▼11「教室の外」
今日の体育は体育館でドッジボールだった。体育教師が受験勉強で疲れているだろうからと気を利かせて、生徒の要望を募って決められた球技だ。
体育はいつも二組合同の男女別で行われる。女子が体育館側、男子が出入口側と体育館を二分して、それぞれに授業を受けている。
「創ーっ、しっかりとれよーっ!」
「え、あ、わっ!?」
突然投げかけられた声の方へと顔を向けると、ボールがふわりと山なりに飛んできていた。中野くんからのパスだ。けれどぼーっとしていた僕はそれを取り損ねて、爪先に当たったボールが敵のコートに転がり込む。
「ラッキー」
「あ」
慌ててボールを取りに行こうとした間抜けな背中に、軽くボールが当てられる。審判の体育教師から「三戸アウトー」と宣告されて外野行きを言い渡された。
「さっきのはダサかったぞー」
既に外野にいた中野くんから、からかいを受ける。それに苦笑を浮かべて謝りながら、僕はそれとなく壁際に寄って、またぼーっとした。
そしてまた考える。
……今度は安立さんとどんなことを話そう。
教室の外にいると、頭の中にはいつもそればかりだった。
けれどこの時に考えた話題で始まることはほとんどなくて、結局その時々に思いついたことで盛り上がる。そのくらい、僕らの会話は尽きが来ない。
それでも僕は、ずっと彼女と話すことを考えてしまう。
ふと、寒さを感じた。
長袖の体操着を着ているとは言っても体育館はすごく冷えていて、体を動かしていなければ当然体温は下がっていく。
コート内で必死にボールを避けるチームメイトは汗を流していた。
そんな様子を、僕はどこか遠くにいる気分で眺める。なんとなく、皆の輪に混ざって楽しむことが出来ないでいる。
最近はいつもそんな感じだ。
現実が現実じゃないみたいで。どことなく、見ている視界が夢のようにすら思える。
それは、頭の中で安立さんの声が聞こえるなんてことが起きているからだろうか。
いやまあ、間違いなくそのせいだ。
あれこそ、現実的ではない。だから自分の立っている場所が曖昧になってくる。
そんなことを、いつまでもいつまでも考えている。
外を眺めて。時計を見つめて。
早くあの教室に戻れないかと、彼女の声が聞けないかと考えてしまう。
そうしていたから、また回って来たパスを取り損ねてボールが敵チームへと渡った。
それがきっかけかは分からないけれど、僕のチームは負けた。
遊びだから本気にする人はいなかったけれど、中野くんとかは僕のミスを冗談交じりに責めた。
でも、僕がこうなっている理由は知らない。
例え聞かれたとしても僕が打ち明けることはないだろう。
あの会話は、僕だけの秘密だし。
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