「沙夜ちゃん来たよ〜」

いつもの様にドアを開け、顔を上げると、そこに居たのは沙夜ちゃんと

眼鏡をかけた優しげな男性だった。

「あ!穂乃果さん!待ってましたよ!」

「あ、うん、えーと。そ、その人は?」

「ああ、自己紹介が遅くなってすいません、沙夜さんの主治医の斎藤正弥さいとうまさやです。」

「しゅじっ!?え、えーと沙夜ちゃんのトモダチの日山穂乃果ひやまほのかです。」

「あのっ!あのですねっ!穂乃果さん!」

「わ、ちょちょ、落ち着いて沙夜ちゃん。」

「な、なんと!私!」

「うんうん。沙夜ちゃんが?」



「海に行く許可がおりました!」

「……へっ!?いいの!?海行っても!?」

「はいっ!」

「わあっ!やった、やったね沙夜ちゃん!」

「はいっ!すっごく楽しみです!」


斉藤先生はそんな私達の様子を見て「やっぱりか。」と微笑むと、

「沙夜さんはあなたの話を私聞かせてくれるんです。その様子がすごく楽しそうなので、最近は病状も安定してきているし、1日だけという事になりますが。」

と話してくれた。


その後、斉藤先生は「二人で話したいこともあるだろうから」と部屋を出ていった。

なんだあの紳士。

「そっか、海行っても良いのかぁ。」

「楽しみすぎて眠れなくなりそうです。」

「そうだねぇ。」

二人で出かけられる喜びを噛み締めながら、いつか聞き忘れた疑問を聞いた。

「沙夜ちゃんは、どうしてここに入院しているの?」


その疑問を聞いたら沙夜ちゃんはこちらを見たまま少し固まり、すぐに

「ん〜、なんででしたっけ?忘れちゃいました!」

と濁された。こんな風に言うということは彼女は話したくないのだろう。


でも、それでも。


「沙夜ちゃんが話したくないんだったら無理には聞かないよ。

何か話したくない理由があるんだろうし。でも、

もし辛くて辛くてたまらないのなら、私に沙夜ちゃんの辛いことを背負わせて。」


「あ、それ…」

「うん、沙夜ちゃんが私に言ってくれたこと。

そう言ってくれて私はすっごく嬉しかったから。」

「そっか、…そうなんですか。」


ふと、沙夜ちゃんの声が泣きそうな小さな女の子の声に聞こえた、

いや違う。

やっと、年相応の女の子の声になったんだ。

泣いて、怒って、でも二倍も三倍笑う。


そんな普通の女の子の声にこの子はやっとなれたんだ。

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