第28話「夢月の独白」
十二年前のあの日。わたしはお父さんとお母さんを失った。
どうして亡くなったのかは、なぜか記憶があいまいだった。交通事故だって聞いている。黒い服を着て、
たぶん泣いていた、と思う。
お父さんとお母さんはどこ? って。
「俺のところに来るか?」
おじさんが葬儀の後にそう言ってくれた。親族とひと悶着あったらしいけれど、知らなくていいことだと言っていた。
わたしにはまだわからない感覚だけど、子供を一人引き取るだけでも、相当苦労するはず。仕事帰りに保育園までダッシュして、帰ったらご飯を作って、お風呂に入らせて、寝つきの悪いわたしを寝かしつける。
けれどおじさんは、「君がまだ赤ん坊だったら、もっと大変だったろうな」と笑っていた。お父さんとお母さんの気持ちが少しだけわかった、とも。
十四歳の時だった。
友達と遊びに出かけていて夢中になってしまい、帰りが遅くなったことがある。おじさんは家の外に出ていて、タバコを吸って、じっと待っていた。冬の寒い時期だったのに。
叱られるかもしれない——そう思い、つい身構えた。
「遅くなってごめんなさい」
素直にそう言えばいいのに、どうしても言えなかった。
反抗期だったのだろうか。「待ってなくてもいいのに」とか、「ほっといてよ」とか、「タバコ臭いからやめて」とか、そういう言葉を使いそうになったけど――おじさんはわたしの顔を見るなり、頬を緩ませて、「お帰り」とだけ言った。
曇り空から陽光が差し込んできたことを喜ぶような不器用な微笑みに、わたしは言葉を失ってしまった。
おじさんは、怒ったりも叱ったりもしなかった。
いっそのこと、そっちの方が気楽だったのに。
そういえば、いつからだったろう。おじさんが、タイムマシンの開発をするようになったのは。きっかけは——そうだ、わたしが「お父さんとお母さんに会いたい」って言ったからだ。
おじさんは大学時代の旧友を訪ねて、そこから計画がスタートしたらしい。わたしが六歳の頃からすでに始めていたというから、実用化までにおよそ十年要したことになる。
実験の日に、あいつらが攻めてきた。
修正機関〈リライト〉。
連中が攻めてきたということは、タイムマシンは完成していたということ。時の流れを変える恐れがあるということ。連中はヨルワタリの破壊を目的としていたけれど、おじさんとその仲間が防ごうとした。嫌がるわたしをコクピットに押しやって、操作して、そして——おじさんは後ろから撃たれた。かろうじて意識を保っていたおじさんは、わたしの頬を撫でて、最後にこう言った。
「また会おうな」
おじさん、と叫んだ時——コクピットのハッチが閉じた。
そしてわたしは、過去へ飛んだ。
未来を変えるために。おじさんを守るために。お父さんとお母さんに会うために。
わたし自身は最低でも、十六歳までは生きられる。おじさんたちが守ってくれる。
だからわたしは、みんなを守る。
時の流れがどうのなんて、知ったことじゃない。
あいつらは——〈リライト〉は、またも敵として立ちはだかる。また奪いにやって来る。
そんなの許さない。
誰が相手でも、絶対に退かない。負けられない。
もう、失うのは嫌だから。
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