4月2日 まだ、終わってなかったらしい。

 アレクが送り届けた筈の虚栄心が目の前に、何故。


「おはよう」

「おはよう、なぜ」


「遊びに行くから、迎えに来たの」

「いや、今日は」


「ベガスはまだ1日、お昼よ?」


 周りが心配するので、昼間から色欲さんのお店に行こうと。

 メンツは白雨、アレク、ミーシャ、ショナ。

 虚栄心と色欲の選別を経た招待客も来るんだとか。


 ミーシャ、マジか。


「ミーシャ、大丈夫か?」

「はい、ちゃんと寝ました。それに、音楽と光は抑えてくれるそうです」

「ド派手で下品なパーティーにするつもりは無いから、大丈夫よ」


「にしても」

「ミーシャちゃんはコレね、はい、下着も」

「はい」


 際どく無い、モガドレスだけど。

 背中バックリやん。


「良いんかい」

「はい」


「無理なら無理ってちゃんと言うんだよ?」

「それは桜木様もです」


「それ位は余裕だが」

「じゃ、ちゃっちゃと準備して頂戴」


「え、マジで今から?」

「そうよ」

『ハナ、魔道具貸して』


「あぁ、エナさんも行きたいの?」

『うん、キラキラと言うモノを、もっと勉強したい』


「セレーナさんみたいな事を」

『うん、行きたい、どうしても行く』


「分かった、はい」

『やった』


 エナさんが徐ろに服を脱ぎ出したので、バスローブで隠すと直ぐに変身した。

 大人エナさん、マジでワシの要素0、やっと井縫さんが出た感じ。

 つか、割合どうなってんのよ。


「割合おかしいだろ」

『写真、撮らないと』




 日本は朝の6時過ぎ、ココは浮島、僕はもう少しで寝る時間だけど。

 モヤモヤする。

 だから、モヤモヤしたら日記か何かに書けって助言されたから、今こう書いてる。


 年が離れてるから一緒に行ける場所も、本国とは時差が有るから会える時間も限られてるし。

 転生者じゃ無いから、体を成長させただけでも行けるワケじゃ無い。


 僕は、子供だから。

 懐中時計は虚栄心さんに笑われちゃったし、高いのはダメって聞いたけど、どうしても持ってて欲しかった。


 けど、それも子供っぽい事をしてしまったのかもと思い、相談したけど。

 先生やリズさんは、頭も心も柔らかいからこそ僕が呼ばれたんだろうって、だから良い、大丈夫だって。


 あの小野坂さんも、柔らかい頭と心を持ってたから、容易く変形しちゃったんだろうって。

 柔らかいって事は傷付き易いって事で、水晶と同じ、硬ければ一気に砕け散る事も有る。

 まして成分次第では補修も叶わないけど、柔らかければ別だろうって。


 転生者には魔力も柔軟性もそこまで無いし、魔法を信じ切る心も召喚者程には無いって。

 でも、だからこそ。

 ハナさんが柔軟だからこそ世界を渡って、転生者の可能性までもが広がったかも知れないって。


 だからマティアスさんが、家族の候補になったのかもって。

 彼ならココに転生しても魔法を信じる心を維持出来るだろう、身柱さんも、何だかんだで魔法を喜んでいたからって。


 僕は、ハナさんがそうだから納得出来たけど。

 全然、まだ小野坂さんを許せない。


 最近の転生者には幾ばくかの魔力が備わってて、だから例の国が増長する切っ掛けになって、召喚者が現われたから、一気に調子に乗ってココまでしたって。


 でも、自身を子供だと思い続ければ子供、大人だと覚悟出来れば大人。

 小野坂さんは子供のままで居る選択をしたから、あんな事になったんだと思う。

 それには先生も同意してくれた、けど。


「エミール、まだ納得出来ませんか?」


『僕なりに大人になろうとしてる事は、大人にも子供にも良い見本になるって言われたけど。色々、不安』

「転生者の方々はある意味、生き直してる感じだと仰ってましたね。本当に子供の頃にしか味わえない事は、沢山あるとも」


『不満は無いって言ってたけど』

「大人になれば、親になれば、あの時の不満が正当な理屈として納得出来るかも知れない。その中間を抜かしたら、抜け洩れが有るか知れない」


《子供との恋愛を禁じているのは、何も体だけの事では無いんじゃよ。その先の、将来の事じゃ》

『金、世間体、知識や経験は足りるのか、そうして今決断し、困る事は無いのか』

「子供はそれを正確に把握出来て無いと思われている。例え本人が把握出来ていると思っていても、実際に実行出来なければ意味が無い。ただ実行してしまえば、引き返す事は出来ない」


『でも、それって何にでも当て嵌まると思うんだけど』

「それはそうですが」

《思うが易し、じゃ。実際には実行出来無いのが子供じゃろ》

『そして貧困や知識の少なさは、最悪の場合、犯罪に繋がる事が有る』


「お金や将来のリスクの計算。地盤に経済力に知識も」

『チカさんは、それが揃って、相手を困らせない状態になってから、また性別を考えるつもりだって言ってたけど』

《じゃの、全面的にフォローして貰う事になるでな》

『限界と限度。知識、技能や技術、そして経験。それを埋められる程の有能な魔道具は当然、対価が多くなる。とな』


「ビビりだとも」

《そう周りを伺うだけで無く、うぬの長所を探し、伸ばす。真に子供の義務じゃとも》

『大人とは、其々が持つ理想形だともな』


『それは、呑み込めたけど。ハナさんの思う大人って』




 髪を黒く戻し、カツラの方を白くした。

 そして温泉場で無駄毛処理だパックだとやらされ、やっと小屋に戻れた。


「ふぅ、コレでまだ下拵え、だと」

「そうよ、髪を巻くでしょう、お化粧に」

《くふふふ、エミールが悩んでおるぞぃ》

『お前が思う大人とは、何だろう、とな』


「化粧が自分で出来るとか?」

「あら、じゃあまだハナはお子様ね」


「おう。ただ、年齢と、行為の代償を知ってるだけや」

「男も妊娠しちゃえば良いのよ」

『叶えて差し上げましょうか?』


「もう少し基盤が出来てから、お願いするわ、ソロモン神」

「そうね、追々が良いべ」

『はい、では』


「それで、アンタの思う大人って?」


「何でも自分で出来る人。普通に生きる上で、自分の事は自分で出来る人。理想としてはね、でも不器用だったり能力が無いと何でもは出来無いから、出来る範囲から、他人に迷惑を掛け無い範囲に限定した、でもまだ大人じゃ無い。あ、他人用と自分用の大人像は、其々で個人差が有ると思う」

《ふふふ、頼んだぞクエビコや》

『あぁ、もう伝えている』

「でも、完全無欠の大人って、実質神様よね」


「だから最低ラインと、他人用と自分用を合わせて無理の無い範囲で、ご利用は計画的に」

「貸金業の宣伝文句ね、懐かしわぁ」


「ショナの大人はどうよ」

「相談すべき事を相談して、無茶の範囲を周りに合わせて抑え、心身を大事にする。とかですかね」


「嫌味だぁ、虐められた、召喚者虐待だ」

「そうねぇ、意地悪されちゃったわねぇ。アンタ、不器用だものね」


「そうなんよ、普通に不器用で直情的」




 桜木さんの護衛の為にと、泉からイルマリネン神が魔道具を授けて下さった。

 オーラが見える眼鏡。

 ココでは眼鏡は珍しいので、新しい偽装の魔法が掛けられているらしい。

 身柱やアーニァさんに掛かっていた呪いの改変、元から知るモノだけが、真の姿を認識出来る。

 今回は、眼鏡は無い状態に見えるんだとか。


 そして既に、世界全体へと祝福と呪いが掛かっている。

 全ては召喚者様と転生者様を守る為、大天使ジブリールさんと神様の加護で、生中継には加工がなされていたらしい。


 僕らには普通に見えてしまうので、どう見えていたのか外部に確認すると、青と白で描かれたマークが顔に上乗せされていたらしい。

 そして声も、意外に野太い声だとか、感想は様々。

 桜木さんが知ったら、ココにも汚染が、とか言いそうな映像だったらしい。


『余裕そうだな』

「いえ、少し中継の加工の事を思い出してただけですよ」

「あぁ、汚染させちゃったとか言いそうだよな」


「ですよね」


「まだ掛かるわよ!先に行ってらっしゃい」


 そうして桜木さんの準備を見届けぬまま、先ずは準備にとベガスの大使館へ。

 既に洋服が用意されていて、着替える事に。


 それからやっと、白雨さんと共にアレクに会場入りさせて貰った。


『意外、と言うべきなんだろうか』

「それな、もっとギラギラして、騒がしいのかと思ってたわ」

「ですね」


 照明は明るく、音楽も控え目。


 見回り後、桜木さん達へ連絡。




 色味が地味で安心したが、ドレスはさっきまで着てた大きなフリルの豪華版。

 ハイネックって言ったら良いのか、首から肩口までシースルーレース。

 胸元は覗き込まれる事は全く無くて安心は安心なんだが。

 可愛い過ぎる。


 しかも髪飾りにドリアードが化けてるのは良いんだが、コレも可愛い過ぎだし。

 ミーシャのモガドレスの方が、いや、胸のせいで肉感的になり過ぎるか。


「なによ、文句有りそうな顔ね」

「可愛い過ぎる」


「あぁ、ビビってるだけね、さ、行くわよ」


 しかも靴まで、虚栄心の言う事を聞いてソラちゃんが変えちゃうし。

 この目で実際に対応を見るまでは、ぶっちゃけ不安。


 テンション低めで入場受付。


 青色のタグを手首に付けられ、連絡先の交換はタグ経由でと係員に念を押された。

 バンドの内側に折り畳まれた部分を捲ると、特殊なコード、情報が読み取れるらしいが今回は全て非公開設定のまま。


 そうしてミーシャと虚栄心とエナさんと共に、会場内へ。

 この短時間に人を集められる色欲が恐ろしいと言えば良いのか、集まった人間を恐れるべきなのか。

 両方か、もう帰りたい。


「もう帰りたい」

「大丈夫よ、主役がアンタって事はバレて無いんだから、普通になさいよ」


「先ず、一服したぃ」

「お酒を受け取ってからね」


《ふふふ、いらっしゃい》

「此の度は盛大な催しを」

「先ずはスパークリングワインよ、はい」


《乾杯》


 ベール付けたい。




 ベール無いとこんなにダメなんて、重症ね。


「こら、俯いて爪をイジイジしないの」

「だって、ベール無いし」


「今日の今日で黒髪とは言え長髪で、しかも背格好が一緒。そこへ顔なんて隠したら、アンタ、分かってるでしょう?」

「そうだけども、もう一服に行って良い?」


「行くなら独りで行きなさい、他のも付き添っちゃダメ。あ、返事は不要よ」


「うぅ、行ってきますぅ」


《全然、違うわね》

「はぁ、おどおどしたら余計に変なのが来ちゃうのに」

「選別したのでは」


「したわよ。でもだからって、空腹になったらウサギだって子鹿を狩るかも知れないじゃない」

【それ、例え話だよな?】


「そうよ、だってね、偽装したって限界は有るもの」

【あの、オーラ以外、どう見えてらっしゃるんでしょうか】

《ネギを背負った弱った鴨、美味しそうな良い匂い。かしら》


【溢れてはいない筈では】

《体、戻したでしょう?》

「帰らせますか」

「危なくなったら撤退命令は出すから、少しは見守ってあげて頂戴」


 過保護ズ。

 コレは介入したくもなるわよね、ソロモン神も、他のも。




 先ずは一呼吸、美味い。

 もう、ずっとココに居ようかしら、人居ないし。


《さては、ココに引き籠もる気じゃな?》

「思考を読むな」


《来た意味ぃぃいい!》

「ベールが無いと、どうしたら良いか分からん」


《有ったら、多少はマシなんじゃな?》

「試さないと分からん」

『エナに交渉させているが』


「戻らないと答えすら聞けなさそうよね」

『正解だ』


 別にもう、眺めてるだけで良いのに。


《呪いを解く気は有るのじゃろう?》

「まぁ」

『先ずは手始めに、ただ一緒に飲むだけでも構わんと言っているぞ』


「はぁ」


 新品同様の灰皿を汚し、席へと戻る。


 エナさんは既にVIP席へと観覧に行ったらしい。


 そして集まっている年代は20代から30代後半までと言った感じ、スーツや制服姿の男女達、友達同士っぽいのから独りまで様々。


 何の相性で集められたんだろうか。


「良く帰って来たわね、偉い偉い」

「白状する、ワシを好きになる奴はどうかしてるとしか思っとらん」


『蛙化現象だと、エナが言っているが』

「そう、詳しく教えて頂戴」




 蛙の王子様現象、寧ろ、お姫様の方の現象ね。

 ハナに確認するとほぼ当て嵌まってるし、そしてコレ、何か有ったわよね、0で。


『0での、2005年頃の論文だそうだ』

「まだ言って無い事が有るわねハナ」


「うん、言葉と視線だけ、遠い親戚。親のフォローは気にするな、だけ。お祖母ちゃんは、遠ざけてくれた」

「そう」


「だから年上、中年はマジ無理」

「晶君が大丈夫だったのは、性的に手を出さない信頼が有ったからね」


「うん、マティアスも」

「せいちゃんも」


「うん、ワンコは向こうが好意を示すのが先だったから、拒否反応が出たんだとも思う」

「ソロモン、知ってたのね」

『はい、全て観ましたので。マーリンも、土蜘蛛もですよ』


「そう、魔王も、ロキもダメなの?」

「それが、分からんのよ、魔王は本当に平気で。ロキは、まだそう言う視線も雰囲気も無いから分からん、もしそうなったら、ダメになるかも知れない」


「大丈夫よ、珍しい事じゃ無いわ」

「そうなん?」

『あぁ、向こうでも、ココでもな』


「マキちゃんも、多分そうよ?」

「あぁ、それは少し分かる気がするけど。根本と言うか、視線とかの曝露量は違うだろうし」


「呼びましょ」


「今日は、そのキラキラを見たく無い」

《大丈夫、私達に任せて》

「もし嫌な事が有ったら、半殺しでも何でも受けるわ」

「私も手伝います桜木様」




 召喚者、桜木花子様の夜の誕生日会にと呼ばれた、しかも大罪の色欲さんのお店に。


 急いで有給休暇の申請をし、大使館前まで向かうとアレクさんが待っていた。

 虚栄心さんのドレスをと、しかもそのままベガスの大使館へと送って貰った。


 個人用のスマホに送られた、色欲さんからの招待コードを提示。

 直ぐに一時滞在の許可が降り、プロの方々のお手入れまでして頂いた。


 そうして会場へ、緊張する。

 もうこうなると、アレクさんにも緊張しちゃうかも知れない、どうしよう。


「あ、あの」

「マキさん、急なのにごめんね」

「まぁまぁ、先ずはお酒よお酒。スパークリングワインは飲み干しちゃったから、シャンパンで良いかしら?」


「あ、はい、甘いのであればなんでも」

「ハナと一緒ね」

《じゃあ、コチラをどうぞ》


 マスカットと、少しエルダーフラワーみたいな爽やかな良い匂い、甘過ぎないで飲み易い。


「美味い」

「ですね、丁度良い甘さですね」

《おツマミも、どうぞ》


「ありがとうございます。あの、改めて、おめでとうございます、お洋服お似合いですよ」

「マキさんも」

「はい、ナイスおっぱいです」


「だろ」

「はい」

「もー」


 いつもこう、軽口を言って和ませようとして下さる。

 でも私の緊張には触れない優しさも有る、最初は不安だったけれど、私はハナさんが来てくれて良かったと思う。


「もしかして、マキさんを好きなんだろうか」


「え?誰がですか?」

「ワシが」

「そう着地しちゃうのね。ごめんなさいね、少しナイーブになってて」

《蛙化現象ってご存知?好意を抱かれると、逃げたくなったりしてしまうの》


「あぁ、はい。私、恋愛とか苦手で、調べてたら、当て嵌まってたんですけど、治すには慣れるしか無いって」

《モノによっては、そう治せるらしいわね》


「どうすれば、緊張しないで済むのかしら?」

《そうね、緊張しない男性は?》


「大体10才以上年上の方、それと仕事関係は大丈夫なんですが。私生活では全然で」


《好きな人には、緊張しちゃうのかしら?》

「最初は緊張して、慣れて、好きって思ってたのに、急にダメになっちゃって、その繰り返しなんです」

「じゃあ、シオンはどうかしら?妖精さんなのよね?」




 虚栄心の視線に不安になり、振り向いた。

 立ち居振る舞いからして、チャラい紫苑に変化したのはアレクだコレ。

 マキさん不意打ちだからか真っ赤、アレクも調子乗って、いや、アレ普段のワシだな。


「マキさん、シオンもアレクも難しい?」

「見た目が、問題でして」

《そう、残念ねぇ》


「もう良いわ、下がってシオン。休憩しましょう、さ、飲んで」

「ありがとうございます」

「おう、ありがとう」


「ところであの、この方達は?」

「護衛兼、友人よ」

《私もなの、宜しくね》


 これが、偽装魔法なのか。

 イスタンブールのケバブ屋で会った筈なのに、認識出来無い。

 良いのかコレ。


 良いのか、虚栄心も虚栄心として振る舞わないで良いんだし。


「はい、宜しくお願いします、マキです」

「私の名前はねぇ。ハナ、付けて頂戴よ、ココでのアダ名」

「シュガー、キャンディー、コットン」

《じゃあ私キャンディー》


「じゃあ、私はシュガーよ」

「なら私も、お願いしますね」

「えー…マシュマロちゃん」

「桜木様、おっぱい好き過ぎです」


「ワシそこまで言ってなくない?」

「絶対にそうです、誓えますか?」


「ぐぬぬ」

「ほら」


「じゃあ、スモアちゃん」

「ふふ、どっちも好きなので大丈夫ですよ、ふふふ」


「いや、でも男性にマシュマロちゃん言われるのはどうなんよ」

「あ、スモアでお願いしますぅ」

「そう言われると、マシュマロちゃんって呼びたくなるわよねぇ?」

《そうね、可愛いわねマシュマロちゃん》

「マシュマロちゃん」


「ミーシャさんは平気ですもん」

「桜木様、私も欲しい」

「えー、キャラメルリボン、バニラちゃん、クッキーちゃん」


「クッキーちゃんで」

「可愛い、美味しそう」

「エロい意味でか」


「もー」

《ハナはハニーちゃんね》

「ある意味、まんまでは」

「ふふふ、センス無いのよこの子。そうね、ショナ君、来て候補をお願い」


 ココで、コレで呼ぶか。

 折角、すっかり忘れてたのに。


 つか、眼鏡て、コレはズルい。


「はい、えー、っとですね」

「既出かセンス無いとテキーラショットよ」

《ショットグラスって、コレで良いかしら?》

「ふふ、大き過ぎですよ」

「いえ、私の知ってるのはもっと大きいです」

「ミーシャの悪ノリ新鮮」


「クッキーちゃんですが」

「はい、アナタはクッキーちゃんです」


「はい」

「はい」


《私はね、キャンディーちゃんよ》

「シュガーよ」

「クッキーちゃんです」

「ふふ、スモアです」

「いや、やっぱマシュマロちゃんにしようか」


「もー」


「その法則ですと、バニラさんとかでしょうか」

《残念、それもう出ちゃってるのよ、はい、テキーラショットね》

「そこは加減するのね」


「え、本当に飲むんですか?」

《躊躇ったから追加のグラスね》

「キャンディーちゃん素敵やわ」

「ですね、素敵ですよキャンディーちゃん」

罰杯ばっぱい、だから早く飲んで」


「失礼しました、頂きます」




 ハナがショナ君の為に天使にお願いを、どこまでも甘い子。

 しかもマキちゃん耳が良いのね、ハナの声に気付いて、凄い優しい眼差しでハナを見てる。


 本当なら辛いわよね、こんなに良い子なんだもの。


「キャンディーちゃん、お水あげてくれんかね」

《はい、どうぞ。コレで、口が滑らかになったわよね?》

「なら、チェリーは」

「既出、他で使ってるので罰杯です」

「クッキーちゃんも中々厳しいですね」

「あーぁ、頑張れ」


 ハナ、もう他人事、もう少し飲ませるべきね。


「ハニー、は、ダメですよね」


 ハナが歓声に気を取られた瞬間、ショナ君が真っ赤に、それと同時にマキちゃんのキラキラ発動。

 あぁ、コレなのね。


「記念撮影」

「はっ、ソラちゃん」

《もう撮りました》

「もー」


 コレで、ショナ君が視線の意味に気付くかどうか、ギリギリね。


「酔っちゃったらテラスよショナ君、案内するわ」

「ありがとうございます」


 ハナがまた一服しに来る前に、確認しないとね。


「ショナ君、確認出来た?」

「はい、確認しました。すみません」


 あぁ、ウブって、憎らしいわね。




 そんな意味は無いとは言え、真っ赤になりやがって。

 釣られて赤面しかけたわ、危ない。


「桜木様、画像をお送りしておきました」

「助かる」

「男性も真っ赤になるんですね、初めて見ました」


「ウブだし、酒も入ってるからね」

「そうなんですか?てっきりもう、済ませてそうですけど」

「ウブ3号ですね」

《おめでとうございまーす、3号ちゃんにはお酒を選ぶ権利が発生しました、どうぞ》


「え、あ」

「大丈夫、適当に相談しても良いし」

《何でも聞いて頂戴ね》


「えっと、さっき位の甘さのって」

《コレとか、どうかしら》


「可愛いボトルですね、お願いします」

「ココにもウブが居たとはビックリです、ナイスおっぱいなのに」

「ね、美女可愛いのに」


「こう、好意と言うか、意識を向けられると本当にダメで」

「残念ながら分かる、自意識過剰と言われようが、急になんか引いちゃうのよね」


「そうなんですよ、そんな辛い経験も無いのに、何ででしょうね?」

《貞操への防衛機制よ、生存本能。大昔、出産や性病は命に関わっていたから》


「でもでもですよ、友達は良い人だってオススメしてくれたのに」

《じゃあその子が付き合ったら良いのよ、付き合わないのに良い人だって勧めるって事は》

「そこまで良く無い?」


《それもそうだけれど、美味しそうなケーキをタダで譲られたら、怪しいと思わない?》

「それはそうですけど、好みの問題も有りますし」

「自分には勿体無いから、他に譲った、とか」


「私なら、そうしちゃいます」

「なんでよ」


「明朗快活じゃ無いですし、不器用で、編み物や刺繍が苦手で。地味で、根暗だって」

「だれが」


「父とか、親戚です。実際に親戚や家族内で比べると、どうしてもそうなっちゃうんです」

「実家暮らし?」


「はい、そうですけど」

「書を捨て家を出よう、一緒に暮らそう」




 一先ずはショナ君をテラスに放置して戻ると、珍しく色欲が困ってるじゃないの。

 どうしたのかしら。


「どうしたの?」

《マシュマロちゃんが親や親戚と相性が悪いと思って、同棲しようって言い出したのよね?》

「おう」


「あぁ、離れて暮らした方が楽しいわよ?スープが冷めない距離」

「季節はいつ、器は何よ」

「ふふふ、確かに、季節や容器で変わりますもんね」


「公式には徒歩2分、350メートル以内よ、ただ、家族の場合ね。同性で性指向も同じなら、生活圏は被らない方が良いんじゃ無いかしら」

「好みは被らない筈」

「ですね」


「それに、マキちゃんの住みたい家に合わせる」

「でも、そこが、問題と言うか。やっぱり家賃が気になってしまって」

《自尊心や自己肯定感はお金では買えない、アナタは今、そのお金で買えないモノを削られてるのよ》


「うむ、ゆっくり考えて、一服してくるお」


「ふふ、急には難しいわよね」


「本当は、前から、ずっと考えてたんです。でも、お金が勿体無い、その分は貯金して子供に使えって」

《ある1面では正しいわ、でもね、その子供を生み育てるのはアナタよね?マシュマロちゃん》

「過度に自信の無いまま、何も対処しないで、そう生きるって不健全じゃないかしら?」


《そうね、ハニーちゃんに、そう生きて欲しいのかしら?》

「いえ!絶対ダメです、そうか、私も見本にならないとですね」

「そうね、ふふふ」


 良い子ね。

 でも、少し真っ直ぐ過ぎるかも。

 あの子の為に、ショナ君に王子様になれって諭す、かも。


 あぁ、しそう、それは阻止しないと。




「大丈夫かショナ」

「はい、大丈夫です。治してくれましたよね?」


「天使さんがね」

《少しだけですよ、ふふふ》

「ありがとうございました」


 スーツ似合う、ちゃんとした人間、ウブで。


 マキちゃんには、やっぱり。


『ハナ』

「ひっ、どうした、エナさん」


『ダメ』

「なにが」


『なんでも、それはダメ』

「なんで」

「また何を」


『君は黙ってて。ダメ、口に出してもダメ』


 お化粧してるのに口を塞がれた。

 ダメか。


 肩にタップ2回で開放された。


「分かった」

『うん、次に変な事を言おうとしたら、神獣総勢でお説教だからね』


「それは困る、しない」

『うん。今回は君も、深く追求しないで忘れて』

「はい、分かりました」


 どうしてこんなにバレるんだろう、白雨か?


「白雨か」

『だな、後で礼を言うと良い』

《揺り戻しじゃな、気をしっかり保つんじゃよ》


「分かった」


「桜木さん」

「大丈夫、ショナも後で白雨にお礼を言っといて」


「はい」


 にしても、何でダメなんだろう。


「お化粧を治してきます」

「はい」


 トイレの鏡で口元を確認、そんな崩れて無かった。


 用を済ませてお直し、最終チェックはソラちゃん。

 甘々に甘やかされてる。


 トイレから出て、普通にそこらで配られている酒を飲んでみる。

 あっさりで酸味有り、普通こうよな。


 特に声は掛からない。


 普通、こうよな。

 安心した、偽装が効いてるんだ。


 テラスも良いけど、普通の人の同じ位置が良いか。

 良く見えるし、時々眼福だし。


 マキちゃんが頑張るんだし、自分も頑張らないとな。

 ちゃんと、人を見るか。




 桜木さんと目が合った男性が、一直線に桜木さんへ近付いて行く。

 目が合っただけで、桜木さんもビックリしている。


 場馴れしたのか酔っているのか、普通に話をしている様子。




「凄いですね、直ぐに虚栄心の服だと見抜くとは」

『ファンなので、僕も服飾の会社に所属してるんです。えっと、タグを読み込んで貰えますかね?どうぞ』


「どうも」


 役職はデザイン部門の部長、デンマークの中規模の会社。

 ルーネさん。


『それでその、コルセットにご興味は?』

「有ります、良いウエストでは無いので」


『いえいえ、そういう意味じゃ無いんです、誤解させたならすみません。コルセットは仕事と僕の趣味なんです』

「わお、そっか、なるほど。すみません、慣れて無くて」


『ですよね、最初は凄い緊張されてましたものね』

「あら」


『似た背丈の方とペアでいらしてたので、気になってたんです』

「紹介しましょうか?」


『違うんです。難しいな、すみません、そういう意味じゃ無いんです』

「服以外、なにが良いんでしょうか」


『なんでしょう、なんでしょうね?』

「ふわっと来ちゃいましたか」


『ですね、それと、運命の人に出会えるかも知れないと、招待状には有ったので』

「あ、コレ急場ですよね、良く来れましたね?」


『偶々近くに居まして、なのでこう、運命の人に出会えるんじゃ無いかと』

「日頃の、普段の好みは?」


『ふふ、そうですね。今までの方は、身長は中位で、髪はブラウンか金。気の強い女性が多かったですね』

「中位の位置が高い、倍は無いと」


『そうですね、キッチンの高い所に届きます?』

「使わない物を置く場所では?カラフルな目の色が羨ましいです」


『真っ黒も素敵ですよ』

「真っ黒は誤解だ、濃い焦げ茶色です」


『じゃあ、今度は日光の下で』

「気が早い、なにが良いのか聞けて無い」


『僕のコルセットが似合いそうだったので。あ、細くする為じゃ無いですよ、飾りですから』

「コルセットの意味が無いのでは」


『だって、苦しいじゃ無いですか?』

「身に着けもしますか」


『男性用も開発してます』

「それは素敵だ、後で買います」


『ありがとうございます。何だか、運命を感じませんか?』

「まっ」




 本当に、呪いの様に上手くいかない、最悪なタイミング。


 男性が少しハナに近付いたからって、ショナ君が割って入ろうとした。

 そこにマキちゃんも向かっていて、話し掛けに行ったもんだから、マキちゃんのキラキラした視線を、ショナ君もハナも確認してしまった。


 人波に遮られ、ほんの少しで、間に合わなかった。


「ふぅ、ハニーちゃん、少し、お話ししましょうね」

《ごめんなさいね、また後でお返しするから》

『はい、どうぞ。またね』


 彼を少しは気に入ったらしいんだけれど、全く、そんな状況じゃ無いのよねぇ。

 テラスへ避難させたけれど、内心搔き乱されちゃってるじゃない。


「さ、一服して頂戴」

《説明したいのだけれど、聞き入れてくれるかしら?》


「わかんない」

「そうよねぇ、ねえ、誰か手伝ってくれないかしら」


《無理、みたいね》


 他の神々や精霊にとって、コレ以上は過度の介入になるって事は分かるんだけれど。

 別に良いじゃない、ケチ。




「あの、もしかして、邪魔しちゃったんでしょうか?」

「いえ、問題無いかと」


 桜木さんと目が合ってしまった、僕が雨宮さんの視線を確認した事も、バレてしまった。

 きっと、僕にその気が無くても、雨宮さんの為に何かしろと仕向ける筈。


 だからさっきのは、エナさんはソレを阻止したんだろうか。

 なのに。


 どうやって、何をどう、弁解したら良いんだろうか。


【なぁ、お前が行かないなら俺が行くけど】


「どうぞ」



 ショナが動かないからテラスへ。


 放心してんのか虚無なのか分からん、コレは、白雨に来て貰うべきだったのかも。


 いや、どっかで見た事有る気がする。

 あぁ、拗ねてんだこれ。


「拗ねてんだろ」

「かも」

「アレク、任せたわ、下まで降ろして来て頂戴ね」

《特等席で、待ってるわね》


「何で拗ねてんの」

「マキさんのキラキラした視線を、ショナ確認した、それも確認した」


「それ、ただの呪いなんじゃないの?」

「呪いが解けたら蛙に戻ってしまうかも知れない、全部が夢か妄想で、0に戻されるかも知れない」


「蜜仍が言ってたらしいんだけど、手を縫い合わせるのはどう?転移も蛙化も防げるし、夢か妄想か区別が付くかもって」


「例えば、どう縫い合わせるの」

「こう」


「恋人繋ぎかよ」

「よし、戻ろう」


「まだ」

「ダメー」


「くっそ、サイズ差が」

「ほら、階段有るんだし、危ないよ」


「亀の子戦法」

「抱き抱えて欲しいの?」


「いや、分かった、動くので先ずは手を離してくれ」

「ダメー、エミールを置いてダッシュしたりしてんじゃん、信用無い」


「観たのか」

「うん、綺麗なのは全部。仔猫と蝶々と花、アレマジで綺麗だった。妖精も、マティアスもせいちゃんも観た」


「じゃあ、クソ親の顔は」

「観た、つか最近思い出した。繭の時にセバスと観た、色んな嫌な表情を観た、だから人間が嫌なのも良く分かる。俺も大昔に見たから」


「君は、なんなんだ」

「償いと、桜木花子の家族」


「家族ってなに」

「守り合う、支え合う」


「家族は普通、番を作り、分離する」

「サクラに番が出来たら家を出る」


「作るから先に出れ」

「無理、餓死しちゃうか心配で無理」


「無い無い」

「ケバブ買いに行くし、熱を出したら看病する」


「どうせなら、エミールの家族になったら良い」

「パトリックが居る」


「スーちゃん」

「ガーランドさんに、移民が家族みたいなもんだし」


「可哀想だからか」

「うん、凄く可哀想、いてっ」


「なんでワシの家族をと、魔王は願ったの」

「孤独が辛いって知ってるからみたい、今は良く分かんないけど、そう考えてたのは何となく覚えてる」


「大罪が居たでしょ」

「見て分かるでしょ、全然バラバラなんだし。そんなに手を繋いでたい?」


「分からん」

「3秒以内に立たないと、くすぐって抱き抱えて行く」


「それは無理」


 こんな風に、子供みたいに駄々を捏ねるなんて思わなかったけど。

 魔王だった時の記憶からは、こんな風になるって想像出来てた気がする。


 それと、こんなにちゃんと話したの、いつぶりだろ。

 もっと、ちゃんと話し合わないと。




 元魔王が奇跡を起こした、アッサリと、単純に解決してしまった。


 マキちゃんからアレクへのキラキラした視線、そう、コレは野次馬根性と憧れの混ざったキラキラ。


 それにしてもハナって本当に魔と相性良過ぎ、本当に、魔王の隠し子なんじゃないかしら。


「連れて来たー」

「ご苦労様」


「はい、ちゃんと捕まえてて」

「もう大丈夫よね、ハナ」


「うん」

「ごめんなさい、お邪魔しちゃったみたいで」

「良いのよ、この子バカだから手籠めにされそうになってたんだもの、丁度良かったわ」

《まぁ、それは半分冗談よ。お仕事の事よね?》


「服飾系の人、ほら」

「流石ね、やるじゃない」

《良い肌着を作る所なのよ》

「あぁ、綿なら何でも作ってる感じですね。運命、ですかね?」


「虚栄心のファンだって、最初は服の事で話し掛けられた」

「凄い、それでお話が盛り上がってたんですね」

「あら良い子じゃない、でも興味無いなら仕事に繋げたら?」


「そう、仕事に繋げられるかどうか」

「繋げられるかじゃないですよ、繋げるんです」

「良い事言うじゃないマシュマロちゃん、補佐、お願い出来る?」


「はい、勿論です。それと、お時間頂けてありがとうございます、私、独り暮らししてみますね」

「そんな、重大な決断は」


「寝て起きても気が変わらなかったら、アレクさんお借りして良いですか?」

「まぁ、大丈夫だけど」


「ふふ、ありがとうございます」


「さ、男共は解散して頂戴、邪魔になるわ。ほら、私も行くんだから、さっさと行きなさい」

「え、シュガーさんも男性なんですか?」


「だったら、今から緊張するのかしら?」


「んー、無理そうです」

「ほら、呪いなんて意外と簡単に解けるのよ」


 さっきは滅茶苦茶焦ったけどね。




【対価は確かに頂きました】


 良かったですね。


【拗ねてます?】


 認めたく無いものなんです。


【でしょうねぇ、それが呪いの原因の1つですから】


 はい、自覚しましたゴメンナサイ悪かったですすみませんでした。


【機嫌悪いですねぇ、では、私からのプレゼントをどうぞ】


 なんもするな。


【いやいや遠慮せずに】


《あの、お相手の方は》

「スモアちゃんはフリーですよ」

「ハニーちゃんも、ですよね?」


「まぁ」


 可愛らしい、男性。


 アンタか。


【さぁ?】


《飲み物、何か如何ですか?》

「ありがとうございます、何飲みたい?」

「ピンク色の甘めのスパークリングかシャンパンを」


 マキさん、完全覚醒か。




 ハナさんの為にも、私も頑張らないと。

 頑張って自由を勝ち取って、好きに生きる。


 それに、アレクさんとショナさんのバトルが見たいし。

 うん、絶対に良い距離に住むんだから。


「マキさん、お仕事モード?」

「はい、だけど大丈夫ですよ、良い意味での仕事モードなので」


「良いなら良いんだけど」

「それと、独りで住むってなったら、何だか凄い気が楽になったんですよね」


 それに、ショナさんからアレクさんへの視線、隠してるのがやっと表に出て、素敵だったなぁ。


「シュガーちゃんとキャンディーちゃんの話、鵜呑みにしちゃダメよ?」

「大丈夫ですよぅ、私も充分に大人なんですから」




 私達が特等席から撤退してから既に3人目、今まさにハナ達の席へ向かっている。

 遠くに居るショナ君は居心地悪そう、コッチのアレクはのんびりハナを眺めて。


 なんかムカつくわね、コイツらも標的にさせようかしら。


「ショナ君、アレク。特等席1番テーブルに行ってらっしゃい」

【あの、斜め前はどうかと】


「ハナからは見えないわ、大丈夫よ」

《あら、お酒が足り無いのかしら》


【了解しました】

「なに苛ついてんの?」

「良い意味でも悪い意味でもアンタのせいよ、さっさと行ってらっしゃい」


「はいはい」

《ふふふ、旧魔王が元魔王候補の窮地を救うなんて、素敵ね》

「最悪よ、悪趣味な展開に反吐が出ちゃうわ」


 コレじゃあアレクが実質王子様じゃない、それだけは絶対に許さないわよ。




 1人目は何と国連の事務方だった、そして2人目はダンサー。

 3人目のこの人は服飾関係、大規模な下着メーカー。


 アメリカ自治区のテキサス州に有るんだそう。

 お仕事に協力して頂きたいが、そう言う場所じゃ無いしなココ。


「あ、テキサスの名物は?」


 バーベキューにタコスだそう、メキシコ近いもんな。

 きっちりかっちり熟れた態度、立ち振る舞い。


 こう、ウブの気配が無いだけで興味が無いのは、病気では?


【そうですね。ただ、最初のイメージとは違う1面も、人間には有りますからね】


 報酬を受け取ったからか、急に協力的な感じ。


 向こうがお酒を注文しに行ってくれたので、作戦会議へ。


「お気に召しませんでした?」

「マキさんは?」


「真面目で良い方そうには見えますけど、違和感が少し有ります」

「ほう」


「なんで、ココにいらっしゃるのかなーって」

「あぁ、確かに」


「そして目当てが私なのか、ハナさんなのか分からないなと」

「完全同意、一服してくるので、どっちに来るかとか探ってみましょうかね」


「了解です」


 マキさん、お仕事モードでも慣れる為なら良いのか、良く無いのか。

 取り敢えず、一服。


「虚栄心に、アレで良いのか聞いて」


『良いそうだ、と言うかかなり呪いが解けて、もう、そうそうに緊張はしないだろうとな』

「もうそれ原因家族じゃん」

《悪い親では無いんじゃがな、親子の相性じゃよ。朗らかな夫婦に、控えめな人見知り、全くもって相反する親子じゃ》


『途中までは良かったらしいが、成長するとな』

《焦れったいジレンマじゃよ》


「トルコの神様まで協力してくれてんのか」

『お前に下手に動かれては困るんでな』

《その下調べじゃよ、でもまぁ》


「それを確認したい、直に会うか何かしないとね」

『だろうな』

《だがまだ1日じゃよ》


「それはちゃんと後日にします」

《今日接触した者の情報は良いのかの?》


「困ったら教えて」

『あぁ』

《勿論じゃよ》




 ハナさんはテラスへ、私は席でスマホのチェック。

 先程の男性は、私に来ちゃった。

 どうしよう。


 ダメだ、どうしようじゃ無くて、私がハナさんの為に見極めるつもりでいないと。




 マキさんに行ったか、ですよね。


《席は別に用意してあるそうじゃが、先程の人間に会いに行っても問題無いそうじゃよ》

「行ってみるか」


 下のフロアに降り、ドリアードに案内されるがままに向かう。


 よりによって白雨と話してる、何故。


「白雨」

『彼はルーネ・クヌーセン。秘密の結び目って意味らしい』

『お知り合いだったんですね、どうも』


「まぁ、なんで白雨に」

『アナタは日本の方かと、なので情報収集に』

『それと男性用のコルセットの宣伝をされた』


「誰でも良いんかい」

『まぁ、自分が着けると、ちゃんと見えないじゃないですか?』


「分かるが、でも何故」

『肌の色です。近くにはそんなに居ないので』

『着て来ようか』


「刺激が強いんでちょっと、つかもうちょっと良い見た目のも居ますが、アレとか」

『あぁ、彼は少し色が、それで悩んだんですよね』


「あぁ、あぁ。体格は小柄が宜しいか」

『そうですね、どうせなら成人なのに、少し小さい方が気になっているので』


 ショナか。

 それは無理。


『見本は多い方が良いんだろうか』

「白雨」

『そうですね、男性でしたら体型も肌色もベーシックな方を多く見てみたいですね』


「もう、日本に行かれては」

『モデルさんには興味無いんですよ、一般向けですし。一般の方が合わせたのが見たいんですよね』

『なら、誰か連れて来ようか』


「ダメ、もうアッチ行きなさい」

『分かった』


『ヤキモチですか?』

「いや、知り合いを連れて来ようとしてたから追い払っただけです。アナタは、ぶっちゃけ高身長は怖い」


『大人と子供、30センチは違いますからね』

「見上げると首がモゲる、巨人だ」


『実は巨人族の末裔でして』

「実は魔王とロキ神の隠し子なんですよ」


『確かに、両者ともに髪の色は黒だそうですからね』

「どちらが父だと思いますか」


『魔王かと、角はどうされました?』

「魔法で消してます、ご親族にフィンランドの方が?」


『僕が質問しようと思ってた事を、心を読みました?』

「いや、両親にその能力は無いんで。フィンランドには少しだけ居ました」


『あぁ、祖父がフィンランドの人間でして。夏には良く遊びに行ってたんですけど、どうでしたか?』

「思ったよりも雪が少ない、ベリーソースはスイーツだけにしてくれ」


『あぁ、先程の方からも聞きました、メインに果物は不評だと』

「デンマークの名物料理は?」


『フィンランドとそう変わらないですけど、茹でたタラのマスタードソース添え、とかですかね』

「おぉ、後でレシピを調べておきます」


『そこはこう、一緒に食べに行く口実を作らせて貰えませんかね?』

「口に合わなかったら2度と会いませんが」


『それは困る』

「どうしましょうね、以外にも気が合う気がする」


『僕もそう思います、連絡先を交換するのに、ルールが有るらしいんですけど』

《じゃよ、直接は禁止じゃ、腕のタグをスキャンするんじゃよ》

「コレか、なるほど、はいどうぞ」


『ありがとうございます、宜しくお願いしますね』

「はい、手が綺麗ですな」


『縫い物ばかりなので』

「なるほど。じゃ、次の獲物へ向けて頑張って下さい」


『はい、では』


 コルセット趣味友達か、不思議な知人が出来たな。




 ハナさんが再びテラスへ向かい、さっきまで話していた男性がショナさん達の方へ。

 日本人が好みなのかしら?


 そしてまた私に、ハナさんにも先程の大手企業の男性が。




「お、吸われますか」

《いえ、アナタとお話をと》


 さっきの大手メーカーの人。

 マキさんの方に行ったのに、話すべきなんだろうか。


「マシュマロちゃんがお好みでは」

《いえいえ、アナタの情報収集をと。ですがとても仲が宜しいんですね、好みの飲食物以外は教えて頂けませんでした》


「何が良いんですかね」

《近くを通った時に、良い香りがしたので》


「日本のトリートメントですよ、やらされました」

《だけですか?》


「香水は付けて無いですけども」

《じゃあ、フェロモンですかね》


「こんなおチビさんから出ますかね」

《誰からでも出てるそうですよ》


 知ってる、が、性的に熟成して無いんだが。

 まさか、マジで出るのか。


【そうですね、完全に完璧に戻っていますから】


 あぁ、マジかよ。


「マジですか」

《運命の人と出会えるとの名目ですし、先ずは本能的に追ってみようかと》


「好みでは無いでしょう」

《今までの傾向とは、違いますね》


「正直な人は好きです、握手」

《ありがとうございます、宜しくどうぞ》


 リュカ・スペンサー。

 名前の意味は光を齎す執事、ラテン系の子孫を持つアメリカ自治区の人。

 焦げ茶色の髪にグリーンの瞳、色白、身長はさっきの人よりは低いが、デカい感じがするのは肩幅かしら。


「ココでの趣味嗜好を聞くのは、どのタイミングでしょう?」

《もう少し、知り合ってからでも良いですか?》


「あぁ、タグをどうぞ」

《ありがとうございます》


「ドMだと言われますが、自認はSです」

《ご経験は?》


「全く、でも見た事は有りますよ、サスペンションとか縛りを生で」

《あぁ、良く耐えられましたね、見てられないって方が多くて》


「血塗れは流石に嫌ですが、ピアッシング位は別に」

《入れ墨はどうですか?》


「凄く興味は有ります、痛いの好きですか」


《ストレートですね》


 何とも言えない微笑み、マジMか。


 どうするか悩んでいると、マキさんが手を握られてるじゃん。

 耐えてはいるが。


「ちょっと失礼しますね」




 マキちゃんが言い寄って来た男性に手を握られ、従者か誰かを動かすか迷っていると、ハナが直ぐに向かった。

 そうしてどう言いくるめたのか相手に手を引かせ、カウンターへ。


 マキちゃんを落として、どうする気かしら。


《はい、お絞りどうぞ》

「すみません、ありがとうございました」

「何故あんな事に」


「手相占いから、あんな事になっちゃって」

《主導権を握った方が、自分を守り易いわよ》

「そうね、今度からは相性の手相で解説させるか、今回の事を素直に話して手を触らせないか」

「テーブル挟むとかか、好みなら良い?」


「ちょっと良いかなって思ったんですけど、もうダメですね」

「速度よね、近付く速度、急接近て怖いものね」

「あぁ、何か本能的に無理よな」


「そうなんですよぉ、もうドン引きです」

「是非、メンズ達にも知って欲しいものだわね。貞操と衛生観念の危機に感じちゃうのは、子を宿す側には良く有る事なんだから」

「あぁ、ウッカリ妊娠は嫌だもんな」

《さ、もう特等席には居ないから戻って大丈夫よ》


「行ける?」

「はい」


 良い笑顔ね、もう、この子は大丈夫そうかも。


「あ、置き去りにしてきちゃった」

《今はココ、奥だけど大丈夫?》

「あの、私にはまだちょっと」


「ですよね」


《ハニーちゃん、少しだけ案内しましょうか?》

「スモアちゃんには私が付きます」

「頼んだ」

「ありがとうございますクッキーちゃん」


「じゃ、行ってらっしゃい」


「うい」


 コレは、楽しくなりそうだわ。




 席に付かされ暫くすると、桜木さんに声を掛けた方がコチラにやって来た。

 この肌の色に興味が有るらしく、口説くと言うより世間話が始まり、その隙に桜木さんが他の方に声を掛けられ、しまいには移動するとの知らせが入った。


【奥に行ったけれど、キャンディーちゃんが付いてるから大丈夫よ。でもまぁ、行きたきゃ行きなさい】


「あの、奥ってどんな感じなんでしょう」

「俺は知らないからな、奥の方の事は」

『軽い縛りやボンテージが居る程度』

『“ですね”』


「へー、行った事あるんだ」

『前に、案内された』

『“僕は自主的に、仕事も兼ねて”』

「そんなに、奥は凄いんでしょうか」


『“全体を回ったのは1度だけですけど。まぁ、初めてには過激かと”』

『あぁ、そうだな』

「へー」

「へーって」


「だって、所詮は付き添いだし、アイツは大人だし」

「そうですけど」

『“案内しましょうか?”』


「俺はやめとく、直ぐに帰って来るかもだし」

『俺も』

「あの、少しだけ、お願いします」


 キラキラとしたカーテンの奥は、先程とは全く違う風景が。

 蜜仍君に見せられない、非常に悩ましい人物、景色。


 桜木さんは、普通に過ごしてるし。


『“もしかして彼女は、良い家のお嬢さんなんですか?”』

「まぁ、そんな感じです」


 桜木さんのタグには一切の情報が非公開な状態、先程の更新でハニーとのアダ名だけが記載されてはいるが。

 もう少し、語彙力を身に付けないと。


『“それで、フィンランドに留学ですか、なるほど”』

「寧ろ旅行ですね、アチコチ行ってますので」


『“なら、かなり上流の方ですね。アナタみたいにちゃんとした護衛が付いてるんですから”』

「いや」


『“それとも元軍人さんか警察関係か”』

「どうしてそう、思われたんでしょうか」


『“立ち振る舞いですよ、叔父が軍人なので”』


 大失敗だ。

 もっとちゃんと普通にしないと。


「すみません、その通りです」

『“いえいえ、コチラこそ暴いてしまってすみません、どうにも気になってしまって”』


「そもそもこう言った場所に慣れてなくて、どう振る舞えば、普通に見えますかね?」

『“護衛に見えない様に、ですか?”』


「はい」

『“今日は運命の人に出会えるかも知れないイベントですし、出会いを求める振り位はするべきでは?”』


「あぁ、ですよね」

『“それか、もう1人の彼の様にリラックスするか”』


「そうですね、ありがとうございます」

『“では、僕はまだまだ探しに行かないといけないので、失礼しますね”』


「はい、ありがとうございました」


 桜木さんは、本当に普通にしているし。

 難しい、凄く難しい任務だ。




『おそようございます、ハナさんはどうですか?』

「エミール、本当に聞いて良いのか?」

「起き抜けに聞いたらショックが大きいかもよ?」


『大丈夫です』

《しょうがないのぅ》

『仕事に繋がりそうな者と、酒を飲み会話しているだけだ』


『何時までなんですか?』

《そうじゃのう、もう少しじゃろな》

『寝かしつけには帰って来るだろうな』

「寝かしつけって」

「なら安心ね」


『うーん』




 ハナさんが特等席に戻って来ると、ショナさんも帰って来た。

 しかもハナさん、凄い可愛い子を連れてる。


「困ってたから連れて来た」

「そうなんですね、さ、どうぞ」

《ありがとうございます》


「喉、大丈夫ですか?」

《あ、コレ、まだ手術して無くて》

「へ」


《あ、まだ男なんですけど、もし嫌なら》

「嫌じゃないけど、マジか」


《あの、タグをどうぞ》


 タグを読み込むと、性別欄には男性。

 全然、ふくよかで胸も有るし。


「わお」

《すみません、騙すつもりは無かったんですけど、そのタグ、男性希望ですよね》

「あ、コレそうなんですね」


「カラフルなのはそう言う事か」

《もしかして、誰かのご紹介ですか?本会員は説明が有る筈なんですけど》

「はい、ご招待頂いたんです」


《そうでしたか、誤解しないで下さいね、今日はイベントで偶々あんな状態になっただけだと思うので》

「おう、じゃあもう解放した方が良い?」


《いえ、その、もし良かったら、まだ居て良いですか?》

「つか譲るよココ」

「そうですね、出会いの邪魔をしては何ですし」


《じゃあ、少しだけ。あの、もし良かったら、お友達に》

「おう、どうぞ」


 キラキラ、希望する性別とは違うのに。

 しかもハナさん、全然視線に気付いて無い。


 もしかして、ハナさんにも呪いが。

 カウンターに戻るし、相談してみないと。


《お帰りなさい》

「はぁ、疲れたかも」

「アンタ、もしかして全部回ったの?」


「おう、凄かった」

「あの、どんな感じなんですか?」


「過激なのは、初心者にはエグい」

《そうね、奥程そんな感じね》

「わぁ、未知の領域です」

「マシュマロちゃんは単独で行っちゃダメよ、信頼出来る人と行きなさいね」


《そうね、その方が安全ね》

「ハナさんは大丈夫だったんですか?」

「おう、堂々としてればどうと言う事は無い」

「あ、ショナ君、大丈夫?」


 先程から無線機か何かで対応してらっしゃる。

 ですよね、私があんな事になっちゃったんだし、もっとしっかりしないと。


「んで、ショナの感想が気になるんじゃが」

「ずっと目眩がしそうでした、ですって、ふふふ」


「オモロ」

「ね、呼び出しましょ。ショナ君、お呼び出しよ」


 来た、何だかげっそりしてる様な。


「ほう、良く耐えられたな」


「そうじゃ無いと、護衛出来ませんし」

「途中で交代したら良かったのに、その為に待っててあげたでしょうが」


「慣れるべきかと」

「クソ真面目バカ野郎、性嫌悪にはなって欲しく無いんだが」


「大丈夫です、多分」

「バカ者、キャンディーちゃんと相談するか、帰ったら先生か誰かとお話ししなさい」


「はい」

「一服してくる」


「あの、シュガーさん、少し向こうでお話を良いですか?」

「良いわよ」




 何の話かと思えば、ハナの呪いの事。

 自分へ向けられた好意を認識出来無いんじゃ無いかと、マキちゃんが心配してくれての事。


 難しいわね、敢えて無視したのかも微妙だし、この子に突っ走られても怖いし。


「大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫、敢えて無視したのかもだし、神様も付いてるでしょうから」


「そうですけど、あまり甘えてもいけないかと思いまして」

「あぁ、そうね、後で話しを聞いてみましょうかね」


「すみません、私の不得手な部分でして」

「良いの良いの、万能な人間は早々に居ないんだから」


「ありがとうございます」


 本当に良い子、良かったわ誤解が解けて。

 後は、ハナの呪いね。




 ウブ2号ちゃん、相当衝撃的だったのね。

 しかも、落ち込んじゃって。


《大丈夫じゃなさそうね?》

「すみません、衝撃的過ぎでした」


《特に?》

「苦痛を伴う展示に、桜木さんは拍手してました」


《それがショックなの?》

「いえ、痛みを喜べる事、でしょうか」


《あぁ、それは少し違うのよ。私はね?自分の為に特別な事をしてくれる事が嬉しいの。他の子も、そんな感じじゃ無いかしら?》


「特別な事、ですか」

《私の為に、私にだけしてくれる特別な事。相手が苦痛を我慢して、敢えて私に何かしてくれたり、私がソレを与えたり。一緒に楽しかったり、色々ね》


「敢えて苦痛を我慢して、あんな事を?」

《それが良いって人も居るし、かと言って共感性の無い相手じゃ長続きしないの。何が嫌で何が良いか分からないと、加減出来無いじゃない?》


「まだ、ちょっと」


《じゃあ、例えば。アナタが吸血鬼になって、ハニーちゃんが苦痛を伴う吸血を許してくれたら。全く嬉しいと思わないの?》




 モヤモヤしたまま早朝覚醒してしまったエミールに呼び出され、浮島で昼飯。

 思春期に桜木かこうだもんな、仕方無い気もするが。


『ドリアード、実況中継してくれません?』

「はっ、天才ねエミール君」

「頼む、このままじゃな、大丈夫かどうかだけ」

《過保護じゃのぅ》

『どうするかな、悩ましいな』


『もー、ハナさんの身に危険が迫って、気がするって、勝手に行っちゃいますよ?』

「そうだそうだー」

「それは緊急事態だな」


「私からもお願いします。早朝覚醒の事もそうですが、勉強の気分転換、耐えたご褒美にと。少しだけ、お願いします」

『仕方無い』

《無事じゃよ。今は雨宮マキと共に、可愛い男子にナンパされておるわぃ》


『はぁ、聞くんじゃ無かったかも』

《ほれぇ》

「寝直してはどうでしょう」

「何か気を紛らわせるのって」

「俺、パトリックのモフモフが見たいんだが」


『パトリック』

「はい」


「お馬さん、スベスベ」

「温かいな」

『パトリック、はぁ』


 コレ、桜木は気に入るだろうな。

 そうしたら、エミール君はヤキモチを妬くのか?




 一服を終え戻ろうとすると、ショナとマキさんの組が分かれて座っていたので、アレクの特等席へ。


 全く興味が無さそう、周りにもそれが伝わっているのか、人が寄り付きすらすらしない。

 イケメンなのに。


「お疲れ、何でモテ無いの」

「追い払いまくったから。あの可愛い子ちゃん、まだ居るけど」


「あぁ、同じバンドの色だから無理よ」

「そうかな、めっちゃコッチ見てるけど」


「君では」

「賭ける?」


「んー」

「俺、頑張れるけど」


「そのテクニックは見てみたい」

「良いよ、で、何賭ける」


「何が欲しい?」

「愛」


「ワシは君の嫌がる事を知りたい」

「乗った、行ってくる」


 可愛い子ちゃんことローズマリーちゃんと目が合った、手を振っているとアレクが着席、座る位置を移動させた。

 ローズマリーちゃんの顔が見えないが、振り向かれたら見える範囲。

 ガン見もイカンのでスマホを見てみると、ルーネは会場に居ない表示になっていた。

 リュカはまだ運命の人を探しているのか、会場には居るらしい。


 チラ見。

 甘い顔して、エロいなアレク。


《悪趣味じゃのぅ》

「何が」


《お主に惚れそうじゃったろうに》

「そうなのか。でもだって、王子様を探してるなら、女騎士に揺らいだのは偶々じゃね」


《今度、シオンで会えば良かろう》


「それ、外見が前提の場合でしょ。ワザワザ男性が良いってバンドを付けてるんだから、中身、ワシは不適合」

《助けた時なんぞは中々に男らしかったぞぃ?》


「声を掛けただけやん、男らしさなんぞ知らんよ」

《らしさなんぞクソ喰らえ、じゃ》


 アレクがローズマリーちゃんの手を取ろうとした所で、ソラちゃんに顔を背けさせられた。


 コッチ振り向かれたんか、助かる。


「ありがとう」

《お気になさらず》


 向かされた方、カウンターにはショナとマキさんのグループが合流している、そしてショナにガン見されてる。


 誤解だったのは本当に悪かった、マキさんがそう言う目で見てるとは思わんかった。

 すまん、悪かったショナ。


《お、アレクが戻ってきおったが》


 アレクの方を見ると、カウンターへ向かって指差された。

 確かに、ココで合流するのもおかしな話だし。


 アレクがお手洗いへ行ったので、皆とは少し離れたカウンターへ。

 そのまま隣のお姉さんと成果を話し合っていると、アレクが帰って来た、どうなったんやろ。


「ただいま」


「おう、成功か」

「うん、だから愛して」

『嘘を言うな、全く』


「え、良い感じだったじゃん」

「タグは読み取らせて貰ったもん」

『お前との相談に乗る、とな、厄介な奴だ』


「吊り橋効果は長続きしないのに」

「相性が良かったら別なんじゃない」


「どうだか」

「悲観的」


「はいはい、そうですね」

「疲れちゃった?」


「まぁ、歩き回ったし」

「向こうは昼に近いし、ちょっと帰る?」

《浮島に、じゃな。お子達が心配して会合中じゃ》

『顔を出してやると良い、特にエミールにな』


「そんな心配されてる?」

《じゃの!》




 エミール君や僕らの事を慮ってか、今日はこれまで。

 浮島へ向かい、桜木さんは小屋で皆さんに群がられている。


「ねぇねぇどうだったの?」

「無事そうだな」

『もう良いんですか?』


「心配してたのでは?」

『ちょっと気にしてただけですし』

「うんうん」

「で、どうなんだ」


「凄かった、色んな意味で。詳しくはショナへ」

「へ、ショナ君」

「詳しく」

『どう、凄かったんですか?』


「非常に、言葉に困るんですが。凄かったです」

「あ、先生の所に行って報告してきて」


「はい」




 すっかり疲れた表情の祥那君。

 見識が広まったとは喜べなさそうですね。


《凄かったそうで》

「はい、知らない世界が有りました。知ってはいたんですが、理解が追い付かない世界でした」


《吸血鬼のお話は、どうなったんでしょう》


「桜木さんなら、当然してくれそうだとは思ったんですが。嬉しいかと聞かれると」

《従者としては》


「嬉しくないです」

《個人的には》


「嬉しい気持ちは、無くは無いかと。ただ従者としては」

《なら人を入れ替えて単純化し、考えてみましょうか。自分だけの特別な事をされたら、ミーシャならどう思うか。多分、大好きってなりそうでは》


「ですね」

《では、エミールはどうでしょう。好きになってしまうのでは》


「はい、そうかと」

《鈴木千佳》


「より好きになるかと」

《優しさであれ何であれ、従者としても嬉しいと思って良いと思うんですけどね》


「そう言った楔にはなりたく無いんです。凄く、卑怯だと思うので」

《真面目さは凄く良いと思いますけど、誰がそう誤解するんでしょうか》


「蜜仍君に、あくまでも標語の1つなだけだと、言い切ってしまったので」


《彼ならもう理解していると思いますよ、これだけ一緒に過ごし、映画館も観ているんですから》


「後悔してます、何で繭化した時に、観なかったのかって」

《知らない権利は有りますから》


「それでも、知って欲しいと思って頂いた気持ちを、無視しました」

《それは観なかったから言えている事では?観ていたら別の意見になっていたかも知れない。それこそ、ココに居たかどうかも、考えものでは?》


「僕、そんな風に見えますかね」

《この場合は私では無く、桜木花子がどう思うか、です》


「あの、もしかして、失望されてるんでしょうか」

《穿った見方をし過ぎですよ、そんな狭量では。ただ、そんなに期待されていましたかね》


「あ、いえ、どうなんでしょう」

《アナタに何かを求めましたか?》


「いえ」

《誰にも、一緒に居る事を求めてませんよね》


「はい」

《問題無いと思いますか?》


「いいえ」

《それで、どんな悩みでしたっけ?》


「従者として、どう」

《先ずは従者と個人的な気持ちのズレが問題かと、ご自身を探求されるべきでは》


「はい、そうですね、はい。ありがとうございました」

《いえいえ》


《意地悪じゃの?》

《どこがです?現段階で完全に自身の気持ちに気付くには遅い位、かと言って誘導しては私が後々になって怒られてしまいますし、安パイでは?》


《まぁ、そうじゃろうが》

《対価が支払われたとは言え、そう順調に行くとは思えませんし》


 好きだから悩むのでは、と言う事は簡単でも、その先にどうするかが結局は問題になってしまう。

 かと言って急速な好意や接近は、蛙化を引き起こさせてはしまう。


 1年の期限は、もしかしたら完全な人力のみでの目安だったのか、呪いの解ける期日だったのか。




 小屋に戻ると、既に桜木さんは入浴を済ませケバブ中。

 そしてリズさんも、エミール君も爆睡中。

 両脇には小さくなったエナさん、鈴木さんとくっついて寛いでいた。


 本当に、桜木さんは誰も要らないワケじゃ無い筈なのに。

 どうして、僕は何も理解出来無いんだろう。


「お帰り、大丈夫か?」

「はい、ありがとうございました」


「聞いたぞショナ、単独初ナンパに遭遇したんだってなぁ」

「そう言う場所ですし、誂われただけですよ」


「どう断ったんよ」

「付き添いですし、既に目当ての方を見付けたので、と」

《ズルっこしおっての、エナが教えたんじゃよ》


「エナさん」

『次は使えないから良いでしょ』


「まぁ、なら良いか」

「ハナ、今日の箱庭を作ってみたら?」


「おう」




 箱庭が出来上がる頃、スーちゃんまで寝始めた、そして賢人君も。

 ミーシャとショナはタブレットで業務報告中、エナさんはソファーでゴロゴロ、白雨とアレクはお外でお昼寝。


 エミールはパトリックのお腹で爆睡中、心配させる気は無かったんだが、もう少し話し合うべきなんだろうか。

 でもなぁ、どう言えば良いのか。




 桜木さんも寝てしまった。

 昨日までの大演習が嘘の様に平和な光景。


 僕はこのままが1番。

 だけれど、桜木さんには伴侶を。

 例え自分が見本になれなくても、ただ、そこが1番の問題で。


「小さな溜息、ネイハムに苛められましたか」

「いえ、今が1番だなと、でも桜木さんには」


「伴侶を、ですか」

「はい」


「勝手に寄って来るんですから、見守れば良いだけでは」

「僕の事を気にされない為に、どうすべきか、と」


「あぁ、適当は許されない」

「ですよね、僕にもその気は無いんですし」


「それは、何故?」






 まーたオヤツの時間に起床。

 まぁ、今回は健全な感じだから良いんだが。


 そしてエミールの起きる時間、トイレに行き身支度を終えて戻ると、起きていた。


「スルッスルやんな」

『ですよね、抱きついてるとつい眠っちゃうんですよ』


「あぁ、このままイギリスに行く?それかアヴァロンに、日光は大事よ」

『一緒に行ってくれます?』


「寝間着で良いかい?」

『勿論ですよ』


 浮島ごとアヴァロンへ行き接岸、中央分離帯が見事に機能している。


《いらっしゃい》

『おう、ご苦労だったな』

「うい、お邪魔しまう」


《はい、お誕生日おめでとうございます》

『ほれ』


 ティターニアからは枯れない花冠、オベロンからは惚れ薬。


「惚れ薬」

『おう』


「おうじゃ無いが」

『目にな、最初に見た者に惚れる』

『え、良いんですかティターニア』

《まぁ、この位は大丈夫かと》


「解くにはどうすれば」

『半日程度で効果は消える』


『僕も欲しい』

《大人になったら、ね》

「すまんなエミール、貸してやらんからな」


『早く大人になるから良いですもん』

「頑張れ、ありがとうございます」


 どうしようか。


「桜木さん、絶対に僕には使わないで下さいね」


 そんなつもりは無かったんだが、そうか、まだ誤解してるかもと思ってんのかも。


「考えとくわ」


「ダメです、約束して下さい」

「お、約束しないとどうなる」


「目隠しをして寝て、寝起きの度にミーシャさんか賢人君に誘導して貰って、目を開ける時は桜木さんを見る様にします。なので休暇は取りません」

「上手い、休みはいつから?」


「桜木さんの家が決まるまで休みませんよ」

「エミール、コレは悪い大人の見本だ」

『ハナさんがですか?僕はもう学校の寮に入るって決まってるんですよ?』


「ぇえ、ワシが、悪い大人か」

『冗談ですよ、でも、本当にどうするんですか?』


「イスタンブールと、日本に家を持とうかと。ただ、お金がね、借金は嫌」

「余裕で買えますのでご安心を。寄附の要望が多かったんですが、商品の購入で我慢して頂いてる状態です。ご心配なら、寄附して頂きますか?」


「それは要らない。本と服でそんなに?」

「はい。それに例祭服の公式な模造品も、予約の段階でかなりの額になってます、因みに収益は半分でしか認めない、と虚栄心さんが言っていますので、ご了承下さい」


「イスタンブールは確定なんだが、日本がなぁ、場所によってかなり違うし」

「浮島を真ん中に、南北に家を持たれては?土地建物は0よりは安いので」


「へー」

『それで、寮生活の難点が有って、強制的に休みの間は家に帰らないといけないんです。なので、その間だけ、一緒に住む事は出来ませんか?』


「んー、アレクや白雨の家も決めないとだし、コンちゃんもどうなるか」

「全員、同じ家の方が安くは済みますが」


「日本にハンを建てるのか、長く掛かりそう」

「そうですね、建築基準法が有りますので。暫くの間、ココとかどうでしょう」

『わぁ、広い』


「サザエさんの家かよ、いや、有りなのか?」

「一応2階も有りますよ、場所は要望通りとは行きませんが、当座には充分かと」

『ドリームランドの家みたいで素敵ですね』


「エミール、何処まで見ちゃった?」

『綺麗な景色と作品だけです』


「それは良かった」

『ふふ、僕、ココに住んでみたいなぁ』


「様式が違うから住み難いんでは?」

『ウチも靴を脱いで家の中を動き回る形式でしたよ、狩りや釣りをするので、直ぐに汚れちゃうからって』


「一緒に住む前提で話してる?」

『言う事はちゃんと聞きますから、ダメですか?』


 かわヨ。

 やべぇな、つい甘くしてしまいそうだが。


「休みだけ?」

『夏休みとか、土曜日は宿題や何かしら有るので、毎週日曜に。勿論パトリックも一緒ですし、自分の事は出来るだけ自分でします』


「ショナ」

「僕ら従者も、通いか泊まり込みかします。もしワンルームマンションだとしても、何処かの部屋は借り上げますので」


「コスパで押すか」

「はい」


「日曜に居ないかもよ」

『構いません、ハナさんの邪魔にならない様にしますから、お願いします』


「エナさん」

『家と集団生活は大事』


「参った、その方向性で考えるが、もっと良い案が有ったらソッチにするからね」

『やった!ありがとうございます』


 ハグ禁止の代償に、お手々ニギニギへと移行した。

 ワシより大きい手、背も直ぐに大きくなるんだろうなぁ。


「じゃあ、お勉強に戻りましょうかエミールや」

『はい!』


 すっごい機嫌良いじゃん、やっぱり独りは不安なのか。


 エミールが勉強をする間、少し離れた場所で久しぶりにエリクサー作り。

 コレは半ば料理の範囲内なので、今回は業務からは外して貰った。

 ホワイトな意味で厳しいなおい。


 ミーシャはお昼寝、ショナはオベロンのお相手。


《すみません、困る品物でしたよね》

「ぶっちゃけ、ちょっと。でも面白そうかなとも思う」


《良かった、ですよね、ふふ》

「アレはティターニアが?」


《いえ、アレは妖精の粉と泉の水が混ざって出来てしまうモノなんです。泉の底に溜まってしまうので、いつもは焼いて破棄するのですが、今回はオベロンがどうしてもと五月蝿くて》

「そう自然発生するのね、エリクサーに混ぜたらどうなるんやろ」


《全て惚れ薬になっちゃいますよ、ふふふ》

「じゃあ、今回は入れちゃおうか」


《でしたら、1滴又は1粒でないと効果が出ませんから、飴にしては如何でしょう?》

「あぁ、金平糖にしたいなぁ。エナさん」

田道間守たじまもりだね。橘を植えて呼ぶと良い』


「良い?」

《勿論ですよ》


 スクナさんから貰った寄植えから枝をもぎ、アヴァロンの地へ植える。


 ほぼミカンやん。


「田道間守さん、来て頂けますでしょうか」


「はい」

《いらっしゃいませ、さぁ、どうぞ》


「はい、どうも、お邪魔致します」

「あの、嫌なら」


「本当に、私で宜しいんでしょうか」


 嗄れた小さなお爺さん曰く、非時香菓、ときじくのかぐのこのみ。

 今で言う仙薬やエリクサーを尊敬する偉い方に探すようにと頼まれた、10年掛けて探して持って帰ったのに、その1年前に主は既に亡くなってしまっていた。

 半分は奥様に、もう半分は墓前に、それが橘だそう。

 そしてそのまま悲しくて死んでしまった、ただの不甲斐無い人間であると。


 普通に泣くわ。

 ティターニアも泣いてるし。


「いや、でも、充分頑張られたかと、奥様にもお渡し出来たんですし」

「もう少し早ければと、なのに菓子の神なのどと敬われ、お恥ずかしい限りです」

《では、今こそ、再びお役に立てる機会ですよ。大丈夫、今のアナタなら、直ぐに完成させられたますよ》


「何を、完成させれば良いのでしょう」

「すんません、凄い巫山戯た発想なのですが。惚れ薬を量産しようとしております」

『このエリクサーなる仙薬、非時香菓と惚れ薬を合わせて、金平糖にしたいんだ。多分、作っただけでも面白い事になる』


「面白い事、ですか」

「すんません、つい、思い付きでお呼び出ししました」

『菓子の神は他国にも居るが、金平糖はきっとお前が1番だと思う』


「私に、ですか」

「日本の金平糖が世界1だと思います、もし嫌なら」


「いえ、やらせて頂きます」


 蜂蜜酒、ミード蜂蜜にエリクサー、果物や何かと準備していると、火が起こり鍋が出て来た。

 伝統的な金平糖の製法、傾いた鍋がゆっくり回る。


 ジッと見ていると気が散るのか、チラチラとコチラを気にしてしまう爺や。

 なのでコチラはエリクサー作りに視線を戻す。


 確か、出来上がるのに2周間とか掛かった様な。


「エナさん」

『大丈夫』


 大丈夫って、かと言って様子を伺うワケにもいかないし。




 みっちりオベロン神に戦闘訓練をなされ、桜木さんのエリクサーが出来た頃、漸く解放された。

 そして何処からか呼び出した神様も、何かを作り終えていた。


 金平糖。


 確か、2周間は掛かるんじゃ。

 と言うか、何故。

 エリクサーの改良だろうか。


「あの、それは」

「惚れ薬やで」

「効きますかどうか、なんせ私が作ったモノなので」

『大丈夫、試しに誰かに食べさせよう』


「誰に」

『任せる』


 長い沈黙の後、桜木さんがコチラを見た。

 どうかわそうか。


「ショナ、苗木屋の元夫は刑務所?」

「あ、はい、そうですが」

『なるほど、根回しする。皆も来るか?』

『勿論だ』

《ええ、是非》

「効果は確認せんといけませんので」

『僕も良いですか?』


「酷い事を、復讐をさせに行くんだが」

『誰も傷付け無いんですよね?』


「まぁ、物理的には」




 桜木さんの代理を務め、刑務所へ、そして金平糖を食べさせると態度がすっかり変わった。

 好きなら、舐めた態度や思考はしない、そう思う様な出来事だった。


 そして苗木屋の主人を家の前に送り届けた。

 盛大な溜息を吐き、家の中へ。


 帰ろうとすると直ぐに戻って来た、どうやら一服するらしい。


「あの、お節介でしたなら、お詫びを」

「あ、そう見えちゃいましたか?ゴメンナサイ、ありがとうございます、スッキリしました」


「本当に、アレで宜しかったんですか?」


「フラれるより、振った方がダメージが少ない方なんですよ。例え一時でも昔に戻ってくれて、泣いて謝ってくれたんですから、凄く嬉しいのと。やっと納得出来た様な、腑に落ちた様な、兎に角、スッキリしました、ありがとうございます」

「いえ」


「あの、もし良かったら、今度ご飯にでも行きません?」


「すみません、好きな人が居るので」

「あぁ、一緒に居た方ですか」


「あ、いえ、その」

「片思いなんですか?」


「まぁ、そんな感じです」

「あら、相談に乗りますよ?」


「いえ、大丈夫です」

「何も恩返しが出来無いと思うので、本当に、何かさせて下さい」


「お幸せになる事が、神々と召喚者様の為になるかと」

「あ、あの虚栄心さんの服、どう思います?」


「お似合いになるかと」

「コレは嘘でも嬉しいなぁ、ありがとうございました。また何時でもいらして下さいね。じゃ、おやすみなさい」


「はい、おやすみなさい」


「ふひひひ」

『ふふふふ』

「帰りますよ、移動お願いします」


「はいはい」




 スッキリしたと言って貰えて助かった、ただ、本当にスッキリしてくれてると良いんだが。


『こんな復讐方法も有るんですね』

「本当にスッキリしてくれてたら良いんだけどね」

《大丈夫じゃよ、もう寝ておる。なんなら安眠じゃよ》


「マジか、良かった」

「業務時間として付けておきますね」


「いや、でも」

「先日の件、もう忘れたんですか?」


「あ、あぁ、忘れてた。コレ、君に持たせれば良かったか」

「え、それは一体」


「エンキさんから、印籠モロタ」


 そのまま魔道具は国の正式な品物として認可されてしまった。

 隠密装備、コレを持つ者は召喚者、又は召喚者の代理であると。


「やけにスムーズですよね」

「それな、エナさん」

『もう眠いかも、このままココで寝よう?』


 まぁ、スッキリしたし、寝るか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る