04 ダンジョン深部攻略

 裏路地でエクスは再び聖剣の姿に戻り、アバランスさんが腰に鞘を固定する。


「よし、これでいいかな」


 すると、アバランスさんの腰に固定されたエクスから声が聞こえる。


≪……お兄様。なんだか複雑な気持ちです≫

(まぁまぁ……アバランスさんの武器が壊れたのって俺がいた鍛冶ギルドのせいだし、ちょっとした罪滅ぼしだよ)

≪……わかりました≫


 まぁ、壊したのは俺じゃないけど。


≪……あと、私は鞘から抜けれたままでは人化することはできないので、それだけアバランスに伝えていてくださいね≫

(うん。わかった)


 俺はすぐにアバランスさんにその事を伝えた後、王都サントリアの中央部にある冒険者ギルドが受付をしているダンジョンの入り口付近へと向かう。


「そういえば、アバランスさん達は何かクエストを受けているんですか?」

「私達は国王から直々にダンジョン深部の調査を依頼されているんだよ。このダンジョンは謎が多いからね」


 アバランスさんはダンジョンの入り口の方に視線を向けながら呟く。


「それに、このダンジョンはパーティのランクによって降りれる階層が決まっているんだ」

「パーティ……ランクですか?」

「そうさ。アイアン級、ブロンズ級、シルバー級、ゴールド級、ミスリル級、オリハルコン級とランクは上がっていく事でダンジョンの奥深くへと潜れるようになっていく。私達は最上位のオリハルコン級だから、潜れる階層に上限はないんだ」


 ……俺はそんなパーティに加入していたのか。

 今更、怖気づいてきてしまう。


「……さ、さすが国王様から選ばれた勇者って感じですね。そんなパーティと一緒にダンジョン攻略する身としては、今から生きた心地がしないんですが……」

「ははっ……大丈夫さ、仲間もいるし、何かあれば私達がサポートするよ」


 俺達が話していると、ダンジョンの入り口へと向かっていたシャワティさんやゲボルドさんやリースさんが声を掛けてくる。


「ほら、話してないで入るわよ」

「……アバランス、早く来い」

「もう! 早く行くわよ!」

「すまない! すぐに行くよ! ほら、マイオス君も行こう」


 皆の声に気付いたアバランスさんが俺に振り向き、笑みを浮かべながら駆けだしていく。

 ダンジョンの入り口にある冒険者ギルドの受付を済まして、いよいよ俺達のダンジョン攻略が始まった。




◇◇◇




 ダンジョン内の通路には壁に松明がいくつも設置されており明るく照らされている。

 そんな中、ダンジョン攻略を開始して早々に俺は勇者パーティの強すぎる力を垣間見る。


「うおりゃぁぁぁぁぁ!」


 押し寄せる魔物の大群をゲボルドさんが大剣の一振りで薙ぎ払い――


たける灼熱の炎よ、全てを焼き尽くし、食らいつきなさい! ――”エクスプローション”」


 ――バアアァァァァァンッ!!!!

 ゲボルドさんが薙ぎ払った魔物達をシャワティさんの特大魔法で一網打尽にする流れが綺麗に決まっている。


「……すごっ」


 俺が関心しているとアバランスさんはエクスを鞘から抜く。


「さて、聖剣のお手並みを拝見しようじゃないか!」


 それからアバランスさんは、二人の攻撃から逃れた魔物の残党を残さずに始末をしていく。

 一連の流れは、とても連携の取れたパーティだと思える身のこなしだった。

 だけど……


「光の聖霊よ、私の声に答えなさい……答えなさいったら答えなさい! ……ねぇ、聞いてるの!!」


 ……ただ一人リースさんは先ほどから詠唱をずっと唱えっぱなしで特に戦闘に参加していない。


「……ねぇ、君は何をしてるの?」


 俺は気になりすぎて、思わず尋ねてしまう。


「ちょっと話かけないで! 集中が途切れちゃうじゃない! 私が回復させないと、皆すぐに疲れちゃうんだから!」

「……そ、そうなんだ。頑張って」


 ってか、こんなに詠唱って長いものだっけ?

 そんな事を考えていると、リースの背後からゴブリンが飛び掛かってくるのに気づく。


「あ、危ないっ!」


 俺はすぐにリースさんを抱き抱え――


「キャッ!」

 

 ――グサァッ!

 もう片方の手に持っていたゲイボルグでゴブリンの心臓を一刺しにする。


「グアァァッ!」


≪くぅ! やっぱり生の血は美味いねぇ!≫


 すごく怖い言動をするゲイボルグだったか、やはり切れ味は凄まじい。

 紙を貫いたような感覚だ……というか、ゲイボルグが意志を持って動いてくれるので俺は単に槍を持っている感覚に近い。


 槍を抜いて魔物は地面に落ちると瞬く間に消滅し、魔物がいた場所には鉱物や魔物の断片などがドロップする。

 魔物は絶命した時に、低確率で様々なドロップ品を落とすんだ。


「……大丈夫だった?」

「あ、ありがと……ってもう! だから邪魔しないでって言ってるでしょ!」

「……えぇ~……」


 お礼を言ってきたかと思えば怒ってきたり……反応がころころ変わって忙しい子だなぁ……。




 それからもリースさんは相変わらず詠唱が長くてあまり活躍はしておらず、それ以外のパーティメンバーの活躍によってダンジョン深部へと次々と階層を降りていく。


「結構深くまで降りてきましたね」

「そうだね。このダンジョンでは1階層から5階層を上層と呼ばれ、6階層から15階層を中層、16階層から30階層が下層と呼ばれているね。ここはたしか36階層だから深部にあたる場所まで来ているはずだ」

「もうそんな階層まで降りてきたんですね。……けど、ダンジョンから帰る時ってどうするんですか?」


 俺はふと疑問に思った事をアバランスさんに尋ねる。


「安心するといいよ、ダンジョンに入る時に冒険者ギルドの受付から貰ったこの帰還魔法が刻み込まれている魔法液が入っている小瓶がある」

「帰還魔法……ですか?」

「あぁ、これを地面にぶつけて壊せば、すぐに中に入っている術式が発動し、入り口まで戻る事が出来るんだ」


 アバランスさんは紫色の液体が入った小さな小瓶を取り出して説明する。


「……そういえばそれ、入る時に貰っていましたね」

「そうさ、だからダンジョン深部からでもすぐにダンジョンの入り口に戻る事ができるのさ」

「それなら安心ですね!」


 安心した俺を見つめるアバランスさんの表情が一瞬、不敵な笑みに変わった気がする。


≪……っ!? ……これは≫


 アバランスさんが持つエクスも何かを感じ取ったのか、俺にだけ聞こえる声を上げる。


「……アバランスさん?」

「あ、いや! なんでもないさ、先を進もう!」


 エクスが反応していたが、すぐに普段見せる優しい笑顔に変わる。


「はい!」


 さっきのは気のせいだろう。

 俺は地上に戻る術がある事が分かり、不安要素もなくなりホッと胸を撫でおろす。




 そして、ひときわ大きな場所に出た俺達は、下の階層に繋がる階段をふさぐように大きな鎧を着たゴーレムと周りに集まる魔物の大群と鉢合わせになる。

 すると、すぐさま魔物達は俺達に襲い掛かってくる。


「……やはり、深部になると数が多いな。これ以上は先に進むのは難しいだろう……そろそろ潮時だね。……やってくれ、ゲボルド」

「……承知した」


 魔物の大群を見ながらアバランスさんはそう呟くと、傍にいたゲボルドさんは俺の首根っこを掴み――


「――えっ!」


 ――俺は物凄い力で魔物の大群の中へと投げ飛ばされる。


「えええぇぇぇぇぇぇぇ!!」

≪お兄様っ!!≫


 遥か後方でエクスの声が聞こえる中、手に持っているゲイボルグからも声が聞こえる。


≪……あんちゃん、なかなか根性の座ったやつと一緒にいたんだなぁ≫

(いやいや、そんな悠長な事を言ってる場合かぁ!)

≪……おっと、そうみたいだな。ひとまず着地をしないとな!≫


 ――サクッ!

 地面に激突をする直前に握っていたゲイボルグが自ら地面に突き刺さり、地面に落下する衝撃を軽減することが出来た。


「た、助かった……」

≪……ほら、あんちゃん。休んでる暇はなさそうだぜ≫


 着地をした後、俺の周りには魔物が飛び掛かってきていた――


「くそぉっ!」


 ――ブウゥンッ!

 ゲイボルグの力を借りて思いっきり槍を薙ぎ払い、飛び掛かってきていた魔物達を四方に蹴散らす。

 魔物達を吹き飛ばした後、遥か後方にいるアバランスさん達に視線を向ける。


「な、なんでこんなことを!! アバランスさん!?」


 俺が叫ぶとアバランスさんに傍にいたシャワティさんが哀れみの視線を向けてくる。


「はぁ……毎回毎回、慣れないモノね」


 ため息交じりで呟くシャワティさんとは裏腹に大きな声を上げるリース。


「ちょ、ちょっとアバランス! 何をしているのよ!」

「ははっ……ごめんね。元々はリース、君を囮にするつもりだったんだけど……でもそうだな、ついでだしゲボルド。リースもお願いするよ」

「……承知した」

「……え、な……何よ!」


 困惑するリースも軽々と持ち上げるゲボルドは俺の方に向かって放り投げてくる。


「はっ!?」


 ……嘘だろ?

 あいつ、なんてことするんだ!


「キャアアアッ!」


 叫び声を上げながら俺がいる方に投げ飛ばされたリースをなんとか受け止めようと移動する。


「わわっ!」


 ――ガシッ!

 俺は乱暴に投げ飛ばされたリースをなんとか受け止める。


「……だ、大丈夫?」

「あ、ありがと……って、もう! 全部あんたのせいだからね!!」

「……えぇ~……」


 せっかく受け止めてあげたのに……。

 って思っている余裕はなく、すぐにリースさんを抱えて迫ってきていた魔物の大群から距離を取る。


「……アバランスさん! 酷いじゃないかこんな――」


 再びアバランスさんの方に視線を向けると――


 ――パリィンッ!

 するとアバランスさんは小さなビンを地面に叩きつけ、周辺に魔法陣が浮かび上がる。


「この帰還魔法には発動まで時間が掛かるからね。毎回時間稼ぎの囮をパーティに加入させているのさ。……そういう事だから、この聖剣は貰ったよ。せいぜい苦しまない程度に死んでね」

≪貴様!! よくもお兄様をっ!≫


 エクスは俺にだけ聞こえる声を叫ぶ。


「エクス!!」


 俺はアバランスさんの持つ剣に視線を向ける。

 バッチリとエクスは鞘から抜かれている状態だ。

 

(……確かエクスは鞘から抜かれていると人化できないって言っていたな)


 こんな事になるなら、アバランスさんに聖剣を貸すんじゃなかった。

 俺はめちゃくちゃ後悔の念に苛まれる。


「それじゃ二人とも、ばいばーい」


 アバランスは不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

「ちょ! 待――」


 俺が言葉を言い切る前に、魔法陣の中にいたアバランスさん達はその場から姿を消した。


「――そ、そんな」


 おそらく、帰還魔法でダンジョンの入り口まで戻ったんだろう。

 ……でも、俺達は……俺達はどうすればいいんだ!?


「……ど、どうするのよ! この状況は! ……って、私を早く降ろしなさいよ!」

「あ、ごめん!」


 ――スタッ

 俺はひとまず俺以上に混乱しているリースさんを地面に立たせる。


(強気な子だけど、微かに震えていたな。……この子だけでも、守らなきゃ!)


 俺は手に持つゲイボルグを力強く握り――


「一先ず、こいつらをどうにかしなきゃ!」

≪おう! あんちゃんと俺で辺り一帯を血の海にしてやろうじゃないか!≫


 ――魔物の大群に視線を向けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る