第7話『沸騰』

 ハローハロー。

さて、ここからは檻の中に残された俺の物語だ。

視点変更なぞ、当に慣れているだろうに。

まったく、神様も相当理不尽なことをしてくれるみたいだ。


 「よっしゃぁ!」

手薄になった檻を抜けたレンマを見て、俺はそう声を上げた。

ここからはレンマに本体を叩くことを任せればいい――そんなことを思っていたが、その時。

「よっと……!」

俺の足元に、一本の剣が刺さってきた。

「なるほど、自動追尾か」

そして、次々と降り注いでいく詰問。

「理不尽……!」

独り言を、そうつぶやいた。

檻を形成する男はもう喋らない。

「馬鹿め……さぞ、レンマに気をとられているんだろう」

むかつく。

それって、俺を舐めてるってことじゃないか。


 確かに、俺には確固たる力は無いかもしれない。

奴等の言う、ギフティアなんてものからは程遠い存在かもしれない。

でも。

それでも、警戒度を下げるのは悪手じゃないのか?

「はん……所詮は組織か……」

避けながらも、檻にできるはずの隙を探す。

おそらく、ここまで俺に注視していないことから察するに。

いずれこの檻には崩壊点足りえる穴が開くはずだろう。

ただの人間である俺は、それを探すしかない。

「まったく……厨二設定が無いのも辛いもんだな!」

 円形に迫ってきた剣を、円形に避けていく。

俺の資本は今、この両足だ。

生き延びるには走るしかない。

「なら……走ろうじゃないか」

走れ、走れ、走れ。

ゴールは本当に。

すぐそこなんだから。


 「あれは……!」

真ん中に、まるで宙空に穴が開いたように、高温の塊が現れた。

(やっべ……!)

思わず中心から外周に逃げ出す俺。

その瞬間、一筋の穴が見つかった。

「あれ……でいいのか?」

もはや選んでいる時間は無い。

俺は、ただ真っ直ぐにその穴に足から突っ込んだ。

小さい。

が、止まるわけにはいかない。

「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

そして、頭が蒸発する感覚を観測した。

よくよく見ると、ドームの周りが地獄の色をしている。

そう、俺は。

たった一瞬だけ地獄を見た。

***

 「エルダ!」

僕は叫んだ。沸騰した、ドーム状の檻にいる少年に。

「まともな人間なら全身やけど。お前みたいな奴でも、高温による局部強制顕現によって現れた脳みそが沸騰して死亡する。これこそが、僕の能力の極点さ」

「なんだと……」

「僕の能力は肉体の霧状化だ。霧は肉体に変わりないのでいくらでも動かせる。つまり……僕自身を摩擦させて高温を発生させるのさ」

じり、とレイが近づいてくる。

「体さえ存在していれば、いくらでも試算はできる。つまり、最大火力を安定して放出できるのさ」

「へぇ……そういう原理かい?」

その言葉が聞こえた直後、レイは吹っ飛ばされていた。


 見るとそこには――無事を心配したエルダの姿があった。

「ぐっ……」

能力を発動させる、たった一瞬のスキすら逃さない猛攻。

「考えてたんだ……どうやったら俺みたいな人間でも、お前たち怪物に打ち勝てるのか……」

「……っ!」

「今ならよぉく理解できるぜ、ただ反撃のスキを与える前に殴ればいいんだってねッ!」

顔を中心に、一切の躊躇なく殴り続けるエルダ。

「……ふざけるな!」

そういってレイは、体を霧状化させて緊急離脱した。

「ふざけるな。選ばれた人間である僕と、お前が対等に戦う? ……はん、冗談もそこそこにしてほしいね」

「冗談? 殺し合いにユーモアなんているかよ」

「そうだな……お前は殺そう。確実に」

「そのまま返すッ!」

そうしてレイとエルダは、戦闘態勢をとった。

「――レンマ!」

鋭く、そう呼ばれた。

「こっちは俺が何とかする! お前は、そのデオンとかいうクソジジイを相手にしてくれ!」

そう、まだ残っている。

体を高温で熱され、二人の囚人を逃した看守が。

「ぐぅ……! おのれ、おのれ……」

動きが鈍い。

いまならきっと、楽に殺すことができるだろう。

「……アハッ」

思わず笑みが零れる。!

「アハハ、アハハハハハハッ!!!!! さぁ、始めようか!」

僕の煙が、流動しているのを感じ取った。

To Be Continued……

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