第77話 ノアの回顧
私は生まれつき、スキルを1つしか持っていない、所謂「モノ」でした。両親は、スキルを2つ持っていたのですが、突然変異なのか、私にはスキルが1つしかなかったんです。そのスキルは、エクリプススキル【重力操作】というもので、物体にかかる重力を自由自在に操れる能力でした。ただ、私にはそのスキルを扱える才能はなかったんです・・・。何度も何度も何度も練習しても、物体の重力をほんの少し軽くしたり、重くしたりする程度で、戦闘にはほとんど役立ちませんでした。
両親はともに、名の知れたAランク冒険者でした。私自身も両親のようになりたいと思い、冒険者を目指していました。両親は、たとえ私がスキルをうまく扱えなくても、冒険者の道を応援してくれ、様々な戦い方を教えてくれました。しかし、私の日常は大きく壊されることになりました・・・。
レオンパルド剣王国は長年、「モノ」に対する積極的な差別是正政策を採っていました。そのおかげで、両親や私は、あまり酷い差別を受けることがなかったんです。ただ、先代剣王ヴィルヘルム・レオンパルドが天寿を全うすると、先代剣王の長男で、現剣王のケイレブ・レオンパルドは、即座にその政策を廃止したんです。そしてこれまでとは逆に、「モノ」とそれ以外の人々を隔離する政策を行い、明らかな分断を生じさせました。具体的には、西京県を中心とした大首都圏以外の周辺各県に「モノ」を集め、大首都圏とそれ以外の地域による大きな格差社会を作り出したんです。
その結果、私という「モノ」を抱えている両親は西京県にいることができなくなり、地方の岩海県に引っ越ししました。しかし、地方の冒険者ギルドには、大首都圏ほどクエストがなく、両親のAランク冒険者としての仕事は激減しました。また、ランクが低いクエストは報酬金も少ないため、家族3人で食べていくのには本当に厳しい状況でした。生活はどんどんと苦しくなり、その日その日を凌ぐのがやっとでした。
家族がこうなってしまったのも、全部自分が悪いんです。両親は「普通」なのに、自分だけが「普通」じゃないから。スキルも1つしか持っていない、そのスキルもまともに使えない。私は両親のために、生きているべきではない、死んだ方がマシだと考えました。そして、両親がクエストに行っている間に、誰もいないところで死のうと思い、家出をしました。ただ、その道中でふと脳裏によぎったんです。私1人で死ぬよりも、現剣王を道連にした方が、両親だけでなく、この国の「モノ」たち皆が救われるのではないかと。
その瞬間、全身に稲妻が走り、衝動的に西京県を目指し始めました。首都西京県の中心地には、現剣王が住まう剣舞城がありますから。もちろん、私一人の力で当代随一と謳われる現剣王に敵うとは微塵も思っていません。ただ、幼い体ゆえに護衛の隙をついて侵入し、寝ているところをナイフで一突きできるのではないかと。その一縷の望みにかけていました。そうしなければ、自分の存在意義が失われるような気がして・・・。
自殺用のナイフ以外、何も持たず家出したため、西京県までは徒歩だけで来ました。両親からは、冒険者に必要なサバイバル術を教わっていたので、大首都圏までは順調に来ることができました。ただ、「モノ」を隔離しているだけあり、大首都圏を構成しているすべての県に大規模な検問が敷かれていました。それを難なく通過できる手段など、私にはありませんでしたので、無理やり検問を押し通り、そこからは剣王国の特別警邏隊にずっと追われていました。隠れては見つかり、見つかっては隠れの繰り返しで、ようやく西京県まで辿り着けましたが、あの路地裏で限界を迎えてしまったというわけです・・・。
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ノアの語りが一通り終わった。俺たちは話に割り込まず、ただひたすら聞くことに徹した。それは、ノアの思いの丈をすべて打ち明けてもらいたいからだ。
・・・ただ、心の奥底にある本音や本心はまだ言ってくれないか。いや、そもそも、それにすら気づいてないのかもしれないな。
俺はノアの口から続きの言葉が発せられることを待ったが、結局このまま話が終わってしまった。
「というわけで・・・・・・皆さん、この場を動かないでください!」
ノアは立ち上がりながら、懐からサバイバルナイフのような小刀を取り出し、俺たちに刃先を向けた。
「はっ、油断しましたね!私が「兄ちゃん」や「姉ちゃん」と呼んだのも、すべてこの瞬間のためです!さぁ、命が惜しかったら、私を剣舞城まで案内しなさい!」
ノアは語気を強めながら、俺たちを脅迫した。3人それぞれに刃先を向け始めたが、ノアはこの中で一番年齢の低いレティシアに刃先を固定したようだ。しかし、そのレティシアは非常に鋭い目つきで刃先とその先に映るノアを凝視している。
・・・はぁ、薄々こんなことになりそうな気はしていたが、まさか本当に脅迫するとは・・・。
実は、ノアが俺の左腕をガチガチにホールドしていたとき、小刀がしばしば当たっていたのだ。初めは護身用かと思ったが、ノアの話を聞くにつれ、殺人か脅迫に使うと予想したが、案の定だったな。
「ど、ど、どうしてビビらないの!?これが怖くないの!?」
俺たちが全然動揺していないことに対して、逆にノアが動揺し始めた。特に、レティシアの眼圧は凄まじい。
・・・レティシア、たぶんだけど、めちゃくちゃ怒ってるな。
「そりゃあ、手と脚をそんなに震わせながら言われてもなぁ・・・。」
「!?」
ノアの語気は強めだが、ところどころ声が上擦っており、ナイフを持つ手や膝も小刻みに震えている。脅迫慣れしていないのが明らかであるし、本人の意思とも合致していない言動だと読み取れる。
「わ、わ、私は本気ですよ・・・!」
「まぁ、とりあえず、落ち着いて話を・・・」
パチンッ!!!!!
「ちょっ!?」
「・・・・・・へぇ?」
俺がノアを宥めて、色々と本心を聞き出そうと思った矢先、ノアの話を聞いているときからずっと俯いていたフィオナが、大粒の涙を湛えながら、渾身のビンタをノアに放った。
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