4月1日 割と暑い。

 日本時間、真夜中の12時ピッタリにアレクに起こされた、ココは5時、まだ暗い。


「おはよ」

「おはようございます」

「おはよう、真っ暗やんな」


「日の出は6時半位だそうです」

「大演習は」


「同じく6時半から、クアロアランチの広場で」

「俺はもう少ししたらまた送迎」


 リズちゃんとスーちゃんはまだ寝てる。

 計測は中域、溢れても良い様にと浮島に行き、妖精紫苑へ。


 朝食はダイナーのテイクアウト、スクランブルエッグ、ベーコン、ハッシュポテトにソーセージ。

 エリクサーもがぶ飲み。


《なんじゃ、低いのぅ、テンションが上がる薬草でもやろうか?》

「それ違法だべや」

『勘弁してくれないか、検査は一応有るんだ』


「へー、そりゃそうか。エリクサー引っ掛からない?」

『スクナや』

『問題無い』


「エナさん、静かだね」

『皆の話しを聞いてるから、両方は難しい』


「万能じゃ無いのね。不穏分子は?」

『気にするな、ココの人間の領分だ』

《そうじゃよ、大演習だけに集中せい》

『もう少しで、溢れるかも』


 スクナさんの予言通り、暫くして溢れ出した。

 そして花子に戻り温泉へ、服は、どうしようか。


「服、どうすべか」

【例祭服でお願いします】

《破けても修復するでな、便利なモノじゃ》


「おう、柔軟位はしとくか」


 後は、装備ってもなぁ、紐蛇ちゃんと口元のベール位か。

 槍だって封印されてるし、盾だけだし。


 ソラちゃん、全力回避。


【了解】




 桜木が戦闘不能か、ギブアップするまで大演習は終わらない。

 隣にはスーちゃん、それとエナ君。


 少し離れた場所には医療用の艦隊、テント、観客席は俺らと国連の人間だけ。

 他の転生者も来たがったが、危ない目には合わせられないし。


 大演習、神々や精霊は見てくれてるんだろうか。




 とうとう時間が来てしまった。

 ハナが戦う時間、模擬でも演舞でも、味方と戦う時間。


 審判は場外。


 先ずは一礼し、ホーンの合図で演習開始。


 最初は、最初と同じ、ブリジットとシェリー。

 召喚者と戦った事の有る従者。


 一気に間合いが詰まったけれど。


 だけど、殺意らしい殺意も、敵意らしい敵意も無さそう、何なら何か話してるみたい。


「ねぇ、リズちゃん」

「あぁ、何か話してるな」


『うん。お久しぶりです、お元気でしたか?』




「おう、元気やで」

「お墓参りの件も、ありがとうございました」


「いえいえ」

《お休みは半分程と考えているのですが》

「それと、毎年恒例にしようかと」


「毎年は面倒だなぁ」

《ですよね、ふふふ》

「では、全力でお願い致します」


「すまんね」


【では、制圧を始めます】




 一気に間合いが離れたかと思うと、桜木が腕を組み仁王立ちしたまま盾を出現させ、ブリジットとシェリーの槍をいなした。


 揺らがず、一切微動だにせず、全て防ぐと押し返して行く。


 ちょっとカッコ良過ぎる。

 圧倒的だ、桜木は身動きすらしないで従者を盾で御した。


《参った》

「参りました」


 シェリーとブリジットが両手を上げて降参、手を振り和やかにお別れ。


 第2波は30人の男女混合、魔法や銃の何でも有り。

 味方同士で助け合う混戦、それでも桜木は揺るがない。


 仁王立ちのままいなしたかと思うと、盾で一斉に地面へと縛り付けた。

 コレも誰も怪我は無し。


 これで32日、まだブラックな休日の日数。


 第3波、25人。

 だが今回は追加が随時入る、本格的な消耗戦。




「消耗戦かぁ」

《じゃの》


 ソラちゃんのお陰で、ただただ戦場に居るだけ、いつもそう。

 今回は敢えてだが、つまらんな。


『ダメですよ、ラスボスは最後に動くのがセオリーなんですから』

《堪え性の無いヤツじゃ》

『引き籠もるのだろう、念には念をだ』

「でもだって」

《では、余興を少し》




 桜木の案なのか、精霊ソラちゃんの案なのか。

 落とし穴宜しく、従者を転移させまくっている。


『近くの海だから大丈夫、笑ってる』


 エナ君は確実に何かの神様だ、ただ、どうして実体化して、俺らの傍に。

 いや、俺らじゃ無い、桜木のか。


 でも何で。




「海にって、マジっすか、ウケる」

「ソラさんでしょうね、桜木さんが飽きてますし」


「あー、精霊さんもやりますね」

「どう、対策しますか」


「平地なんで、身近な人間に縄を投げますかね」

「ですね、そう対策されてますね」


「まぁ、それすらもう対策されてそうっすよね」

「その、対策を考えましょう」




 転移に気付いた瞬間に味方に縄を投げ、転移から抜け出した。

 それすらもソラちゃんが味方ごと盾で押し込む、力技。


 もう、何日働くかちゃんと考えるべきだろうか。


「普通の会社員の休日日数はどうなん」

『まぁ、125日だな。盆休みを含んでだ』


「なら、まだまだか。100人行ったら教えてくれ」

《了解》




 桜木のヤツ、従者の術式で盾が封じられてってんのに、牛乳飲む格好でエリクサーがぶ飲みしやがって。

 それとも何かの作戦か?


 いや、アレは飽きてるだけか。


「スーちゃん、盾の数が減ってるの、アレが気付いてると思うか?」

「んー、気にして無さそうだけど、大丈夫なのかしら」




 桜木さんの無数に有る盾が、従者の術式によって封じられていく。

 敢えてなのかワザとなのか。


「ショナさん」

「さっぱりです」


「えー」


「あ、気付いて無かっただけみたいですね」

「もー、あ、総攻撃っすか」


「飽きたんでしょうね」

「そこっすか」

「あ、私達の番ですね」




 125人目にしてミーシャ、ショナ、賢人君が投入された。

 ココからマジなラインなんだろう。


 出来るなら、あんまり働きたくないでござる。




 《働きたくないでござる!》


 何を言うかと思えば、コレかよ。


「ふふっ」

「ちょっ、リズちゃん?なんかの合図?」


「いや、違うんだが。うん、なんでもない、あー、ズルいわぁ」

「ハナは大丈夫なの?」


「大丈夫だろ、余裕な証拠だ」

「でも、突っ込んでってるわよ」

『精霊が居るから大丈夫』




 桜木さんと話す余裕は全く無い、精霊の補助で近接戦闘をさせられ続けている。

 誰かが近くに居る限り、従者は中長距離攻撃が出来無い。


「賢人君!銃を!」

「お、真似するわ」


 羽衣のせいで桜木さんの攻撃に重さは無い、ただ暗器には気を付け無いと。


 例えば、手に針とか。


「簪でしたか」

「バレたか」


「知ってますから」

「ですよねぇ」


 上空に跳ね上がり、そのままミーシャさんの近くに転移されてしまった。


「加減はしません」


 ミーシャさんが蔦を伸ばし、桜木さんを絡め取ろうとするも再び上空へ。

 賢人君の目の前へ。


 捕縛のチャンスでは有るが。


「フェイクだ」

「そうっすよねぇ」

《生け捕りなんて舐めてはいけませんよ》


 賢人君は盾と共に出現した精霊ソラさんに、地上へ叩き落とされた。


 ミーシャさんの蔦で助かったが。


「大丈夫ですか賢人」

「大丈夫っす、腕で防げたんで、背後を取る意味無いって忘れてました」

「追加要請しましょう」


 ミーシャさんの要請でアレクが追加へ。


「うっし」

「それ」

「ちょっ、それ封印されたんすよね」

「それに、奪われたら」


「最悪はサクラを倒す為に、サクラがくれたと思ってる。だから、今出さないでどうすんだよ」

「だとしても、どうやって」


「国連のに言ったら良いって、ショナのも呼べば来る筈だぞ、そう言う封印だって聞いた」

「ですが」


「まぁ好きにしろよ、じゃ」




 アレクが封印されていた筈の鞭を手に、戦闘へ加わった。

 桜木は少しも驚く様子は無し、なんならコッチに手を振ってる。


 だが盾が絡め取られ無効化され、アレクのストレージへ奪われていく。


 移動先は追従され、接戦へ。

 コレは桜木に不利だが、これだけやっても押し切れない。


 そして更に追加に蜜仍君と白雨まで、ジワジワと追い詰められてる様に見えるが。




「白雨、無手かよ」


『この為』

「ごめんなサクラ」

「ごめんなさい、桜木様」


 白雨ごと鞭に捕まると、蜜仍君の鎌が白雨もろとも肺を貫いた、自刃コレを真似るか。


 皆が離れると、審判員が近付いてくる気配。


 でもな、効かないのよな。


「まだ、出来るんだなぁ。卍解」


 音速を越える盾が白雨、賢人君、ミーシャの脚を切断した。


 コレ、凄い持ってかれるのよね。


「桜木さん」

「30秒だけ待ってやる、撤退させてくれ」


「はい」




 桜木は再び中央に戻り、エリクサーをがぶ飲み。


 自己治癒にストレージ内での音速化、音速化でかなり持っていかれてるらしいが。

 そこへ更に追加が、コレで終わるかも知れない。

 やっと。




《ココからじゃよ、気を引き締めるんじゃ》

「おう」


 普通なら魔力切れを狙うよな、マジで容赦無いのが来そう。


 そんな働いて欲しいのか。




「リズちゃん」

「俺は見る、最後まで見届ける、義務と権利が有る」


「うん、うん」


 今度は再び見知らぬ従者達。

 だが今回は強い、また徐々に追い詰められ、何人かの足が吹き飛ぶと桜木が止まった。

 魔力切れか。


 医療班の3人が桜木に触れた瞬間、突然倒れ込んだ。


 紐蛇だ、そのまま紐蛇が他の従者へと向かう。

 アレは、殺意にしか反応しない筈。


「なんで」

「嘘でしょ」


 そして紐蛇が蜜仍の影に捕らえられると、桜木が神々に貰った槍で、手首に、脚に刺した。

 地面に、釘付けに。


 しかも、この状態で、何で斧が。


 ショナ君は、何で止めない。




「土蜘蛛族が他にも居るんですか、蜜仍君」

「はい。ショナさんが土蜘蛛族に入って無くて、良かったです。気付かれちゃいますもんね」


「おい、蜜仍、もう終わりで良いだろ」

「ダメですよ、桜木様が白旗を揚げてませんから」


「おう、まだだ、働きたくないでござる」

「ですよね、じゃあ」




 召喚者と従者達の大演習。

 その桜木花子が、敗れる寸前の窮地に。


 死ぬワケが無いと思っていた、それは従者も私も転生者も同じ。

 こんなにアッサリ死ぬワケが無いと、国民も何処かで思っているんだろう。


 元魔王候補、非公認の元魔王。


 嘗て自分のモノであった槍に穿かれ、捻じ伏せられ、斧が振り下ろされている。


 義体に憑依した精霊が盾を出し、何とか防いでいるが、戦闘用では無い。

 押し負けている。


 従者は、動いたのは祥那君、桜木花子の桜花を取り出し、自らの影を切った。




「どうしてですか」

「世界平和の為ですよ」

「ショナ!俺の影も切れ!」

《プギャー!ものごっつい情けない姿やん、ええ格好やのぅ、自分》

『誂うなら、ココに居られなくさせるぞ』


《ええやん、ちょっと位、なぁオベロン》

『すまんなハナ、マーリン、知っての通り性格が悪いんだ』

『全くだ、何で連れて来た』

《また仲間外れはイヤだと、なのにごめんなさいね》


《どうするか迷っておるのか?》

『だな、面食らうだろうよ、これだけ神々と精霊が居るんだから』


《思ったより血腥いですぞ!?》

《心配になってしまいますぞ!?》

『ふふ、ハナ、後でゆっくり治しましょ』

『今日のエイルのパン、カラクッコなのよ、ふふふ』

《ほれほれ、まだやれるじゃろ》




 桜木花子が槍ごと転移し消えた、次に現れた時は空中に。

 飛べない筈。


 神や精霊が、手助けをしてくれているらしい。


【これが介入なんだよ!会議だけじゃ無いんだよ介入の件は!召喚者を抑えるのも守るのも!介入しか無いんだよ!】


 転生者、加治田リズの声、そしてこの発言は投票の可否が決着していない事を表している。

 賛成票が拮抗している事は想定外、一体、どうなっているんだろうか。


 柏木さんに連絡するか迷っていると、桜木花子が胸元から魔剣を取り出した。


 封印されていた筈の魔剣。

 封印を解除したのは、多分、同時に隣に現れた女神、ベリサマ神。




『毎回、派手になるな』

「ワシのせいじゃ無いのは分かるでしょ、ねぇ咲ちゃん」

《そうだね、さぁ、見せ付けよう。土蜘蛛族に対抗出来るのは、私達だって》

『もー、また匂いを嗅いで』


「あぁ、なるほどね。槍も有るし、チョロいっすよ」




 槍が、消えた、桜木のストレージに入ったらしい。

 そして紐蛇が影から抜け出て動き出すと、従者もコチラに向かって来た。




「殺意モリモリじゃないっすか」

「ぶっ殺します」

「助かった」

「ありがとう、ミーシャさんも。だけど、他は」


「シェリーさんとかブリジットさんとか居るんで大丈夫っすよ」

「はい、彼女達は近接系ですから」

「じゃあ、桜木を」


「俺ら行ったら邪魔になりそうなんで」

「はい、優しいので、加減しないは無理ですから」

「足を、ふっ飛ばされたのにか」


「天使さんが直前に麻酔と、治療もしてくれたんすよ」

「あの場で、治療される人間にだけ見聞き出来るみたいです、今は」

「良かったぁ」

「けどな」


「大丈夫っす、ほら、勝手に倒れてるし」

「紐蛇さんですね、ありがとうございます」

「もしかして、ココから」

「本場なのか?」


 蜜仍君とショナ君はやり合い続けてるし、桜木は魔剣で無双してるし。


 なら、さっきのもワザとか?




《主、スナイパーが複数》

「今回は当たらんよ、狙うは同士討ち」


《了解》


 動けている不穏分子と交戦、魔素切れを装い地上で膝をつく。

 こんなんで騙さ。


《都合の良い方に考えるんじゃよなぁ》


『追跡はどうなってる』

《しとるわぃ》

《ふふふ、団体戦も楽しいわね》


「桜木さん!」

「大丈夫や、集中せい」

「そうですよっ!」




 蜜仍君が大鎌を振り抜いた、ショナ君は飛び上がり、桜木は後ろに倒れ込んだまま地面へ、吸い込まれた。

 また上空へ転移。


 そしてまた、狙撃された。


 まだ、6割を越えないのか。


「どうなってんだよ、なんでまだ6割越えないんだ」

「サーバー、大丈夫なのかしら」

『日本のは大丈夫』


「何処がヤバ」

『介入になっちゃう』


「あーー!もう!」


「リズちゃん、どしたの」

「っ!投票が、不正操作されてるらしい」


「マジか、頑張れよ人間」

「でも」

「助けを求めましょうよ、人間に」




 桜木花子が転生者の席に行き、何か話すと戦闘へ戻った。


 そうして今度は転生者、鈴木千佳の声が響く。


【ホワイトハッカーさん、不正アクセスや操作が無いか、調べられない?皆が、良い人だって思うから聞いてるの、お願い、彼女は正しく民意を知りたがってるの。それと、もし誰か何かしてる人が居るなら、もう、彼女の為に止めてあげて】


『不正介入の記録は付けている』

《クエビコ様》


『ウチは問題無い』

《ウチもじゃよ、そこは安心せい》


《良いんですか、私に知らせてしまって》

『この程度では介入にすらならんさ』

《じゃの、ハナに怒られぬ為じゃし》


《では、桜木花子は》

《ほぼ知らんよ》

『土蜘蛛族の事も、先程知った程度だ』


《なら、どうして蜜仍君は》

《楽しいからに決まっておろう》

『それと、幾ばくかのヤキモチらしい』




「ヤキモチて」

「だって、僕も一緒に、居たかったんですもん」


「なら手を引い」

「ダメですよ、それはそれ、倒して頂かないと」


「分かった、一時共闘だショナ」

「はい」


 ショナさん達従者には、どうしたって、僕らには致命傷を与えられない。

 全員が桜木様に見えてるから、そして桜木様にも、大事な人に見えてる。


 筈なのに、凄いなぁ。


「凄いなぁ」

「後で生き返らせれる自信が有るから」


「それと、桜花ですよね、アレは真似出来ませんから」

「マティアスもせいちゃんも、ココには居ないから」


「これじゃ僕らでも、無理かも」


 ショナさんの魔剣が影を切り裂くし、桜木様は容赦無く人間を切り倒すし。


 なんてったって僕ら土蜘蛛族は、桜木様を殺すつもりは無いから、無理だ。




 土蜘蛛族と思しき人間達を倒し、蜜仍君すら切り捨て、とうとう桜木花子と祥那君、アレクだけが残った。


 本当にこのままだと消耗戦に、そして桜木花子が無敵だと証明する事になってしまう。


 誰も望まない方向に。


《大丈夫じゃよもぅ、心配し過ぎじゃ》

『ハナの精神もだ、問題無い』

『そんなに心配なら、連れて行ってあげようか?』

《ロキ神、対価は如何ほどですか》


『今回は無償だから大丈夫、そろそろ俺も会いたいし』

《あぁ、アナタは姿が隠せないんでしたね》


『うん、で、来ないの?』

《アナタが来たので、しかも無償なので行くのを躊躇ってるんです》


『大丈夫、サクラちゃんの為だから』

《そこが不安なんですが》

《もう、強制連行で良かろう》

『だな』




「こう、最終決戦感が凄いんだが。倒される自信皆無なのよな」

「ですよね、僕もこうなるとは想像してませんでしたし」

「俺も」


「魔剣と槍でな、形勢逆転よ」

「どうしましょうかね、隙きを作って下さいアレク」

「無茶言う」


「変身して、魔剣交換しあうのはどうよ」

「良いなそれ」

「そうしときます」


《ヒントを与えてどうするんじゃ》

『まぁ、圧勝し過ぎなんだ、問題無いだろう』

「蜜仍君も生き返らせてあげて」

【はい、お帰りなさい】


「ふぅ、良いんですか?倒しちゃいますよ?」

「おう、変身して魔剣交換しれ」


「はーい」




 桜木がエリクサーを飲む間に、蜜仍君が生き返った。

 そして全員がショナ君に変身、それぞれに魔剣。


 もう、誰が誰か分からん。


「これで終わるんすかねぇ」

「どうだろうな」

「投票さえ終わってくれたら」

「それでも、桜木様は止めないかと」


 3対1ですら止まらない、いや、3対2か。

 僅かな槍と盾と、魔剣、魔道具だけでこうも運動音痴が戦えるかよ。

 精霊の補助が有ってもだ。




「ヤバいな、筋肉痛確定だ」

「桜木さん、舌を噛みますよ」


「治せばええねん」


 桜木さんは、本当に運動音痴だったんだろうか。

 盾や精霊の補助が有るとは言え、ココまで。


「キッつ」


 鎌を持ってるのはアレク、息を切らせて、体力が1番無い。


「へなちょこ」


 案の定、狙われた。


「ヤベ」

「アレク、白旗を」


「へい、すまん」


 直ぐに戦闘続行へ、桜木さんも体力は無い筈なのに。

 自己治癒だろうか。


 倒さなければいけないのに、どうしても、傷を付けたく無い。




 桜木がジリジリとショナ君を追い詰め。

 まだ続くのかと心配していると、桜木の主治医ネイハム先生がロキに抱えられ、桜木の前に降って来た。


 何ともアホだ、見惚れて背後を取られ、制御具を付けられて。


 マジでバカだ。


「バカだ」

「もう、終わりよね?」




 目の前にはフリーズする桜木花子。

 制御具を付けられ唖然としている、ですよね、不意打ちですし。


《どうも》

「ズルいぞ」

『まだ、出来るでしょ?』

「桜木さん、まさか」


「出来るんだよなぁ」


 桜木花子の胸元から、次元を引き裂き精霊が出現した。

 そうして解除魔法により、制御具は外れ。


 完全無欠、無敵の召喚者は、倒れた。




 桜木さんが倒れるのをロキ神が受け止めると、一斉に神々や精霊が現れた。


 神様に囲まれる桜木さんを見て、従者の使命を思い出した。


 楔、召し上げを望ませないのも従者の仕事。

 ココの人間の代表として、人の側に留め置く事。


 審判員と共に近付きバイタルチェック、終了の合図と共にリズさんが駆け寄り、優しく頬を叩いている。


「おい、生きてるかバカ」

「バイタルは、容量以外は正常です」


「おい、起きろ桜木」

「ハナ」

「桜木さん」


「…負けたのか」

《じゃの》

『投票も決まった、介入は、可決された』

「バカ桜木。あの、何処に居らしてたんでしょうか、神様達は」


《おうリズ坊、ずっと居ったぞ?なぁ?》

『あぁ、コヤツには黙っていろと、な』

『あぁ、それは私です、すみませんね』

「すまん、何かの作戦かと」

「はぁ、良いんだ、お前の傍に居てくれてたなら」


《離れるワケが無かろう?なぁ?》

「だそうで、すまん、倒れて」

「良いんだ、全部終わった」

「うん、終わったのよ、お誕生日おめでとう」


「誕生日おめでとう、桜木」


「ありがとうリズちゃん、スーちゃん」


 リズさんも鈴木さんも、泣きながら抱きついて。


「良いんすか?どさくさに紛れてこぅっ」

「邪魔したら賢人でも殺す」

「ですね、何度も死んだら怒られますよ。桜木さん、ご遺体を出して頂いても?」


「あぁ、ごめんね天使さん」

【問題無い、おめでとう】






 桜木は安静が必要との事で、国連の人間をそのままに、皆で浮島へ。

 女子達が温泉に行っている間に、続報がタブレットに通知されまくる。


 不穏分子は当然逮捕、各国でも逮捕者が続出。

 不正アクセス者も神々や精霊が逮捕に助力し、全てが逮捕されたらしい。


 主犯は無色国家の人間だとか、理由は桜木に聞かせるまでも無い、下らない妄言ばかり。


「呆気無いな、神々に頼り過ぎなんだろうか」

《お主らの限界を超えた地点からのみ、助力したんじゃ》

『かと言って、限界点を越える努力は、怠らないだろう』


「だけどさぁ、桜木を守るには人間だけじゃ無理って事なんだよな」

《可能じゃが、それではハナの自由が守られん》

『それは本望では無いだろう』


『バランスですよ、バランス』

「だけじゃ無いんだろソロモン神、土蜘蛛族とはいつから」

『初期だな』

《誰がどうと言うよりは、皆でじゃよ》

『マジマジ、俺だけじゃ無いって言うか俺は殆ど関わって無い、マジで。嘘は言えないし、姿消せないし、殆どヘルヘイムだったし』


「はぁ、ショナ君、どう思う」

「ホッとしてます、桜木さんは200日の労働だけで済むんですから」

「もう少し減らしたかったんすけどね」

《今年はどうしても忙しいじゃろ、毎年恒例にしたら良かろう》

『今度は3月31日に、365人か』


「いっそ、220人から始めませんか?」

「そうっすね、日数的には一般的ですし。半分は土蜘蛛さん達にお願いしましょうよ」

「は、お前も頑張れよ」


「無茶っすよ、滅茶苦茶、手加減されてたんすよ?」

「どう」

「頭は狙いませんし、四肢だけですから」

「それな、胴体も大したの来なかったしな」


「動けないかよ、元魔王、てい」

「やめ、体力無いんだ、マジで筋肉痛」

「そこも不思議っすよね」

「無茶して内臓が傷んで無いと良いんですが」


「ふぇーい、交代やぞー」

「桜木さん、検査しに行きましょう」


「断る、エンキさんの所に行く」

「お、マジか」


「おう、じゃ、行ってくるでよ」




『無茶をしたな、内臓がボロボロだ』

「すんません」


『全部、ちゃんと治すんだな?』

「はい」


『分かった、直ぐに済む。しっかり深く、眠るんだ』


『すまんな、いつもこう、急にでな』

『構わん。そちらでは手が掛かる程、可愛いと言うんだろう』


『あぁ、嫌いな諺らしいが、その通りでな』


『あの、エナはどうするつもりだ』

『直ぐに自然に還すつもりだが』


『勿体無い、面白いじゃないか』

『やめてくれ、制御が大変なんだ』


『そこもどうにかしてやる、何なら他のにやらせるが』


『少し、考えさせてくれ』

『ダメだダメだ、もう片方は乗り気だぞ』


『世界が、繋がった弊害か』

『何を言う、恩恵だろう』




 さようなら義手、お帰り月経周期。

 まだとは言え、もう憂鬱。


「ありがとうございました」

『ほら、飲め…憂鬱になるには気が早過ぎる、半年は周期が整う事は無いだろう』


「余計に憂鬱」

『精々無茶をせず、体を労る事だな』


「へい」

『だが、無理そうだな』


「いや、労りますマジで」

『これから200日、働くんだろう。寝る時だけ戻していても問題無い、不正出血は労働には適さないだろう』


「いや、普通は」

『もうお前は普通の立場では無いんだ、それとも普通に悪を見付けたら通報して終わりか?印籠を持ってして救いたくは無いのか』


「え、観ました?」

『あぁ、ああ言うのは大好きでな、話を聞きたがっているのも多いんだぞ』


「いやぁ、印籠ねぇですよ」

『中つ国の玉をベースにな。ホレ、好きなんだろう、こう言うモノが』


「神様がヲタクに」

『若しくは裏、影の、必殺仕事人でも構わないぞ』


「好き、したい、めっちゃしたいけど」

『無闇矢鱈に使えと言う事じゃ無い、使うかどうか。後はお前次第だ』


「そんなに悪が有ります?」

『お前が置き去りにした事件、あんなのはザラに有る。罰してくれと願われなければ、訴えが無ければ、人も神も何も出来ん』


「忙しくなるのでは」

『お、しっかり休む気では有るんだな?』


「正直、救う価値が無い人間に会いたく無い」

『そこもだ、お前が選べば良い。あの従者を巻き込め、良い相談相手になる筈だ』


「巻き込むの前提?」

『そらそうだ、観測者が居た方が面白いんでな』


「面白さ」

『あぁ、面白く無い事をして何になる。良い事は

 楽しい、楽しいは良い事だ』


「喜ばせられるかどうか」

『そうでは無い、御老公は観客を喜ばせる為だけに悪を探してはいなかっただろう、ふとした時に悪を見付け、ただ助力する。あざとさは嫌いなんでな、真実だけで充分だ』


「何もしないかも」

『それはそれで構わない、お前はモノを飾るのも好きだろう』


「見てたらしたくなる」

『そうだな、寝室には飾るなよ』


「はい、ありがとうございます」


 寝ていたのは30分も無かったらしい、浮島に戻り再度風呂へ。


 ミーシャに頭を洗って貰いながら、体を洗う。

 凄い代謝してんの、明日にでもハマムかしら。




『ハナさん、良かった、お疲れ様でした』

「お、ノーハグで、体を戻したので」


『あ、はい、お誕生日おめでとうございます』

「ありがとう」


『髪は戻さないんですか?』

「式典用に、カツラ有るし」


『もう試着はしました?』

「あ、何にも、体を戻したからなぁ」


『向こうはまだお昼ですよ』

「君は」


『もう少しで寝る時間ですけど、今日だけダメですか?』

「パトリック」

「今日、少しだけですよ。我慢して大演習に出なかったご褒美です」


「それは御せないわ、ありがとう、我慢してくれて」

『ハグも』


「紫苑なら大歓迎、寝る時だけで良いんだって」

『本当ですか?じゃあ、今度で。皆さん待ってますし』


「嫌な予感がするんだ」

『お誕生日パーティーの事ですか?』


「歓迎とかマジで無理、どう反応したら良いか分からん」

『様子見してきます?』


「頼む、一服してくる」


《ビビりめ》

「うっさい。ありがとう、なんてフルスマイルできんわ」

『もう逃げ出すか』


「問題は何処に、よなぁ。行ける所は何処?」

『何処へでも自由に行ける』

《そうじゃよ、ハワイだって何処へだってのぅ》


「無色国は不味いだろう」

『そこはな、大使館を最初に通さねばならんが』

《始めて行く所もじゃが、それ以外は自由じゃ》


「ハマム」

『構わんよ』

《じゃが、時間が遅いぞぃ?》


「ぐぬぬ」

『ベガスかハワイでしょうねぇ』


「ベガスですよねぇ。ソロモンさん、作戦は順調ですか?」

『はい』


「先生を連れて来る作戦、アナタだろう」

『どうしてこう、バレるんでしょうね?』


「当てずっぽう、ロキならもっと直接的に何かしそう」

『口にすると来ちゃいますよ、ほら』


「なに」

『警戒しなくても大丈夫だって言おうかって』

『そうですよ、ケーキは有りませんでした』


「誓って?」

『はい、誓います』

『それともケーキ欲しかった?』


「普通のケーキは好き」




 桜木さんが、やっと小屋に戻ってくれた、ココで誕生日会をしないのは正解だった。


 蜜仍君、ミーシャさんはそのままお昼寝へ。

 本場はこれから。


「警戒し過ぎですよ桜木さん」

「だって、誕生日だし」


「今日はお休みの日ですけど、どうしますか?」

「働く場合は?」

「お前なぁ」


「例えばよ、一応」


「一応、ですね。休日の調整、式典用の服を作るか、体が戻ったそうなので検査か。家の事も決めないといけませんし、紫苑さんの身分証の再考。義手に義体。移民や移住先の視察や話し合い、浮島に特殊な植生を生やさないといけませんので、専門家に意見を聞き、どう織り物に活かすか等々」


「あれ、忙しい?」

「はい、それなりに」

「そうなんすよ、本当はもう少し休んで欲しいんすけど、あんまり休みを増やすと詰め込みになっちゃうんすよね」


「ひゃー、助けて」

「よしよし、一緒に頑張ろうね」

「だな、なんとかなる」


「完勝してたら」

《それは無いじゃろ、あんな間抜けな作戦に引っ掛かりおって》

『だな、最初は正気を疑ったが』

『俺じゃ無いよ?賛成はしたけど』

「全く。最中もだし、もう少し真面目に」


「拝まなかった理性を褒めて欲しいわ」

「正反対だものね、分かる」

「分かっちゃうのかよスーちゃん」


「何で分からないの?」

「え、俺が悪いの?」

「悪い悪い。いつから通常勤務?」


「いつでも、ただ1日は丸々お休みの行動をして下さい」

「じゃあ2日から勤務にして、後々に仕事を残したく無い」


「そこは、コチラで多少調整しても?」

「おう、頼む」


「では、今日は思うがままにどうぞ」

「困る、自主性が無いんだよ、ナイス歯車やねん」

「虚栄心さんは?」

「あぁ、待ってるかもな」


「怪しい」

「大丈夫よ、なんもして無いから」

「おう、少し覗けば分かるだろ」


「どれ」




 何も無し、服も飾って無いし。


《上じゃろ》

「あぁ、ちょっと行ってくる」


 螺旋階段を登ると、ただただボーッとしてる虚栄心。

 虚無じゃん。


「あら、戻ったのね」

「おう、店戻さないの?」


「戻すけど、もう、心配で心配で」

「ごめんね、ありがとう」


「お誕生日会はどう?」

「まだして無いが、有るのか」


「普通はするでしょう、祝わせなさいよ。色欲も待ってるわ」

「皆が浮島で待ってるんだが」


「あら、じゃあ呼びなさいよ、少し回りましょう。着替えてから」


 優しい、それだけ心配掛けたって事よな。


 服や道具を完全に戻した後、着替えさせられた。

 マトモ、おっぱいが気にならない大きなフリルのグレーのブラウス、黒いスカート、黒いタイツも。


「あんな、ブカブカの服を着るから、デブになるって、あのクソ親。コルセット欲しい」

「痩せ狂信者ね、見栄っ張りの高プライド馬鹿に良く有るのよ。コルセットなら可愛いも綺麗なのも沢山作ってあげるから、さ、行きましょう」


「うん、ありがとう」


 欲しい言葉をくれる人だけを、周りに置くのは良く無い。

 誰か候補を探さないと。




 桜木や皆と共に開店前の色欲の店へ行くと、美食が待っていた。

 そのまま軽いパーティーへ。


 美食は俺の想像するドリームランドのおじさんに見えるが、桜木の反応は普通。


 なら父親コンプレックスが、ウブとして現れてんのか。

 良いのかねコレ。


「「先生」」

《リズさんに桜木さんに、私、モテてるんでしょうかね》


「すまん、桜木に譲る」

「いやいや、後でも良いし」

《では、先ずはリズさんから》




「父親コンプレックスが、ウブ好きとして現れてんのかね」

《支配されるかするか、ウブなら支配はされませんからね》


「歪められたなら、正すべきなんじゃ」

《それ以前の記憶も観ましたが、少し世話好きなだけですよ。似た年の子をおぶろうとして失敗したり、1番人気の子を好きになったり、まぁ、普通です。背の高い人間や、男らしい方を忌避する事は、支配層になったんですから慣れるでしょう》


「良いのか」

《問題を問題と思わない状態で手を出すのは悪化させるだけですから、相談を受けたらまたお話し下さい》


「おう」


《では、桜木さん》


「欲しい言葉をくれる人しか傍に置かないのは良く無いと思う、誰か居ない?」


《ストイックと言うかドMと言うか、厳しい言葉が欲しいんですか?キツい事を言って欲しいんですか?》


「両方?」

《少しは楽しむ努力をして下さい、そんな事を考えるのは2日になってから。忘れるのが嫌ならメモするか祥那君へ、心配なら後日、頼り方の勉強をしましょう。足りませんか?》


「もうちょっと、キツめで」

《マゾですね》


「そうじゃない」

《それ位の笑顔で充分ですよ、まだフルスマイルは難しいでしょうから》


「凄いな、不安が読み取れちゃったか」

《一服中にも凄く顔や口元を弄ってましたからね、そこからですよ》


「それは気長にお願いします、ありがとう」

《はい、ではもう行って下さい》




 桜木さんがネイハム先生と話をしてから、少し雰囲気が変わった。

 やっと切り替わってくれたらしい、食事もお酒も普通に摂ってくれている。


「アカンな、絶対に寝る、そして数時間で起きる」

「便利な目覚ましだな」

「私も何か欲しいなぁ、暗いと寝ちゃうし明るいと起きちゃうし」


「いや、そっちの方が便利でしょうよ」

「だよな、旅行向きだな」

「ハナは鍵が有るじゃない」


「ズルっこ、無い方が健全ぽいよな」

「そう?文明の利器とそう変わらないんじゃない?」

「広まればな、少し先のテクノロジー。独占が嫌なら開放すれば良いだけだろ」

「そうですね、良い事を広めるのは良い事かと」


「医学の妨げでは」

「そうして置き去りになる患者はどうなるんだ?薬が効かない、お前みたいに副作用に振り回される人間はどうなる。ココでだって新薬開発には何年も掛かるんだぞ」


「どうしたって新薬や治療法の開発をする人は居る、逆に直ぐに諦める人も。途中から開発に行く人だって居るかも知れないし、良くなった人から良い作品が出るかも知れないじゃない」


「映画を観せた弊害か」

「恩恵よ、恩恵」


「どうしても反対意見が聞きたくなる、先生に言ったら明日にしろって言われたが」

《はい、是非そうして欲しいんですが、無理そうですね。お2人の2日のご予定は?》


「日本時間に合わせるだけだ」

「ハナ、春休みって知ってる?」

『僕も今そうですよ』

「桜木さん、一応、お3方はまだ学生です」


「絶句、そうか、でも大人には無いだろう」

「ご家族が居る方は休暇を取る事が多いんですよ」

「サクラ、俺の事も忘れて無い?白雨も」

『一応、従兄弟』


「いや、3親等やし」

「仮でも、血だけでも、家族は家族。なりたくてもなりたくなくても、家族」

『どうするかは任せる』


「問題が山積みでは?」

「はい」

《こう、気を逸らすには?》

「寧ろ、予定を決めた方が早いだろうな」

「黙って何かしちゃうかもだし」


「ハナったら、すっかり読まれて、大丈夫なのかしら」

《ふふ、それで良いのよ、ね?》


「まぁ」


「それで、紫苑の誕生日はどうする」

「職業もね」


「それ、私に良い考えが有るんだけれど、聞いてくれるかしら?」




 花子としての職業の候補には、警察の内務調査班、もっと言うと公安の内調。

 紫苑は、現金支給のみの日雇労働者、派遣社員だと会社作らないと勤務記録がどうとか。

 ギャップよ。


「ギャップ、えっぐぃ」

「それ位は無いと、普通じゃ変なのばっかり来ちゃうだろうって、色欲とね」

《ふふ、それでも来るのは本当に好意が有るか、本当にヤバいヤツか。どうかしら?》

《良いと思いますよ、本人次第ですが》


「実際の?人に言う方?」

「嘘は嫌でしょ?両方よ」


「マジで過労死しちゃう」

「そこは、何とかなるわよね?」


「はい。場合によっては非常勤と言う特殊形態ですので、問題無いかと」

「名前も、楠とかも使えるんで大丈夫っすよ」


「名前も顔も出ているので、個人情報保護です」

「リズさんも、ちゃんと守られるんで大丈夫っすよ」

「ありがとう」

《チョロいわぃ》

『だな』


「はいはい、もう良いでしょう?食べて飲んで」


 食べて飲んで一服して、皆が楽しそうにしているところを眺める。


 マティアスが居たら、せいちゃんが居たら。

 何処に座って誰と話すか、何を話すか。


 現実逃避かコレ。

 整理する時間がマジで必要だコレ。




「なぁ、何考えてると思う」

「んー」

「誰かがココに居たら、どうしたのか。かしらね」

《かも知れませんね、私からは見えませんので》


 桜木は第3世界で良くあんな風に皆を見ていた。


 距離を置く為なのか、俺達の事を考えていたのかまでは分からない。

 ただ、良く見えていた事までしか分からない。

 キラキラ、綺麗な世界。


「ふぅ、もう酔ったかも知れん」

「早いなおい」


「くっそ運動したんやぞ?体も元に戻ったし、そのせいか?」

「あぁ、それもそうだな」

「なら私達は浮島でお花見しましょう、綺麗なのよ」

《あら、良いの?》


「うん、エミールも、一緒にお昼寝しようか」

『はい』




 これじゃあ地上の家なんて考えられないわよね。

 夜明けの桜なんて、贅沢過ぎよ。


「はぁ、景色と居心地良過ぎよ」

《素敵ね》

「はぁ、だらけちゃう」

「暖かいと眠くなるな」

『僕も、暖炉はズルいですよね』

「待て待て、布団出すから」


「爆睡しちゃうぅ」

「ちょっとだけちょっとだけ」

『おやすみなさい』


「凄いわね、子供って」

「即落ち」

「桜木さんは良いんですか?」


「ソファー、ほら、収まりが良い」

「本当にちっさいわねぇ」


「スベスベを出して、ストッキングを脱ぐ、ヌイグルミ、はい完璧」

「はいはい、スベスベね、良い子良い子」


「寝ちゃいましたね、多分、最速です」

「戦うわ体を治すわ、忙しかったものね。頑張ったわね、お疲れ様」


「いえ、手加減されてましたので」

「あら、そうなの?」

「基本は四肢だけ、頭と胴体は無しだったんすよ」


「あぁ、そう言えばそうね。じゃあ、ある程度の人間はもう気付いちゃってるわね」

「ですね、でも可決されましたから」

「ただ、土蜘蛛族はアレで半分らしいっすよ」


「そう言えば、あの子はどうしたの?」

「寝てます、向こうで」

「また鍵っすよ」


「介入万歳ね」

「はい」

「ふぁ、俺も昼寝して来ます」


「はい、ミーシャさんをお願いしますね」

「うっす」


「アナタは良いの?ミーシャちゃんが来るでしょ」

「護衛人数が多いので」

《では、先の予定を一緒に考えましょう。プレゼントはどうしましたか?》


「靴、買ったの?」

「それが、買って無いんです。もっと他に良いモノが有るんじゃ無いかと、悩んでしまって」

《例えば?》


「キャンピングカーをと」


「あら、高価で大き過ぎよ」

「ですよね」

《靴でも大丈夫かと》


「でも、履いて貰えると思います?」

「あら、あらあら。他に候補は?」


「パジャマをと、ただ、意味がちょっと」

「脱がせたいって、馬鹿ねぇ、パジャマは大丈夫よ」

《それにもう、そう入院する事も無いでしょうし、良いと思いますよ》

「良いじゃんね、白雨は?」

『毛布』


「それも悩んだんですよね、絶対に使いますし」

「ふふふ、目指すはキャンピングカーなら、徐々に大きくするのよ。そうして大きいプレゼント、高価なプレゼントを受け取らせるの」

《イベントは沢山有りますからね、紫苑さんの誕生日にクリスマス、バレンタインにホワイトデー》

「渡したらダメなのって例えば?」


「んなモノは本来は無いんだけれど、特にハナは入院してたって、好きな花なら鉢植えでも喜ぶわよ」

《語呂合わせが殆どですから、深読みするかどうかですね。酷いとただの妄想、言い掛かり、こじつけですから》

「下着なら?」


「衣類はね、それを付けた姿が見たい、脱がせたい。靴なんかは」

《踏んで欲しいって、凄い高いのをくれた子も居たわね》

《ですがそうやって意味を考え出したらキリが無いんですよ、ですのでもう、好きな様に贈るのが1番ですよ》

「鏡は、絶対に嫌がるしな」

「意味も良く無いですし」


「櫛は?」

《古くから、婚姻の意味が有りますが》

『それこそ、そんなモノを気にしていたらキリが無い』

《じゃの》

「でも、ソレはねぇ」

「コレは、誂う為に、付けられただけですし」


 あら真っ赤、変わったのね。


『俺も有る』


 残念な気持ち少し、そして少しホッとして、まだまだね。


「まだまだね」

《そうですね》






 朝の9時近く、晴天。

 白雨とアレクはお昼寝。


 お外でダラダラ、ゴロゴロ。


 色欲さんの提案で、耳かきして貰う事に。


「天国」

「だろうよ」

「次は私もー」


《はい、じゃあ反対》

「ありがとう、反対は虚栄心やって」

「比べないで頂戴よ、向こうはある意味プロなんだから」

「確かに、エロくないけど、なんか凄いわコレ」

「語彙力が減る魔法付きか」


《ふふ、成人したらいつでもどうぞ、アナタも》

「私、財産全部溶かしちゃうかもぉ」

「おい、マジでヤメろよ」

「あ、後見人は誰なの?」


「ガーランドさん、お祖母ちゃん欲しかったの」

「あぁ、素晴らしい選択だわ、良いね」

「柏木さんは利益相反っつうか、柏木さんの利権がデカくなるから止めたんだよな」


「そうそう、最高のお祖父ちゃんだと思うのよね」


「ガーランドさんがお祖母ちゃん、柏木さんがお祖父ちゃん。魔王がお父さんで、ロキはお母さん」

「やべぇな、リアルでそうだったら」

「魔王のサラブレッドよね、凄そう」


「ナニがよ」

「何でも出来そう」

「もう出来てるしな」


「実はロキと魔王の隠し子でして」

「それってどっ」

「止めろスーちゃん」

《ふふふ、じゃ、次はリズちゃんね》


「いや、俺は別に」

「ふふ、大丈夫よ、心地良いだけだから」

「魂は抜かれないから大丈夫」


《あら綺麗、お母様ね》

「そこまで分かるのか、大罪って」

「経験よ、経験」

「虚栄心さんも上手、幸せ」

「さっきの撤回するわ、魔王がお母さんでロキがお父さんだったわ」


「じゃあ、魔王が」

「スーちゃん」

「同時に存在しないで良かったわ、平気で絡みそう」

「あら、アレクが居るじゃない」


「違うんだよね、良く似た他人」


「色欲。アンタが分離する前を想像しただけでも恐ろしいんだけど、どんなのだったのかしらね」

《そうね、もっと影が有って、ギラギラしてて、モテモテだったわね》


「なにそれ超見たかったんですけど」

「確かに、誰の記憶を覗けば?」

《私、良い思いをしてる記憶も有るから大丈夫よ?》

「マジかよ」


「つまりそれ、成人指定なんだよな」

「えー、じゃあ観れ無いじゃなーい」

「モザイクとか出来無いのか、強欲さん」

『モザイクでもダメだろう、10代にもなって無いんだ』

「そうよ、全面モザイクで音声無しでも無理じゃ無い?」

《そうね、でもそれじゃ何が何なのか分からないんじゃ無いかしら?》

「あのー、先に検閲させて頂いても」


《ちょっと、アナタには、キツ過ぎると思うわよ?》

「お、真っ赤だ、記念撮影」

「私も」

「俺はもう撮った」

「もー」


「冗談だよ、半分」

《縄は今度教えてあげるわね》

「俺もー、教えて」


「アレク、なぜ」

「サクラが好きなら覚えたい」


「危ない行為にもなるからアカン」

「普通のはもう覚えた、船とかの」

《ソレとそんなに変わらないから大丈夫》


「もー、ダメ、ワシだけ覚えるの」

《練習相手が居た方が早いわよ?》

「だって」


「もー、でもダメ、相手は探す」

《そうね、お相手との相性は大事、じっくり探しましょうね》

「ねぇ、相性って?」

「スーちゃんグイグイ行くのな」


《アッサリが良いならアッサリした人と、後、物理的なサイズの問題ね》

「だけなの?」


《だけよ、足り無いは道具で補えても、探究心に違いが有り過ぎたら、結局は心が離れちゃうから》

「色欲の見解よ、鵜呑みにしないで頂戴」

「いや、感心したと言うか、凄いカウンセラー感が有る」

《私もそう思います、しかも完全に経験からの発言ですからね、重みが違いますので》

「じゃあ、繋ぎ止めるには?」


《我慢だけでも長続きしないわ、相手をどんどん許せなくなって、いつか爆発してしまう。相手は満足させられない不安から猜疑心が出て、そして亀裂が入って終わる。誰かが死ぬ事も有るわね》

「逆も、有るわよね」


《強い者に阿って我慢を続ける、でも相手は満足出来無い、果てはお互いに我慢する、そうして見放される事を恐れ、尽くし続けても、捨てられるか》

「殺すか、自死か。血腥いのよね、周りが」


《そうなの、私はどんな事でも満足出来るのに。伝えてる筈なのに、不安になっちゃうみたい》

「馬鹿な人間との呪いよ、弱い子は勝手に不安になるの」


「今はこうして接してるから、比べたりしないだろうって思うけど、好きから入ると比べられる不安が出ちゃうんだろうね、分かる」

「あら」


「母親が、酔っ払って良く愚痴ってた、比べられた話を」

「プライド高い両親ねぇ、その癖に馬鹿なんだもの。うん、ロキ神と魔王の隠し子が世界を超えてチェンジリングされた事にしましょう」

「そろそろね」

「だな」


『体調はどう?』

「元気。ロキがパパで魔王がママって事になったんだが」


『え、接点無いのに?』

「理想よ、理想。隠し子が世界を超えてチェンジリングされたって事にしましょうって」


『えー、パパで良いの?』

「ん?召し上げはパパ予定では」


『近親婚は良く有るし』

「ぉおん?それは、親戚の叔父さんに格下げします」


『やった、堂々と結婚出来ちゃうね』

「マ、マーリンに似てるよね、第2世界の」

「もう、アンタ、マティアスって言っちゃいなさいよ」

「あぁ、何かデジャヴが有ったのはそれか」

「確かに、マティアスさんなら割って入ってくれそうね」


「すまん、勝手に口から」

「良いのよ、心の中に居て当然なんだから」


「いや、花子は湿っぽくなってイカンな」

「ダメよ、今日は花子の日」

《飄々と何事も無かったみたいにされる方が不安ですよ、一応、命を狙われたんですよ?》


「あぁ、アレ、マジなのか」

「あらあら、情報封殺の弊害ね」

「神々や精霊否定派のマジもんが中枢にまで入ってたんだ、で、逮捕された」

「自治区を扇動したのもソイツららしいの」

《一掃したぞぃ》

『チョロい、だね☆』


「てっきりだわ、あら」

《もしかして、神々や何かの演出と?》


「狙撃って派手な演出だし、あら、マジで?」

《マジですよ》


「こわっ」

「処理速度バグってんな」

「良かった、ある意味正常よね?」

「そうね」

《ですね》


「やべぇな、ウケる」

《コレも、正常範囲内ですね》


 そして今度は蜜仍君を起こし、ハワイへ。

 フィンが使える離島の海へ。




 もう体力が回復したらしく、桜木さんが離島へ行きたいと。


 ニイハウ島。

 桜木さんは海へ、大罪の方々は浜辺で日光浴。

 リズさんと鈴木さん、ミーシャさんと蜜仍君は海へ。


 桜木さんは、ミーシャさんに泳ぎを教わっている。

 フィンとシュノーケルが有っても、上手にゆっくりクロールしている。


【ショナさん大変、ココにも人魚が】

「え」

「なによ」


「人魚が出たそうです」

「あらま」


 報告によれば金髪碧眼、ピンク色の個体。

 泳ぎを真似て一緒に泳いでいるらしい。


《遊びに来ただけじゃと、そう心配するで無いよ》

「だけなら良いんですが」

「心配なら行って来なさい」


「ミーシャさん、交代を」

【了解】


 ミーシャさんと入れ違いに海へ。


 桜木さんは素潜りでは難しい深さまで人魚と潜っている、届きそうも無い。


 更に遠くにはアザラシ、ウミガメ。


 人魚に教えられコチラに気付くと、手を振った。

 そして人魚と手を取り合い、ゆっくりと上昇。


 そしてアザラシと人魚と浜へ、寝転んだので日光浴かと思ったが、貝を探しているらしい。


 そこに蜜仍君、リズさんや鈴木さんも加わり、日光浴をするアザラシの横で人魚と色貝探し。


 全く、現実感が無い景色が続く。


「桜木さん」

「ん?」


「凄い、非現実的なんですが」

「な、ショナでもそうなのか」


「そんな驚きます?」

「高性能なアンドロイドだと思ってる」

「マジファンタジーだな」


「MF文庫」

「絶対に違うだろ」


「知らんよ」

「マイ、ファンタジー?」

「ファンシー、マジファンシーだな」


 貝が貯まると人魚が指差す場所に置き、休憩に。

 何の問題も無しに、人魚とは解散となった。


 そこからは寝たり起きたり、日本時間は15時、イスタンブールは朝の9時となった。




「桜木さん、エミール君を起こしてケバブを食べに行きませんか?」

「お、具体的で助かる」


 それからは温泉にササッと入り黒髪へ、ベールは無し。

 ショナとアレクは用事が有ると言って、何処かへ。


 コチラはケバブ屋へ。

 貸し切りだ、助かる。


「おう!元気だったかお嬢ちゃん」

「めっちゃ元気、お元気でしたか」


「おう、腹は減ってるか?」

「勿論!」


 流石熟練の職人達、こんな大人数でも捌けるのね。

 つか大罪の顔を知らんのかね、色欲さんにはベール被せてるけど。


「どうしました?」

「このメンツ、大丈夫なのかね」

『アーニァや身柱と似た呪いだ』

《認識阻害の魔法じゃよ》


「マジか」

「はい」


「安心して食える」




 前菜をゆっくり食べ始め、メインが揃った。


 普通の食事会の様な誕生日会。

 桜木さんがある程度満たされた頃、先ずはリズさんからのプレゼント。


「まぁ、引き伸ばしてもアレだ、プレゼントだ」

「マジか、逃げるに逃げられない状況で」


「おう、油断したな、作戦通りだ」


 ゲーム機本体にソフトのセット。

 鈴木さんは移民の皆さんと刺繍した黒いスカーフ、悪縁断ちの願いが込められている。


 次にアレク、万華鏡やプラネタリウムが映し出される投影機。

 白雨は毛布、食べるか触り続けるか迷って、ストレージにしまっていた。


 次に先生、民話集の初版。


 蜜仍君は芍薬の球根、賢人君は万華鏡の製作キット。




 次は待望のショナ君だ、肌触りの良いパジャマ、冬用と春用。

 どちらも薄緑色、桜木は口元を良く拭いてから冬用に顔を埋め、頬ずり。

 マジでフワスベ依存症だと思う。


 そしてエミール君、少し大きな懐中時計。

 日付は勿論、月の満ち欠けや昼夜、そしてイギリスの時間が24時間表記されている。


 正直、コレには全員が驚いた。

 桜木は最初に喜んだかと思うと、高級品だと気付いて困惑していた。

 多分、今回の最高額だろう。


「エミール、コレは、魔道具では無いのよね?」

『はい』


「高いじゃんかぁ、扱うの怖いわ」

『強化ガラスに防水ですから大丈夫ですよ』


「ヤバいな、プレゼントのリクエストを聞きたい」

『ダメですよズルっこは』


「ですよね、ありがとう」


 受け取らせた、無邪気だ、ショナ君なんか少し面食らってるし。

 虚栄心は笑い出すし、凄いな召喚者は。


 そして虚栄心のプレゼント。

 黒いドレス、コレもそこそこ高そうだぞ。


「今度、お店に行く時用よ」

《私は縄と蠟燭よ》


「ちょっとアンタ!お酒って言ったでしょう?!」

《だって、あげたかったんだもの》

「ありがとう、お酒はお店で飲むよ」


 フルスマイルだ、やっとか。


 そしてケーキを持って来たのは、雨宮マキ。

 マジか。


 桜木もショナ君も普通に接してるが。

 まぁ、喜んでるから良いか。


 ケーキを食べ終えた頃、店からのプレゼント、大皿に盛られたケバブケーキが出て来た。


 笑いながら受け取り、マキさんが店の外まで出て通行人を呼び止め、店員含めて全員で記念撮影。

 ケバブケーキで顔を隠して、オモロ。


 だが雨宮マキは仕事が有ると言って、直ぐに帰ってしまった。


 そして次の場所、強欲の美術館へ。


 桜木の好きなミュシャ、連作、花の模写の改変。

 ピンク色の芍薬と第3の女媧、青い蓮はココのイシス神、白い彼岸花は妖精の天華、様々な色の雪割草とシーリー。


『全く同じはツマランからな、君の好きな花にしておいた』

「ちょっとドキドキしちゃってごめん、ありがとうございます」


『あぁ、アレの習作はコレだ、後で見てくれ』

「ありがとうございます」


 ニコニコしながら額縁を撫でている、強欲天才だな。


 次は浮島に戻り、美食の番。


 馬鹿みたいに積まれたデカいお重、桜木がバカウケしてお腹を抱えて笑い出した。


 地面に置いてるのに、桜木と同じ高さなんだもんな。


『君の大好きなモノだけを入れておいたよ、良い事か悪い事が有った時用に、1日1つ。無くなったら何時でも言っておくれね』

「ありがとうございます、じゃあ早速」


 コレもバカみたいにデカいハマグリの酒蒸し、ルービックキューブ状に積まれたステーキ、拳サイズの海老チリ、デザートは可愛いマンゴーのチーズケーキ。


「バカみたいに全部デカいなおい」

「凄い、ヤバい、いひひひ」


 笑ってくれて結構だ。


 そうして今度は神々からのプレゼント。




 スクナさんから合同でと、キノコと山菜と野山の花の寄植え。

 それと仙薬、ですよね。


『ちゃんと美味しいから、飲んで』


「お、マジだ、ありがとうございます」


 そうしていると泉からは次々と魔道具やら何かが飛び出してくる、ナイアスがひたすら申し訳無さそうにしているのだが、どうにも笑ってしまう。


『ぁあ、すみません』

「ふひひひ、大丈夫、いつもありがとう」

《我は?》


「いつもありがとうって、いつも思ってる、ありがとう。クエビコさんも、いつもありがとう」

『あぁ、問題無い』

《くふふふ》

『ハナ、ヘルヘイムにいこ』


「エナさん、もう死んじゃうの?」

『違う、ヨモツが呼んでる』


「マジか」

「行ってらっしゃいよ、好き勝手して待ってるわ」

「だな」

「次のプレゼントを考えないとだし」


『一緒に行こう、サクラちゃん』

「おう、普通に案内しておくれよ」




 サクラちゃんとエナ君、ショナ君も連れてヘルヘイムへ。

 泉を通り橋を渡り、ヘルの宮殿の中庭へ。


《いらっしゃいハナ、おめでとう》

《おめでとうって、私が言って良いのかしら》


《大丈夫よ、ね?》

「はい、ありがとうございます」


《それで、私達は何もあげられないから、コレがプレゼント》

《喜んで貰えると良いのだけれど》


 2人がエナ君に触れ、暫くの死を取り除いた。

 驚いたのはエナ君。


『オモイカネ神でも驚くんだねぇ』

『うん、断る間が無いのは本当なんだね』

「断ろうと思ってたの?」


『うん、エンキ神からもクエビコの伝手で提案されていた。けど、クエビコが悩んでて』

『ワシだけではあるまいよ、お前も悩んでいたろうに』


「なぜ」

『受粉させられるし』


「あー、ワシが子孫残さないで済むな」

「え」


「ダメ?」

《ダメに決まってるじゃないの、もう》

《そうよ、アナタの血でもアナタのじゃ無い、もう別種なのよ》

『ミーシャちゃんが拗ねちゃうよ、ショナ君だって、残念でしょう?』

「桜木さんが嫌なら、無理強いは出来ません」

『嫌じゃなくせば良い』


「まぁ、じゃあ何が問題か」

『家族になっちゃう』


「今更、短命で死なれる方が嫌だわ」

『勝手に作った命なのに』


「命って勝手に作られるもんでしょ、子供の同意な。コレは親の同意無し?」

『うん、だから生殺与奪権は君に有る』


「奪いません」

『遺伝的にはほぼ曾孫だけど良い?』


「あぁ、もうお祖母ちゃんか」

『だから、子供が居るかどうか悩んだり、罪悪感は感じないで欲しい』


「現にほぼ曾孫が居るんだし、ってか、強引」

『ごめんね?』


「あざと可愛い、許すかは保留で」

『えー』


「時間をくれ、せめて来年まで」

『うん、それまでは家族?』


「毎年、更新の契約するか精査しようか」

『スポーツ選手みたいだ』


「頑張り給えよ」

『うん』


「ありがとう、ヨモツさん、ヘル」

『じゃあ俺はコレね』


「指輪」

『うん、召し上げられたくなったら付けてね』


「だからそれは、どのスタンスなのよ」

『サクラちゃんが望むスタンスで迎えに行く』


「ヘルさんや」

《問題無いから大丈夫、どのスタンスでも。ふふ、お母様なんて言わないわ、ハナはハナ。あ、シオンでも良いわよ、大丈夫》


「度量が」

《ヘルヘイム並みに大きいの》

《黄泉の国と繋がる程に、実質無限ね》


《そうね、ふふふ》


「ショナ君」

「はい」


「受け取ったら弱くなりそうなんだが」

「預かりましょうか?」


「あ、良いねそれ、お願い」

《残念ねロキ》

『待つ待つ、全然待つし』

《ただ待つだけじゃ無い筈よ、気を付けて》


《流石ヨモっちゃんね、すっかり把握してるわ》

《こう毎日居たらね、いつもありがとう》

『いえいえ』

「多分、ロキが返事する違う」


『まぁまぁ』




 桜木がロキと共に出掛けて直ぐに作戦会議が始まった、先ずは雨宮マキの事。


「エミール君、どう見えた」

『不思議な位に、普通でしたね』

「ね、気配も感じられ無かったわね、色欲はどう?」

《どうかしら、お仕事のプロなら出さない場面だから》

「神様達は?」


《過度な介入じゃから無理じゃな》

『対価が必要になるだろうな、両国への』

「だよな」

《私は、もう少し見たいのだけれど。そうね、呼ぶのはどうかしら?ベガスはやっと1日よ》

「良いわね、そうしましょ」

「おぉ、行きたけどぉ」


《残念、未成年は入れさせられないわ》

「「「えー」」」

『ですよね』


 だよな、エミール君は勿論、俺も蜜仍君もスーちゃんも、外見と身分証が無理。


 行けるのは白雨、アレク、ショナ君は確定として。

 賢人君か、ミーシャは行かないだろうな。


「私も行きます」

「マジっすか」


「はい、勿論です」


 プロ根性。


「外部の人間は、来るんすよね?」

《怠惰と憤怒が来るわ、それとハナに合いそうな子ね》

「招待客のリストをお願いします」


《えぇ、今回は特別にね》


「なら、通常の場合は教えて貰えないんですね?」

《過度な介入になるもの。ただ、接触次第でリストは送るわ、誰彼構わず送ったらソチラも大変でしょう?》

「おう、ありがとうございます」

「賢人は転生者様の護衛」

「うっす」


「んで、ドレスコードはどうなんだ?」

《スーツでも水着でも大丈夫だけれど、リクエストは有るかしら?》

「ちょっと、水着は勘弁してあげて頂戴よ。ハナならスーツか制服1択よ」


《冗談よ、過保護ねぇ、ふふふ》


 冗談に思えないんだよ。


「お、凄いっすよ、雨宮さんからも参加するって返事が秒で」

「後は、ショナ君の同意だけれどねぇ」

「賛成、すると思う?」

「半々だな、桜木も。エミール君はどう思うんだ?その、飲酒出来る出会いの店について」


『いきなり、そうなっちゃうんじゃ無いんですよね?』

《ごめんなさいね、ならないとは言い切れないわ》


『んー、皆さんはある程度、止めてくれるんですよね?』

「はい、ある程度は」

「ミーシャさん、良いのか」


「もし運命の出会いが有ったなら、止める事は出来ません」

「そうっすね、やべぇのは排除でしょうけど、色欲さんと虚栄心さんが、ある程度は選別してくれると思うんで」

「あら、信頼頂けて嬉しいわね」

《そうね、ふふ。お友達も作れる様に、最大限の配慮はさせて頂くわ》


『なら、僕は反対しません』


 お友達“も”な。

 エミールは気付いてるのか若干複雑そうだが、大人だな、マサコなら大反対だったろうに。

 本当に、戻ってくれて良かったわ。

 すまんなマサコ。


「後は、何を確認すべきだろうか」

《避妊具はコチラも用意してあるのだけれど、ソチラの準備は大丈夫なのかしら?》

「勿論すよ、お渡ししたセットにはフルセットが入ってるんで」

「第3からの帰還後に総入れ替えし、点検済み。だけど、もう1回点検しておきます」


「アイツ、そんなモノを持たされてたって気付いてるんかね」

《どうじゃろなぁ、機会も無かったんじゃし》

『寧ろだ、見はしたが忘れてる可能性すら有るだろう』


「あぁ、ほぼそれだろうな」

《じゃろうなぁ》

『まぁ、取り越し苦労になる事を願っておこう』

「でも、エミール君は本当に良いの?」

『勿論、大手を振って送り出せませんけど、きっとハナさんにとって、良い時間になると思うので』

「はい。エミール様、ちゃんと暴走させない様に気を付けます、ご安心下さい」


『そこは安心してますから大丈夫です、宜しくお願いします』


 いじらしいなおい、良いストッパーだし。

 ストッパーか、でもまさかな、どうだろ。


 いや、もう分からん、世界ちゃんの考える事は分からん。




 普通に、浮島の泉まで帰って来れた。

 やれば出来るじゃんロキ。


「ただいまん」

「やめろ、お帰り」


「穿ち過ぎだわ。エナさんの寿命が伸びました、ヨモツさんとヘルからのプレゼントです」

『それと、俺の指輪も☆』

「僕が預からせて頂きました」


「お、おう」

「はぁ、気が緩んだら眠気が」


「早いが、まぁ、良いか」

「じゃあ、解散で。ありがとうございました」


 エミールは浮島にお泊り、アレクが皆を送り届けてくれるそうなので、温泉から寝室へ。

 コレだけで済んで良かったわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る