03 勇者パーティ加入

 勇者パーティに加入した俺達は冒険者ギルド内にある飲食をするテーブルに着く。


「それじゃ簡単に自己紹介をさせて貰うよ。私は王都サントリアを治める王様から選ばれた指名勇者のアバランス・タイナーだ」

「よろしくお願いします」


 既に名前は知っていたが、とりあえず頭を下げておく。

 顔を上げると、アバランスさんは隣の女性に視線を向ける。


「私はシャワティ・クワイヤよ。攻撃魔法から護衛魔法まで何でも使いこなせるからサポートは任せて頂戴ね」


 シャワティさんは杖先にルビーを填めた杖を持ちながら俺にウインクを飛ばしてくる。


「は、はい!」


 思わずドキッとしてしまい、変な声が出てしまう。

 隣に座っているエクスの視線が痛い。


「我はゲボルド・イワンコフだ。……あまり話すのは好きではないが、よろしく頼む」


 ゲボルドさんは寡黙な人なのか、名前を言って終わってしまった。

 傍に大剣を立てかけているが、筋肉質なその体を見るに簡単に扱えるんだろうな。

 

「……ど、どうも」


 そして、皆の視線が神官の女性に集まる。


「……ふん、私はリース・グレッドよ。神官をしているわ」


 ――バッ!

 持っていた杖の杖先を俺に向けて、俺を睨みつけながら続ける。


「足手まといにならないでよね! でもまぁ、回復魔法なら私に言えば使ってあげても良いわよっ」


 この子にはあまり好かれていないのが、ものすご~く伝わってくる。


「あはは……お手柔らかにお願いします」


 アバランスさん以外の武器は元気そうで悪い人ではないのが分かった。


「……さて、私達の自己紹介を終えた事だし、君たちの事が聞きたいな」


 アバランスは俺達に笑みを浮かべながら問いかけてくる。


「あ、はい! ……えっと、俺はマイオス・ブロンドと言います。元々は鍛冶師をしていたので武器の手入れなどには任せてください。隣の子は……」


 エクスの方を見て、思わず言葉に詰まってしまう。

 ……どう説明すればいいんだろう?


「お兄様、この者達には私の事を説明した方がいいでしょう」

「……え、信じてくれないでしょ……」

「ん? どういう事だい。お兄様……という事は妹さんじゃないのかい?」


 アバランスさんはエクスに向かって尋ねる。


「……いえ、私は本来は聖剣エクスカリバーという剣の姿をしていたのです。ですが、私をお作りになったロイダース様の力によってこうして人化できているのです」


 エクスが話すと、勇者パーティの面々は顔を突き合わせる。


「ロイダース……聞いた事があるよ、伝説の鍛冶師だってね。……でも驚いたな。それは本当なのかい?」

「はい。この姿ではエクス・ブロンドとお呼びください。ここでは多くの目がありますので、後で剣の姿にもなって証拠をお見せしましょう」


 アバランスは周りを見渡した後にエクスに視線を戻す。


「……それもそうだね。……でもすごいな。大昔にこの王都サントリアで英雄と呼ばれた偉大なるアーサー王が使っていた有名な剣がここにあるとは……」

「え……エクスってそんなに有名な剣なんですか?」


 俺が驚きつつアバランスさんに問いかけると、エクスは思い出すような表情を浮かべる。


「……懐かしいですね。彼女はとても私を気持ちよく使いこなしてくれました」


 アーサー王って女性だったのか……知らない事だらけで恥ずかしくなってくる。

 すると、シャワティさんがエクスに向かって尋ねてくる。


「でも確か、聖剣エクスカリバーは最後、魔法の湖に投げ入れて封印されたと聞いたことがあるのだけれど?」


 シャワティさんはエクスに向かって尋ねる。


「えぇ、確かに私は大きな魔法の湖の力によって地中に封印されました。ですが、ロイダース様がダンジョン深部で私の核を見つけ出し、再び武器としてお作りになってくれたおかげで……今もこうして存在することが出来るのです」


 ……って事は親父も元々は冒険者だったって事か。


「……なるほどね。いろいろ納得したよ。それなら一緒にダンジョンを攻略する上でお願いがあるんだけど……私に聖剣エクスカリバーを扱わせてくれないだろうか?」

「……えっ」


 急なお願いに俺は戸惑ってしまう。


「……実は鍛冶ギルドに預けていた武器が壊れたと報告がきていてね……困っていたところなんだよ」


 思い当たる事がありすぎて、何も言えなかった。

 勇者の武器破損の責任をボヤスン達から全て俺に擦り付けられて鍛冶ギルドを追い出されたばかりだからだ。


「……だから是非、聖剣を使わせて貰えないかな?」


 どうしよう……でも、まぁ……勇者だし、大丈夫だろう。


「エクス、お願いできるかな?」

「……お兄様がそうおっしゃるのなら私は従います」


 エクスは何か言いたげな表情をしながらそう呟いた。




 集会場から出た俺達は裏路地へと移動し、実際にエクスに剣の姿になってもらう事にした。


「ではお兄様、それに皆さんも見ていてください」

「うん」

「お願いするよ」


 目を瞑ったエクスは光り輝くと瞬く間に剣の姿に変形し、いつも俺が見慣れた青と黄色が特徴的な鞘に入った剣へと姿を変える。


「……うん、やっぱりいつも手入れをしていた剣だ!」


 俺がそう呟くと、背後にいた勇者パーティが驚きの声を上げる。


「……す、すごいじゃないか! 本当に剣の姿に……」


 俺も半信半疑だったけど、エクスの声がいつも手入れの時に聞いていた声と一致していたので、何となくそうなんだろうと思っていたけど、勇者パーティ達からしたら信じられない光景にしか見えないよな。

 するとすぐ剣の姿から再び、人化したエクスは背伸びをしながら話し出す。


「こんな感じです。信じて貰えたでしょうか?」

「それはもちろん。これでダンジョン深部の攻略も希望が見えてきたかな! ……あ、そうだマイオス君、君の武器は何にするんだい? 手ぶらでダンジョン攻略と言うのも難しいだろう?」


 急に話を振られて驚きつつも、アバランスさんの言う事もごもっともな事だと思い、何の武器を使おうか考える。


「た、確かに。……えっと、どうしよう」


 いままで多くの武器の手入れをしてきてはいるので一通りの武器は扱う事はできるけど、何か一つを選べと言われてもパッと出てこない。


「悩んでいるのなら、先ほど冒険者の武器を壊したような突ける武器にした方がいいんじゃないかな?」

「突ける武器……ですか?」

「そうさ。……さっきみたいな木の棒だと魔物を倒すのは難しいだろうから……槍なんてどうかな?」

「槍かぁ……」


 確か鍛冶ギルドで何個か槍があった気がするな。


「エクス、持ってきた武器の中で使えそうな槍ってあったかな?」

「はい! お兄様の事が大好きな槍をお持ちしております」


 そうエクスは話すと、以前と同じように異空間に穴をあけて中から長い赤い槍を取り出す。

 周りの勇者パーティは異空間から武器を取り出したエクスに対して驚きの表情を向けていた。


 ……まぁ、異空間から武器を出せば誰でも驚くよな。


「はいお兄様! ゲイボルクです!」

「お、こいつも持ってきていたのか!」


 俺はエクスからゲイボルクを受け取る。

 すると――


≪お! あんちゃんじゃねぇか! エクスから急に出て行ったって聞いて驚いちまったぜ!≫


 ――いつもの陽気な声が聞こえてきた。


(いやぁ……俺も急な事だったからね。ちょっとダンジョン攻略する事になったからよろしくね)

≪お、俺を使おうってのか! まかせてくれ、血の雨を降らせてやるよ!≫


 物騒な事を軽いノリで話しているが、元々はこの槍は西方国で行われた過去の激戦で一度は闇落ちして自身の消滅を望んでいた槍だったが、俺が手入れをすることで元気を取り戻した槍でもある。

 それに元々はめちゃくちゃ重い槍だったけど、俺の能力で重量加護の付与効果が付いているので俺でも持ち上げる事ができる重量になっている。


「これで準備も整ったね。それじゃマイオス君! ダンジョン攻略に向かおうじゃないか」

「分かりました!」


 こうして、俺達は勇者パーティと共にダンジョン深部の攻略がはじまるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る