4月4日 菫《スミレ》の日だったり、式典用の服を仕立てたり。

 日本時間、朝の6時半にミーシャに起こされ、おやすみを言った。


 それから温泉に入り、虚栄心の店へ。

 式典用の服を試着、ツギハギで仕立て糸がバリバリに残っている仮縫いの段階。


 普通の軍服、セミロングのスカート、立襟のコート。

 灰色、何処のだ?


「陸海空のどれ?」

「どれでも有りません。先ずは軽めの朝食に試食をどうぞ、サンドイッチ、つまんで下さい」

「あら良いわね、私も貰うわ」


 一応、桜木花子は従者庁に所属なので、従者カラーらしい。


 因みに、陸はオリーブ色、海は濃い深緑、空は紺色で、演奏等のマーチングバンドは下が白なんだとか。

 警察関係は黒、全身白っぽいのは皇族の方々だそう。


「やべぇな、もう緊張出来るわ」

「無線機で補佐しますから大丈夫ですよ」

「それもそうだけど、猫背。29日までに治しなさいよ」


「胸さえ無ければ」

「そんなんじゃコルセットあげないわよ」


「ぐぬぬ」

「はい、じゃあ脱いで、次はコルセットの試着よ」




 今回の最初の目的は、スクナ様とタッグを組んでコルセットを着用させ、内臓の位置を良い場所へ戻す事。


 そうして序でにウエストも作らせ、更に式典用の寸法を直してから、今日お出掛けする恰好をショナ君にお披露目。

 今日は明るい灰色のシャツワンピ、黒いコルセット、太いヒールのブーツ、そのブーツの上から魔道具のアンクレット、飾りは3つ。


 ショナ君は身柱と同じ、褒める前に細さを心配しちゃってるし。

 ハナはハナでそれに気付かないし。


 そのまま様子見しつつ、ヘアメイクも指導したけれど。

 マジで褒めないわね、この子、つか過保護過ぎよ。




 桜木さんがコルセットの試着にと奥へ、暫く待っていると怖い位にウエストが細くなっていた。

 ただ、本人は納得している様子。

 拒食症では無いものの、痩せ傾向の改善の気配は無し。

 なのに更にコルセットなんて、先生には痩せに対しての言及は禁止されているとは言え、どうしても不安で心配になってしまう。


 そうしてそのままヘアメイクの指導が入り、準備は完了。


 桜木さんは虚栄心さんの腕に手を添えながら、今度は外へ、歩く練習。

 バランスを崩したりフラ付きはしないが、歩き難そう。


 何とかホテルに着くと、バイキングから虚栄心さんが選んだ食事で姿勢や食べ方の指導へ。


 不満は言わないものの、ストレスは高値。

 折角の食事すら楽しく無さそう。


「虚栄心さん」

「まだ大丈夫よね?」

「無理、おウチ帰りたい」


「あらあら、エミール君に恥を掻かせても良いのかしら?」

「ぅう、業務、コレは業務」


「ウソウソ、もう少し慣れれば大丈夫よ」

「うぅ」


 絶妙な手綱捌き。


 1週目のデザートと珈琲が終わると、コルセットの緩める機能を教えられ、漸く自由に。

 自由なのに、ちゃんと直そうとはしている、歩く姿勢を気にして次の食事選びへ。


「ショナ君、次はアナタが指導する?」

「コレを見てしまうと、あんまり、したく無いですね」


「ふふ、何時でも言って頂戴ね、手綱は渡すから」

「はい」


 本当は従者の役割なのだが、こう見てしまうと大変やり難い。


 2周目を自由に取り終え、先程教えられなかった食べ方を聞きつつ、滅茶苦茶に文句を言いながらも実践している。


「何がマナーじゃい、箸だけで過ごさせろ」

「和食もマナー、有るでしょう」

「はい」


「ぅう」

「出来てるから大丈夫。気にし過ぎよ、兎に角、先ずは慣れなさい」


「慣れないといけない事が多過ぎる」


 それは本当にそうで、お辞儀から何から。

 果ては一般に馴染むので有れば、流行りも知らなくていけない。


 実際の公務の時間では無い所でも、公務の為に時間が消費されていく。


 ロキ神の指輪は預かっているとは言え、嫌になって何処かに行かれないか若干、不安になってしまう。

 そんな事はしないだろうけれど、そうされかねない状態。




 コルセットの解除法を教わり、解放し、ちゃんと食べたが。

 縮まったウエストが跡形も無くパンパンに、コルセットが良い感じに誤魔化してはくれてるが。

 ウエスト縮めた意味、有るんだろうか。


「ウエスト縮めた意味よ」

「内臓が下がってたんだから良いの」

『うん、良い位置に戻った』


 そして下のカフェでまったりタイムの後、歯磨きの時間を頂き、化粧室で軽く磨く。

 そして化粧直し、もう帰って寝たい。


「終わりました」

「じゃ、次はお散歩ね」


 履き慣れ、歩き慣れる時間。


 強欲の美術館に行き、貸し出し用のスマホでガイドを聴きながら回る。

 コレは楽しい。


 そして例の絵を選ぶ事に、習作の中にグッとくるのが有ったのでその絵を発注へ。

 そして4連作が気に入ったらしく、その絵の4連作になった習作を見せられた。


 衰退をテーマにしたり、輪廻転生だったり、そして喜怒哀楽は少しシュールと言うか抜けが有る感じで好き、そのまま喜怒哀楽でお願いする事に。


「強欲さんのメリットは?」

『同時並行でもう1枚、少し変えて描いて貰っているんでな、実質本物が2枚になる。それを飾るんだ、ココや家にな』


「ちょっとだけ、ワシの案だとバレたく無いんだが」

『分かる者に分かる様に展示するから心配しないでも問題無い』


 問題無いのかよ。


「ほら、姿勢」

「ふぇい」


 集中すると崩れる、またズルっこしようかな。




 美術館の後はお買い物へ、楠さんと桜木さんの品物を購入するとの事。

 楠さんの方は僕が現金で、桜木さんのはカードで。


 そして先ずはと一直線に下着屋へ、遠慮させて頂いて、暫し待つ事に。




 下着屋で虚栄心の体の状態を見せて貰い、ズルっこの下見。

 腹筋と背筋、胸筋等の素晴らしいバランスで綺麗な姿勢が保たれていた。


 スクナさんの補助を得てズルっこ、息をするのが楽。


《くふふ、ショナ坊がナンパされておるわぃ》

「マジか、見に行かないと」

「しょうがないわねぇ」


 店に品物を預け店外へ、少し離れたベンチで女性にナンパされている。

 綺麗なお姉さん、何の問題が有るんだろうか。


「何の問題が有るんだろうか」

「何だと思う?」


「ウブさ?」

「まぁ、無くはないかも知れないわねぇ」


「どんなんが良いんだろう」

「あら、あらあら」


 ナンパを断った後のショナと目が合ったので、お店に引き返し品物選びを再開。

 コレは楠と兼用でも良いらしいが、桜木用だけ購入へ。


 安心したのも束の間、会計中に虚栄心に品物を追加された、こんな方法も有るのか。

 そのまま買わされた。


「買わされたぁ」

「はいはい、一服して良いから忘れなさい」


 完全に手綱を握られているが、こんなに甘えて良いんだろうか。




 物凄く眉間に皺を寄せながら一服する桜木さん、何を悩んでいるんだろうか。


「あの、桜木さんは何か」

「あぁ、アンタの好みだの何だんなの、何かしら解せないんでしょうよ」


「普通、好みって有るんですかね?」

「逆に難しい質問してくるわね、傾向位は流石に有るでしょうよ。蜜仍君なんかを考えてみなさいよ、金髪碧眼を見慣れて無ければ親近感も湧き難いとか、そう言う事の先に有るんじゃないの」


「虚栄心さんに、好みは有るんでしょうか」

「逆の子ね、無邪気で裏表の無い無垢な子、どうしても弄り倒したくなるのよね」


「苛めたくなる感じですか?」

「構いたい、関わりたいって、好きじゃ無いとしなくない?嫌いか無関心な人間と関わるなんて、時間の無駄じゃない」


「執着の制御が出来無い人間も居ますが」

「自分がそうじゃ無いのかって不安がるより、自分の心を探求すべきなんじゃ無いのかしらね。選択肢を広げて、再考してみなさいよ」


 先生にも言われた事。

 問題は、何をどう考えたら良いかどうにもサッパリ分からない部分なのだが。


 また少し離れている間に、今度は桜木さんがお婆さんを連れて来てしまった。


「何か、召喚者様のフリをしてくれって頼まれたんだが」

「え」



 このウブちゃんの方が厄介な上に、厄介そうなお婆さんまで連れて来て。

 本当、え、よね。


 意識の無いお爺さんの為に会いに来て欲しいって、嘘は無さそうだけれど。


「ハナ次第だけれど」

《偽りは無いぞぃ》


 ハナは嘘を見破る事を止めた、ただそのメリットとデメリットが凄いのよね。

 もう、ショナ君がその魔道具を付けたら良いんじゃないかしら。


 そうしてそのまま流され、タクシーに乗り街外れへ、小さな可愛らしい一軒家。

 介護士さんが常駐してるし、寝たきりのお爺さんは本当に居たけれど。

 カルテを見せて貰ったけれど、どうしたって、意識は戻らなそう。


 お婆さんは手を取り、召喚者様が来てくれたから起きてと話す。

 当然、反応は無し。


 今度はハナがもう片方の手を取り、話し掛ける。


「召喚者です、どうも、会いに来ましたよ」


 ハナは治療も魔法も、何もしなかった、当然反応は無し。


 そしてお婆さんはそのまま話を始めた、自分も病に罹り先が短い、かと言ってお爺さんを置いて行くワケにもいかない。

 お爺さんを殺し、自分も死のうと道具を探しに街へ来ていた。

 そこに丁度、アジア系のハナが居た。

 話し掛けると言葉が通じたので、そのままお願いしてしまった。


 止めて欲しい気持ちと、救って欲しい気持ち半分で。


 ハナにもその意味が分かったのか、私かショナ君に手品をお願いしてきた。

 花が消えては現れる簡単な手品、ハナが泣いたあのシーンの再現。


 ショナ君は手品が出来無いから、私が手品をする事に。


 お爺さんのベッドへお婆さんを横にならせると、ハナは何処からか赤い薔薇を出してきた。




 虚栄心さんの手元から、現われては消える赤い薔薇。


「どうかしら、ココに住んでるんじゃ、見慣れてるでしょうけど」


 自分の為だけのマジックは初めて、ありがとう、の言葉を最後に、2人は一緒に息を引き取った。

 直ぐに介護士を呼びに行き、それから看護師と医師の立ち会いの元、死亡が確認された。


 ただ、僕ら部外者が居た事も有って警察官がやって来た、警察官の格好をした憤怒さんと怠惰さん。

 車に乗せられ、店まで送って貰う途中、簡単な聴取を済ませ、例の印籠が確認されると無罪放免に。


 そうしてそのまま虚栄心さんの店へ。


 桜木さんは、最近では1番無表情。

 抑制魔法はもう使わないと言ってたけれど。




 泣くの堪えると無表情になるのね、この子。

 向こうなら可愛くないって言われる態度でしょうけど、意地らしくて可愛いじゃない。


「喜んでるだろうか」

【うん、喜んでいるよ】

「何も、ハナにさせなくたって良いじゃない」


【過度な介入になる】

「じゃあ仕方無いか」

「それにしたってよ、怠惰」

『じゃあ、何時なら良いと思うんだ』

「殺し損ねれば離れ離れ、そしてそのまま別々に亡くなる可能性だって有ったんだ」


「にしたってよ。ごめんなさい、誕生日が終わったばかりなのに」

「すまん、ありがとう。遅くなったな、おめでとう」

『すまない、ありがとう、おめでとう』


 桜木さんが泣いてしまった。

 怠惰からの軽いハグ、憤怒のハグでしゃくりあげる程にまで。


 そうして少し泣いた後、忙しいだろうからと、直ぐに帰らせた。




 桜木の浮島から帰投以降、スーちゃんはウチに泊まっている。

 仕事と勉強の為とは言え、本当に兄妹みたいになって来た。


 とか考えてたのに、桜木に関する緊急通知が入って来た。

 また、何かしたらしい。


「なにしたんだアイツ」

「大丈夫よ、悪い事じゃ無い筈なんだし」


 老夫婦を看取ったので、ベガスの憤怒と怠惰に世話になったと。

 何故。


「何故」

《灯台パワーじゃ、フラフラっと来ての》

「あぁ、私、無理だわコレ」


 赤い薔薇の花を手品で出し入れさせ、その間に2人の心臓を止めたらしい。


 アイツ、ココでこんな風に再現するかよ。


「朝っぱらから、なんつーことを」

「うぅ」


 俺もつられそうになったので、先ずはスーちゃんを落ち着かせ、先生に連絡。


 シルクのガウンとかエロいなコイツ。

 助かった、お陰で涙が引っ込んだわ。


「先生、読んだか」

【と言うか、ドリアードから聞きました。今、読んでます】


「アンタエロいな」

【どうも。憤怒に父の匂いを、父性を感じたらしいですよ、ストッパーが効いてる様ですね】


「俺もだ、スーちゃんも桜木も無理だなコレ」

【その世界の基準は、変わらないんですね】


「な、ただエミールはなぁ」

【人種的に離れていれば問題無さそうですよ、昔はその垣根が少し高かったので、報告件数が極小だったんでしょう】


「あぁ、でもスーちゃんは無理だが」

【心の相性でしょう、桜木花子程の博愛傾向で無くて良かったですね】


「それ、治らんのか」

【偏見を植え付ければ可能ですけれど】


「それはイカンが」

【メンクイとは言っても、基準値もちゃんと有りますし、誰でもでは無いので大丈夫かと】


「ただこう、傷付いて欲しく無いんだが」

【卒なくこなしたそうですし、覚悟はしていたんでしょう】


「引き留めた、引き戻した罪悪感が出るんだが」

【それは世界の改善に向けて下さい】


 あぁ、安楽死案の改定か。


「あぁ、じゃあ相談して良いか?」

【はい、どうぞ】




 桜木さんが上から戻って来ると、お化粧は直され、消臭剤と呼んでいる魔道具が増えていた。

 指輪が1つ、左手の中指に増えている。


「家具、見に行こう」

「はい」


 虚栄心さんも一緒に国を移動し、家具屋へ。


 もう何事も無かった様に、クッションや椅子を座り比べている。


 悩んだ末にアレクも呼んでの家具選びへ、白雨さんは何でも良いと言いそうだと、確かに。


 そうしてダイニング用と私室のソファー、クッション、アレクと白雨さんの2段ベッドが決まった。


「サクラ、ダイニングテーブルも買おうよ、4人位の。無いと食事の準備大変じゃない?」

「あぁ、確かに」


 ダイニングテーブルが決まると、キッチン用の棚と庭用のテーブルセットが決まった。

 次は和室用の炬燵を買うかどうかの議論に、アレクは欲しい派、桜木さんは来年買う派。


 日当たりが良いのと、これから更に暖かくなるので今回は見送る事に。


 そして休憩も兼ね、少し早い軽めの昼食へ。

 併設された食堂で普通の人と同じ量を食べていると、再び暖房器具の話が最熱。

 炬燵の代わりに電気カーペットを買う事に、和室用の家具選びもあるので、店を移動。


 座布団と座椅子、肌触りの良いカーペット、電気カーペット、ローテーブルを買い、電気屋へ。

 オーブンやレンジを買い、家へ。


「桜木さん」

「ワシじゃ無いぞ」


 庭が完全に出来上がっていた、どうやら神々が完成させたらしく、アネモネが咲き乱れている。


 お酒を供え家の中へ、家具やカーテンを設置し、休憩。


 電気カーペットに皆さんで寝転んで。

 桜木さんも、まだ買う物は沢山有る筈なのに、もう満足してしまっていそう。


「もう良いんですか?」

「他に何が必要?」

「まぁ良いんじゃ無い、ゆっくり選んでも」

「流石にもう、白雨も呼んでやろうよ」


 そうして白雨さんにエナさんも来て、お昼寝へ。

 桜木さんはマスクをし、座布団を枕にヌイグルミを抱え爆睡中。

 その横の、日当たりの良い場所にはエナさん。


「ショナ君も、少し寝たら?」

「今日は譲ってやるよ、大変だったんだろ」


「じゃあ、少しだけ」






 空腹感で起きた、まだお昼か。

 そして誠に残念、寝て起きるとショナの顔に寝ていた痕跡が。

 残念、跡が付いてるのは面白いけども。


「おもろ」

「お茶を淹れ直してきますが」

「あらお願い」


 元大家さんもデカフェ派、少し前に起きたショナが、引っ越しの挨拶にとお菓子を持って行ったら、お返しにお茶をくれたそう。

 カーテンを返したのと、竹垣を褒めたのが良かったらしい。


 美味い。


「何か、そんなダメージ無さそうじゃん」

「悪い事とは今のところは思って無いから、安パイだけど最良かは不明」


『蜜仍をココにおこう』

「エナさん、急に、なんぜ」


『馴染ませる、学校に通うには丁度良い』

「土蜘蛛ってバラすんか」


『うん』

「大丈夫なんか」


『本人に聞いたら良い』


 今日は浮島でお留守番だった蜜仍君を呼ぶ、もう大はしゃぎ。


 暫く放置し、落ち着いてから本題へ。


「蜜仍君、ココ住む話なんだが」

「はい、土蜘蛛として通おうかと。ダメですか?」


「全然良いんだが、君が大丈夫か」

「もし馴染めなかったら無理には通いませんけど、そうした方が良いですか?」


「無理はしなくて良いんだが、過酷では」

「何事も経験ですし、僕は普通に楽しみなんですけど」


「そう?お婆ちゃん心配だわ」

「大丈夫ですよ、力を恐れる事は正常な反応ですし、どう振る舞うべきかも相談してますから」


「なら良いんだけども、もしダメだったら?」

「隣の学区に行きます、そこもダメなら隣に。ある意味では知名度の為ですし、変に粘ったりはしませんから、安心して下さい」


「君のメンタルは信用してるが、無理はしない様に」

「はい」


「じゃあ、部屋割りか」

「わーい!」


 リズちゃんとスーちゃんと賢人君も呼び、部屋割りの相談へ。


 2階の和室に蜜仍君、和洋室にエミールとパトリック。

 その隣に白雨とアレク。

 小さな洋室は従者、ロフト付きにはリズちゃんスーちゃん。

 下階の奥の和室は自分、その隣にエナさん。


「従者、小さくなかろうか」

「基本的には俺らの部屋を使えば良いじゃん」

『あぁ、偶に使うかどうかだろう』


「そもそも、来ても殆ど下だろうし」

『屋根が有れば問題無い』

「住む事の閾値の低さよ」

「ココは、ミーシャさん用に開けておこうと思うんですが」

『じゃあハナと寝る、従者はココ使って』


「エナさん、君は今後どうするつもりなのよ」

『ハナが落ち着いたら旅に出る、電車とか船とか使ってウロウロする』


「単身で?」

『うん』


「心配だわ」

『困ったら直ぐに言う』

『ワシを使って、だろ』


『うん』

「まだ旅に出れない?」


『番う気配すら無いし、落ち着いたら』

「じゃあもうアレクで良いか?」


『そう言うのはダメ』

「強いわね、コレはハナの負けよ」

「クソ」

「腹減ったな」

「回転寿司行きたいー!」

「僕もー!」


 エミールも呼び出し、街まで出て回転寿司に、テーブル席2つに分かれ食事が始まった。


 後ろの席にはショナやアレクの男衆、コチラにはエミールとパトリック、目の前には蜜仍君とリズちゃんスーちゃん。


 チビーズ。


「チビーズ」

「ぉおん!?」

「頑張れ最小ちゃん、はい、半分こ」


 エミールもパトリックと半分こ、コチラは蜜仍君と半分こ。


 後ろは一体どうなっているのかは不明。




 僕は通路側、隣には虚栄心さん、奥にはエナさん。

 正面にアレクと白雨さんと賢人君。


 白雨さん、普通にウキウキしている。


「可愛いわねぇ」

『いや、むり』

「サクラとそこは同じっつうか、過剰反応っつうか」

「もう拒絶反応レベルっすよねぇ」

『僕らでも分からないんだけど、どう過ごしてたんだろうか』


『タブレットは提供物資に入ってた、それで情報は得ていた。食事はしなかった』

「楽しいの?ソレ」


『映画と読書以外、楽しくは無かった』

『分かる』

「不思議な共通項よねぇ」


「疑問なんすけど、桜木様が可愛いって言ったら、どうなるんすか?」

『それは、どうなんだろう』


「あらナイスタイミング」

「なに、トイレ行きたいんだけど」


「白雨ちゃんに可愛いって言ってあげて欲しいんだけれど」

『白雨は回転寿司にウキウキしてる』

「それは確かに可愛いが」


 普通に嬉しそう。

 桜木さんの呪いは、大罪的な呪いに近い感じなんだろうか。


「ふふ、もう良いわ、行って宜しい」

「おう」

「平気そうっすね」

「つか嬉しそう」

『『不思議』』

「確かに不思議ですね」


「そう?御伽噺的には、ハナが王子様なら当たり前じゃ無い?」

「あぁ、性別逆っすけどね」

「一応、逆の絵本は有りますけど、数は少ないですからね」

『通例的に英雄は男だからね』

『ハナが、王子様』


「魔、あの剣、アレの設定通りっすね。王子様になる剣」

「そうね、王子様で救世主」

『野獣と王子様』

「エナ、それはヤバいな」

『違う意味で喜びそうだ』


 白雨さんの意見に僕以外の全員が同意した、僕が立ち入らなかった領域に全員が踏み込んでいる。

 賢人君まで、その領域を観たんだろうか。


「賢人君も観たんですか?」

「大分後になってからっすけど。いや、流石に他人のエロ本は見ないっすよ。けど、傾向とあの反応的に、そんな感じかなーって」

「私は親友だから全部観たわよ、意外と純愛好きなのよね」

『好き過ぎて抜けが有ると許せないタイプ』

『俺も観た、拘りが強い、色々と』

「なー、繭の時か?」


『うん、暇だったから』

「そんな理由で」


『忙しくても勿論観たが』

「そうじゃ無く」


『あえて観なかったのに、僻むのか?』

「これ、白雨ちゃんキツいわよ、ソレ」

「すまん、他意は無いんだわ」

『親しい者で観なかったのは君だけだからね』

「エナさん追い打ちっすか」


『知らない権利は有るから責めては無い』

「それでもよ、もう、フリーズしちゃってるじゃないの」

「ゴメンごめん、ほら、白雨」


『すまん、言い過ぎたのか?』

「言い過ぎっつうか、突っ込んじゃったっつうか」


「賢人君も、僕が観なかった事に、違和感が有るんですね」

「出された手紙を読まないって、しかも桜木様からの手紙っすよ?まぁ、知らない自由が有るんで別に良いんすけど。逆にビックリしたんすよね、当然、観るだろうと思ってたんで」


「まぁまぁ、色々と思う所が有るんでしょうから。ね、食べましょう」

『『サーモン』』

「「ハモった」」


「やっべ、アレクさんと合っちゃった、魔王っちゃうかも」

「その素養、絶対お前には無いから」

「そうね、奇跡が何度か起こらないと大罪すら無理じゃないかしら」

『昔から通信簿に書かれてた、天真爛漫無邪気』

『天変地異が何度起これば、大罪化するんだろうか』


『2桁』

「それ、誰の予測なんすかね」


『ミーミルとか』

「とか、やべぇ、俺が話に出ちゃってるぅ」

「そこでテンション上がんのが有り得ないわぁ」

「色んな意味でな」

『ココがハナとの共通点なんだろうな』


 また、皆さんで頷き合っていた。

 観なかった弊害。


 そして、僕は畏れ多すぎて萎縮してしまうのに、どうして桜木さんは平気なんだろうか。

 コレも、観れば分かったんだろうか。




 デザートも半分こ、砂場崩しの要領で端っこから食べて行く。


「イチャイチャしやがって」

「それ絶対、ワンコちゃん言いそうよね」

「絶対言われるわ」

「嫉妬深いですよねぇ」

《お主らとは経験が違うじゃろうからのぅ》

『恋愛の経験ですか?』


《とか、じゃの》

「お、濁して偉い」


「せ」

「蜜仍君」


「はい、控えますぅ」

「1抜けたー」

「スーちゃんもウブ確定だよな」


「落とされ無かった城主ですけど何か」

「まぁまぁ、周りの環境とかも有るんだし」

「河瀬もアレ、絶対にそうだろ」


「分からん、引き籠もりだから未経験は固定観念じゃろうし」

「そうよね、外に働きに出てて交流も有るのに、身柱さんはあんなんだし」

「スーちゃんもな」

「リズさんは素人さんですか?」


「おま、当たり前だろ」

「お、プロも有りそうやな」

「やっぱり凄いの?」


「くっそ、例の店の話に変えてくれ」

「それ、ほぼ変わらないんじゃね」

「ソッチも気になるぅ」

「良い人は居ました?」


「コルセット仲間は出来た、それとやっぱり年上が苦手なのが気になる」

「俺は良いと思うけどな、ルーネ」

「大人がちょっと怖いのは分かる、なんか、遊ばれそう」


「そう考えたら俺だって嫌だが」

「真っ先にそう思っちゃうのよね、うわ、何考えてるんだろって。特に男の人に」

「スーちゃんもか、マジでメジャーなのね蛙化現象」


「なにそれ」

 《蛙の王子様の姫じゃ、近付いて来る異性に嫌悪感を抱く現象じゃよ。まぁ、我には良くわからんがの》

「でしょうよ、したらば根本が揺らぐわ」

「ほれ、コレだな」


「あー、あるあるしか無いぃ、何これこんなにメジャーなの?」

 《じゃの》

『接近速度が早いと怖いのは分かりますね、なんだか別の下心が有りそうで』


「ハナ、無いからね本当」

「そこは大丈夫だが、同性だからかな」

「なら、成長したスーちゃんはどうなんだ?」


「想像付かん」

「じゃあ後で貸して」

「お、ならエミールもどうだ」

『良いんですか?』

《ハナのじゃしぃ》


「一応、先生と相談させて」

『はい』

「早く帰りましょ」

「だな、先生用のも来たし」


「お隣さん、どうでっか」


「満腹」

『満たされた』

『うん』

「満足よ」


「じゃあ帰りましょうかね」


 帰りもエナさんの案内でカメラの死角から転移、そして川辺りを少し歩いて家へ。


 今度は庭先から先生の家の近くに転移し、先生の家に。

 シルクのガウンって、エロいなおい。


《すみませんね、アナタが来るとは聞かされていなくて》

「なんでそんな格好を」


《最近、暖かいので。ココ、凄く陽当りが良いんですよ》

「あぁ、お寿司どうぞ」


《どうも。着替えて来るので、少し面談しましょうか》

「うい」




 桜木さんはそのまま少し面談する事になったらしい、そしてドリアード曰く、先生爆弾が投下されたと。


「それは、一体」

「大演習で先生が降って来たじゃないっすか」

「で、桜木が無効化されたんでな」

「名付けて、先生爆弾。ハナをフリーズさせられるから」

「なるほどね。で、先生が何かしたのかしら?」

《今回も何もしとらんよ、ただガウンで相対しただけじゃ》


「あぁ、エロいんだよあの人」

「リズちゃん、まさか」


「無い無い、今日タブレットで通信してな、ガウンで、エロいなと。無いが、エロい」

「えー、見たかったぁ」


「記録用の映像流すか」

「見るぅ」


 確かに、大人の色気と言うか、容姿だけでは無い、目を引かれる感じがすると言うか、何と言うか。


「こう、悪用厳禁では?」

「桜木に落とされた爆弾の破壊力の検証だ」

「そうね、エナさんも止めないんだし」

『実証実験は大事』

「実験って、ならワザとね」

《じゃの!》

「白雨さんの昔より、っすか?」


『あぁ、観れ無いのか』

「まぁ、アンタはモロ出ししたんだし、無理だろ」

「えっ、何それ、アレクさん」

「俺、それ観て無いかも」

「僕も知らない事実なんですけどー?」


「そら、怒られると思って、現に怒られたんだから、映画館でも観せないだろ」

「あれ?そこは観たけど。一応、配慮とか遠慮も影響してるのね」

「俺らは繭化の時なんだけどなー」

「僕も、繭化の時なんですけど」

「なら、無制限じゃ無かったのね、良かったわ」

《勿論じゃよ》


「にしても疑問だったのだけれど、感情の付帯はどうなのかしら?」

「俺もスーちゃんも感情の付帯はバラバラだったが、今でも有るぞ」

「それで思ったんだけど、分かる人にしか分からないんじゃないのかなって」

「僕は逆に分からせられたんですけど」

《お主のアレは土蜘蛛じゃよ》

「俺はセバスと一緒だったけど、バラバラかどうか。ただ、嫌な場面でセバスは直ぐに泣いてたな」

『付帯に強弱は有った』


「そうね、どちらかと言えば、私達も強弱ね」


「遠慮した意味、無かったんですかね」

『観てたら、何か変わったのか?』

「それ難しい質問よショナ君、感情の付帯された映画館の記憶、有るの?」


「今は、はい、思い出せます」

「賢人君、ある意味プロの従者としてだけなら、必要無い情報でしょう?」

「多分そうっすね、俺は作品の付帯は有ったんで。物事全てに付帯されてたら、客観性は失われそうっす」

「アレ観た?ハナには珍しい少女漫画の恋愛物」


「良いっすよねぇラブミー部。実写化して貰いたいっすもん」

「賢人君からも言ったら良いのに」

「だな、推しの俳優リスト作れよ」


「良いっすねぇ、あ、ネットワークどうなってるんすかココ」

「もう通ってるので大丈夫ですよ、省庁の配備品です」


「うっす」

「高身長でー」

「中音域が響くヤツな」


 公開された桜木さんと先生の面談も、この会話にも入れない。

 全部を観た感覚だったのに、もっと作品でも何でも良いから、知っておけば。




 エロい先生は普通の先生に戻り、普通にお寿司を食べてる。

 そして魔道具はエミールが最初にと。


 しかも今回の面談は質問票に回答するシステム、遠隔でも良いのでは。


「遠隔でも良いのでは」


 《そう言った質問や、回答の迷いもチェックするので》

「あぁ、なら迷った質問について聞いても良いのね」


 《はい、どうぞ》

「全般的になんだけど、しっかりしてるかと聞かれると、はい、とは言いきれないんだが。自信有るの1つも無い」


 《構いませんよ、質問や考察の参考にする一部に過ぎませんから》

「じゃあ、召喚者を任せられないってなりそうな」


 《自分なら、そう思いますか?》

「ココ生まれココ育ちの幸福な家の子なら、そう思うかも知れないなと」


 《例えば、身近で言うなら》


「それは、居ないとは思うけど」


 《その認識で問題無いので大丈夫ですよ》

「うーん」


 《では、一般家庭と実際に関わってみてはどうでしょう》

「ほう」


 《明日にでも、準備させますので、体感してみて下さい》

「うい」


 先生の家の中庭から中庭へ。


 何か、盛り上がってる。


「おう、食べて来たか」

「え?あぁ、エロくてビックリしたわ、何よアレ」

「え、ハナ」

《そんな度胸は無かろぅ》


「無い無い、究極のパワハラやんけ」

「確かに、究極だな」

「私はウエルカムよ本当」


「はいはい。はい、先ずはエミールにって」

『ありがとうございます』

「そのままお風呂行ってきたら?浮島の温泉」

「なら、俺と白雨も行くか」

『おう』

『私もー』


「じゃ、偶にはお先にどうぞショナさん」

「そうしなさい」

「はい」




 スーちゃんが普通にココのお風呂に入りたがったので、賢人君が準備をしにお風呂へ。

 やっと女子会が出来るわね。


 ただ、ココでショナ君の事は話せないのよね。

 本当に厄介な組み合わせ。


「ちゃんと大人になったら、美味しく感じるかなぁ」

「スーちゃん、湯上がりビール派か」


「羨ましいでしょ」

「全く羨ましく無い、ゲテモノ食いやん、肝汁やん」


「ちょ、麦芽麦芽」

「苦いのはゲテモノなの」


「ほろ苦いは良いのに」

「バカみたいに苦いじゃんよ、ほろ苦ちゃう」


「子供だなぁ」

「スーちゃんの方がね」


「準備出来たっすよー」

「本当に良いの?」

「ウブなのは人間だけで充分どす、お先にどうぞ」


「ありがと」

「おう、一服するべかな」

「私も、良いかしら」


「吸うの?」


「ふふ、一緒に眺めるだけよ」

「煙いよ」


「大丈夫。良いお庭よね」

「追々と思ったら、想像より良くなってる」

『うん、綺麗だね』


「あれま、ウーちゃん、こんばんは」

『こんばんは』


《クレマチスも咲かそう》

「蔦系だからどうするか悩んだのよね」

「どうも、咲雷神」


《あぁ、虚栄心、羨ましいだろう》

「そうね」

「煙臭いだろうに」


《それもまた個性で良い》

『もー』

《クレマチスなら反対側じゃの》

《そうね、蝶が来ても良い様に》

『結界石を持って来た、置くぞ』

「ありがとうございます」


 精霊ドリアード、カヤノヒメ神、ククノチ神。

 美食は例外だけれど、私達大罪も魔王も関われなかった存在、神性、精霊。


「私達って、何なのかしらね」

「必要悪?」


「そうじゃ無くて、神でも精霊でも堕天使でも無いじゃない」

「堕人間」


「まっ、まぁ、そうよね」

「半分冗談、ココだと神様ジャンルだと思うけどな」


「良いのかしらね、何も成して無いのに」

「そう言ってた神様居たぞ、お菓子の神様。惚れ薬を量産して貰った」


「まあ、良い品物持ってるじゃないの」

「使わないよ、虚しそうじゃん」


「効果が短いの?」

《元の状態によるが、薄められたんで3時間も効かぬじゃろうとな》

『そうだな、報告ではその程度で切れたらしい』

「そうか、どんな感じよ」


『まだ尾を引いている様でな、手紙を出したそうだ』

「絆され無いと良いけど」

《無いじゃろ、あの様子じゃしのう、くふふふ》


『ショナ坊が色を掛けられてな』

《くふふふ、魔道具様々じゃ》

「ワシは疑ってるぞ、せいちゃんの方が打率良かったし」

「あら、じゃあ眼鏡で確認したの?」


「したが、その通りの魔法が掛かってるかまでは分からんもん」

「あぁ、神々の悪ノリは怖いものねぇ」

《くふふ》

『お、もう上がったか』


《早いのうショナ坊は、ほれ、ナイアスや》

『白蛇や』

『はぃ』

『うむ』


《池を頼むぞぃ》

『宜しく頼む、スクナもな』


『任された』

『はぃ』

『うむ』


 ハナは咲雷神に口を塞がれたまま、ハナの未承諾のままに池が出来上がっていく。

 先ずはスクナ神が石で池を形作り、白蛇神と精霊ナイアスが泉を湧かせた。


「なん」

『嫌なら崩させるが』


「クエビコさん、それズルく無い?」

『承服したか怪しいんでな、お前と同じく確認を事後にしただけだ』

「あらあら、神様も進化しちゃうのね」

《じゃの!》


「くぅ、ありがとう」


 そろそろ、泉からショナ君が来るかしらね。


「ハナ、良いモノ見せてあげる」

「ん?」




 ドリアードの案内で新しい泉へ。

 桜木さんの近くへ行ける泉、今は一軒家の筈なので通ってみる。


 そうすると目の前には神々と、桜木さんと虚栄心さんが肩を寄せ合って。

 しかも、桜木さんの顔が真っ赤で。


「桜木さん」

「ひゃい!何でも無いです、はい」

「ふふ、ちょっと面白い話しをね」

《じゃの!くふふふ》

《ふふふ、もう、帰るかの》

『あぁ』


「どうもありがとうございました」

「ふふ、結界石を置いてくれたのよね」


「それ、そこの」

「あぁ、はい」


 結界石を確認し、視線を戻すと既に神々の姿は無く、桜木さんが一服しているだけだった。

 室内に戻りストレス値を確認、意外にも高値では無いが。


「何か、気になるのかしら?」


「はい、先程の、もし」

「ハナの事は私も好きよ、だから誂っただけじゃ無いわ、安心して頂戴」

《実際が気になるなら本人に聞けば良かろう、折角居るし、話せるんじゃしぃ》

『意地の悪いヤツだ、後でハナに怒られても知らんからな』


「ふふっ」

「ふぃー、あ、ショナ君、早いねぇ」

「あ、はい」


「まぁ私もなんだけど、この体って長湯出来なくて。あ、賢人君、お湯どうする?」

「俺入るんでそのままで大丈夫っすよ」


「なんかまだ恥ずかしい、慣れない」

「大丈夫っすよ、それに、お湯勿体無いし」


「そうよねぇ」

「じゃ、俺入ってきますけど」

「あ、庭と浮島に新しく泉が出来ましたよ、桜木さんの居る場所に直通だそうです」


「「めっちゃ便利」っすね」

「どうやったら、そう、ハモれるんですかね?」


「一緒に居る時間が長い、とか?」

「元々、似た単語使うからっすかね?」

「ふふ、ハナなんかは簡単よね、結構決まった単語使うもの」


「分かるぅ」

「もう脳内再生余裕っすもんね」

「無理にしても違和感が出るだけだから、ショナ君は止めておきなさいね」


「ね、無理に合わせてるって分かったら引いちゃうかもだし」

「あー、何か丁寧語の事で言われたんすか?」

「いえ、特には」


「虚栄心、そろそろ向こうに行くんだが」

「じゃあ、送って頂けるかしら?」


「うい」




 虚栄心に見せられたのは、ショナの寝顔の写真と動画。


 消臭剤を外していたせいなのか、コチラにジワジワ近寄って来て、寝起きにそれに気付いた真っ赤なショナの顔が、もうね。

 顔から火が出てる所にトドメのご本人登場で、死ぬかと思ったわ。


 しかも虚栄心を送るのに付いて来てるから、虚栄心に文句も言え無いし。

 あのタイミングはズルい。


「ふふ、じゃ、また明日ね」

「明日も?お仕事は?」


「するわよ、私も短期睡眠だから大丈夫なの」

「まだ、人間になりたく無い?」


「まだまだね、魔王はもう抜け殻同然だったみたいだけれど、私達にはまだまだ願望がタップリ詰まってるもの」

「何か嫌な事は?」


「そうね、アンタが一方的に傷付いたり、嫌な思いをする事。それとさっきの件が心配ね」

「アレは正直、嫌じゃ無いです」


「なら良いのよ、私も好きよ、じゃあね」




 完全に勘違いしたショナ君の顔、最高だったわぁ。

 あぁ、色欲か悲嘆にも見せたかったわ。


 映画館、まだなのかしら。


【なんだ、ソッチから連絡とは珍しいな】

「映画館、まだなの」


【おぉ、試してくれるか】

「あら、出来てるなら。安全性はどうなのよ」


【被検者が少なくて困っとるんだ、見たがっても、見せるのは怖いらしい】

「従者達が居るじゃない」


【おぉ!そうかそうか、そうだな、うん】

「で、安全性は」


【我らでは】

「ら、って」


【お前以外全員だ、白雨も既に参加した】

「ちょ、聞いて無いんだけど」


【コレは特に自主性を重んじている、プレッシャーが夢を歪める可能性が有る。言い出して来たモノだけ、なんだ】

「そう、半分はあの子のだものね。でもだからって、ちょっと位は告知したって良いじゃないのよ」


【そうだな。あぁ、今のところは弊害は特に無いぞ、来るか?】

「それを早く言いなさいよ」


 いつか、あのショナ君の顔をハナに観せてあげたいわ。




 エイルがサクラちゃんから貰った浮島に、皆で集まって、ただボーっとする日々。

 召し上げの話をしたからみたい、完全に軟禁状態。


《虚栄心が映写機の中に入ったぞぃ》

『良いなぁ、早く捧げられてくれ無いかしら』

『エイル、俺が動こうか?』

《止めるですぞ!》

《壊れたらヘルに出禁にさせられますぞ!》


『するって言うか、させるわね』

『えー』

《ならココも出禁じゃの》


『ええー、俺ってそんな?』

『無い無い、どの国の言葉にも無いわ』

《くふふ、向こうで言う、“信用のしの字も、母音のい行から無い”じゃと!》


『えー、じゃあ俺は、何処に行けば良いの?』


『ハナを、本気で召し上げる気なの?』

『ん?もし請われたら、だけど』

 《本気じゃったら、浮島をやろう》


『え』

『半分はロキ、もう半分はハナの為に貰ったのよ』

《責任重大ですぞ!》

《振られても大事にするんですぞ?!》

《人間は浮島を我らに委ねたんじゃし、まぁ、マジなら、じゃな》


『え、騙して捕える気?』

『要らないなら良いのよ、別に、エリクサーの倉庫にしても良いし』

《じゃの、新たな我の浮島にするか》

《我らに安息の地を!》

《ハーレムに!》


『貰います、頂きます、ありがとうございます』

『宜しい』

《じゃが、不審、不穏な事をすれば崩壊させるでな、精々気を付けるんじゃぞ》

《雷も落ちますぞ!》

《地の果てまで降らせ続けるそうですぞ!》


『え、じゃあ、他のも動いてるって事?』

『もう、バカみたいに勘が良いわね』

《吸血鬼の耳に入ってしもうたんじゃよ》

《最悪はご馳走を巡る戦争ですぞ!》

《地上では過度の介入になるんですぞ、なので最悪は逃げ場にして欲しいんですぞ》


『もしハナが召し上げられなくても、浮島に来てくれたら援助は出来るから』

《ユグドラシル総力を挙げての援助じゃ、有用せい》

『うん、分かった』




 ショナの画像、そう言えば見せびらかされただけだったな。

 でもなぁ、保存したのバレたらバレそうだし。


 悩みつつ一服し、鈴藤へ。


 まだ18時半、向こうは12時半。

 バザールで本格的にカーテンや家具を選ぶ事に。


 天蓋付きのベッド、ソファーにローテーブル、キッチン様に2人用のテーブルセット。

 カーテンは結局、最初のお店に帰り購入、白地に濃い青緑の蔦や葉が刺繍されたもの、ベッドカバーも同じ物を発注。


 そして浮島へ。


《のぼせるぞぃ》

「昔の召喚者や転生者は、どうやって恋愛したのよ」


《ほう、ふむ、うむ。召喚者である事を隠したり、転生者の名声で多くを娶ったり、様々じゃと》

「パワハラが存在してるから無理じゃな」


《お主から言えば、そうなるんじゃが》

『神話同様に、向こうから言わせれば良いのだろう』

「脈0のほぼ死体ぞ、しかもウブだから錯覚かも見極めねばならんし」


《くふふ、蛙の王子様と野獣の王子様じゃと、ぷぷぷ》

『ネイハムか、アレは色男だが』

「そうなのよぉ、片思いモドキだけで楽しいわ」

『困りますねぇ、折角、皆さんが呪いを解こうと四苦八苦、肉薄、七転八倒して下さってるのに』


「公務が有るんでね、それと後ろ向いて貰えますかねソロモンさん」

『失礼しました。ですが、苦心して頂いているのに、逃げるのは失礼では?』


「はぁ、焦らないでもワイは逃げませんのに」

《手綱が細いでな、どうしても心配なんじゃよ》

『心配と言うか、不安と言うかな』

『まぁ、そんな感じなんですけど、認知の歪みは正したいでしょう?』


「そうだが、コッチ向くな」

『ヤキモチ、妬かせましょうよ』


「惚れ薬と一緒で一時的、勘違い、錯覚に繋がるから却下だ、封印すんぞ。つかいつまでワシの影に居るの」

『番が出来そうになったら』


「過保護」

『可愛がりの一部ですよ』


「なにが良いんだか」

『日触や月蝕の感じですかね』


「イオンは」

『私には感じ取れませんから』


「バチバチ」

『っ、なるほど』


「痛かった?」

『いえ、でも確かに、イオンは良い匂いかもしれませんね』

《だろう、仲間だ仲間》

『もう』


「仲良いねぇ」

《そうだろう》

『良くない』

『そうなんですか?』


『んー』

《それ、私の雷だ、ふふふ、コッチだよほら》

『アレは、同族嫌悪でしょうかねぇ』

「どうだかねぇ」


 ショナもこれだけ感情を表に、いや、コッチが処理落ちするか。


「桜木様、のぼせてませんか?」

「大丈夫、一緒に入る?」


「はい。リズさんはもう寝ました、下の和室です」

「ミーシャ、部屋小さいよね?」


「広いと困ります、階段脇の納戸でも問題無いのですが」

《まだ広場がダメじゃったか》

「怖い?」


「古い記憶で、広い場所で独りでした」

《一応は道端じゃったが、木も何も刈り尽くされていての》


「はぐれたのか迷ったのか、ずっと独りでした」

《ティターニアが見付けたそうじゃ、泣き過ぎたせいですっかり声が嗄れてのぅ》


「元からこうです」

「良い声だと思うよ、キンキンして無くて好き」


「要望が有ります」

「はい、なんでしょうか」


「偶に頭を私に洗わせて下さい、偶に納戸で寝る事を許して下さい」

「はい、了承しました、熱中症に気を付けて」


「はい」




 桜木さんが温泉から帰って来ると、ミーシャさんと階段脇の小さな納戸に潜り込んでしまった。

 そしてミーシャさんと一緒に毛布や布団で巣作りをし始めた、ヌイグルミまで、狭く無いんだろうか。


「桜木さん」

「狭くて良い感じ」

「誰か階段の昇り降りを、音の確認をします」


 アレクや白雨に昇り降りさせたが問題は無いらしい、逆に桜木さんは苦手だそう。

 軋む音がダメらしい。


「雷の音は防げそう」

「お好きでは」


「第2のロキだかアヴァグドゥが苦手なんよ」

「あぁ、ココのロキにも雷は効くそうですよ」


「なるほど、バチバチ」

「おぉ、使える様になったんですね」


「うん、ソロモンさんにやったら出た」

『イオンの匂いを感じました』

「私も嗅ぎたいです」


「いや、絶対痛いって」

「お願いします」


「痛いよ?」

「眠気覚ましと思ってお願いします」


「ほい」


 バチンと静電気の音がし、ミーシャさんの鼻と桜木さんの指の間が僅かに白く光った。


「あぁ、この匂いですね、地上の何処かで嗅いだ様な」

「マジか」


「ショナ」

「はい」

「ハイじゃないが」


「そんな痛く無い、受けて」

「はい、どうぞ」


「知らんよ」


 桜木さんは眉をひそめ痛そうだと言った顔をしながら、指先を僕の鼻の近くへ。


 普通に痛い。


「どうショナ、匂い」


 確かに、何処かで嗅いだ匂い。


「確かに、何処かで嗅いだ匂いですね」

「意識して無い所、最近」

「よし、アレク」


 納戸から出た桜木さんはアレクには遠慮無し、何ならちょっと強い感じの音がした。


「あー、俺分かったかも」

「なに」


「教えない、白雨」

『はい』

「何でもはいはい言って」


『うん』

「もー」


 白雨さんには控えめ、興味本位の賢人君にも、そして鈴木さんには更に控えめに。


「あ!空気清浄機よ!

「確かに!」

「俺も、だよねぇ」


「空気清浄機、ふふ」


 灯台で誘蛾灯で、空気清浄機。


 通販番組か、と言い残しクスクス笑いながらトイレへ。

 鈴木さんは理解したのか、クスクス笑い出した。




 部屋に戻ると、大きくなったエミールが居た。

 そうだ、忘れてた。


『どう、見えますか?』


 恥ずかしそうにしているせいか、普通に可愛く見える。

 髪の色は落ち着いて、暗く濃い金色に。

 目の色は変わらず、背がショナより有る。


「可愛いが」

『背が高過ぎて、嫌じゃ無いですか?』


「エミールだと知ってるから、怖くも嫌でも無いのかも」

『良かった、ふふ、小さいですね』


「気が早いぞ、未来予想図なんだから」

『はい』


「大人には成れそう?」

『難しいですね、メリットとデメリットが有るので』


「でも勝手に大人になっちゃうんよな」

『そうですね。また繭化してくれませんか?』


「同い年まで?」

『僕が成人年齢になるまで』


「構わんよ」

『もう、冗談ですってば』


「嫌な事が有ったらまたなるかもだし、中身子供ですし」

『外見もですよ、向こうでもこんな幼い人居なかったですし』


「田舎者」

『バレちゃいましたか』

「私もやるのー、イチャイチャは後にして」


『ふふ、ちょっと待ってて下さいね』


 リズちゃんの眠る奥の和室へ、ワシの布団納戸か。


「くそぅ、もう大人の余裕じゃないの」

「負けんな、頑張れ」


 魔道具を消毒した後に清浄魔法を、先程のエミールと同様にリズちゃんの眠る和室で変身。

 先生系、全然平気。


「どう」

「好き」


「勝った」

「凄く大人げない」


「良いもーん、お姫様抱っこさせてよ」

「それは怖いわ、へなちょこやん」


「紫苑より無いのよねぇ、ちょっと不満」

「流石にバッキバキは無理よ」


「あ、ソファーに座って」

「腰をやらかすなよ」


「よし、ギリギリ」

「怖い怖い」

『良いなぁ、僕もすれば良かった』


「エミールはダメだ」

「そうよ、女同士限定なの」


「虚栄心ぽいな」

「ふふ、虚栄心さんより貧弱なんだよねぇ。よいしょっ、鍛えようかなぁ」


「ちょ、スーちゃんでもおっぱい枕はダメだ」

「ケチ」


「下半身制御出来るんかい」

「ぐぬぬ、不安だから止めとく」


「結構。ほれ、もう返しなさい」

「えー、んー、エミール君、一緒に逃げましょう」

『良いですね、でも何処に逃げましょうか?』


「欧州の浮島、ワシが入れない浮島にしたら?」

『えー、嫌じゃ無いんですか?』


「別に」

「国連的には有りよね」

『でも、アヴァロンはそのままですからね?』


「おう」

「ぅう、名残り惜しいけど、解除してくる」


「へいよ」


『僕は微妙でした?』

「スーちゃんは変化が穏やかだから?想像通りって感じだし、エミールは想像した事も無いし、慣れ?」


『じゃあ、寮に入って会えない日が増えたら、僕を嫌になっちゃうかもですよね。蛙化現象』

「アレは、急に好意を向けられたらとかよ、誰でも苦手になるワケじゃ無い、ハズ」


『嫌になったら、ちゃんと言って下さいね?』

「言う言う、大人っぽくてヤバいって言うわ」


「ふぅ、着替えって面倒ね。はい、返す」

「でしょ、シルクのガウン検討中だわ」


「良いわね、エロい」

「あぁ、シルクのガウンがエロいのか、なるほど」


「だからガウンダメ、バスローブにして」

「考えとく」


「考えといて、じゃ、おやすみ」

「おう、おやすみ。エミール、寮はいつから?」


『来週からです、私立の寮なので休みが長いんですよ』

「おぉ、どうする?」


『居て良いんですか?ハナさんが寝たら、ちゃんとイギリスで日光を浴びるので』

「勿論、春休みだし」


『やった』

「一服してくるから、イギリス行く準備しといてね」


『はい』


 この刷り込み現象、何とかしなくては。




 桜木さんが庭に出ると、ミーシャさんがヌイグルミを抱えてやって来た。

 そうだ、桜木さんの布団を敷かないと。


「ショナ、桜木様のお布団」

「はい」


 一服を終え、エミール君をアヴァロンまで見送り、直ぐに帰って来た。

 そして寝る準備を終えると、ミーシャさんに手を引かれそのまま布団に寝かしつけられた。


 僕は1番リビング側の寝袋で、就寝。

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