秋 九月一日
それからは相変わらずだった。
変わったことは二つだ。一つは美大予備校へサボらずに通い始めたこと。ナナシマさんを描きたいと言ってしまったからには練習せざるを得なかったから、予備校にあるキャンバスと向き合って筆を走らせようとした。しかし、何度描こうと思っても、頭の中に居るナナシマさんをそのまま絵にすることは出来ず、逃げるように結局は毎日予備校内の練習室で漫画を描いていた。いつものように構想に行き止まって、無駄な迷い線を沢山引いていたので、ストーリーは全く進んでいない。
二つはその罪悪感から、実技試験の練習も受験勉強もまずまずの力を注ぎ始めたことだった。それをしているうちは、ナナシマさんを描かずに済んだからだ。黙々と鉛筆を握ってしまえば、課題をこなすしかないわけだから。夏休み終わりに実施した模試の自己採点では、まあまあの成績が出ていたので、ひとまず勉強についてはほどほどに順調なのだと思う。
そもそもナナシマさんを描きたいとは言ったものの、その手段を考えてすらいない見切り発車だ。油絵の想定をしていたが、最適なのはデッサンなのか水彩画なのか、何も考えずに言葉だけが先行している。ただ、あの日の神秘的なナナシマさんのことを忠実に再現するには、なんとなく油絵がいいのかなとは思っていた。そうはいったもののやっぱり脳内に在るナナシマさんの記憶だけで、あの日のナナシマさんを正確に描くなんて無理な気がする。モデルにしたいとは言ったけど、具体的にいつモデルになってもらうとか、そういう約束は何も結んでいないし、これからも何となく口に出すのはタブーのような気がしていた。だってあの日のナナシマさんの姿は、あの日にしか見ることが出来なかったような気がしてならないからだ。それほどに、あの日のナナシマさんのあの構図は、とても特別な物だったのだ。ナナシマさんが特別だと確信を持った日は、あの日からだった。
ナナシマさんは自分で言っていたように、結局それから一度も教室には現れなかった。
蝉の生き残りたちが、なんとか生命を継いでいくために必死に声を上げている。残暑にしては強すぎる朝日に、うんざりしながら何もない通学路を歩く。まだまだ夏は足掻いているようだった。
いつの季節だって学校のために向かう朝なんて最悪だ。頭を垂れながらスクールバッグをリュックのように背負って、イヤホンから流れる最近流行りの音楽を聴きながら歩いていても、まったくワクワクしなかった。
「おはよう」
あと百メートルで学校に到着する頃。背後からイヤホン越しに声が聞こえてきた。その透明度に間違いなく彼女——ナナシマさんであることに気づいたので、慌てて振り返る。その瞬間、ナナシマさんは俺の横を、自転車で立ち漕ぎしながら通過していった。二週間ぶりのナナシマさんに少し胸を高鳴らせていた俺の気持ちは、「ナナシマさんって自転車通学だったんだな」という単純な思いにかき消された。
横断歩道へ向かって結構な速度でペダルを踏むナナシマさんを見て、どうしてそこまで慌てているのだろうと訝しんでいると、運悪く赤に変わってしまった信号に急ブレーキをかけていた。一連の動作が、涼しげに鳴る風鈴のようなナナシマさんの普段のそれからは、全く想像がつかない。ナナシマさんの元に追いつくと、ナナシマさんは俺の方をチラと見た。
「……ヒイラギくん、おはよう」
「おはよう、ございます」
「あと三分」
「え、何が?」
「二分三十秒……ああ、もうだめだ」
ナナシマさんが諦めたように自転車から降り、青に変わった信号を、俺のペースに合わせて自転車を押しながら歩き出した。頭の中に浮かぶ疑問符が消えなくて、何を焦っていたのだろうと思う。時間の話をしてたな、ナナシマさん。それに気づいて腕時計を見ると、時計の針は八時二十九分を指していた。
つまるところ、あと一分もしない内に朝のホームルーム開始時間ということだ。
「……ええっ!」
「ヒイラギくん、気づいてなかったの」
「いや……うわ、夏休みの時と同じ時間に家出てた……」
「夏休みでそれなら、規則正しい方だと思うよ」
「うわあ……町田先生怒るかなあ……」
気づいた事実に、一気に身体中から汗が出てくるような感覚に陥る。いや、事実汗だくになった体は制服のシャツを濡らしていた。
夏休み最後の授業も遅刻して怒られたばっかりだったなあと、これまたうんざりするような過去を思い出してしまう。そして、そういえばナナシマさんが遅刻してるところなんて見たことないなあとも思いながら、そのまま疑問をぶつけてみた。
「ナナシマさんが遅刻なんて珍しいね」
「昨日、ラジオを遅くまで聞いてたから」
「あー、俺も芸人ゲストの時のオールナイトニッポンとか聞いちゃうなあ……」
「一緒に怒られようね、ヒイラギくん」
「え」
抜け駆け、なしだよ。ナナシマさんは無表情のまま、口元に右手の人差し指を持ってきた。抜け駆けなんてするわけもなく、出来るわけもない。しかし、ナナシマさんのその仕草があまりに無邪気で、頷くことしかできなかった。
結論から言うと俺とナナシマさんは怒られなかった。到着した頃には既にホームルームが終わっていて、生徒たちは皆新学期特有の全校集会に向かっていたからだ。
他のクラスメイトに紛れ込んで、俺とナナシマさんは体育館へと歩く。体育館で待ち構えている町田先生に、「二人とも、遅刻であることに変わりはないからね」と釘を刺された以外にお咎めが無かったのは、運がよかったとしか言いようがない。
新学期一番初めの授業は退屈だ。
どの教師も「夏休みに頑張った生徒と頑張らなかった生徒に大きな差がついている」みたいな文句から始まり、そこから味気のない授業を行っていく。だから結局、夏休み中の教室でしていたことと変わらずに、漫画用のノートを開いて、話の続きをダラダラと考えては、思いつかなくなると新しい話の描きたいシーンばかりを描いていくのだった。
ナナシマさんは俺より後ろの席だから、彼女が何をしているのかは分からなかった。そしてなんとなく、もうナナシマさんと夏休みの時のように話すのは難しいかもしれないと思った。夏休み中だって上手く会話をしていたわけではないが、もうこの教室には俺とナナシマさんだけではない。ナナシマさんがどうかは分からないが、少なくとも俺はもう、三年六組の柊木朋希としての生活が始まっている。その姿のままで三年六組の七嶋文子さんに声を掛けるのは、随分と勇気がいるものだったからだ。
三時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。授業終わりの号令を済ますと、各々食堂に向ったり、教室内で弁当を広げたりと、昼食の時間が始まる。俺はスクールバッグから母さんが作ってくれた弁当を取り出し、いつもそうしていたように机の上にそれを広げようとした。そうしていると大体いつも、後ろの席に座る佐竹が声を掛けてくる。
「お弁当?」
だが今回は、予想外な相手からの声が正面から聞こえてきた。声の方に目を向けると、文庫本とパンの袋、それからパックのコーヒー牛乳を手にするナナシマさんが居た。いつの間に移動してきたのだろうと思いながらも、教室で堂々と声を掛けるナナシマさんに困惑する。
「う、うん。え……っと、ナナシマさんは本でも食べるの?」
「そんなわけない。見えてないの?」
「いや、そうだよな……。ごめん、それなんて本?」
「死の棘」
「なんか痛そうな題名だね……。どんな話?」
夏休み明けの久々の昼食。積もる話があるクラスメイト達の声で教室は騒がしいのに、ナナシマさんはいつも通りだった。大きいわけではないのに通る透明な声に、脳みそが揺さぶられる気持ちになる。そしてこの会話を誰にも見られなくないなと思ってしまって、周りの目を気にしてばかりいた。
だが実際は、そんなの単なる考えすぎだった。いつも一人で過ごしていた幽霊のようなナナシマさんと会話をしたって、クラスの視線は俺に向くわけでもない。皆、ナナシマさんの特別な美しさに気がついていないのだ。
「妻が夫の浮気で精神を病んだ話」
「……うわ、重い」
聞かなきゃよかったと机の木目を見つめていると、ナナシマさんは「聞かなければいいのに」と返してくる。心を読まれているのかと思って、冷や汗をかく。
「ヒイラギくんは好きじゃなさそうだと思うよ」
「え、俺の好みとか分かるんですか」
「そりゃあ、君の漫画を何回か読んでいるから」
「当たり前でしょう」という気持ちが込められた言葉に、照れ臭い気持ちになる。ナナシマさんは新学期が始まろうと、俺と過ごした夏休みの時間を無に帰すような女子高生ではなかったようだった。同時に、俺の旨の中に気まずさが膨らんでいく。だって俺はありきたりな高校生で、ナナシマさんとの夏休みを無かったことにするという程には行かないまでも、前と同じように接するのは無理だと諦めきっていたからだ。
「お昼は」
「え?」
「お昼は教室で食べるの?」
ナナシマさんは小首を傾げて、俺に問いかけてくる。質問の真意が分からずに、うん、とだけ告げた。
「ヒイラギくんの前の席空いてないから、私が座る場所がない」
「え、いや、ナナシマさんって教室派だったっけ? 自分の席……は、空いてると、思うけど」
「どうしてそんな冷たいことを言うの」
「え? いや、えっと」
俺がしどろもどろになっていると、ナナシマさんは表情を変えず、淡々と俺を責め立てた。
「ヒイラギくんって変わってるね。漫画は読ませてくれるのに、お昼を食べるのは拒むんだ」
「……え、もしかして一緒に?」
「そりゃあそうでしょう」
ナナシマさんの言葉の行動の意図をようやく理解したが、脳内はパニック状態だった。七月までただのクラスメイトだったナナシマさんが、夏休みの間にそこまで心を開いていたのかと驚いた。夏休み中のように接することができないことを、もの寂しく思っていたのは、俺の方だとばかり思っていたからだ。
「……いいんですか?」
「いいも何も、友達とご飯を食べるのは普通だと思うけど」
「いや、そりゃそうだけど……。いや、そうだよな」
ナナシマさんの口から友達、という単語が出たことに、朝に飲む珈琲の湯気のような、温かな感情が広がった。ナナシマさんはナナシマさんだ。大してナナシマさんを知っているわけでもないのに、環境で何か変わるような人ではないナナシマさんに安堵した。ただ、ナナシマさんと友達なだけだ。その事実が共有されたことが、宝物のように大切に感じる。
「どうしよう、教室埋まってるし……この時間だともう、食堂も厳しそうだなあ」
「私、いつも屋上で食べてる」
「屋上? 鍵掛かってない?」
「新校舎側はね。旧校舎側は扉が壊れてるから、ちょっと無理すれば開くよ」
「ええ、危険だ……」
静北高校の知られざる欠陥を、なんでナナシマさんが知っているのかは疑問だった。だが、束縛された高校生活の中で屋上に出られるなんて、どれだけすがすがしい思いになるのだろうと憧れる。俺も屋上に行けばきっと、ナナシマさんのように特別になれる気がする。
広げたお弁当の包みを結び直し、机の上に置かれたスポーツドリンクのペットボトルと一緒に手にとって、椅子から立ち上がった。そして軽く息を吐いて、ナナシマさんの目を見つめる。
「よし、行こうナナシマさん」
「うん。私、今日はカレーパンにした」
「うわ、いいな」
「あげないよ」
「貰わないよ」
俺とナナシマさんは教室から出て、旧校舎棟に向かった。廊下を歩く教師も生徒も、俺たちの事なんて微塵も興味がないという表情をしているはずなのに、何故か視線を集めているような気がする。夏を乗り越えたナナシマさんが、相変わらず美しいのが原因だと思った。
連絡通路を通り、埃っぽい旧校舎に到着した。ナナシマさんの後を追って階段を上る。三階の美術準備室の姿が目に入ると、描けていないナナシマさんのことを思った心が重くなった。ナナシマさんはそんな俺の様子など、気にも留めないようだった。
辿り着いた階段の頂上には、確かに屋上への扉が在る。曇り硝子の扉越しに差し込む白い日差しがナナシマさんをうっすらと照らして、まるで天国に向かっているような気がした。古びた扉の鍵は、ナナシマさんが言うようにドアノブが下方に降りてしまっていた。そこから鍵もなしにどうやって開けるのかは分からなかったが、ナナシマさんがガチャガチャとドアノブをいじっていると、いよいよ解錠されたようだった。
「本当に開くんだ……」
「眩しいね」
扉の向こうにはきらびやかな日差しが、白っぽいアスファルトの下に降り注がれていた。そこに広がるのは天国ではなかったが、普段見ることは無い屋上があったので、ちょっと遠足に来たような非日常感にわくわくする。旧校舎って、外側からどうやって見えていたんだっけ。通学路で散々見つめている学校の姿を思い出そうとしても、曖昧なままだった。
「日陰が全然無いな」
「給水タンクが左奥にあるよ」
「慣れてるね、ナナシマさん」
「一年生の頃からお昼はいつもここだから」
「そうなんだ。雨の日も?」
「そんな訳ない」
ぴしゃりと言われて、そりゃそうだなと思った。ナナシマさんは足早に給水タンクの下に向かった。あまり意味のないような日陰が発生していたけれど、ないよりはマシだ。俺とナナシマさんは、そこに座り込む。弁当を広げて、唐揚げを一つ口に運んだ。昨晩の残り物であろうと、俺にとっての母さんのご飯はなんでもご馳走だった。こうして外で食べているとますます遠足みたいだなと思いながら、ナナシマさんの様子を見る。ナナシマさんは小さい口でカレーパンを少しずつ食べていく。飲み物、飲まないのかな。勝手に不安がっていると、コーヒー牛乳をストローで啜っていた。ナナシマさんは相変わらずの無表情だった。
「次、なんだったっけ」
「日本史だよ」
「うわあ、眠くなる」
「いいんじゃない? サボっても」
ナナシマさんは俺の方を見ず、指に付いたカレーパンの衣を払いながら言う。
「……サボりって、サボりですか」
「ほかにどのサボりがあるの」
ナナシマさんは「悪いことなんて何も言ってませんよ」みたいな表情で俺に提案をする。真面目で優等生の印象を持つナナシマさんがする、いかにもな不真面目発言に、少し面食らってしまった。ナナシマさんは食べ終わったらしいカレーパンの袋を折りたたんで、それを団扇のように扇いでいる。やっぱり暑いよな、真夏日だもんな。
「ナナシマさんもそんなこと言うんですか」
「言うよ。私をなんだと思っているの」
「いや、そういう悪事とは無縁なような気がするし、真面目な優等生かと」
もう少しオブラートに包んで物を言うつもりが、ストレートに言葉は出た。慌てて「やってしまった」と思っても、吐き出してしまった言葉はどうにもならない。真面目な優等生って言われて、嬉しい人はそんなに多くないような気がするし、俺の偏見をそのまま押し付けるなんてナナシマさんに失礼だ。ナナシマさんはというと、いつもの無表情を少しだけ崩して、眉間に皺を寄せて小さくつぶやいた。
「日本史、私も眠くなるから嫌いなの」
ナナシマさんは俺の方を見て、「ヒイラギくんもそう思わない?」と言った。子供のような言い訳をするナナシマさんに、この美しいナナシマさんも普通の女子高生なんだなあと、なんだか勝手に親近感が沸く。白米の最後の一口を頬張り、ペットボトルの蓋を開けて口に流し込んだ。白米とスポーツドリンクの相性は、あまりよくない。もう決意を固めていたので、ナナシマさんの意見に賛同した。
「よし、サボろうナナシマさん」
「うん。私はラジオを聞くので、話しかけないでね」
「あ、了解しました」
ナナシマさんはこちらに体を向けたまま、胸ポケットに入ったMDプレイヤーとかいうやつを取り出した。何年前のモノだよと頭の中でツッコミを入れつつも、それすらもナナシマさんを美しく正しく彩るために必要なもののような気がしてくる。ナナシマさんはそのまま瞼を閉じた。
この暑い日差しの中でうたた寝ができるナナシマさんに、熱中症になってしまうんじゃないかとか、俺も一時間耐えきれるのだろうかと不安になる。それでもサボりがバレたらどうしよう、みたいなことは少しも思わなかった。この寂れた旧校舎に、俺たちを探しに来る奴が居るとは到底思えなかったからだ。ズボンのポケットに入れっぱなしでぐちゃぐちゃになったイヤホンのコードと、そこに繋がるウォークマンを取り出して、耳にはめ込んで瞼を閉じる。
遠のく意識の中、俺は考える。ナナシマさんはどこまでも特別な存在のように思える。物静かなのに意外と行動力があって、いつも無表情で、それでいて本当に美しい。夏休みの間に得たナナシマさんの印象は、そういう姿だった。俺なんかが到底、適わないような人。存在するだけで特別なナナシマさんのそばにいると、心の中に陰りが出来るような気がした。そのまま考え続けていると余計もやもやが増幅してしまいそうだったので、音楽を流し忘れたことにも気が付かず、意識を手放した。
「おい、柊木サボりかよ」
「……わ、佐竹」
俺もナナシマさんも、四時間目終了のチャイムが鳴る少し前に目を覚ました。俺が眠りこけていただけで、もしかしたらナナシマさんはきちんと起きていたのかもしれないけれど。何も言わずに二人で立ち上がり、何も言わずにいつもの教室に戻る俺たちは、まだ少し寝ぼけていたのかもしれない。というか、攻撃的な太陽の熱光線に敗北し、軽い熱中症になってふわふわとしているだけ、というのが正直なところだった。
チャイムが鳴り終わった後に教室へ戻ると、俺の後ろの席の佐竹が、そうするのが礼儀というように声を掛けてきた。ナナシマさんは自分の席へ静かに戻っていく。
「あれ、七嶋さんと居たの?」
「……そうだけど、昼飯食べただけだよ」
「そういえば七嶋さんと遅刻もしてたよな。……え、そういうこと?」
「うわ、バカやめろ……」
佐竹のくだらない発言に、ああ、なんて最低なんだろうと感じる。
俺だけがからかわれるのも勘弁なのに、ナナシマさんを巻き込むなんて最低だ。けれどこの最低という感情が、善悪を問う物ではなく自身の羞恥心による物だから、最低なのはからかってくる佐竹や、羞恥心を抱いた俺の方だと思う。ナナシマさんはただの友達なのに。
ナナシマさんが席に戻っていて良かった。最低な安堵をしていると、そんな期待を裏切るかのように、いつの間にか俺と佐竹の間に立っていた。
「そうだよ。私は柊木くんと通学をして、遅刻をして、一緒に四時間目をサボったよ」
「え、ちょ、ナナシマさん」
「他にご質問は?」
ナナシマさんは、さらりと言いのけて、加えて微笑んでみせた。これには佐竹だけでなく、遠目で俺たちのことを見ていたクラスメイト達も、血の気の引くような思いで黙り込んだ。美しいものが強いと、怖い。
「……いえ、ありません……」
「そう」
佐竹の小声の返事に、ナナシマさんは一言で応答した。そうしてナナシマさんは、本人が意識しているのかどうかは分からないけれど、それでも確かにクラスメイト全員に牽制をして、再び自分の席に戻っていった。
「……七嶋さんってすごいな」
「うん……すごい人なんだよね」
佐竹がそう言うと、俺は机に突っ伏した。五時間目、担任の町田先生による生物。遅刻した上にサボりまでした俺たちを冷ややかに叱るまで、あと十五分。
ヒイラギくんとナナシマさん 無花果りんご @raindrop0222_
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