が悪かった。いきなり面前に現れたネジレムシの鉄巣を見つけるや否や、その溢れんばかりの好奇心に身を任せ、恐れも知らず突っ込んでいったのだ。

案の定、数百はいる巣の住人の怒りを買い、今の状況となる。


「私言ったよね⁉ 危険だって止めたよね⁉ なんで行っちゃうの⁉」

「危険だからと言って、その調査対象から目を背ける理由にはならない」

「だからってもうちょっとやり方あるでしょ‼ ネジレムシは怒らせたら面倒くさいの! 顔を覚えられてどこまでも追われて、キリがないで有名なの知らないのエム君⁉」

「知らん、だから調べようとした」

「ああああもう!」


<ネジレムシ>


その名の通り、全身に捻じれたような甲殻を持つ昆虫であり、性格は獰猛かつ執着的だが、巣に近寄りさえしなければ危害を加えてくる心配はない。しかし、一度近づき、あまつさえその鉄巣の「蓋」を無理やり抉じ開けてしまったとなれば、話は別だ。螺旋状の角でもって獲物の身体を貫くまで、彼らは猛進し続けるだろう。


「もうすぐだ、掴まれ」


「……え?ええ⁉ ま、まさか、この先って……?」


嫌な予感を全身で体感しながらも、走る足は止まらない。


「崖だ」


当然のように言ってのけながら、ナズナを左腕の銀で包み込み、思い切り空へとダイブした。


「ちょ、ちょまあああッ‼‼」


ナズナの間抜けた絶叫が森中に木霊する。真下から吹き抜ける突風に抗いながらナズナは魔女帽子を必死に抑え、焔の如く鮮烈な赤髪と外套を激しく揺らしている。真上を見上げれば、今もなお追ってくるネジレムシの大群が一斉に垂直降下し、更に加速をつけようとしていた。


「……ッ! ど、どうするの⁉ このまま逃げ続けてもジリ貧だよ⁉ どこかに隠れないと……」


「どこかにまた崖は無いか?」

「……………ある。この崖を降りてまっすぐ進めば、深い渓谷が‼」

「よし、それだ」


地と激突するその瞬間。ナズナを包んでいた銀腕の一部がグネリと分裂し、大質量の塊となって固形化しながら、まるでクッションのように二人の衝撃を吸収した。

着地するや否やズガンと大地を踏み砕き、一迅の疾風となって突き抜けていく。


「す、凄い、こんなことも出来るの……?」


あまりの速度に慣性で吹っ飛びそうになるも、銀の左腕がナズナの体を胸から下へガッチリと固定しているお陰か、はためく帽子を手で押さえるだけで済んでいた。


「粘度を操作しているだけだ。それより、虫はどうなっている?」

「大分引き離したけど、まだ追ってきてる」

「よし、いいタイミングだ」

「やっぱり、またぁ⁉」


眼前に開けた崖が近づいてきたと見るや否や、またもやそこへ躊躇なく飛び込んだ。目標をいきなり見失ったネジレムシ達は、羽をブンと戦慄かせ、一度捉えた獲物は絶対に逃さないとばかりに、深淵に続く底の彼方へ突き進んでいった。

一方ナズナたちはというと、谷の壁面にへばりつきながらも、その岸壁の色に擬態させた銀粘液に包まれ難を免れていた。


「……ホントにこれって何でもありだね」

「そうでもない、変形するのにしても、その構造や動きが複雑であればあるほど高度な計算処理が必要になってくる。その分動きが鈍くなるから、あまり無茶はできん」

「さっき無茶やった人がよく言うよ……」


憎まれ口を叩きながらも、絶壁をよじ登るそのエムに、素直に身を任せるナズナだった。


「この森を超えれば、そのウェルガンに着くのか?」

「いや、正確には、大国に着くための<平絶の道>ってところに出るんだ。そこから4日かけて南へ渡っていけば、辿り着くはず」


地図を取り出し、それを睨みながら、改めてナズナは道順を確認する。<絶岩の道>とは、旅人がウェルガンへと行きつくためによく使う、危険な獣も出ない比較的安全な道のことである。


「この森を抜けるには、恐らく、少しの無茶だけでは至難の業だろう。そのあたりも少し覚悟しておいてくれ」

「……うん、分かってる。ごめんなさい頼りきりで……、でもエム君も、得体のしれないと思うものがあった時は私の話をよく聞いてね。私が知っている限りの知識で避けられるかもしれないんだから」

「了解した」


そう忠告し合いながら、エムは谷の上へと登り着いた。しかし、目の前に広がる溝は広く、向こう側の崖まで20メートル以上は離れていた。ナズナが所持しているロープではギリギリ届くかどうか怪しく、なにより二人分の重さに耐えきれるほどの強度が無かった。


「ここをどうやって渡っていくかな……」

「橋を作る」


エムが左手を地面に叩きつけたかと思えば、見る見るうちに銀の水たまりが出来上がった。そして崖と崖を繋げるため、空中へ浮くようにして鉄の板を形成し始めた。その橋の幅は、丁度ナズナの小柄な体がすっぽりとはまる程度で、十分ではあるが少し心許ない。厚さも思ったより薄く、ナズナはあまり頼りないような印象を受けた。


「こ、これ、渡っても大丈夫? 折れない?」

「強度に問題はない」


エムは当然のように言ってのけながら、つかつかと自ら生み出した橋へ歩き出し、難なくそこを通り抜ける。


「さあ」

「そ、そっか、なら……」


通るよう促すその鉄腕に、目を釘付けにし、なるべく下を見ないようにするナズナ。恐る恐るその銀の橋に足を踏み入れ、歩き出す。思ったよりもそれは頑丈で、ナズナが乗っているにも関わらず、ビクともしない。しかし20メートル以上はある橋の、その中間にまで差し掛かった瞬間。

ハッとしながら、背後に迫る薄く透明な殺意をナズナの感覚が捉えた。

直後、全速力で駆け抜けていく。底の恐れなどかなぐり捨て、ただ目前のゴールに向かっていく。それに呼応するように、ヒュンッ!と空を引き裂くような音が、確かにナズナへ迫っていた。

「……ッ!」

後ろを振り向けば、白い粘着質な触手のようなものが4本、シュルシュルと踊り狂い確実に目標をこちらへと見定めていた。その触手を辿り見てみれば、明らかに巨大すぎる白色の蜘蛛が、下に向いた鋏角の隙間から糸らしきものを吐き出している。腹部を気球のように膨張させ、ふわりと宙に漂うそれの姿は、確かに直前までナズナの背後には存在していなかった。だが現に糸の主は姿を見せ、目の前の獲物を捕らえんと躍起になって糸を手繰っている。


「走れ‼」


その張り上げた声に急かされ、やっとの思いで橋とも言えないただの鉄板を渡り切り、谷の向こう側へとたどり着いた。間一髪で糸の射程内から脱したのだろう、それ以上は追ってこず、諦めた様に本体へと戻っていった。


「あれはなんだ?」

「はぁはぁ……、あれは『フユウグモ』……早く逃げないと、他にもまだ仲間がいるかも」

「乗れ」

「あ、ああ、ちょ!」


半強制的にだが、うねる銀腕に包み込まれ、ナズナはまたもや背中に丁度良く収納されてしまう。さながら荷物のように持ち運ばれるナズナは、少し不服そうにしながら顔を出すも、文句ひとつ言わずにされるがままであった。


「あ、待って。一回降ろして」

「?」


ナズナは、唐突にエムへ自分を降ろすよう言い出した。エムは彼女がどこか焦っているように見えたが、背後をよく見ると背負いこまれた拍子にヒラリと帽子が落ちたようだった。応じるようにエムが拘束を緩めると、ナズナはすぐさま青紫の帽子に駆け寄る。


「大事なものだから」


言い訳をするように、噛み締めるように一言呟きながら、少女はその大帽子をしっかりと深く被り直した。


「よほど大事なんだな」

「ええ、まぁね。それより、あれは普段透明になってるから気を付けて!」

「いや、俺には見える。だからそれは大丈夫だ。問題は………」声を低く、唸るように、空を睨みつける。

「数が、多すぎる」


エムはその円形の大目玉を、カチリと、自らに搭載されている熱源探査に切り替える。樹木の隙間から覗く空を見上げれば、生物特有の巨大な熱源が無数に漂っていることがエムには一目瞭然であった。


「急ぐぞ」


もう一度ナズナを背負い込み、弾かれるように走り出す。ここに長くいてはいけないという直感が、エムの脚を否が応にも力ませる。背負っている少女に気を使いながら、風のように走り抜け、フユウグモの触手の雨を搔い潜っていく。

しばらく走っていると、追っ手も来なくなり、縄張りから抜け切れたのかもしれない、とナズナが安堵したのも束の間。


「止まって‼」


ナズナが張り上げた大声と同時に、エムは急停止した。


「…………分かる?」

「ああ、地中に熱源反応。それもかなりの数がいるな。何だ?」

「『バクソウ』踏んだら爆発する植物。この辺一帯の地中には、あいつらが山ほど埋まってるの。とりあえず、私が弓で誘爆する。そのあとから」

「いや、その余裕はない。突き進む」

「え?いやエムく」


と、ナズナの制止が言い終わらないうちに、エムは躊躇いもなくその地雷原に足を踏み入れた。木を伝い、地を跳ねる。その姿はさながら曲芸師の如く自由自在に跳び回り、的確にバクソウを避け続けながら怒涛の勢いで森を突き進む。


「う、うううおえぇぇぇ……」


縦横無尽、立体的に跳ね回るその負荷は凄まじいものであり、容易にナズナの三半規管を揺さぶった。吐き気に耐えながらも、その運動能力にナズナは絶句し、桃色の目を大きく見開く。


(これが、ロボット⁉)

「大丈夫か?」

「うぉっ……だい、じょうぶ」


ナズナはえずきながら、返事ができる程度には意識を強く保てていた。


(少し、休息が必要か)


ナズナの様子を見て、エムは生命の肉体を持つ者の不便さと脆弱さを再認識させられる。そこに仄かな羨望の情があったことに、エム自身気付いていない。

しばらく森中を駆けずり回り、休憩地になりうる場所を探していると、丁度、何の気配も熱源もない、森閑とした泉を木々の隙間から発見した。


「ここで休憩しよう」


そこには、思ったよりも広大な空間が広がっていた。先ほどの喧騒が嘘のように、シンと静まり返っており、霊妙な雰囲気に包まれている何とも言えない場所であった。澄み切った泉の奥底にはまるで神秘が内包されているかのようで、何者にも近づかせない荘厳さを放っている。


「ここなら安心……かな?」

「ああ、ひとまずは大丈夫だろう」


緊張の糸が切れたのか、ナズナは「フー」と、ため息を零しながら、近場の岩に腰掛けた。


「あー、キツイ。これ、一人だったら絶対死んでるよ……」

「ああ、この森は厄介な生物が多すぎる。これでは、生態調査も満足に行えん。昨日の森とはえらい違いだ」


「ガルドの森、ね。あそこはフェンガル以外で肉食が少なくて、確かにここと比べれば、さして危険じゃないのかもしれないけど、でもそれを全部ひっくり返せるほど、フェンガルが強すぎるの。あなたがあそこで難なく調査できたのは幸運みたいなものだよ」


「……そうか」

(そうか……って、なんか一々反応薄いなー……)


先ほどの大立ち回りを体感した後では、その薄い反応に違和感を覚えてしまうほど、ナズナはこのエムに、ただ者ならぬ雰囲気を感じ取っていた。

(あんな動きができるなんて、ガルドの森の時もそうだったけど、『ろぼっと』っていうのは皆あんな超人みたいなものなのかな……?)


ジッと、泉に興味津々な様子で観察しているその背中を見ていると、エムは唐突に、予想だにしない発言をした。


「ところで君は、本当に感情を感じ取ることしかできないのか?」

「え?」


ドキリと、心臓を掴まれたかのように、少女にとっての核心を突いた質問をされた。


「な、なんでそんなことを……?」


「いや、なんとなくだ。あの森の時、横から放たれてきた矢に、何か薄い光のようなものが纏われていたことを不意に思い出してな。その矢が放たれた先を見たら、そこに君がいたんだ」

「………」


先ほどまで,煌めかんばかりに桃色の輝きを放っていたその目に、一瞬の陰りが射した。

もう、伝えてしまおうかという葛藤に苛むように、目をギュッと瞑るナズナ。しばらくしてから、意を決したように目を見開き、足元に転がっていた石ころをおもむろに手に持った。

すると、それが赤く薄い皮膜のようなものに包まれ、軽々宙に浮き始めたではないか。超常を体現したかのようなその現象に、エムは魅入るばかりで、言葉が出ない様子であった。


「ごめん、ちゃんとあなたに伝えてなかったね。ごめん、これが、私のもう一つの異能。自分の感情をものに流し込んで、それを操る………、異形者が危険生物扱いされる、もっともな理由の一つだよ」


自虐するように、寂し気な目で、ナズナはその浮遊する石ころを弄んだ。


「それは……」

「操れるものの大きさにも限度があるけどね。こういう石ころみたいなものは簡単に操れるけど、山みたいに大きい石とかは操れないし、生き物なんかは直接触って時間かけてからじゃないと」


しかし、ナズナは言葉を一瞬途切れさせ、「でも……」と続ける。


「私はこの力をできる限り、人に向けて使いたくない。もちろん守るときには使いたい、でも、それも少し怖いんだ。少し間違えたら、守るどころか傷つけてしまうんじゃないかって考えると……」

「ちょっと、これを狙ってみてくれないか? 出来れば思い切りぶつけてみて欲しい」


唐突に、右腕の銀塊を壁のように広く張り、訳の分からないことを言いだした。


「え? い、嫌だよ! 言ったでしょ人に向けて使いたくないって! あなたも人間だって言ったでしょ⁉」

「ああ、それは聞いた。だから狙うのはこの壁だけだ。それにだけ集中していればいい。俺は問題ない」

「問題ないって……」


少し躊躇うように、その壁を見れば、そこに当てろと言わんばかりに的のような円が濃く浮き出てくる。


「……知らないよ」


半ばヤケになりながらも、その人工の壁に意識を集中させ、朱色に覆われた石を目の前にかざす。数メートルは離れた的に照準を合せるように手のひらを向け、同時に全身を力ませた。脈打つ鼓動よりずっと速く、周囲の空間を紅く轟かす。そして、瞬間。

ゴオッッッッッッッッッッッッ‼‼と


轟雷が一閃、水平にカッ飛んだ。


空気を削り打ち震わせるそれは、さながらレールガンのようで、冗談みたいな光景だった。砲弾は嘶き、赤熱した弧を描く。壁面に激突した途端に火花を散らし、凄まじい金属音を奏でながら的のど真ん中へと突っ込んだ。

ジュウジュウとその銀を焦がす岩石は、よく見れば、一部分を壁の反対から露出させ、かろうじて貫いている状態であった。


「なんだ、この威力は」


それはもはや、一生物が出していい物理現象の域をはるかに超えていた。殺戮兵器じみたその能力に、エムは唖然とした様子で立ち尽くした。


「ご、ごめん。やりすぎた」


思ったよりも威力が出てしまったのか、ナズナ自身、青い顔色をしている。

「最高硬度に設定したこの壁を穿つか………。確かにこの能力は、行使するにはいささか面倒だな」

「これでも、最初の頃よりは制御出来てる方なんだ……、小さいときはまだ力が不安定で、危うく自分が死にそうになって、よく姉さんに叱られてたよ」

「なら、もっと制御をうまくなればいい、そうすれば、他人を傷つけなくて済むし、他人から忌嫌われることも少なくなるだろう。その力は、もっと有効に使うべきだ」

「……簡単に言うけど、無理だよ。私には、何年かけても、この程度がやっとだったし………」

「今からもっとうまくなればいい。恐怖になんて縛られずに、その力で人を活かせ」

「……だから‼ そんな簡単には」

「出来る」


否定を遮り、真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに、ナズナの目を見てキッパリと言った。


「な、んで、そんなことが言えるの?」

「………本来ロボットは、『感』などというものに左右されない、合理的で融通が利かないような、そんな代物だ。しかし俺は忌々しいことに、既存のそれらとは次元が違うほどに進化した、いわば次世代型のロボットになる」

「……??」


突然、話の見えないようなことを言い出した彼に、怪訝そうな表情をするナズナだったが、そんなことは気にも留めていないという風に、エムは話し続ける。


「つまり、何が言いたいかというと」


一区切りして、言った。


「すまない、君が出来ると思うのは、ただの感だ」


呆気にとられてしまい、ナズナは数秒の間動けなかった。しかし徐々にその凝固が氷解していくうち、口から空気が漏れ出し、仕舞には肩を震わせるほどに笑い転げた。


「あっははははははは‼‼‼」

「?」

「感ってなにそれ、適当過ぎるでしょ。フフフッ……お腹痛いっ」

「常時そんな判断はしていない、時と場合を鑑みて、状況によって瞬時に思考を切り替える。俺にはそれができるというだけだ」


なぜナズナが笑っているのか分からず、エムは不思議そうに見つめるが、やはりなにも分からず、少し不満そうにしながら焦げ付いた鉄壁を元の銀腕の形にズルズルと戻していく。


「だから感って……、はー、まあいいや。……………確かに私、自分に諦めてたかも、もっと挑戦すべきだったかな。うん………、もうちょっと、頑張ってみるよ」


散々笑い転げた後のナズナの顔は、どこか憑き物が落ちたようなスッキリとした表情をしていて、年頃の少女を思わせる可憐さと、何かを決意したような勇ましさが同居する、なんとも不可思議な雰囲気があった。


「エム君って、合理的に見えて案外適当だよね」

「なんだそれは?意味が分からん」

「あはは、確かに……、じゃ、そろそろ行こうか」

「ああ」


一人と一機、それぞれの独白が交錯し合い、一つの覚悟を生み出した。その聖なる泉を後にし、彼らは互いに背を預ける。その後ろ姿には、森への恐怖は微塵も無いような堂々とした出で立ちであった。

木々の隙間から外の様子を伺いながら、何もいないことを確認すると、そのまま森を踏破する勢いで突き進んでいく。

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