共依存


勢いよくドアを開けて腹式呼吸で彼女の名前を呼ぶ。

「沙夜ちゃんっ!」

「!?…穂乃果さんか。今日はもう来ないと思ってたので驚きました。」

「ご、ごめんね〜!」

「でも、来てくれてすごく嬉しいです!穂乃果さんがいないのは寂しいので。」


照れくさそうにはにかむ彼女を見て心が温かいもので満たされる。


きっと彼女に出会わなければ知らなかったもの。


知ってよかったのかは分からないけれど


清々しいほどに、心地よかった。


「そう言えば、そんなに急いで、何かあったんですか?」

「ううん、ちょっと色々あってさ。」

「何か、辛いことが?」

「あ、いやえっと、ぜーんぜんっ!くだらない事なんだけどね!」


「くだらない事のようには見えないです。だけど…。




穂乃果さんが話したく無いなら、聞きません。

悩みって無理に聞くものじゃないですし。」

「っいやいや、ほーんとに何もないから!」


よかった。聞かれなかった。私の方が、仮にも年上なんだから。

かっこ悪いところは見せられない、見せたくない。

そう思った。でも。


「でも、もし、辛いことがあったらなんでも私に話してくれていいんですよ。

私は穂乃果さんの辛いことを背負いたいんです。

ここにいる間は、私たちは「トモダチ」なんですから。」


その一言で私の目が潤んだ。理由はきっと色々ある。

なんでも話してと、言ってくれたこと。

私の辛いことを背負いたいと言ってくれたこと。

その言葉を耳にした途端、あの「温かいもの」で心がいっぱいになった。

でも、私は所詮、部活でここに来ている間だけのレンタルされた「トモダチ」。

彼女のそれ以上にはなれないのだ。

本当の友達になりたいなぁ。

こんな出会い方じゃなければ、本当の友達になれてたかもしれないなぁ。

この子が言ったことで、こんなに心が温かくなるのに。

本当の友達にはなれないなんて。

「神様は意地悪だなぁ」なんて、「トモダチレンタル部」に入るのを決めたのは私なのに。



そんな自己嫌悪に苛まれながらも、ただただ私はこの温かさに浸っていたかった。

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