02 冒険者ギルドの集会場
意気込んだのは良いものの、実際ギルドを作る為に莫大な資金を用意しないといけない。
「それじゃエクス、早速資金を作る為にクエストの斡旋を行っている冒険者ギルドへ向かってみようか」
「はい! 主様!」
「……えっと、エクス? その主様だけど、あまり俺が呼ばれ慣れていないのと……エクスの事を説明しても誰も信じてくれないだろうから、今からエクスは俺の妹という事でいいかな?」
「妹……ですか? わかりました! それではお兄様とお呼びしましょうか?」
「お兄様!? 」
うぅ……あまり主様と変わっていない気もするけど……主様よりかはいいか。
「う、うん。今からエクスはエクス・ブロンドとして行動するように!」
「はい! お兄様!」
妙に恥ずかしさを感じながらも、俺達は資金を集める為に様々なクエストが張り出されている冒険者ギルドの集会場へ向かった。
集会場の前に到着すると、集会場特有の冒険者達によるうるさい音が店の外からでも聞こえてくる。
「はぁ……ここに入るのか」
「お兄様? この場所は苦手なのですか?」
「ま、まぁね。俺って鍛冶ギルドに来る冒険者からよくチビって言われて馬鹿にされていたから、あまり入りたくないんだよね」
「そうだったのですね……でも任せてください、お兄様! 何かあっても私がお兄様をお守り致します!」
エクスは小さな胸に手を添えて力強く答えてくれる。
少女に勇気づけられている自分が情けなく思えてくる。
「エクスに心配されてちゃダメだよな。……よし! 気合入れて入ってみるよ」
「その意気です! お兄様!」
気合を入れた俺は集会場の扉を開けて中へと入る。
店の外まで聞こえていた
「……お邪魔しま~す」
俺は小さな声で店に入りながら受付場所を探す。
すると、飲食が出来るテーブルがいくつも並べられている中にいた巨体の男が椅子から立ち上がり、何故か俺の方へと歩いて来る。
「よぉ……お前、確か鍛冶屋のとこにいるチビだよな? なんでこんな場所にいるんだ?」
「……え、え~っと、先ほど鍛冶屋を追い出されて……新しいギルドを作ろうと資金集めにクエストを受けようと思いまして……」
すると目の前の巨体の男は盛大に笑いだす。
「がはははっ! なんだよそれ! それにお前みたいなひょろひょろがギルドを作る為にクエストを受けようってのか?」
「……そ、そうだけど」
「そりゃ~笑える冗談だ!」
「じょ、冗談じゃない!」
俺を馬鹿にしてくる巨体の男は、俺の隣にいたエクスに視線を向ける。
「……ほう、お前はなかなかできそうじゃねぇか。……お前、俺のパーティに入る気はないか?」
「断る。お前のようなうす汚いモノが私に気安く話しかけるな!!」
「え、エクスぅっ!?」
俺と話していた時のほわほわした感じは影を潜め、エクスは物凄い
「なんだとこいつっ!? ……下手にでてりゃ調子に乗りやがって!! 少し痛い目にあいたいようだな!」
絡んできた男は大人気なくエクスに向かって武器を振り上げる。
「……っ!? あぶない!」
傍にあった木の棒を持った俺は、冒険者とエクスの間に入る。
眼鏡を外し、振り上げられた武器の
「そこだ――”
タァンッ!
その破点に向かって木の棒で突くと――
――パリィィンッ!
破点を突かれた武器は、瞬時に
「……なっ!?」
武器を振り上げた本人は今起きた事に対して信じられないような表情を浮かべる。
――ざわざわ
さらに、その光景を見ていた観衆からもざわめきの声が鳴り響く。
「あのチビ……何をしたんだ?」
「わからねぇ……一体何が起きたんだ!」
武器を壊された男は散らばった破片をかき集めながら俺を睨んでくる。
「俺の武器がぁぁ! ……てめぇ、何しやがる!!」
「……せ、正当防衛だ!」
俺は背後にいるエクスを手で守りながら声を張る。
「さすがお兄様! この愚か者が扱う武器が可哀そうでしたから、解放させてあげたのですね!」
エクスは目を輝かせながら俺の背後に身を寄せてくる。
――俺には子供の頃から武器や防具を一撃で破壊することが出来る
その事に気付いた親父は、幼い俺に破点が見えないように出来る眼鏡を与えてくれていた。
エクスを守る事ができてホッと胸を撫でおろしながら眼鏡を付け直す。
「エクスも女の子なんだから、あまり血の気が多い奴を相手にしないほうがいいよ」
本当は聖剣なんだろうけど、見た目は完全に女の子なのでそんな言葉が口から出てしまう。
「はいお兄様! 気を付けたいと思います」
背後から身を寄せて来るエクスに気恥ずかしさを覚えながら視線を男に戻すと、壊れた武器の破片を集めている。
――俺は武器を一目見るだけでその武器がどういった扱いを受けて来たのかが分かる。
必然的に、使用者の人柄も分かるという訳だが……今、目の前の男は武器の扱いが非常に雑で武器から悲しみの声が漏れ出していた。
先ほどエクスが言ったように、極悪な使用者から解放させることが武器の願いになる時もあり、それが出来て俺も良かったと胸を撫でおろす。
「もう俺達に関わらないでくれ!」
俺はそう吐き捨てると、集会場の受付へと歩いていく。
受付の場所へと移動すると、一部始終を見ていたエルフ族の受付の女性が話しかけてくる。
「ようこそ冒険者ギルドの集会場へ! 私は集会場の総合受付をしているマリベルと申します。元気な冒険者様ですね、何か御用ですか?」
「あ、はい。……えっと、マリベルさん。ギルド設立の為に資金が欲しいのでクエストを受注できるようにしたいんですけど……」
「畏まりました! クエストを受注するにはパーティの申請が必要です。少々お待ちください」
笑顔で答える受付のマリベルさんは、棚の下から用紙を取り出してくる。
俺とエクスを交互に見た後、申し訳なさそうに尋ねてくる。
「……あの、パーティの申請には一つ条件がありまして……メンバーが三名以上でなければ申請が出来ないのです」
「……え! そうなんですか? あの、二人でクエストっていけないんですか?」
「はい……私達の冒険者ギルドではクエスト中の事故などに対しても保証を付けておりまして……ダンジョンでは多くの危険を伴う為、二人での申請は許可できません。……申し訳ありません」
とても申し訳なさそうな表情を浮かべるマリベルさんを横目に、俺はエクスの耳元に口を添える。
「(エクスが持ち出した武器達で、エクスみたいに人化出来る武器ってないの?)」
「(……残念ながら、私はロイダース様のお力があるからこそ、この姿になる事ができるので他の武器では無理でしょう……で、ですが! お兄様の力があれば出来るかもしれません!)」
「(俺の力!?)」
またもやエクスはよくわからない事を言ってきたので、一先ずエクスの耳元から口を放してどうしようか考えていると――
「お困りごとかい?」
――俺達に話しかけてくる声が聞こえた。
俺はまた絡まれたのかと思い、思いっきり嫌な表情をしながら声の鳴る方へと視線を向ける。
……すると、そこには先ほどの冒険者たちとは違って国王に選ばれた王都サントリアでも有名な金髪碧眼の勇者アバランス・タイナーがいた。
その後ろにはルビーのような赤髪と美貌を兼ね備えた賢者シャワティ・クワイヤに褐色の肌と頑丈な鎧が目立つ狂戦士と名高いゲボルド・イワンコフが存在感高めに立っていた。
こんな有名なパーティが俺に声を掛けている事が信じられず、思わず尋ね返す。
「……えっ……も、もしかして俺達に声を掛けてる?」
「ははっそうだとも。……先ほどのやり取り見せて貰ったよ。君、すごいじゃないか。一撃で相手の武器を粉々にしてしまうなんて」
普段は眼鏡を付けて破点を見えないようにしているし、アレは親父以外に見せた事はなかった。
なので俺はどう反応して良いか分からなかった。
「あぁ……いやぁ……あはは……たまたまですよ」
「謙遜することないさ。……私達はちょうどこの後、ダンジョン深部の攻略をするところなんだ。よかったら君たちも一緒にどうだい? 報酬は山分けしようじゃないか」
アバランスが微笑みを浮かべながら提案すると、勇者パーティ三人の後ろから荒々しい声が鳴り響く。
「ちょっとアバランス! こんな奴を誘わなくてもダンジョンなんて楽勝じゃない!」
荒々しい声の元に視線を向けると、神官の衣装に長い黒髪が特徴的な清楚な容姿とは真逆な言動をする女の子が俺に向かって吐き捨ててくる。
勇者パーティに最近加入したのか、あまり見慣れない子だった。
「私のお兄様に向かってなんて口を――」
「ちょっ待ってエクス!」
エクスが食いつきそうになるのを慌てて手で静止ながら、自分の頭に手を添えて笑みを浮かべる。
「……で、ですよね~。俺なんかが入ってもあまり意味ないんじゃ……」
「リース。こんなやつなんて……そんな言い方は酷いじゃないか」
「ふんっ! べ~っだ!」
アバランスは舌を出して挑発してくる荒々しいリースと呼ばれる女の子を
「ごめんよ。最近加入した子なんだけど、荒々しい性格の子なんだ。……それでどうかな? 一緒にダンジョンを攻略してみないかい?」
「ダンジョン……か」
王都サントリアには魔物が地上に出てこないように魔物達を封じ込めている地下ダンジョンが張り巡らされており、各地から冒険者が集まりダンジョン内から持ち帰った鉱石やレアドロップ品などをお金に換金して生活をしている。
……というのを鍛冶ギルドに来ていた冒険者から小耳に挟んだ事がある。
「……エクスはどう思う?」
「あのリースという女性は気に入りませんが……私はお兄様がお決めになった事に従います!」
「……えぇ~……」
全信頼を俺に寄せているような表情を浮かべるエクスを横目に、俺はどうするか考える。
……今の俺達としてはお金がないのはどうしようもない事実だ。
「……わ、わかりました。一緒にダンジョンに行きます!」
「それはよかった。短い期間だけど歓迎するよ!」
こうしてクエスト受注を断念した俺達は、不本意ながらも勇者パーティの申し出を受ける事になるのだった。
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