第22話 イルシオン作戦の開始
フィオナの懐中時計の針が19時を指したとき、突如として、どす黒い奇妙な仮面をかぶった怪しい人々が俺とフィオナの前に、20人ほど現れた。墨色で満遍なく塗られた下地に、緩やかなカーブ状に目と口が白色でくっきりと描かれた仮面は、闇夜と相まって不気味そのものだ。
俺たちの眼前に出現したこの集団は、その「漆黒の仮面」から「黒南風」で間違いないだろう。
「貴様らは、何者だ。どうしてここにいる。」
「まず、自分たちが名乗るのが、礼儀というものじゃないのか?」
「舐めた口を。まぁ、いい。どうせ、すぐにあの世で後悔することになるだろう。」
この集団のリーダー格と思しき人物 ―声質的に男だろう― が話しかけてきたが、かなり挑発的だ。まぁ、強いスキルを複数持っているからこそ、自分に酔っているのだろう。仕方ないと言えば、それまでか。
「・・・ん?おい、ここには『幸福亭』と呼ばれる宿屋があったはずだ。どこに行った?」
リーダー格の男は、ようやく眼前に目的の「幸福亭」がないことに気づいた。いや、遅すぎだろ。
「さぁ?人に聞くより、自分たちで探せば?」
「貴様、随分と調子に乗っているようだな。面白い、貴様を拷問して、吐かせるまでだ。」
「へぇ~、やれるもんなら、やってみたら?」
リーダー格の男の言葉で、一気に「黒南風」が戦闘態勢に入った。隣のフィオナもそれに応じるために、戦闘態勢をとろうとしたが、俺が右手で制止した。
「ちょっと、何?」
「ここは、俺一人にやらせてほしい。」
「えっ!?そんなの無茶に決まってるでしょ!」
フィオナは、俺の言葉を聞き、驚愕の表情を浮かべた。確かに、相手は強力なスキルを複数も有している集団だ。一人で戦うなんて愚の骨頂で、非常に無謀な行動と言えよう。ただ、俺は不思議と負ける気がしない。それに、転生してから、魔法の勉強と練習を独学で、みっちりやってきた。その成果を存分に発揮したい。
「大丈夫、俺に任せてくれ。ただ、もし危なそうだったら、助けてくれ。」
「・・・はぁ、分かった。ユリウスがそこまで言うなら、私は基本、手出ししないでおく。」
「ありがとう。」
俺の真剣な眼差しを見て、フィオナは渋々、一人で戦うことを承諾してくれた。
「おいおい、そんなに余裕ぶって大丈夫か?死んでから後悔しても、遅いんだぞ?」
「うるせぇな、御託はいいから、早くかかってこいよ。」
「モノ」を生きている価値がないとし、多くの人々を殺めてきた存在、エルガンさんやトゥーリが苦しめられている社会通念を助長させている存在が、ちょうど今、俺の目の前にいる。そう考えると、どうも沸々と煮えたぎるような怒りが湧いてくる。ただ、激情にかられ、魔力の制御を誤れば、確実にこいつらを殺してしまうだろう。
・・・はぁ、半殺し程度で済ませるか。
「いつまでその余裕が続くかな!!お前たち、この男に『黒南風』の恐ろしさを思い知らせてやれ!!」
「『アエラスペイン』!!」
「『ブリクストカデーレ』!!」
「『アンフェールフレイム』!!」
「『ヴァルナーエスパーダ』!!」
「『エールデデストロイ』!!」
リーダー格の男の合図で、5人が一気に魔法をぶっ放してきた。闇・光以外の全属性攻撃で、しかも全て上級魔法だ。初手からいきなり、上級魔法を使うとは少し驚いたが・・・。
「威力が弱すぎる・・・。『ルミナスバリア』。」
「なっ!?」
俺は光属性の中級魔法「ルミナスバリア」を展開した。防御魔法にはいくつか種類があるが、これが一番オーソドックスな魔法らしい。ただ、「ルミナスバリア」は、初級魔法と中級魔法の攻撃を防ぐ効果しかない。よって、本来であれば、上級魔法は防御できない。しかし・・・。
「貴様、なぜ無傷なのだ!!」
「えっ、『ルミナスバリア』って言ったの、聞こえなかった?」
「ふざけるな、『ルミナスバリア』は中級魔法までしか、防げない魔法だぞ!!」
俺は5人の上級魔法を「ルミナスバリア」で防ぎ切った。魔法を放った5人も、リーダー格の男も、仮面をつけているので、はっきりとは分からないが、恐らく動揺している。
「はぁ、お前たちは、もう少し魔法の勉強をした方がいいと思うんだけど。」
「何だと?」
「防御魔法の効果が、個人の魔力量に比例するのを知らないのか?」
そう、防御魔法は、その使用者がもつ魔力量に応じて、絶大な効果を発揮するという特徴がある。つまり、魔力量が多ければ多いほど、攻撃を防ぐ能力が向上するのだ。
「そんなことは当然知っている!!だが、その原理は消費魔力量よりも、圧倒的な魔力量を保有していなければならないはずだ!!「ルミナスバリア」ごときで、5人の上級魔法を一度に防げるなど、あり得ない!!」
「防げてしまうんだな、これが。」
確かに、「ルミナスバリア」で上級魔法、それも5人同時の攻撃を防ぐのは不可能に近い。だが、俺はこの世界では、伝説の勇者を凌ぐほどの魔力量を有している。こいつらの攻撃なんて、「ルミナスバリア」で十分すぎるくらいだ。ちなみに、眼前の20人が一斉に超級魔法を使っても、俺は「ルミナスバリア」で防御可能だ。
「調子に乗るなよ、ガキが!!お前ら、全員でかかれ!!」
「おいおい、1人相手に、それは卑怯すぎないか?」
「後悔しても、もう遅い!!」
リーダー格の男以外の全員が、俺に向けて魔法を放ってきた。上級魔法が多かったが、超級魔法や究極魔法もいくつか聞こえた。それに、一部の連中は色んなスキルを使用していたように見えた。しかし、残念ながら、その程度では、俺にかすり傷もつけられない。ただ、「ルミナスバリア」では、スキル攻撃には対応しきれない。ここは、最強の防御魔法を使ってみるか。
「『デウスプロテクシオン』。」
19人の魔法攻撃と一部のスキル攻撃が俺に直撃したが、案の定、俺は数秒前と同じ状態で立っている。
「嘘だろ・・・。」
「まじかよ・・・。」
「おい、超級魔法だぞ・・・。」
「き、きゅ、究極魔法までも・・・。」
「私の【魔法激化】でも無傷だなんて・・・。」
「俺の【火焔灼熱】をくらって、なぜ立ってるんだ・・・。」
「ぼ、僕の【光芒一閃】が・・・。」
「いや、なに、なんなの・・・。」
リーダー格の男以外は、俺のピンピンした姿に恐怖を抱いたようだ。後ずさりしている者も何人かいる。
ちなみに、「デウスプロテクシオン」は、光属性の究極魔法で、最強の防御魔法と呼ばれるものだ。しかし、本来の「デウスプロテクシオン」は超級魔法とクラウンスキルの攻撃までしか、防ぐことができない。ただ、俺の圧倒的な魔力量によって、俺が詠唱する「デウスプロテクシオン」は、究極魔法とエクリプススキルの攻撃まで防御することができる。
「お仲間さんは、相当ビビッてるみたいだけど、大丈夫?」
「にわかには信じられないが・・・・。貴様が想像以上の実力者だというのは分かった。いいだろう、この俺様が直々に相手を・・・」
「いや、もういい。『エタンセルパラリシス』。」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「グァッ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
俺は面倒くさくなり、20人全員を対象に、雷属性の超級魔法「エタンセルパラリシス」を使用した。「エタンセルパラリシス」は麻痺魔法の一種で、口以外の身体の動きを完全に痺れさせる魔法だ。超級魔法の中でも、かなりの魔力量を消費する部類だが、俺には全く問題ない。
「き、貴様、この人数全員に『エタンセルパラリシス』をかけたのか!?・・・ば、化け物すぎるだろ。」
リーダー格の男は驚愕の表情を浮かべると、他の連中と同様に、俺に恐怖を抱いているようだった。「エタンセルパラリシス」を複数人にかけるのは、ほぼ不可能とされているため、当然の反応と言えよう。
「さて、これでとりあえず『イルシオン作戦』の第一段階はクリアだな。」
「まさか、本当に一人で片付けるとは・・・。さすがね・・・。」
フィオナも若干引いてたが、まぁ気にすることはないだろう。俺としては、もう少し骨のある連中だと思っていたんだが・・・。まぁ、こいつらの親分は、さすがに一筋縄ではいかないはずだ。気を引き締めないと。
「それじゃあ、第二段階に移行しますか。」
俺は「黒南風」が付けている仮面をよく観察し、闇属性の上級魔法で、探知魔法とも呼ばれる「ヴァールハイトサーチ」を使った。
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