第13話 虚数の国
目前の地面が煙立って、砂礫がフロントガラスに散った。
千晃が急ブレーキをかけて、うちはツンのめってバランスを崩して。オマケに千晃はギアをバックに入れた。その後頭部を乱暴に蹴って思い留まらせた。
「何やってんのよ!陽動でしょ。狙ってんなら直撃食ってんの。後ろからばっかヤリたがんじゃないよ!」
この挙動で身動きも出来なかったのがいる。うちの後ろのサードシートにボウガンの矢で縫い付けられている。矢を抜くと大量出血するので処置していない。今でも足元は血塗れ。もう息なんてない、何て使えねぇ。それでもうちの肉体を守る壁にはなってるか。
先方はうちらの所在をジャミングされてる。あのイケ好かない後輩が頑張っているからだ。だから予想されるルートを迫撃砲で蹴立てて、おっかなびっくり後退する瞬間を待ってる。
それをコイツらホントに喧嘩がわかってないわぁ。
ゲームの定番じゃね。
けれどぉ、迫撃砲まで出してきたってことは、もう近くに迫ってきてんじゃね。つまりコレからが本番じゃね。
うちも濱の女やってる。うちの男はもうこれ以上、犬死にさせない。綺麗に散らせてやんよ。うちのRose hipにかけても。
真弓はよくやってる。
伊達にお尻に薔薇を咲かせているわけじゃない。
この好戦的な性格は、好奇心の開花でもある。性交渉においても緊縛拘束やお尻まで、求められるままに応じてきた。そこに粗暴性のスパイスを加えてみた。朱の入ったベリーショートで漢気さえ感じられる。
一方で香澄には特命を与えている。
護衛も4人付けた。むしろ主力だ。
香澄の好奇心は別方向に向いている。彼女は小器用に複数プレイをこなしていた。つまりマルチタスクな能力がある。秘蔵っ子にするなら1番だ。
この二人はかつては恐怖そのものだった。
学校では教員も触れない少女たちだった。いや彼女たちの肌に触れすぎてしまって、それをネタに脅されていたのが正しいか。昔のわたしへの陵辱についてもお咎めなしできていた。
香澄の髪はロングめのボブで、体温の低そうな青白い顔立ちをしていた。見た目にはあのグループにいそうにもない印象。トランジスタグラマーで何もが小ぶりだけど量感のある身体をしていた。ちょっと陥没乳首の感じが似合っていて、可愛いとさえ今のわたしならば思った。
香澄への特命は、却ってアナログな手法で伝えた。
何と手紙であり、作戦発動後は同期もモニターもしていない。書いた内容もデジタルデータを取らず、カーボン紙で複写して封書に密封している。その内容はバイオチップから全てをdeleteしている。
これは情報屋の牟田口の件で思いついた。
磁空領域の闘いには、こんな手法の方が防壁として有効だ。電子データはどこでスキャンされているか分かりはしない。しかも結集ポイントを牟田口に手書きさせてわたしはそれを見ていない。
さあ手駒を全て出した。今のところ真弓の護衛1名の犠牲で済んでいる。ボウガンなんて原始的な武器ほど、わたしの予想をつくものはなかった。しかしそれは日巫女だってそうだろうと思う。
きたよ、北御堂。
ここに初めてきたのは小学生の市外体験だった。
ホント、ガキだったよね。うちにも生理のないウブな時期があって、気になってた男子と隣の席になることを願っていたのだけど。不意に50音順で座れってさ。そのために苗字さえも替えたかった。
震災にも、空襲にも、今回の核汚染にも守られた古都。
ツキのある場所に拠点を構えているって、なかなか通だと思う。
「おいデブのハゲの二乗、こっからが本番だよ。次の路地で車隠すよ。神社があるはずだから、その森の中に置いとくよ。きっと御加護でもあるに違いないよ。昔のうちがお守りを買った神社だし」
境内の鳥居の前に駐車させて、あたりを警戒した。ドローンが監視している気配もない。ここに来るまでにバッテリーでも切らしたのかな。
うちらは散弾銃を持ち、両腰に弾薬を下げて車から飛び出した。
石畳を駆けて本堂の奥に向かう。右手に日焼けしたおみくじが下がる棚が見えた。あの棚の絵馬の中には残っているはずもないけど、やはり胸の奥に見えてしまう。
『みんなが元気で、幸せに生きていけますように まゆ』
若かったな。
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