第76話 妹キャラ?
「ユリウス、お前、俺がいない間についに犯罪者に・・・」
「ディランさん、冗談でも許しませんよ?」
俺たちがディランの予約してくれた高級宿「朝霧館」に到着したとき、ちょうど数10m先にディランがやってくるのが見えた。そして、合流するや否や、俺と俺が大事に抱えている少女を一瞥し、先程の発言が出たわけだ。
・・・ナツメといい、ディランといい、なぜ、俺がロリコン認定されているんだ!?
ディランに簡潔に事情を話すと、ディランは「ちょっと待ってろ。」と言い、「朝霧館」の中へと入っていった。その数分後、満足した表情で戻ってきた。
「今、女将と交渉してきた。1人部屋を追加で確保できたから、その女の子も一緒に泊まれるぞ。」
「あ、ありがとうございます!」
・・・ディランさん、やっぱ、あんた仏だよ。
ディランと女将さんのご厚意により、宿泊だけでなく、路地裏で倒れていた少女にも夕食が振る舞われることになった。本当に感謝しかない。キングヴァネスに帰ったら、Sランククエストを怒濤の勢いでクリアしまくってやろう。
少女を寝心地抜群のふかふかベッドに寝かせ、目覚めるまでのお世話は、フィオナやレティシアに託すことにした。ちなみに、ここに来る途中、レティシアとフィオナの提案で、服屋に寄っており、少女に合うサイズの洋服などを購入していた。また、少女が目を覚ましたあと、空腹を少しでも満たすために、追加で「焼きそば」や「たこ焼き」を買った。着替えや食事などは、彼女たちに任せる方が一番だろう。
その後、俺は自分の部屋に行き、一息ついた。夕食まで1時間ほどあったので、ベッドに横たわって女神作成の『説明書』を再読していると、ノック音が聞こえた。扉を開けると、レティシアが何やら複雑そうな顔をして立っていた。
「どうした、何かあったのか?」
「いえ、その、あの女の子が目を覚ましまして・・・。」
「おぉ、それは良かった!!」
あと少し回復魔法が遅れていたら、命が危なかったかもしれない。何とか助けることができて、本当に良かったと思う。
「ちょっと、ユリウスさんに来ていただきたいのです・・・。」
「それはいいけど、何でそんなに歯切れが悪いんだ?」
少女が目を覚ましたことは喜ばしく、レティシアもそう感じているのだが、何か微妙な表情を浮かべている。何か少女に大きなトラブルでも起きたのだろうか。
・・・でも、「リヒトセラフィア」であれば、怪我・病気・状態異常はすべて回復するし、俺の魔力量だと、後遺症も残らないはずなんだけどな・・・。
色々な可能性を考えながら、俺はレティシアの後ろを歩き、少女がいる部屋の前に着いた。すると、フィオナと少女が話し合う声がかすかに聞こえてきた。
「ユリウスさん、どうぞ中に入ってください。」
「え、あぁ、分かった。」
レティシアに言われるがまま、俺は部屋のドアをゆっくり開けた。すると、部屋の明かりが見えた瞬間、俺の腹部に強烈なタックルが飛んできた。
「グハッ!!」
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「「なっ!!!!!」」
驚きのあまり一瞬何が起こったのか分からなかったが、よく見ると、先程の少女が俺の腰回りに抱きついてきたようだ。そしてなぜか、フィオナとレティシアから殺意の視線を感じる。
・・・いや、これ、俺が悪いんですか!?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちが購入した軽食を食べて、元気を取り戻したのだろう、少女の顔色が少し良くなっている。また、お洒落な服装に着替えており、初めて会ったときとは別人のようだ。当初は年齢がよく分からなかったが、だいたい10~11歳ぐらいだろうか。それに、回復魔法をかけた直後から思っていたが、美しいスカーレットの髪が特徴的だ。今は元気になったこともあり、より輝いて見える。
「この子、元気になったと思ったら、『私を助けてくれた恩人に会いたい』って何度も言いだして・・・。」
「私とフィオナで宥めていたんですが、全然話を聞いてくれなくて・・・。」
「な、なるほど・・・。」
少女の泊まる部屋にあるソファーの右側に俺が、その左側に少女が座り、俺たち2人の正面にそれぞれフィオナとレティシアが椅子に腰かけている。そして、なぜか少女は俺の左腕をがっちりとホールドしている。
「正直、路地裏で倒れたときからの記憶があまりないんです・・・。ただ、優しい男性の声が聞こえた瞬間、すごくホッとして・・・。そのあとも、すごく温かいものに包まれた、心地いい感覚が続いて、久しぶりに安心して眠ることができました・・・。お兄ちゃん、私の命を救ってくれて本当にありがとうございます。」
「いや、無事で本当に良かったよ。」
「お2人も、私の着替えや食事の準備をありがとうございます。」
「どういたしまして。」
「元気になって良かったです。」
可憐な少女は、俺たちに深々と頭を下げた。
「それじゃあ、まずは自己紹介しようか。俺はユリウス、一応冒険者をしている。」
「私はフィオナ。ついこの間までは旅人だったけど、ユリウスと出会ってからは、冒険者がメインになったわ。」
「私はレティシアです。フィオナと同じく、ユリウスさんと出会ってから冒険者になりました。」
「黒南風」の討伐が俺たちの最終目標で、そのために色々と行動しているが、改めて自己紹介すると、一つの冒険者パーティーと変わらないことが分かった。表の顔は冒険者パーティー、裏の顔は「黒南風」の壊滅に向けて暗躍する者たち。うん、めちゃくちゃ良いね。ただ、正確には、フィオナとレティシアが冒険者パーティーを組んでいて、俺はひたすら単独任務をこなすだけですけどね・・・。
「私は、ノアといいます。皆さん、冒険者パーティーを組まれていたんですね!」
「ま、まぁ、そんな感じかな。」
ノアは冒険者に興味があるのだろうか、目をキラキラと輝かせ、俺たちに尊敬や憧れに近いまなざしを向けた。
「これからは、ユリウス兄ちゃん、フィオナ姉ちゃん、レティシア姉ちゃんって呼んでもいいんですか?私、兄弟や姉妹がいなくて・・・。とても憧れだったんです・・・。」
「ユリウス兄ちゃん・・・!」
「フィオナ姉ちゃん・・・!」
「レティシア姉ちゃん・・・!」
ノアの言葉に、俺たち3人は見事に心を撃ち抜かれた。「ユリウス兄ちゃん」、何と甘美な響きだろうか。一人っ子だった俺は、弟か妹がめちゃくちゃ欲しかったのだ。こんなところで憧れの「兄ちゃん」呼びが叶うとは・・・、何というビッグサプライズ!
・・・そういえば、フィオナも一人っ子で、レティシアは末っ子だったっけ。
フィオナもレティシアも、俺と同様に「姉ちゃん」呼びに憧憬の念を抱いていたのだろう。2人ともが昇天しそうになっている。
「もちろん、いいぞ!ウェルカムだ!」
「私もそれがいい!」
「私もです!」
俺たちは顔を見合し、ノアに向けて親指をグッと立てた。
「ありがとうございます!」
ノアも嬉しかったのだろう、弾けるような笑顔を見せた。この状況、控えめにいって、最高である。ただ、この雰囲気が暗くなるとしても、俺にはどうしても聞かなければいけないことがある。
「・・・・・・そういえば、ノアはどうして、路地裏で倒れていたんだ?」
「・・・・・・。」
俺の質問に、ノアは俯き翳りある表情を浮かべた。案の定の反応である。ノアにとっては、非常に深刻な話なのだろう。
「もちろん、無理にとは言わない。言いたくないことは、全然言わなくていいから。ただ、純粋に心配というか、何というか・・・・・・」
「・・・ユリウス兄ちゃんがいなかったら、私はもうこの世にいなかったと思います・・・。命の恩人とその仲間である皆さんには、聞いてもらいたいです・・・。この剣王国に巣食う闇を・・・。」
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