第27話「待ち受ける龍虎」
「なんだ!?」
「——〈リライト〉!」
「奴らが!? じゃあ、このカウントダウンは——」
「連中が出てきてからの時間! おじさん、悪いけどわたしがコントロールするから!」
言うや、操縦桿やフットペダルなどが固定される。
光一はヘルメットをかぶる夢月を見やった。
「——行けるのか?」
「行かなくちゃ、止められないでしょ。スーツないからきついかもだけど、我慢してて!」
機体が急降下していく。
雲を裂き、街から街へと飛び、やがて——肉眼で確認できるほどの火の海が見えてきた。
無数のビルが火と煙を吐いている。悲鳴すら聞こえない。もう手遅れだと、ひと目でわかるほどの惨状だった。
「なんてことだ……」
「あいつら……!」
ヘルメット越しでも、夢月が歯噛みするのが聞こえた。
燃え盛る街を背に、〈クロック〉が浮遊している。その上に、二人の人影があった。金髪の青年と、小学生ぐらいの背丈の少年だ。なぜか二人とも執事服を着ている。
夢月が憎悪をむき出しに、その名を口にする。
「リューズ、ベゼル……!」
「〈リライト〉か?」
「わたしたちの時代をめちゃくちゃにした奴らよ!」
彼らは
金髪の青年——リューズは懐中時計の開け閉めを止め、首をこちらに向けた。
「お久しぶりですね。……
「まったく、待たせやがって」
少年——ベゼルは不満をあらわに、〈クロック〉の表面を蹴った。
リューズは両手を広げ、「いかがですか?」
「この燃える街——見覚えがあるでしょう? かつて私たちが、あなた方の時代を滅ぼした光景そのものではないですか?」
ぎしっ、と操縦桿を握る手に力がこもったのを聞き——光一はとっさに叫んだ。
「落ち着け! ただの挑発だ!」
「わかってる……!」
言葉とは裏腹に、抑えきれない怒りを光一は感じ取った。
まずい、と唇を噛む。
正気と冷静さを欠けば、負けるのはこちらだ。
「では、そろそろお相手しましょうか」
リューズは頭上に手を掲げ——ぱちん、と指を鳴らした。
「——来たれ、アサヅミ」
上空から青い稲妻が、リューズのすぐ後ろに落ちた。それによって生じた穴から、龍を模した巨人が、腕を組んで現れた。両足を揃えて宙に浮かび、両肩には宝玉のようなものを掴んだ爪の意匠が施されている。全身は青色の鱗に覆われ、胸部にはこれまでの巨人とは違い、赤色のコアがあった。
「——来やがれ、マヒルガ!」
ベゼルが真下に手を広げ、叫ぶ。
地面をこじ開けるようにして、虎を模した巨人が飛び出してきた。焼けたビルの天井を踏み潰し、四肢の爪を光らせる。白銀のボディに金色のラインが走っており、当然のように胸部にコアがある。
アサヅミの手に乗ったリューズが、嫌味たっぷりに口の端を曲げた。
「そうそう、今回は他の〈クロック〉は持ってきていないので。あなたはただ単純に、私たち二人と戦えばいいのです」
「舐めてるの!?」
「すーぐにわかるさ。力の差は歴然だってことがなぁ!」
リューズ、そしてベゼルがそれぞれ巨人のコアに取り込まれ——いや、入り込んでいく。アサヅミ、マヒルガの両目が光った時、光一は怖気を感じた。
この二体は、これまでのものとは違う——
警告を発するよりも早く、夢月はヨルワタリのスラスターを噴射した。前方からの重圧によって、光一は声を出すタイミングを失ってしまった。
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