第5話『突破せよ』
「さて……と、だ。この凶器まみれの空間を脱出するには、一体どうすればいいと思う? レンマ」
「一点突破、だと思うよ。戦うことを考えちゃダメ」
「そうだな……よし、やったるか」
そうして、僕の体を煙の状態へと変質させた。
”バケモノフォーム”。
……さっき名付けた名前だ。
「さて諸君、ホンモノの怪物を前にお前たちはどうするつもりなのだ? まさか、ここにきて命乞いなんてことにはならないよなぁ。ぇえ?」
「はん、命乞いなんてするかよ。そうするぐらいなら、ここで首掻き切って死んでやる」
強がりのように、エルダがそう呟いていた。
額には汗が灯っている。
約束の時は、近かった。
さて、と。
されどされど、時間は来るものだ。
僕の体は既にバケモノへと変容している。
黒煙が体を支配して、流動し続けている。
「いいか、レンマ。作戦はこうだ。お前はその体を極限まで気体へと変化させろ。そうすれば、この剣の檻からは抜けられるはずだ。そして、後ろから本体を叩く。そうして隙を作って、俺とお前で逃げ出す。いいな?」
「うん……たぶん、いけると思う」
「相手はバトりのプロだ。一瞬でも油断すれば、瞬間に死んでいくぞ。俺がなんとか陽動をかけるから、後は隙を見てやってくれ」
小声で、エルダがそう言ってくれる。
「……エルダって、頭いいんだね」
「へぁ⁉ べ……別に、そういう訳じゃないと思うけど……ただ、その、本とかはよく読むかな」
「そうなのか……じゃあ、頼んだよ。そっちも」
ダグマを見据えながら、僕はそう言った。
「最期の会話は済んだか? なら――早速、殺させてもらうぞっ!!!!」
そういうと、空間を形作っていた剣が、ビュンと一本飛んできた。
「うわっ!」
位置は、僕とエルダの間。
まさしく分離を狙った攻撃だった。
とっさに二人は離れてしまった。狙い通りに。
「クッソ……やられたな、こりゃ。大丈夫か⁉」
倒れ込んで受け身を取ったエルダが、そう聞いてくる。
「うん、大丈夫……」
消えそうな声で、僕はそうつぶやいた。
「まったく……あいつ、空間的優位に立ってるからって……!」
「でも、それも生き方だよ」
「あぁ、全くだ」
そうしてエルダは、立ち上がってこう言った。
「痛てぇぞ!」
「はん……ガキらしい意見だ」
「それに、さっきからガキ餓鬼うっせーけど、俺らいくつか知ってんのか?」
「知らんな。だから独自に判断している」
「独自にって……俺らの事、まだ何にも分かってねぇだろ! そういう表面だけで評価するの、俺は嫌いだな」
「その考えがガキだというのだ。評価とは常に、他人を基軸として行われる行為だ。評価軸を自分に置き換えている時点で、貴様らは死人同然よッ!!!!!!」
その言葉を皮切りに、空間を構成する剣は次々と僕たちに降り注いでいた。
「
地面に次々と突き刺さる、数々の剣。
僕らは逃げ惑うしかできなかった。
(これじゃ……迂闊に近づけない……)
「ちぃ……作戦変更だ! 俺が突破する」
「ちょっと⁉」
「策はねぇが、まぁ仕方ないだろ! うん、仕方ない! じゃあ死んでくるわッ!」
そうしてエルダは、無策に突っ込んでいた。
「ちょっと、待ってってばぁ!!!」
剣が集中して、エルダの方へ向かっていく。
「ははは、死ねぇ!!!」
まるで、豪雨のように。
まるで、台風の日のように。
彼をめがけて、剣が襲い掛かっていた。
その瞬間、気が付いた。
そう、それは。
剣が完全にエルダに集中しているという事だ。
エルダは後ろ手に、僕に合図を示している。
(後ろを見ろ……って!)
合図通りに後ろを見ると、やはりがら空きになっている。
……これならやれるぞ。
「……ありがとう」
そうして僕は、走り出した。
がら空きとなった後方部へ。
「はっ……オイ、待ちやがれ!!!!」
走り出してしばらくすると、僕めがけて剣がやっと降ってきた。
だが、遅すぎる。
なにせもう、僕と剣で出来た檻の距離は、僅かにも等しかったからだ。
「こんなの――簡単だッ!」
どうやら剣は、瞬間的に大量に降らすことはできないらしい。
だからか、とても避けやすかった。
(ありがとう……エルダ)
そうして、ゴールが近づいてくる。
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
後ろから、エルダがそう声援を送ってくれた。
――あぁ、答えようとも。
「待ちやがれぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」
その声を無視して僕は――いや、バケモノは。
体を存分に煙とさせて、剣の檻を――抜け出した。
To Be Continued……
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