第12話 虚数の国
植物のようなモノだ。
わたしの意識は今はPCのHDにある。自分で身動きはできない。
しかしながらその状態で、手足以上にあの男たちと真弓と香澄を統御している。そう植物が昆虫を自分に都合よく働かせているように。
そしてわたしはこの地区全体を電源インフラも含めて独立防御を完了した。光回線のメインケーブルから侵入すれば、ありとあらゆるものが己が領域として分離出来る。そう植物が根を張ってその土壌の養分を吸い尽くすように。その範囲は無制限も可能だけど、人間というものは必ず隙をつくるの。
防御の届く範囲は、身の丈に合わせた方がいいわ。千晃のときの経験がそれを教えてくれる。
そしてわたしはオリジナルの那由多の所在をまだ掴めてはいない。あの娘は日巫女の尖兵の筈だ。
防御をするというのは内向きに壁をつくること、それを広域に面で構築しながら個体探知は出来ない。思考のベクトルが相反するから。未来を考えながら過去にはひたれない。それは交互にしかできないでしょう。
けれど。
北御堂のあの施設。そこには可能性がある。
日巫女計画、それは原発再稼働計画どころじゃない。
このPCを統御して、もっと深い知識データを得た。既に原発6基は再稼働しているし、わたしも1基を管理下に入れた。もうこのPCの電源は外部からはシャットダウン出来ない。唯一の攻撃手段を除いて。
次の一手は外へ出ること。
原発1基を中心としてその送電力の安定している地域が、わたしの帝国として成立している。この場所を切り取っているので、一歩でも外部に出ると攻撃を受けるだろう。
北御堂に出るには覚悟が必要。
現実的な武器を集める必要があった。
スキャンして男どもに探索させたが、データに残っている数と実態は差異があった。それでも警察官の持つニューナンブと、刑事の持つベレッタ、機動隊員の持つ散弾銃を収集した。それぞれ弾薬を集めてさんざん練習させたけど、的中率はホントお粗末なもの。だから面を打撃力で抑える散弾銃を主力にした。
それから電動RV、フル充分して予備バッテリーを積んでいけば、北御堂で一戦やらかしても帰還出来る航続力を持たせてる。
そしてわたしは。最終兵器の奪取に努めている。バイオセンサーの爪と牙で幾度の耐性被膜を喰い破ってきただろう。
それは宇宙にあった。
インドラの矢と呼ばれる兵器だった。
静止衛星に搭載されたクロムモリブデン鋼の矢。
レールガンで射出されて超硬度と剛性を持ち大気圏突入中の摩擦熱にも耐え、例え地下数百m単位の核シェルターのなかにいても、地表ごとその衝撃波で抉り出し、摩擦熱を叩きつけて焦土化どころか、県単位の広域で大地を煮え立たせて溶解する。しかも核兵器ではないので、非核三原則にも適合。ふふ、これも自然に優しいっていうのかしらね、もしかしたら石炭の鉱床とか油田でも掘り当てそう。
ただし難点もある。
このインドラの矢にはロケットなどの噴射制御装置がないので、落下地点がそのときの気象や衛星との発射角度で大きくズレ込むこと。ただ焦土化地域が大きいので無視も出来るし、しかも弾道ミサイルと違って連射も可能だ。
正確さを期すのであれば地上から座標を送り、気象データを送って落下ポイントの精度を上げることが出来る。落下速度はマッハ20以上。そのひとはもれなく生還はできないけど。
なぜこんなのを国民の頭上に浮かべているのか。
それはお偉い方のタンパク質脳、Live diskにしか記録されていないか、もしくは日巫女なら隅々まで知ってるだろう。
「いよいよですね」と千晃がデスクについて語りかける。
かつての私の姿を模した電子体を磁空領域に飛ばしてきた。わたしは那由多の電子体でそこにいる。 抱擁をしかけたが、身体がどうしても受けつけなかった。
「貴方には苦労をかけるわね」
寂しげな瞳を労った。
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