4月5日 日曜日、気付きの日曜日。
朝の6時半前、エミールはもう寝ているらしく、おやすみメールが入っていた。
そして今日は日曜日らしい、曜日感覚皆無、日めくりでも買おうか。
「おはよう」
「おはようございます」
「おはよー」
「おはよう、遅いな」
「いつ起きたのよ」
「さっきな、毎週観てんだコレ。巻き戻してやるよ」
「日曜日っぽいわよねぇ」
「ライダーさんやん」
「おう、今期のだ」
「敵さん、イケメンさんよねぇ」
「しかも、女ライダーかよ」
「前にな、好評だったんだぞ」
「可愛いよね、裏アカでフォローしちゃった」
「スーちゃん、ワシより馴染んでる」
「移民用にね、馴染むの優先だから」
「桜木、デカい画面欲しい、プロジェクターじゃ無いやつ、そこに」
「君ねぇ」
「じゃあ、柏木さんからプレゼントさせるか」
「買います」
「よっしゃ」
「でも、今日って混んで無い?」
「あぁ、春休み最終日だもんな」
「あら、帰れよ」
「朝ごはん食べたらね」
お手軽にサンドイッチとスープ、和室にデカいローテーブルを出し、皆で食べる。
タブレットだと3人で観るのは狭い、確かにデカい画面は有った方が良いが。
ショナはデカいテレビを選んでる、マジで買うのか。
そして食事が終わると、アレクが3人を省庁へ送り届けると言い出した。
幾つかの用事も有るそうで、そのままテレビを買いに行くらしい。
そしてコチラはベガスへ。
今日もスパルタなのだろうか。
「おはようございます」
「さ、先ずは寸法ね」
「へい」
昨日測ったのに、あ、買い物先で体少し変えたからか。
胸周りを中心に測り直し、覚え直すの大変そうだが。
「魔道具出して頂戴」
「何の」
「性別変えるヤツよ」
「あぁ、はい」
「ショナ君、パス」
「あ」
「え」
「よし、はい、今日はこの服ね」
「なにを」
「エステ」
「うへぁ」
服を着替えて出ると、今度はショナが引き摺られて行った。
そしてショナ子ちゃんの登場、普通に可愛いじゃんかよ、畜生。
「ショナ君こと、
「へ」
「本気ですか?」
「何も全裸で体を見せ合うワケじゃ無いから大丈夫よ」
「いや、でも」
「男は入れないけれど、我儘でミーシャを起こすワケ?」
「それは普通に可哀想だが」
「中身、男なんですよ?しかも」
「そう言う子にも配慮したお店だから大丈夫よ」
「ほう、興味湧いてきたわ」
「桜木さん、止めてくれませんか」
「なぜ」
「万が一」
「無いから大丈夫よ、ほら、行くわよ」
そしてハワイへ。
ワシと虚栄心には女性が、
配慮はされているが、
何か、普通に虚栄心がショナを苛めてるのは、何でだコレ。
普通に顔を上げたら見えちゃうし、うつ伏せか目を瞑るかしか選択肢が無いけど、どうしたいんだコレ。
「嘘じゃ無いですか」
「それな」
「目を瞑ったら良いじゃない」
「瞑ってますけど」
「じゃあ見えないでしょ」
「ミーシャに交代するか?多分、凄い嫌がるぞ」
「そうよね、触られるの嫌いそうだもの」
「それとも他にするか?」
「ズルいですよ、こんな」
「ワシも知らんかったんだから怒るなよ」
「怒っては無いですけど」
「ね、何が嫌なのかしらねぇ、最高級スパなのに」
「恥ずかしがり屋なんです」
「ワシも」
「その割りに慣れたものよね」
「ワシより恥ずかしがってる人が居るからね」
「泣いてる人が居る時と同じ現象ね」
「もー」
「
「今度で、良いですか」
「今度ね、ふふ、墓穴掘って」
「あ、今じゃ無いって意味で」
「そう言って無いからダメよねぇ」
「ね、もう少し後で、とかならなぁ」
「今はまだダメ、とかね」
「もー」
「牛さん、何カップなん?」
「ふふ、当ててみなさいよ」
「D」
「凄い、正解よ。アナタと一緒ね」
「耳塞いで良いですかね」
「良いの?警護しなくて」
「パワハラや」
「そうは言いませんけど」
「そんなに嫌なら」
「ダメよ、女の苦労を折角味わえるのに、取り上げたら可哀想よ、ねぇ?」
「はい、パワハラじゃ無いです」
「勝ったわ」
「
「滅多に味わえ無いのは確かですし、良い経験だとも思いますし、はい、正論です」
「泣くなよ」
「泣いても良いわよ、良いホルモンが出るんだから」
「じゃあ泣け」
「頑張ってみます」
マッサージ、剃毛、そしてお肌のお手入れ、そうしてハナと私はピカピカに。
護衛の関係で
仕上げはヘアマッサージ、ハナがウトウトして起きると、
ハナに見られて照れちゃって。
先生に相談してこのプランなのだけれど、変な性癖開花しちゃわないかしら。
嫌よ、神々から怒られるの。
「さ、後は乾かすだけね」
シャワーで全身を流し、
そのまま水着に着替えプライベートビーチへ、
スポーティなの普通に似合うわね。
「似合う」
ハナに言われて真っ赤、だけどハナはダメね、誂いの表情だもの。
ハリウッド女優かよ。
「どう?」
「女優かよ」
「ふふ、保湿と日焼け止めクリーム塗りなさい」
「ふぇい、これも訓練か」
「そうそう、
「いえ、塗ります」
臭く無い、どちらかと言えば無臭。
消臭剤付けて無いけど、大丈夫かな、つか水は大丈夫なのか、大丈夫だろう。
アンクレットを取り出し、指輪とピアスも付ける。
うん、オッケー。
「まだよ、髪の毛纏めて上げる」
「うっす」
「首の後ろと耳も、
「はぃ」
ナイアスみたいな返事、もう消え入りそうやんけ、大丈夫かね。
「もう良いんじゃね?」
「ダメ人間製造機、甘やかして良い時間はまだ先よ」
「なんで
「
「はい、分かりたいです」
「ほらね」
「うーん」
「足もよ、腿裏もほら」
「へい」
もう虚栄心。お母ちゃんやん。
「良いわ、はい、遊んでらっしゃい」
「何をしようか」
「取り敢えず、入ります?」
浮き輪とボードタイプのフロートを借りて沖へ。
遠浅の海、温かい。
「
「頑張ってみます」
1発で乗れてやんの、運動、優秀者め。
「そいっ!」
「なん、もう、コレ乗ります?」
「乗れ無くても笑うなよ」
ほら乗れ、乗れたわ。
「乗れましたね」
「ここから仰向けって、厳しくね?」
「ゆっくりなら、多分、なんとか」
「え、バランスゲーじゃんよ」
「そう、そんな感じで」
「紫苑じゃ無いからキッツ」
「良い感じですよ」
「しんど」
「いけましたね」
「もう動けんばい、サングラス有る?ほれ」
「桜木さんは、有るんですね、じゃあお借りします」
別に全く恋しいワケじゃ無いんだが、ワンコならひっくり返してくる。
マティアスは、ひっくり返すな。
レーヴィとせいちゃんは大人しいけど、レーヴィは酔ったらひっくり返してきそう。
そうなるとヨモギちゃんもやりそう、大國さん、やりそうだ。
そう考えると、マティアスは本当に普通に接してくれたんよな。
敬うより尊重してくれた感じ、あのまま居たらどうなってたんだろうか。
スーちゃん達の解釈的には、ココには居なくても良かったかもなんだし。
「おぷっ」
「桜木さん!」
『来ちゃった』
「ロキ」
『なんだ、泳げてる』
「ロキ神」
『ビックリした?』
「しました、凄く」
「ビビった、返して」
『ダメー』
「
「はい」
ショナから浮き輪を借り、ロキとショナの追い掛けっこを眺める。
バタフライかよロキ、凄いな、ショナでも追い付くのギリギリじゃん。
距離が広がったからか、ショナをチラ見して方向転換しやがった、しかもコッチに来るし。
ソラちゃん、海の水ごと奥に行かせられないか。
【了解】
迫り来る直前に波が起こった、ワシも一緒かい。
溺れるかと思ったがフロートに乗れた、凄い演算能力やな。
『あれ』
「ソラちゃんパワー」
《はい》
『参った、どう?楽しい?』
「引っ張ってくれたら楽しくなるかも知れない」
『よし、引っ張ってあげよう』
「宜しく」
『あいよー』
ソラちゃんに回収して貰ったサングラスをかけ直し、牽引される。
コチラに気付いたショナが向かって来る、水鉄砲、有ったっけ。
【いえ、ですが海水の貯蔵は有ります】
発射用意。
「放てー」
「え」
ショナが海に潜り潜水した、ロキが追従したが。
普通に陸に逃げられた。
『上がる?』
「おう、休憩します」
さっきまで、何を考えてたんだっけ。
ロキ神が居るとリラックスして、2人きりはまだまだ無理ね。
「どうもロキ神」
「なんで居るの」
『島の事、貰ったから報告にと思って』
「ほう?大丈夫なん?」
《不審不穏があれば崩壊させるで問題無いわぃ》
「で、どうすんの」
『サクラちゃんと俺の新居☆』
「指輪しとらんが」
『その準備だから、いつでも来て良いからね?』
「罠か何かあんの?」
『無い無い、来たからどうなるワケでも無いし』
「ほう、新居ラッシュ」
『え?もう相手が出来ちゃった?』
「いや、普通に地上に家が有るだけだが」
『そっかぁ、まだ何も無いからなぁ』
「だけ?」
『様子見に、どうしてるかなって』
「スパルタ調教されてる」
この会話中も、ロキ神にずっと砂を投げてるし、ロキ神もニコニコしながら無抵抗で受けてるし。
ハナ、魔属性過ぎ。
ショナ君とハナの相性、悪いのかしら。
「全然、堪えないのねぇ、もっとキツくしましょうか?」
「だね、
「はい」
『え、なんで』
「なんとなく」
『なんで首からなの』
「なんとなく」
楽しそう、不味いわねぇ。
『眩しいんだけど』
「しってる」
『なんで杖持ってるのかな?』
「棒刺しゲーム」
脳味噌、幼児後退してるじゃない。
『棒を倒すんじゃ無くて?』
「それなら刃物じゃ無いと」
『うん、刺す方が安全そうだね』
「でしょう」
『ワシは困っ』
「あっ」
『セーフ』
『勢いが凄い気がするんだが』
「持ち手の方だから大丈夫、そぉい」
『アウトー』
『楽しいのか?』
「んー、浜を汚さない方法はつまらんな」
『もう良いかな?』
「干乾びたらどうなるの?戻るのに時間掛かるか?」
『した事無いなぁ』
《らしいぞぃ、くふふ》
「海水を飲むと脱水症状になるんだよね」
『え、怒ってる?』
「いえいえ、ひっくり返したお礼、ほぅらお水ですぞー」
『本当にしょっぱいんだけど、虚栄心ちゃん』
「ハナ、喜んでるわよそれ」
「ドM」
『違うよっ』
「まだお昼よ、蘇生させて頂戴」
「良いの?何するか分からんよコレ」
《じゃのうぅ、どうしようかのぅ》
でも、結局は蘇生させるのよね。
『はぁ、驚かせてごめんね?』
「宜しい」
あぁ、謝らせる遊びね、なるほど。
完全に主従関係出来てるじゃない、危ないわね。
「桜木さんは、どうして普通に接する事が出来るんでしょうか」
「え、怒られる?」
『大丈夫だよ?ただの遊びなんだし』
「そうじゃ無くて、僕は畏れ多すぎて難しいなと」
「ボクっ子萌え」
『あ、写真撮った?』
「あ」
《撮りました》
「もー」
「話すと普通、普通じゃ無いけど理解は出来る感じ」
「真面目に話して頂けて有り難いんですが、カメラは降ろさないんですね」
「はい」
「あの、僕に何か要望は有りませんか?」
「手を降ろせ」
「そうじゃ無くて」
「丁寧語は止められないでしょ」
「はい」
「家族にも?」
「はい」
「休暇は?」
「イスタンブールがまだですし」
「ほう」
「でも、近日中には、ちゃんと、遊びに行きます」
「ほう、詳しく」
「義姉と隣の幼馴染みの子と、妹さんとお花見にと」
「それは、単なる付き添いでは」
「主体性を感じないものねぇ」
『荷物持ちでしょ?』
《じゃの》
「はいダメー」
「えー」
「どうせ、ハナに休暇の事でとやかく言われない為の作業じゃ無いの」
『幼馴染みの子が好きなの?』
「いえ、それは全く。兄の方に行ってた子ですし」
「あぁ、ハナが心配するのも分かるわぁ」
「でしょ」
『デートってした事有る?』
「ストップ、ワシは海に行くぞ」
『えー、じゃあ俺もー』
「で」
「えーっと、無いと不味いですかね?」
「デートって分かる?」
「2人きりで出掛けて」
この赤面、どれかしら。
「出掛けて?」
「楽しく、過ごす事かと」
ぅうん!もうちょっと!
『何で逃げたの?』
「プライバシー保全」
『だけ?知りたく無い?』
「無い、ウブじゃ無かったら幻滅しそう」
『嫉妬深いもんねぇ』
「一生閉じ込めておきたいわ」
『洞窟は止めてね?』
「君ちゃうわ」
『ウブじゃ無いから?』
「どうした?何か悩みか?」
『聞いてくれる?』
「話を聞くだけなら」
『お家、どんなのが良いか聞いて良い?』
「そこ?普通に、ギリシャ彫刻系でも何でも良いが」
『要望無し?』
「水辺は欲しい」
『事後処ぶっ』
「次は沈めんぞ」
『大事じゃない?シオンのっ』
「そう言う意味では無いのに、なるほど」
『他には?』
「別々の寝室」
『と?』
「ロキはどんなんにするつもりなんよ」
『教えなーい』
「楽しい?」
『楽しい』
「そう」
『なんで憤怒や怠惰で泣いたの?』
「思い出し泣きと、羨ましいのと、年上に認められた事?許された事?」
『俺が認めて許してるのに?』
「君は何でも認めて許しそう」
『まぁ、うん』
「ほらぁ、そうじゃ無いから、納得が来てくれるのよ」
『ストイックドM』
「アナタに言われたく無いんだが、特にドMについて」
『痛いの嫌い』
「ワシもじゃ」
『戻ろうか、ショナ君コッチに来たし』
「おう」
ロキ神に牽引され、浜へ。
そのまま座礁したクジラごっこ、横にはロキが寝そべっている。
「桜木さん、お腹空きません?」
「空いてない」
『まだ遊びたいの?』
「遊びたく無い」
『イヤイヤ期ごっこね、ショナ子ちゃんひっくり返して』
「え、はい」
『両腕持って』
「はい」
『よいしょ』
「な、ストップ、ゴハン行きます」
ロキに足を持たれた段階でギブアップ。
ロキは海に戻り、コチラはシャワーを浴びてお着替え。
ショナはお肌のお手入れでゲンナリしてる、思い知れ。
「どうしてニヤニヤしてるんでしょうか」
「思い知れと思いまして」
「はいはい、次はお化粧よ」
一緒にゲンナリ、マジで腹減った。
「お腹減った」
「何食べたいですか?」
「麺、米、パン、どれが良いかしらね」
「麺だが、パスタ?」
「有りますよ、良いお店」
桜木さんの居た世界にも有ると言われる、転生者様の作ったチーズケーキの有名なレストラン。
海に消えた筈のロキ神が、どうやったのか合流して来た。
チーズケーキの種類が豊富、多分、桜木さんは全種類買うだろう。
そして席へ、テーブルの高さが桜木さんに合って無い。
小さい。
桜木さんの隣りでロキ神がニコニコしているが、完全に子供扱い。
メニューを眺め、悩んでいる。
「悩む、レモンクリームパスタ」
「評判は良いみたいですよ」
『ダメそうなら俺が食べるよ?』
「凄いかもよ?」
『シュールストレミングも大丈夫』
「じゃあお願い」
エビフライの盛り合わせのコールスローを抜きにして貰い、代わりにシーザーサラダを注文。
虚栄心もロキ神もお任せでと言うので、桜木さんはトマト系パスタ、マカロニチーズボール、イカのフライと頼んでいった。
お2人に飲めと言われ赤いサングリアを、僕はソフトドリンク、神様達にはシャンパンを。
桜木さんの年齢確認が入ったので、提示、無事に注文が通った。
もう慣れたのか不満は無さそう。
暖かいパンが出るが、少し食べて我慢している。
正解だった、2人前以上の量。
ロキ神と虚栄心さんに取り分けて頂いた、桜木さんは高さの合わないテーブルで、ナイフとフォークで苦心しながら食べている。
そしてレモンクリームパスタ、普通に食べている。
『大丈夫そうだね』
「うん、美味い」
イカフライは直ぐに持ち帰り容器を貰い、そのままケーキ全種類を注文した。
続いてトマトペンネ、普通に美味しい。
『まだ慣れない?』
「音を立てないは無理では」
「流石に無音は無理よ、場に合った音量程度なら許されるって感じね」
「箸なら音は出ないのに」
「ね、不合理に慣れて頂戴」
『それかウチ来る?』
「悪魔の囁き」
「そうね、あんまり甘やかさないでくれるかしらね」
『えー、なんで?』
「ハナの為よ」
『しなくても良いならしなくて良くない?』
「親バカ夫婦」
「嫌よ、こんな強引な男」
『俺にも選ぶ権利が有るんだからね?』
「ウケる、
「確定なんですね?」
「だってお姉ちゃんがこんなんは大変だろう」
「そうですね、急に何かしますし」
「振り回される様子が目に浮かぶわ」
『目が放せないのは間違い無いね』
「可哀想な弟」
「そうですね」
桜木さんが家族だと、それはそれで楽しそうだとは思うけれど。
ケーキ全種類は、大きなケーキの箱4つに収まった。
流石にロキ神には任せず、僕と桜木さんと虚栄心さんで持って歩く。
空間移動用に裏道に行く為、信号で待っていると、また桜木さんが声を掛けられた、お誕生日なのかと。
桜木さんが適当にそうだと答えると、棒付き飴とおめでとうの言葉を頂いていた。
虚栄心さんが笑いを堪えてる。
「笑えば良いさ」
「後でにするわ」
ケーキの箱をしまいつつ、ベガスへ移動。
ロキと虚栄心とベガスで一旦お別れし、お買い物の為にお家へ。
既に縁側がエナさんの定位置になっている。
「ただいま」
『おかえり』
「おかえりなさい、あの、ショナさん?」
「はい」
真っ赤、ウケる。
省庁でアレクと合流し、お買い物へ。
真っ赤。
冷蔵庫と冷凍庫、テレビと壁掛け用の金具を買い、家へ。
コレはストレージホイホイ出来無い、人力設置。
「パンツどっちの履いてんの?」
「見ないで下さい」
真っ赤、可愛い。
「可愛いなぁ」
更に真っ赤に、ヤバいなもう、やめとこう。
「無理そうならやるが、紫苑で」
「大丈夫です」
ツンデレか。
金具が設置されると、白雨とアレクも加わって設置完了。
辛うじて窓が塞がらないものの壁1面に画面が、ゲーム凄そう。
「やべぇなコレ」
「ゲームしたら凄そうですね」
「後でね、戻るわ」
「はい!」
虚栄心のお店から、今度は色欲のお店に。
「ワシも?」
「
「断る権利が有るぞ」
「いえ、大丈夫です」
「頑張るんかい」
「じゃ、行きましょ」
「はい」
『やったー』
ロキまで来るのか。
若い子多め、大学生か。
話が合わないのは確実、こうなると年上の方が良いのだが。
「年上かぁ」
『同い年位になろうか?』
「ちょっと見せて」
『はい』
「そんな、変わらない?」
「そうねぇ、元の年齢が若過ぎなのよ」
《そうね、ふふ》
『じゃあ、今度もっと若くするね』
「おう」
「ちょっと興味深いわね」
《ふふ、特等席をご用意したから、行ってらっしゃい》
ロキが対面に居る。
隣には
「もう慣れた?」
「少し、桜木さんはどうですか?」
「パンツがどっちなのか」
「一服してきます?」
「はい」
真っ赤になりながらも、普通に流された。
つい、誂いたくなる。
桜木さんが居なくなると、実に心細い。
スカートは更に短くさせられ、胸も谷間が見えているし、恥ずかしいと言うか居心地が悪い。
そして腕のバンドも問題に、男性女性両方を歓迎する色。
ココはお友達から始めるフロア、奥はどんどん深い仲に。
桜木さんに連れて行かれない様に、何か言い訳を考えないと。
そしてナンパを断る口実も。
消臭剤の魔道具を全て外し、一服。
実に面白い、
お友達フロアだから良いものを、更に奥に連れ込むには、どう言い包め様か。
そんな事を考えたせいか、コチラにもアプローチが。
試しに付き合ってみないかと、潔癖にはちょっと無理だ。
こう言う人は、ベタ惚れした人が潔癖なら諦めるのか、そもそも言わないのか。
つか、軽薄に見えるんかしら。
コチラのノリの悪さを感じ取ってくれたのか、直ぐに立ち去ってくれた。
そのまま調査も兼ねて奥へ、見知った顔が。
ローズマリーちゃん、ボーッとショーを眺めている。
気付かれる前にと思ったが、目が合ってしまった。
来ちゃった。
《こんばんは》
「こんばんは」
《連絡、どうしてくれなかったんでしょうか?》
「連絡?」
《タグ経由のです》
「あぁ、そんな機能が、そうか。失念してました、ごめんなさい」
《もしかして、本当に初心者なんですか?》
「まぁ、はい、毎回連れて来られてます」
《しかも、お忙しい?》
「ゴロゴロ出来ない程度には」
《そうなんですね、てっきり、興味無いのかと》
「積極的にでは無いですが、無くは無いです」
《誰かと待ち合わせですか?》
「同じくウブな初心者の連れが居るので、大丈夫かと気になってるだけです」
《じゃあ、一緒に戻りましょう》
僕が女性との連絡先の交換を断ろうとしていると、桜木さんが戻って来てしまった。
しかも以前に助けたのが切っ掛けで知り合った、ローズマリーと言う子を伴って、立ち止まり、少し揉めてコチラに来た。
「お邪魔しますよ、どんな感じ?」
『お友達?』
「まぁ、はい」
《宜しくお願いしますね、ローズマリーです》
『宜しく』
「はい、宜しくお願いします」
《本当に、ウブな方なんですね》
「褒めると直ぐに照れるのよ」
《可愛いらしいですね》
僕でも分かる、少しの敵意と嫉妬。
桜木さんからは顔が見えないせいか、呪いなのか気付いていないらしい。
「でしょ、お姉さんはどこに惹かれて?」
『そうねー、ウブでスポーティーな感じが好みなんだ』
「なるほど、ローズマリーちゃんの好みは?」
《最近、迷ってるんですよ、だからほら》
バンドの色は迷子カラーの黄色、特に決まってなかったり、迷っている色。
桜木さんと僕のバンドの補色、隣の女性はピンク色、女性オンリー。
『あぁー、難しいよねー』
《今までは男性限定だったんですけど、良いかもと思う人が居て》
桜木さんの事なのに、ロキ神と手を振り合って全く興味が無さそう。
どうして、連れて来たんだろう。
「経験してガッカリするかもですな」
『逆に、しっくりきちゃうかもだし、取り敢えず奥で経験してみたら?』
《そう言うのが嫌いな人だったら、嫌われちゃうかなって、思って》
『なるほどねぇ、アナタはどう思う?』
「その人の好みと度量によるとしか」
《そうなんですよね、知りたいのに全然教えてくれなくて》
「
「はい、一応」
「マジか、返事して良いのかね」
「お任せするとしか」
「ですよね、返事考えてくるわ」
ローズマリーちゃんを置いて行ってしまった、困った。
『気になってるのって、あの子?』
《はい、男性限定のバンドを付けてた時に会って、連絡も全然無かったのに、さっき会って。すみません、無理矢理一緒に来ちゃったから》
「あ、いえ、別に構わないんですが」
『どんな子なの?』
「真面目で、潔癖で、優しいです」
《やっぱり》
『ごめんね、上手くフォロー出来なくて』
《いえ、あ、連絡くれた》
『真面目で恥ずかしがり屋さんかぁ』
《みたいです、でも、奥で経験したらって。どうなるんでしょうね》
『脈無しっぽいけど。ヤキモチ妬く子かな?』
「自称、嫉妬深いと明言はしてますけど、見た事は無いです」
《しつこい人から助けてくれたんです、奥で》
『どの深度か聞いても良い?私、3まで』
《3です、だから逃げるのが大変で、誰も助けてくれないし》
『あー、初心者だから突っ込めたのかもね』
《それもなんですけど、私より小さいのに普通に割って入ってくれて、良いなって》
『一目惚れかぁ、真面目さんには難しいよー。多分、長く掛かるんじゃないかな』
《ですよね、人生は短いし、連絡来なかったら他に行こうかなって》
『なのに、今日会っちゃって』
《もう、言われた通り経験してみようかな》
『良いんじゃ無い?他にも人間は沢山居るんだし』
《ですよね、見てきますね、お邪魔しました》
『うん、またねー』
「はい、どうも」
どこか軽薄に感じてしまう、僕も潔癖らしい。
桜木さんも似た事は言うのに、だけど桜木さんなら違う結論に行く筈で。
『で、お話しの続きしましょうかね』
「気になってる人は居るんです、好きになって良いのか、好きなのかもまだ分からないんです」
『職場関係?』
「はい、かなり上の方です」
『あー、向こうはどんな感じなの?』
「全く分からないし、読めないんです、近い立ち位置なのに」
『長いの?』
「そうですね、最近なんですけど、一緒に居る時間は長いです」
長いと言うか、濃密では有ると思う。
最近だと誰よりも一緒に居るし。
『替えが効かなそう?』
「はい」
『長く居るから、執着してるだけじゃない?過ごした時間が勿体無いとか、尊敬のすり替えとか』
良く有る一般的な言葉、桜木さんが諦めさせようと言いそうな言葉。
「なら、好きってどんな感じですか?」
ショナが真剣に話し込んでいる、ローズマリーちゃんは本当に経験しに行ったのか、何処かに行った。
ロキの隣りでスマホを弄る、この前の人達にお詫びと返事を返す為。
コルセットさん、返事早いな。
画像付き、男性用コルセット、先生に似合いそうだが。
「エロい精神科医はダメだろう」
『ネイハム君?エロいの?』
「シルクのガウン姿がエロかった、直ぐに着替えたけど、エロかった」
『発情期じゃ無い?向こうが』
「へ」
『寿命長いじゃん?だから周期性らしいって聞いたけど』
「そんな、そんな事有る?」
《じゃの、春じゃし》
「春だしって」
《ココの自然の摂理じゃし》
「まさかフェロモンの影響とかは」
《動物より植物に近いんじゃ、環境が整えば花が咲き、実がなる。実のならんのも居るし、そもそも花が咲き難いんじゃよ。出産は命を削るでな》
『繊細だよねぇ』
《寿命に特化しておるからの、衰えや、刺激に慣れれば咲かんし、栄養過多でも咲かん。過敏故に受精率が低く、周期性に移行したんじゃよ》
「環境でそうなった、と、あのフェロモンとワシのは?」
《微妙に違うんじゃよなぁ》
『もっと根底からって感じかなぁ』
「ご経験がお有りで」
『嫌なら記憶消そうか?』
「神様便利」
《じゃの!》
ふとショナを見ると独りに、悩んでいる感じにも見えるが。
ずっとコッチ見てるし。
「ちょっと戻るわ」
『行ってらっしゃーい』
桜木さんが戻って来てくれるだろうと思い、ずっと見ていた。
そうして本当に、戻って来てくれた。
「どうした、フラれたか」
「いえ、フリました、軽薄そうで合わなくて」
「潔癖」
「そのままお返しします」
「良いのか悪いのか」
「取り敢えず付き合うって、どうして出来るんですかね?」
「それな、知らんよ」
「次に好きになった人に、どう思われるか考えないんですかね。ホイホイ行っちゃうんじゃ無いかって、不安になると思うんですけど」
「ね?どうなんやろね、当たり前に、次も受け入れて貰えると思ってるとか?」
「それか、そこを気にする人とは別れるとか」
「あぁ」
「僕も桜木さんも、自己評価とか、自信無さ過ぎなんでしょうか」
「どうだろ。ただ、潔癖な人間が居るって知ってて、どう思われるか考えてる、とか?あ」
「何か思い付きました?」
「ワンコ、だから葛藤してたのか」
「今、そこですか?」
「いや、誂い半分だと適当に考えてたので」
「もー、本当に良く無事でしたよね」
「何故言い切れる」
「え」
「冗談だ、アレ以外には何も無い」
「気付いて無いだけでは?」
「そう不審がる?潔癖過ぎでは?」
「心配しての事なんですが」
「大丈夫です、何も、変なのしか来ないし」
「そうですよね本当、髪フェチとか。切ります?」
「神様達が悲しむし、ミーシャが洗う担当になったので、保留」
「いつの間にそんな約束が」
「昨夜温泉で」
「そうでしたか、僕はお断りしますね」
「あぁ、一緒に入らないとなんかするとかか」
「先手を取った筈なんですが」
「焦り故の悪手ですな、何をされたく無い?」
「今は奥に連行されたく無いです」
「どっちか」
「どっちも嫌なんですが」
「じゃあ単身で行っちゃお」
「もー、待って下さいよ」
どうしたってショナは付いて来るしか無い、今日は大人が多そうな深度2まで向かう。
0がお友達フロア、1は家族を求める人達、2は恋人募集。
ローズマリーちゃんが居た3は体だけの関係だが、ココから既に展示やショーが有る。
4はハードな趣味嗜好に特化した世界だが、まだライトな方。
5はミディアム、6はハード、最深部の7はプロに相手をして貰えるお部屋が有る、隠せるし見せられるし、自分的にはベリーハードだと思うが、普通に皆は利用している。
「良さそうなのを選んだら戻る」
「僕の、ですか?」
「おう、
「もー、無理ですよ、男性をそういう目で見た事が無いので」
「言わない、言えないならワシももう何も言わんぞ」
「無理矢理でも良いですか?」
「じゃあ、どっちでも良いから、黒ドレスの人は?」
「ドレス以外は派手ですよね、服装の好みが合わなそうです」
「向こうの白いドレス」
「気位が高そうで、話が合うかどうか」
「灰色のネクタイ」
「自信無さそうですけど、イケメンですよね」
「自分のぞ?小姑か」
「しっくり来る人が居ないんですから、しょうがないじゃないですか」
「服装の趣味が地味か普通で、気位が普通で、自信有る感じ?」
「それが好みかと聞かれると、困るんですけど」
「もう、君そっくりなら良いのか」
「かも知れませんね」
「マキちゃん」
「興味無いって言いましたよね?」
「貧乳が良いのか」
「そういうのじゃ無くて」
『お友達同士?』
「はい、仕事仲間です」
「もっと言うとコチラは上司です」
『そうなんだ、2人とも可愛いね』
「良かったね
「もー」
『僕はポリアモリーなんだけど、知ってるかな、多夫多婦制度』
「おぉ、自分に適正は有りませんが、お話し聞かせて下さい」
桜木さんが聞き出した内容は、知識としては知っていたけれど、僕には良く分からなかった。
平等に接し、平等に関係を築くなんて、本当に出来るんだろうか。
その人のバンドは両方の色、だからなんだろうか。
「凄く難しそうで、適性の見極めが大変そうですけど。何故、向こうじゃ無いんでしょうか?」
『棲み分けだよ、一夫一婦や一夫多婦の方が数が多いからね』
「多夫一婦も居るんですかね?」
『居るには居るけれど、少ないね、身体的にね』
「ですよね、耐久値高く無いと」
『そうだね、ふふ。ただ、耐久値が高い子は最深部だよね、ココはお客さんを選べるから』
「おぉ、お時間頂きましてありがとうございます」
『いえいえ、じゃあね』
「よし、戻るか」
カウンターまで戻った桜木さんは案の定、最深部の業務内容を聞き出し始めた。
僕自身偏見は有ったが、シェルターの機能を有しているらしく、衣食住が整って、フロアか深部で働くか選べるらしく、一切深部で働かないまま、店を出る人も居るらしいが。
「桜木さん」
「なに」
「働こうとかは」
「無い無い、システムが聞きたかっただけ」
安心していると業務用の通信機に連絡が入った、先生からの面談要請。
「桜木さん、先生の面談が、緊急要請なんですが」
「行く、ショナはそのままな」
このまま先生の家へ。
《良くお似合いですよ、さ、どうぞ》
危ない、桜木さんに誂われ続けたお陰で赤面は免れたが。
僕も一緒に面談とは。
「ほいで」
《先ずは
「大変です」
《具体的には?》
「基本的には体毛は髭以外剃毛しませんし、化粧もしませんし、下着も増えますし、活動中にコレだけ下着を気にする事は無いですし、走るとモゲそうになりますし、ヒールは動き難いです」
「何カップでしょうか」
《D》
「流石」
《ありがとうございます》
「近付かれると色々と怖いですし、背の高さも関係するのは実感出来ました」
《他には》
「もう、上げたらキリが無いんじゃないかと。しかも月経が有ったらと思うと、リズさんの気持ちが良く分かりました」
《そうですか、では桜木さんは別室へ》
「はい」
桜木さんは別の部屋へ。
《まだまだかと、痛み、経験してみませんか?》
「はい、お願いします」
《では、天使さん》
『はい』
頭痛、胸の痛みに腹痛、腰が重く痛い。
先程まで飲んでいた紅茶の匂いが臭く感じる、そして凄く悲しい。
《止めますか?桜木さんの感じていた痛みの半分も無いそうですが》
「いえ、まだ大丈夫です」
《どうして、痛みを体験したいと思ったんでしょうか》
「理解したいんです」
《では、本人が感じた痛みまで行ってみますか?》
「はい」
『では』
普通に座っていられない痛み、下痢なんか比じゃない。
息をするのも辛い。
《何か分かりましたか?》
「コレが、毎月来るんですよね」
《そうですね、楽しいですか?何か楽しめそうですか?》
痛みに波が有る、今は少し軽くなったが、また痛みが来ると思うと、どうしても体に力が入る。
「無理ですね、紅茶の匂いすら、ダメですし」
《では、着飾るのは楽しかったですか?》
「いえ、ましてコレがまた来ると思うと、何も楽しめなさそうです」
《痛みや苦痛は無い方が良いと思いませんか?》
「はい」
《では、痛みをどうぞ》
ソワソワする、つかショナだけ呼べば良かったのに。
まだだろうか。
「先生」
《お待たせしました、どうですか》
「今日は虚栄心がママ、ロキがパパでした」
《なるほど。体の方はどうですか》
「特には、ただ次が怖い。特に月末」
《治しちゃったそうですよ神様が、体を》
「へ」
《はい》
「ほう」
《それで新プランのご相談です、ショナ君が現在行っている女体化、一般化させようとしているんですが、痛みも含め、どうでしょう?》
「痛みは調節出来れば、まぁ、良いのでは」
《先程、アナタの体験した最高潮の痛み、ショナ君は失神しましたよ》
「な」
何て事を。
隣りの部屋に行くと、本当にソファーで眠ってるし。
ソワソワはコレか。
《望んでいたので》
「SMでも一時停止のキーワードが有るらしい、そう言うの組み込んでくれ」
《はい》
「何でココまでするかね」
《理解したいんだそうですよ》
「別に良いのに」
《本人は、そうでは無いので》
「害は」
《脳の錯覚だそうです、アナタの許可次第で魔道具が開発されます》
「先生は試した?」
《はい、死ぬかと思いましたよ。誰かの出産も、叫ぶのって無理ですよね、身悶え唸るだけでした》
「何を得た?」
《人の体も大切にと思いました、そして人生をこんな事に左右されるのは楽しくは無い。健康の有り難みと、アナタの思考回路の成立、世界がこの苦しみから救ってくれたと考えるなら、行動原理は酷く簡単で単純だと、そう思いました》
「ありがとう。拷問器具に良さそうよな」
《禁止します?》
「拷問に使うなら神様や精霊の介入は絶対、明らかな犯罪者限定でのみ使用許可」
《はい》
「皆と、縁を切ったらどうなる」
《直ぐに戻るそうですよ、アナタの痕跡はもう溢れてますから》
「エミールの刷り込みを何とかしたいんだが」
《成長すれば、問題無いかと》
「このまま寝かせておこうか」
《まだ続きが有りますよ、痛みで起きて頂きましょう》
「ショナ、早く起きて」
痛みで初めて目を覚ました、痛い、怖い。
「ぅう」
「ショナ、ギブアップしないと解雇、出禁、縁切るよ」
「ギブアップで」
一瞬で体も何もかもが軽くなった、痛みも何も無いだけで、安心する、幸せさえ感じる。
桜木さんが尽くす理由、この苦痛から世界が開放してくれた。
「大丈夫か?放心状態だが」
「はい、もう何も、大丈夫です」
エミール君が桜木さんを好きなのも、リズさんが好きなのも、鈴木さんが好きなのも、救ってくれたから。
だけじゃ無く、優しいから。
「先生、ココまでなるって説明した?」
《不要かと》
「はい、痛みが有ると説明は受けましたし、桜木さんの病気も勉強しましたので、覚悟はしてました」
それでも所詮は文字情報、ココまでとは思わなかった。
コレだけ苦痛だと、直感的に悟れなかった。
「でもだ、アホだ、何か飲めるか?」
「はい、紅茶で大丈夫です」
救ってくれて優しくて、それを好きになって当たり前で。
だから、後は桜木さん次第で、だから、自分が選ばれるとは、思えなくて。
「泣かした」
《私でしょうかね?》
「ワシ?もう痛く無いぞ?」
「大丈夫です、ただ、情けなくて」
「痛みはしょうがない、想像には限界も有るし」
「それでも、すみません、ありがとうございます」
「悲しい音楽を聴くと良いらしい」
《そうですね、それか場所を移動するか。お化粧も落ちてますし、入浴されては?》
「そうしなさい」
「はい」
遠慮を排除させる為の、優しいからこその命令口調。
好きに関しては分からない部分も有るけれど。
少なくとも、いつまでも一緒に居たいと思う。
「泣くとは、何で皆泣く」
《王子様に会えた、嬉し泣きなんですよ》
「やっぱ紫苑が本来か」
《それはどうでしょう、便宜上、王子様と言っただけですので》
「ややこし」
《カエルのお姫様と野獣の王子様、どうなると思います?》
「継承順位は」
《ふふ、どちらも最下位で》
「えー、お互いに逃げ出すか、カエルが逃げ出すのでは?」
《では、カエルも野獣も同じ大きさにしましょう》
「こっわ」
《ですよね、私もそう思いますが。それからどうなりますか?》
「一緒に、魔法を解きに行く?」
《その可能性が高そうですね》
「ただ、どちらかの魔法が解ける時、問題が起きそう。解けたら逃げ出すんじゃ無いか、疑心暗鬼になるかも」
《ですよね、でももし仮に留まってくれたら》
「嬉しい、一緒に呪いを解きに行くなんて最高じゃん」
《次の問題がありますよ、両方解けた後です》
「戦友になって終わるか、結婚か。王子と姫なら結婚しそうだが」
《片方が庶民なら》
「庶民からアプローチ出来るかだが、無理じゃね、玉の輿だと思われたく無いし、教養とか環境が違い過ぎるし。果ては、王子は断れなかっただけではと不安になるかと」
《両方庶民だと》
「んー、周りに良いのが居なかったら結婚って言って、違う人と結婚かな」
《何故でしょう》
「男女の友情はうんたらかんたら、それと、呪われた内容によるよな」
《悪さをしての呪いでは無い場合、イケメンだったら結婚します?》
「しつこくされないとしない、か、まだ呪いが掛かってるか疑うわ」
《同じ顔面偏差値なら》
「周りの環境と、モテ具合によるが、すんなり結婚は何か、妥協感が凄いのよな」
《運命、信じてませんからね》
「なー、神様居るのになぁ」
《どうしたら信じれます?》
「おみくじとか?」
《恋占いですね、してみては?》
「居ないとか言われたら召し上げられちゃうが」
《そうなったら、そうしましょう》
「良いんかい」
《私は患者さん最優先ですから》
「ありがとうございます」
《いえいえ》
小屋の外で先生と待っていると、ショナが帰って来た。
男の見慣れたショナ。
「桜木さん、ありがとうございました」
「何か分かった?」
「まだまだですね、もっとお借りしてたいです」
「ドM、変態」
「痛いのは嫌いですよ」
「なら良かった、また使いたいなら相談で、先生とも」
《そうですね》
「はい」
ハナさんの家の庭で待っていると、ショナさんと一緒に帰って来た。
ショナさんの雰囲気が違う様な、なんだろう。
『おかえりなさい』
「ただいま、画面見た?」
『見ました!凄い大きいですね、ゲーム用ですか?』
「リズちゃんのリクエスト、エミールは気に入ったゲーム有った?」
『まだなんですよ、勉強で手一杯で』
「ズルっこしよう、ゴハン食べた?」
『はい、蜜仍君の朝食セットを頂きました』
「お、蜜仍君や」
「はい、お帰りなさいませ。どうしました?」
「朝食セットとは?」
「おにぎりと玉子焼きとウインナーとお味噌汁です」
『美味しかったです、ね』
「具は鮭、お味噌汁はほうれん草でバランスも良かったですよ」
「良いなぁ、ショナ」
「器は何にしますか?」
「あぁ、もうただの丸皿で良い。エナさん、エミールの勉強手伝ってあげて」
『分かった』
『あの、でも』
「答えじゃ無くて学習の手助け、チョロいでしょ?」
『うん、チョロい』
「遠慮は良く無いですよエミール」
『じゃあ、少しだけお願いしますエナさん』
『うん』
ハナさんが家のお風呂に行き、縁側でお昼寝。
暫くすると蜜仍君が隣に行ってお昼寝を始めた、ちょっと羨ましい。
ちょっと寝るつもりが、もう夕方。
イカン、いい加減、時間のルーティンを組まないと。
「桜木さん、試食してみます?」
「おぉ、朝食セット」
眠っている間に、アレクと白雨とショナで作ったらしい。
食べ易いサイズのおにぎり、玉子焼きにウインナー、お漬物と大根おろしが添えてある。
もう、和式アフタヌーンティーセットはコレで良いんじゃなかろうか。
でもなぁ、コレ、朝か深夜のイメージなんよな。
「なにか?」
「和式アフタヌーンティーセット、どうしようかと」
「コレでも良いとは思いますけど」
「コレは朝か深夜なのよね、間食って感じがもっと欲しい」
「画面にお茶菓子とか出してみましょうか」
初稼働がやっぱりメシもの、話題は飲食ばっか。
「どうでしょう」
「近いけど遠い、田舎のお茶請け系は?」
「お漬物とかお萩ですか?」
「あぁ、お稲荷さんか」
「良いかもですね、種類沢山有りますし」
『どんな味なんですか?』
「あら」
「甘じょっぱくて美味しいですよー」
「久しぶりに、お店に行きましょうか」
「あぁ、百貨店さんか」
その前におにぎりを食べながら下調べ。
桜餅、お萩、お稲荷さんと入れてしまうと、全部お米なワケだが。
「お米まみれですね?」
「だよなぁ、あ、蒸しパンは絶対入れます」
『ムシ、蒸しですか?』
「スチームね、後は」
「どら焼きですかね」
ガチの葛餅、栗羊羮、煮豆、佃煮も良いな
ただ。
「色が地味」
「そこはお漬物で」
「あぁ、胡麻ダレ団子は絶対入れる」
「お煎餅はどうします?」
「際限ないな」
「やっぱりお重で丁度良いのでは?」
「だな、お重の見本」
「出しますね」
お重は思ったよりお洒落なのが揃ってた、3色団子カラーのお重、白地に桜柄、赤に白梅、丸型に花型、ハート型はバレンタインか。
下調べを終え、百貨店へ行く事に。
「すまんなエミール、出掛けてばっかりで」
『いえ、行ってらっしゃい』
こう言う時は、桜木さんは遠慮はしない。
何なら商品のリクエストさえする、薄い緑色のお重をお取り寄せ、そして四季でお重を揃えたいので夏や梅雨用が入荷したら通知して欲しいと。
本当に機械人形が欲しいらしい、今度のプレゼントの候補にしようか。
そして下階で和菓子や佃煮、お漬物、お稲荷さん等を買い揃え、蝋燭屋へ。
「こんばんは」
「こんばんは!聞いて下さいよ、病気が見付かっちゃって……」
桜木さんが治した直後、病院へ行ったらしく、血液検査で引っ掛かったらしい。
病巣は見付からなかったものの、念の為にと治療を開始し、店は代理に任せていたと。
なので今日が復帰初日だそうで、新作も増えている。
「完治?」
「結果はまだまだですけど、お医者さんから許可は貰えたので」
「痩せちゃって」
「食べれないって大変ですよねぇ」
「ですよねぇ、もう少し療養されては?」
「療養を兼ねて例の講習には行きました、ありがとうございました。もう作りたくて売りたくて、凄かったですよー、プライベートジェット機で点滴して、初体験でした」
「大変な時になんて事を」
「逆ですよ、自分が重病だなんて落ち込む暇も無くて、そのせいか副作用も軽かったですし、病院でジッとするより却って良かったですよ」
「今はどうなんです?」
「あ、私は不定期で出ますからご心配無く、前みたいに倒れそうになったら困るので」
「うん、無理せずで」
「はい。あ、見て下さい見て下さい、コレが新作で……」
エメラルド色の人魚をイメージした蝋燭、凄く嬉しそうにニコニコしている。
絶対に僕には見せない笑顔、男女として、従者と召喚者として完全に線引きされている。
それからは孤島での話しに戻りながら、海や人魚、そして春をイメージしたシロツメクサの蝋燭、そして日本式アフタヌーンティーセットの話しへ。
蝋燭屋さんは小さい蝋燭の箱詰めを思い付き、桜木さんはお重を譲って、蝋燭を沢山買い込んでお別れ、再び百貨店へ。
「コレだけは絶対に遠慮しませんよね」
「おう、もう一生支援する気でいるわ」
桜木さんが召喚者では無い普通の立場で接する、唯一の人間。
従者じゃ無くても、話せる人間、羨ましい。
お重を買い足し、エミールとイスタンブールへ。
ハンカフェでオヤツ、パクろうかな。
「お兄さん、このお店に似たのが出来たら、怒る?」
『同じコーヒーでウチの名前に似てたら怒るが、なんだ、どっかに有るのか?』
「いや、友達が似た感じでお店をやりたいんだって、日本茶で」
『なんだ、そんなの全然似て無いだろ。何処でやるんだ?時間は?』
「知らんよ、ココの話をしたら良いなってなっただけで」
『日本の茶は苦いんだろう、だから砂糖をだな』
「苦く無いし渋くも無いわい、飲む?」
『お、持ってんのか』
蜜仍君がたっぷり淹れてくれたお茶、ストレージから魔法瓶へ、そしてお兄さんが差し出すコップへ。
「匂い水なの、香りを飲むの」
『だな、うん。で、いつ出すんだ?』
この人、実は神様なんじゃないだろうか。
タイミング良くマキさん来るし。
そのまま家に向かいながらハンの商業利用の話に、そして家に付いてからは本格的な話し合いに。
ココのハンの下に小さな日本茶屋。
大規模ハンの表通りには移民の茶屋を、一部ブチ抜きで内側にもお茶を出せる様にししつつ、織物や刺繍のお店に。
中規模ハンには両方と水タバコ屋を、男衆の働き口にもなるからと。
「お願いします」
「はい、では、その様に」
「うむ。突然ですが、コレはショナです」
「ちょ」
「可愛いですね、ふふ」
「もー、無闇矢鱈に見せないで下さいよ」
「無闇矢鱈では無い、ほれ、エミール」
『そんな、そんなに変わらないんですね?』
「そうですかね?」
「エミールさんのも見てみたいなぁ」
「絶対に鬼カワだと思う」
『僕、そんなに顔が良く無い方ですよ?』
「アジアには無い魅力」
「そうなんですよね、もうそれだけで加点が凄いんですよ」
『スーちゃんの方が反応が良かったじゃ無いですか』
「コレね、フェミニンなんだもの」
「あー、綺麗な感じですね。私はエミールさんの方が好みですよ」
『あんまり、男臭くなりたくないんです』
「思春期め」
「男らしくても、ハナさんは優しかったら大丈夫ですよね?」
『そうなんですか?』
「そこを気にするより、ワシの呪いを解いた方が効率的で健全だと思うぞ?」
「確かにそうですね、膜が張っちゃってますもんね?」
『膜?』
「偏光フィルター付きの、キラキラ防止加工」
「雨宮さん、その情報は」
「ドリームランドに行かせて頂きました、神様と」
「ワシ知らん知らん」
「凄く楽しかったですよ!久しぶりに縁日と花火を楽しませて頂きました」
「神性と関わったら入場か」
『じゃの!』
「おう、久しいのう」
『全くじゃ、全然来てもくれんしぃ』
「お世話になっております、雨宮マキです」
『うむ。のぅ、もう飽きたんじゃろか?』
「いや、マジで忙しくて。落ち着いたらと思いまして、それに、欲しいのもそんな無いし」
『うぅ』
「インプ無しじゃアウトプット出来無いの、蓄えたら行くから待っててよ」
『約束じゃよ?』
「おう」
『うむ、またの!』
「ふふ、可愛らしい方ですよね」
「良いヤツなんです本当」
「あの、日本茶屋に日本式アフタヌーンティーセットを導入されては」
「どんな感じなんでしょう?」
清浄魔法を施したお重に、お稲荷さんや漬物を入れていく。
最上段には和菓子等の甘いモノ、中段には甘じょっぱいお稲荷さんや胡麻ダレ団子、下段にはお煎餅やお漬物の酸っぱいしょっぱい。
「本家とかなり違うけど、好きを詰めるとこうなってしまう」
「小さいお重で出しましょう、お試しで」
可愛いからと目を留めたら買われたミニミニお重、一口だけを詰め込んで、エミールへ。
凄い酸っぱい梅干しを入れたので、凄く良い顔をしてくれた。
めっちゃ目をかっぴらいてんの、連写したわ。
『凄く、凄いです、良いと思います』
「どれ、試作でお届けしてみようか」
見守り君が有るので、部屋の中からアヴァロンへ空間を開く。
そのままお茶会へ、エミールは何か書いてる。
《まぁまぁ、試作だなんてとんでもない、充分ですよ》
『下段は良い、良い』
『ですよね、ふふ』
「エミール、それは日記?」
『はい、絵日記です、自由研究の課題にと、当たり障り無さそうな事をと、ダメですか?』
「商業の方は無しなら問題無し」
『はい、勿論ですよ、ふふ』
《では、お呼びしてみましょうね、田道間守神》
「うむ、良いと思いますよ、うん」
「手作りで無くてごめんなさい」
「手作りが全てでは無いかと、美味しいの前に安全、そして同じ味を提供する事が第一かと。機械が悪なれば、道具全てが悪となりましょう」
「有り難いお言葉です、機械大好き」
「ただ、1つ言うならば、金柑や栗の甘露煮が欲しいかと」
「全くで」
《蜂蜜漬け、砂糖漬け》
『酒で漬けてくれても構わんよ』
「あー、粕漬け嫌いなんよなぁ」
「えー、お口に合いませんか?」
「美味しいのを食べた事が無いだけでは?」
「美食家みたいな事を、じゃあ明日にでもアレクと取り揃えてくれ給えよ」
「了解です」
「頑張って下さいね」
『うん、楽しみだ』
《もう、忙しいのにすみませんね》
「いや、多分何も用事が無くなる瞬間が有る筈だから大丈夫。それまで楽しくやるだけです」
『そしたら、沢山遊びましょうね』
「おうよ」
アヴァロンの陽の光とトルコの光、寝る時間だからか明るいからか。
ちょっと眠くなって来た。
「桜木さん、もうそろそろ寝る時間では」
「あ、すまん。じゃあ、解散と言う事で」
エミールはそのままアヴァロンへ。
マキさんを大使館裏に届けてから、家へ。
いかんな、時間ちゃんとしないと。
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