第6話『焦がれしアタマ』

 水を呼び、地を照らし、世を纏う。

空の形はいつだって変わらないだろう。

空の色も、いつだって変わらないのだろう。

かつて。

かつて退けた願いさえ、私には遠すぎる。

ならば、答えなどないと信じたかった。

ならば、正解など知りたくなかった。

ならば、世界など知りたくなかった。

今、俺の手に残されたのは、真っ赤な血の色だ。

***

 「破ったあぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉」

間抜けたような声を上げて、僕は剣の檻を飛び出す。

がちゃり、という音が聞こえた気がする。

まぁどうでもいい。

大切なのは、この後なのだ。

「よし……っ、行くぞ……!」

滑るようにして、地面と空を駆ける僕。

顔が見えるように、空に浮かんだ面を拝めるように。

「よォ……一週間ぶりだな……!」

どこかで聞いたような口ぶりを急いで、僕はデオンと対峙した。

「て……めぇ!」

振り返るように僕を見た後、剣の檻から様々に襲い掛かってきた。

「……ふざけるな! ふざけるな! なぜ抜けた、なぜ降りた、なぜ眩んだッ! 俺の域を、なぜ貴様は許せない!」

「許す許さないの領域じゃないでしょ……おじさん」

「……ッ、黙れぇぇぇぇぇぇx!!!!」

襲い掛かってくる剣を見据え、僕は冷静にそれを避けてしまった。

縦横無尽という言葉を聞いたことがある。

その通りだろう。

彼の攻撃は、そうでしか無かったのだから。


 「なぜ倒れない……戦術的覚醒へと至ったのは、お互い様……はっ、まさかお前は……シーズの覚醒者……起源の、人類種の……」

「何を言ってんだ、お前」

ふと睨んで、僕はそいつに固くした煙をぶつけようとした。

「お前には、死んでもらおう。否、死んで詫びてもらおう。この街の惨状をなァ!」

手を固く挙げる。

空に掲げる。

色は変わらず、常に黒い。

そして――審判は下された。

「……死刑ッ!」

鞭のように固くしなった煙を、一気に固めて攻撃に転化する。

先ほど思いついた、人の殺し方だ。

「うぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

無数に、肉片が散り勇んでいく。

「無様に死ね、クソジジイ」


 その声を遮ったのは、空だった。

「そこまでだ、ガキども」

最初は、見えなかった。

次第に目が慣れたように、僕の視界に彼は映っていた。

「レイ……!」

霧を発生させながら、僕とデオンの間に割り込んでいた。

「レイ……助かった」

霧の向こうは、何も聞こえない。

いや、攻撃が通ってない。

これは……

「まったく、一人で挑むなんて無茶なことするから……怪我してるじゃありませんか」

「はは、戦闘となるとつい、な」

声からは、先ほどからの覇気が失われていく。

そうか――気づいてしまったのだ。

デオンは先ほどまで、興奮状態に陥っていたという事に。

「無茶は僕らに任せてくださいって、この前も言いましたよね? まったく……」

「すまねぇ、レイ。どうやらまた、お前さんに迷惑かけることになっちまったみたいだ」

後ろを向きながら、デオンはレイにあやまっている。

何を……言ってるんだ……?

「こっからは安心して中の人間をぶっ殺してくださいよ――あとは、僕がやっときますんでっ!」

そうして――レイが襲い掛かってきた。


 「う……っ、がぁぁぁ!!」

殴る瞬間を、尚も見つめられなかった。

「どうなってる……」

視界が戻る気がしない。

僕は――死んだのだろうか。

「おらっ! まだまだ続きはあるぜェ⁉」

振動を感じながら、僕の体は崩れていくようだ。

これは……

「お前は、何、者だ……」

「ギフティアだよ、お前と同じ。――最も、お前と僕とでは少しばかり性質が異なるみたいだがな。が、それも些事だ。他愛もないよ。ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

霧を固めて、僕に飛ばしてくる。

とっさに僕は、煙でシールドを形成した。

攻撃の応用ってやつだ。

「はん……いっちょ前に防御はできるのか……くだらん」

つまらない空を見上げるように、レイは侮蔑をもって僕を見下していた。

「お前に……殺されたくは無いからな……」

「その程度かと言っているんだ。お前の、生への欲求は、生きるという探求はそこで終わってしまうのかと問うているのだよ」

「なに……!」

「人間の本質は、感性と感情だ。それは揺ぎ無く、歴史が証明している。人間は感情で、他者を、世界を、破壊することができるんだ。お前はそのことに気づいていない」

意味が、分からなかった。

いや、分かりたくなかった。

「人間は、生に執着しなくなると、途端に死んでしまう。見ろ、この惨状を。生きようとしなかった、生きるという結果をつかめなかった愚か者どもの屍で出来上がっている。いい加減人間は認めるべきだ。お前たちは、その感情に支配されているという事に」

「なん……だと」

それは、侮辱だった。

この街で死んでいったあらゆる人間への、侮辱だった。

それは――僕への侮辱だった。

ハッキリと言おう。

僕は、この街で一度死んだ身だ。

「ふざけるな……ふざけるな!」

ドカン、と。

剣の檻の中から声が聞こえる。

――音?

そう思うと、沸騰したような笑みが聞こえた。

「くっくっく……お前、本当にバカなんだな……」

「何を、言っている……」

恐る恐る、聞いた。

「今、あの中はとんでもない高温で沸騰しているぞ」

「……!」

どうやら。

ヤバいことになったらしい。


To Be Continued……




 

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