私の行きたいところ


あの日から私は毎日毎日沙夜ちゃんの病院に行っている。

相変わらず学校では友達が出来ないしきっとナナ達にも何か言われているのだろうけど、

私には沙夜ちゃんがいるから、それだけでいいんだと思うようになった。

沙夜ちゃんと話すのはとても楽しくて、毎日面談終了のアナウンスがなるたび、

もう帰らなければいけない事に落胆した。

でも沙夜ちゃんが、「明日も明後日も私はここにいるんです。すぐ会えますよ」と

励ましてくれてからは、帰る時も笑顔でまた明日と会えるようになった。



ある日、沙夜ちゃんはこう言った。

「私、海に行きたいんです。」

「海?どうして?」

「私、

まだ入院してない時、海に行ったんです。

その時見た海は太陽の光を受けてキラキラしてて!ずっと眺めていられたんです。」

「そっか、素敵な思い出だね」

「はい、なので消えちゃわない内にもう一度見たいんです。」


「消えちゃわない内に」とはどういう事なのか、少し考えたが、

きっと海に行きたいと思う気持ちのことなのだと考える事にした。


「だから、海に行きたいんです!出来れば穂乃果さんと!」

「えっ、わ、私!?」

急に私の名前が出て来た事に驚いて、

今沙夜ちゃんが言ったことを咀嚼出来ずににいた。

でもゆっくりと理解できるようになると、またあの温かい気持ちが溢れ出す。

沙夜ちゃんは他でもない私と思い出の海に行きたいと思ってくれているのだ。

溶けてしまいそうな程温かい甘さに包まれる。


「…嫌、ですか?」

「行こうよ。海。二人で一緒に!」

「良いんですか!?…あ、でも。」

飴をもらった子供みたいにキラキラした喜んだ顔から

3秒もたたない内にその顔は暗く萎んでしまった。


「何かあるの?」

「きっと、お医者さんが許してくれないと思います。

入院中なのに海に行くなんて。」

そうだった。どこにでもいる中学生とはこの子は違うのだ。

あくまでも入院してる女の子なのだ。

当たり前のように行けると思って、この子を期待させるだけさせたんだ。


「確かに、そうだよね。ごめんね、期待させるようなこと言って。」

「いえ!穂乃果さんは全然悪くないですよ。私、頼んでみます。

お医者さんに、1日だけでも、外に出ても良いか!」

「頼むの?」

「はい、頑張ってお願いします!」

「そこまで海に行きたいの?」

「はい!それに、穂乃果さんが一緒に行ってくれるなら尚更です!」


この何気ない言葉でさえ、私を全部全部溶かしていく。

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