第75話 少女救出

 「そういえば、リツの加護って何?」


 俺たちは西京県をぶらぶらと散策している。和食や中華料理に近いものを提供する食事処が多く、はじめは日本っぽいと思っていたが、日本と中国を足して2で割ったような国かもしれない。


 今は、日陰の大きなベンチに座り、各自昼食を摂っている。レティシアは、屋台で買った「タコ焼き」を美味しそうに頬張り、(不可視魔法で周囲には見えてないが)ナツメとリツは、器用に手を使いながら、「コロッケ」に舌鼓を打っている。俺はというと、大好きな「焼きそば」を堪能しているところだ。


 『私の加護は【覇楯】でございます。本来の能力は、エクリプススキルによるダメージを無効化するものですが、ユリウス様の魔力量により、現在はレジェンドスキルによるダメージを無効化できます。』

 「「えっ!?」」


 俺は、最強の防御魔法「デウスプロテクシオン」を使用することで、エクリプススキルと究極魔法による攻撃を無効化できる。しかし、当然ながら継続的に使うことで魔力量は消費されていき、いつかは限界を迎えてしまう。しかし、リツの【覇楯】があればそのような心配がない。リツが消滅しない限り、加護は有効であるため、実質的に言えば、俺・フィオナ・レティシアの3人はほぼ永続的に、レジェンドスキルと究極魔法による攻撃を無効化できるのだ。


 ・・・いやいやいやいや、聖獣の加護っておかしすぎだろ・・・。まぁ、逆に言えば、ここまでの強さがないと、勇者は魔王を討伐できなかったというわけだ。魔王、恐るべし・・・。


 「私たち、もう人間を名乗ることができなくなっていませんか・・・。」


 レティシアがタコ焼きを口に入れた状態で、遠い目をしている。気持ちは分からなくはないが、俺はスタートから化け物だったので、今更感はある。


 「仕組みはよく分からないけど、レティシアとフィオナは、俺の仲間扱いされているからなぁ・・・。もし嫌だったら、一緒に過ごすのは・・・」

 「ユリウスさん。」

 「え、あ、はい。」

 「その言葉の続きを口にしたら、リツに頭を齧ってもらいますね。」

 『お任せください、レティシア嬢。』

 「す、すみません!!」


 レティシアは笑みを浮かべているが、目が全然笑っていない。しかも、リツの巻きついている蛇は、両眼をギラギラさせながら、俺の方をじっと見ている。まるで、獲物を襲う寸前の大蛇のようだ。


 ・・・リツに噛みつかれたら、俺ってどうなるんだろう・・・。何か、めちゃくちゃ怖いんですけど・・・。


 「私たちは好きで、ユリウスさんの傍にいるんです。もし、ここにフィオナがいたら、ボコボコにされていたかもしれませんよ?」

 「はい、気をつけます・・・。」

 『ユリウスもアホやで。・・・ちょ、何すんねん!!』


 俺はレティシアに謝罪するとともに、よく分からないヤジを入れたナツメにムカついたので、コロッケを1つ奪ってやった。すると、そのとき、俺は妙な気配を感じた。胸騒ぎがするというか、すぐにでも行動しないといけないような、奇妙なモヤモヤ感だ。


 「ごめん、ちょっと待っててくれ。」

 「どうしました?」

 『ウンコやろ。』

 『ナツメ、言葉を選びなさい。』


 レティシアたちの会話をよそに、俺は急いで嫌な気配を感じた路地裏に走っていった。自分でもよく分からないが、何か目には見えない不可思議な力に押されているような感覚だ。


 「おい、大丈夫か!しっかりしろ!今、回復魔法をかけてやるからな!!」


 路地裏に入ると、そこにはボロボロの衣服を纏い、ゲッソリと瘦せ細った少女が突っ伏していた。何日も歩いていたのだろうか、手足の傷は直視できないほど痛々しい。全身にも多くの傷跡があり、栄養失調のきらいもある。


 ・・・これはひどいな。


 俺は、すぐに最高の回復魔法「リヒトセラフィア」を詠唱し、少女の怪我や病気、状態異常を治した。ただ、栄養失調に関しては魔法でどうこうできるものではない。食事が摂れる場所に連れて行った方が良さそうだ。


 「本当は浮遊魔法で運んだ方がいいんだろうけど、酔ってしまったら悪化するかもしれないしな・・・。」


 フィオナやレティシアは、浮遊感に酔ってしまうため、「ヴォルフライト」での移動をかなり嫌がっている。となれば、少女はただでさえ、衰弱しているのだ。さすがに、浮遊魔法を使うのは忍びない。


 「あとで、セクハラで訴えられたら、全力で逃亡するしかないか。」


 俺は、安心したように眠りに落ちた少女をゆっくりと抱え、レティシアたちのところに戻っていった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 「あ、ユリウスさん、お帰りなさ・・・、ど、どうしたんですか、その女の子!?」

 『ユリウス、ついに誘拐してもうたんか・・・。』

 「よし、ナツメ、お前は今日の夕食抜きな。」

 『えっ!?』

 『自業自得ですよ、ナツメ。』


 俺はレティシアたちと合流し、路地裏で倒れていた少女について説明した。「リヒトセラフィア」で最大限の治療はしているが、くたびれて所々破れている衣服と、栄養失調による痩せこけた頬はどうにもならない。レティシアたちは、その様子を見て、俺と同様にショックを受けていた。


 「とりあえず、今日泊まる宿に連れて行こうと思う。ディランさんにも伝えて、可能なら空き部屋に泊まらせてもらえるかもしれないし。」

 「それが良いですね!」


 こうして、俺たちは早々に観光を済ませ、ディランが予約してくれていた高級宿「朝霧館」に到着した。道中で偶然にもフィオナと合流し、そのまま一緒に宿まで向かうこととなった。レティシアが「リツ」のことを紹介するとともに、フィオナが「白南風」との情報共有の内容について語った。


 会話の途中で、フィオナが俺に「『白南風』の最高幹部の『ネルヴァ』という人物に会ったら、殺さない範囲でボコボコにしてほしい。」と言っていたが、正直意味が全然分からなかった・・・。ただ、色々と詮索するのも面倒なので、俺は親指をグッと立てて「任せろ!」と答えた。


 その後、フィオナとレティシアが「抜け駆け」をめぐって色々と言い争っていたのがめちゃくちゃ大変だった・・・。フィオナがそこまで観光したいとは思わなかったので、レティシアの提案をのんだ俺も悪いことをしたと反省していたが、フィオナには「そこじゃない!!」となぜかブチギレられた。この理不尽は何だ・・・。


 『はぁ、ユリウスは全然ダメやで。』

 『同感です。』


 ・・・あれ、聖獣って、こんなにムカつく奴らだったっけ?

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